CEOは語る:Jim Curtin(NeTraverse社長兼CEO)の主張

Win4Lin の開発元、NeTraverseの社長兼CEOであるJim Curtinによれば、「Linuxワークステーションに移行した人の話を聞いてみると、彼らはWindows環境とLinux環境では機能性において平均で20%のギャップがあると感じている」ということだ。Curtinは、Win4Linこそがその20%のギャップを埋めるものだと主張している。さらに、Win4Linを使用すればWindows 98からLinuxへのアップブレードがWindows 98からWindows 2000やXPへのアップグレードとほとんど同じくらい簡単になること、そしてたいていの場合はLinuxへアップグレードする方が安く済むことを述べている。

また、現在のLinuxデスクトップが抱えている問題として、多数のユーザーや企業が依存している1つないし2つのWindowsアプリケーションと同等のものをLinux上で使用することができないという点を指摘している。確かにWineは一部のWindowsアプリケーションをLinux上で実行できるようにするが、Dreamweaver、Photoshop、AutoCADといった専門的アプリケーションや、あなたの叔母が友人向けのおしゃれな名刺を作るときに使うちょっとしたDTPアプリケーションを実行することはできない。さらに、Curtinによれば、現在発表されているWindows APIとWindows用の専門的アプリケーション――これから開発されるものは言うに及ばず――のうちかなりの数が、Wineでは実行できない可能性が高いということだ(さかんに宣伝されているCodeweavers版のWineでも同様)。

では VMware はどうだろうか。VMwareはきちんと機能することが確認されている。しかしCurtinに言わせれば、VMwareはWin4Linよりもずっと高価であり(ワークステーション版の価格はVMwareが299ドル、Win4Linが89.99ドル)、しかも、Win4Linとは異なり、ほとんどのシステム上ではWindowsの実行速度が通常より20〜30%低下するということだ。もっとも、VMwareはWindows 2000およびXPに対応しており、現在のバージョンのWin4Linはこれらに対応していない(95/98/MEのみに対応)。

企業環境でのLinuxへの移行

Win4Linの主なターゲットはホームユーザーではない。Win4Linがターゲットにしているのは、いまだにWindows 95や98を使用している企業ユーザーである(今でもWindows 95または98を使用している自宅/企業用PCは4億台以上あると言われている)。つまり、Windowsのアップグレードパスに乗りたくはないが、まだすべてのWindowsアプリケーションを切り捨てるわけにはいかない、というユーザーたちである。

企業がLinuxへの移行を検討するときの隠れた要因の1つは、LinuxをMicrosoftに対する交渉材料に使うことである(いくつかのケースではこれが移行の大きな動機になっているということをCurtinは十分承知している)。もしも大口顧客がMicrosoftのセールスマンに対して、「うちの2500台のデスクトップのうち250台はLinux環境で、そのうち20台ではWin4Linを使って重要なWindowsアプリケーションを実行しているんだ。同等のLinuxアプリケーションが成熟するまではこの調子でいくから、Linuxアプリケーションがなくても何も困らないよ」と言うことができれば、その顧客の立場は非常に有利になる。Microsoftのセールスマンは、大幅な値下げをするか顧客を失うかの二者択一を迫られることになる。

さらに、たとえMicrosoftが大幅な値下げに応じたとしても、「手のかからない」デスクトップ端末を使ったLinuxベースのクライアント/サーバーデスクトップシステムへの移行を決定した企業ユーザーにとっては、Microsoftのソリューションはおそらく高価すぎるだろう。特に、その予想される使用年数が3年強であることと、システム管理にかかる時間とコストを考えれば、割高感は否めない。その場合には、 Win4Lin Terminal Server 2.0 を利用すれば移行がしやすくなる。Win4Lin Terminal Server 2.0のセールスコピーの一部を引用しておく。

Win4Lin Terminal Server 2.0を配備すれば、既存のWindowsライセンスとハードウェアを引き続き使用することができ、ユーザーがいつでもどこでもデータにアクセスできる信頼性と費用効果の高い高性能のコンピューティングプラットフォームに移行することにより、コストの節減と生産性の向上が期待できます。

この仕組みがわかるだろうか。企業顧客は既にWindowsやその他のMicrosoft製品のライセンスを多数持っているので、それらを個々のデスクトップではなく1つのサーバー上で実行するだけで、管理コストを大幅に節減することになる。ユーザーはこれまでどおりお馴染みのアプリケーションを使用できるので、再トレーニングにかかる初期経費はほとんどゼロになる。その後、ネイティブなLinuxアプリケーションを追加する一方で、Windowsベースの製品を徐々に削除していけば、Linuxおよびクライアント/サーバーネットワークへの切り替えによって業務が混乱するおそれはなくなる。Linuxに詳しいシステム管理者が1人か2人は必要になるが、企業のすべてのデスクトップが「メンテナンスいらず」かそれに限りなく近い状態(壊れたらその部分を入れ替えるだけで再び使用できる)になれば、システム管理者を何人も置く必要はなくなる。

Windowsのエンドツーエンドで同様のシステムを構築することもできるが、その場合は高価なWindowsサーバーライセンスが必要になるだけでなく、クライアントとサーバーを結び付けるために通常は Citrix のような商用ソフトウェアが必要になる。

Linuxの方がずっと安く済むのに、わざわざお金のかかる方法を選ぶ意味はあるだろうか? 筆者にはまったく思い当たらないが、中にはそうする人もいるのが事実である。しかし、これはLinuxが大きく進出している分野であり、特に企業や組織などで、Windowsベースのアプリケーションを使用しなければならないデスクトップユーザーの数が限られていて、残りのユーザーは1つの目的に特化したカスタムアプリケーションを使用するか、すべての作業をネイティブな汎用のLinuxアプリケーション(StarOfficeやMozillaなど)で行うことができるという環境でよく利用されている[訳注:StarOfficeは日本ではStarSuiteという名前で販売]。

永遠には続かないビジネス

さらにCurtinは、「NeTraverseは『よきLinux市民』たることを目指す」と述べている。彼はまず、Win4Linはユーザーのマシン(PCまたはサーバー)上で実行しているときにLinuxリソースを共有する、ということを指摘している。それだけに留まらず、同社は 活発なLUGに対するスポンサー活動 を行っており、従業員の多くはLinux普及活動に参加している。Linuxが普及すればするほど、ネイティブなLinuxアプリケーションの数は増加し、最終的には、Linux上でWindowsアプリケーションを実行するためのソフトウェアの市場はなくなることになる。言い換えると、NeTraverseが組織や個人のLinuxへの移行を支援すればするほど、同社の製品がすたれる時期が早まるということだ。

Curtinはこの点について心配していない。ネイティブなLinux用の専門的アプリケーションが普及してWin4Linが完全に不要なものになるまでには、少なく見積もってもおそらく3年から5年はかかるだろうという見解である。「もし3年以内にこの部門をたたむことになっても、それはそれでしかたがない」とCurtinは述べている。

その一方で、現在、Win4Linはバージニア州からウィスコンシン州、はてはオランダにいたるまで、数多くの学校システムのLinux移行支援ツールとして使用されており、OracleやAT&Tなど、数々の大企業でも使用されている。今後は、Win4Linを利用するにしても利用しないにしても、Linuxへの移行がこれまでよりもはるかに大きな規模で進むことになるだろうとCurtinは予測している。

「Linuxは破竹の勢いで進んでおり、この流れを止めることはできない。目下の大きな焦点は、これによって誰が最大の(企業的な)利益を得るかということだ。現在、IBMはデスクトップにおいてLinuxをしぶしぶ採用しているが、IBMにはもう少しはっきりとLinuxを認めてほしいし、Sunにはもう少し早めに手を打ってもらいたい」とCurtinは語る。

Curtinは、「Sunは反Microsoftという評判である」と語る一方で、IBMは我々にそう思わせているほどLinuxに打ち込んではいないかもしれない、という不安を述べている。確かにIBMはLinux開発に資金を投入しているが、Curtinが指摘するとおり、「IBMは世界で一番Microsoft製品を販売している」企業なのである。

SunのLinuxとIBMのLinuxの争いはさておき、Win4Linは、何度も繰り返される「LinuxからWindowsにリブートせずにWindowsアプリケーションを実行するにはどうすればいいか?」という質問に対するうってつけの回答である。筆者がWin4Lin上で試してみたWindowsアプリケーションは、 Dragon Naturally Speaking や Music MasterWorks といったオーディオベースのプログラムを除いてはどれも正常に動作した(なお、これらはサポートの対象外である)。

今後のバージョンのWin4LinではWindows 2000とXPがサポートされる予定であり、Curtinによれば、NeTraverseはさらに「ネットワーククライアントのためにNetWareのサポートを強化する」ことを検討している。「NetWare(からLinuxへ)の架け橋も求められており、それを実現するために何が必要かを調査している最中である」ということだ。

Curtinは「橋(bridge)」という言葉をよく使う。これは彼のセールストークのキーワードであり、WindowsとLinuxの間の「溝(chasm)」について語るときに頻繁に登場する。実際、彼の「なぜWin4Linを購入するべきか」という口上を要約すると、次の1文にまとめられる。

「『溝』を飛び越えるのではなく、そこに『橋』をかける便利な製品です」

もちろん、すべてのユーザーが溝のLinux側に来てしまえば、その溝を飛び越える(あるいは橋を渡る)人はいなくなる。この問題がいつ現実になるか気になるところだが、おそらく少なくとも5、6年はかかることだろう。