ソフトウェア会社に変貌して再成長を遂げつつあるLinuxCare

1998年のこと、Silicon Valley Linux Users Group(SVLUG)の数名のメンバが、LinuxCareという会社を立ち上げることにした。「Linux革命をサポートすること」を目的とした会社である。

その夢は壮大だったが、期待されていた新規株式公開結局実現されず、LinuxCareは徐々に失速していった。会社自体は存続していたが、表舞台から消え去っていたのだ。しかしここへ来て、同社は再び上昇の気運にある。ただし、以前のようなLinux全般に関するコンサルティング業務を行っているのではない。Levantaという独自開発のソフトウェア・パッケージの販売に注力している。Levantaとは、IBMのメインフレーム上のLinuxの管理に役立つ、企業向けのソフトウェア・パッケージである。

2000年半ばから2002年初頭にかけて、LinuxCareに関するニュースと言えば、次のような見出しのものが大半だった。

LinuxCare のレイオフから得られる教訓(2000年)

苦境を耐え抜き、注力を続けるLinuxCare(2001年)

ようやく常任のCEOを迎えたLinuxCare、沈没を防ぐ時間は残っているか?(2001年)

業務に関する根本的決断が奏功

そのとき就任した「常任のCEO」Avery Lyford氏は現在もCEOの座にあり、LinuxCareも存続している。つまり、どうやら「沈没」は防げたようだ。全盛時に約280人いた従業員を一時は50人以下にまで減らした同社だが、現在では新規採用も行っている(慎重にではあるが)。そして、同社の好転の理由は、Linuxのサポート業務から足を洗ってソフトウェア製品の販売を始めたことだとLyford氏は言う。「サポートは、IBMやEDSのように大きなサポート事業を抱えているところにとってはよい市場となりつつあります。あのRed Hatにとってもそうです。」だが、LinuxCareの規模の企業にはサポートは不向きだと考えていると言う。加えて、「私はむしろ製品寄りの人間です。」と氏本人も認めている。

Lyford氏は以前のインタビューで、「私はオタクであり、それを誇りに思います」と語っている。また、抜群の皮肉のセンスを身に付けてもいる。LinuxCareでの出だしについて語る次の言葉にもそれが現れている。「初日は2001年9月10日、すばらしい1日でした。2日目はちょっとだけ大変でした。9月11日でしたから。」 米国の歴史に残るつらい1日となったこの日だが、Lyford氏とLinuxCareの両方にとっては、これ以降事態は間違いなく好転してきている。

Lyford氏によると、サービスからソフトウェア製品に会社の方向性を転換する直接的なきっかけとなったのは次のようなことだという。同氏はCEOとなると真っ先に、「顧客の方々と面談して、企業がLinuxを採用するうえで障害となっていることは何かを尋ねた」のだそうだ。

この結果、企業データ・センタ内のLinuxにウェイトを置くという考えが浮かび、IBMと同社との友好的な関係を活用する方法について熟考を重ねていった。

顧客との対話で得たヒント

これらを念頭に置いて、Lyford氏は次にこうしたと言う。「データ・センタの利用者と話をしたところ、Linuxに対する興味が広まっていることはわかりましたが、強烈に訴えられたのは、サポートではなくツールに対する必要性でした。(ソフトウェアの変更や更新を)ロールバックする機能を用意したり、準備の効率を高めたりして、Linuxを使いやすくするということです。」

こうしてLyford氏は、データ・センタ内のLinuxの管理に特化したツールを提供することがLinuxCareにとって最善の策だと判断した。データ・センタで最も費用がかかるのは、ソフトウェア・ライセンスでもハードウェアでもなく、人なのだ。企業データ・センタの予算の約60%は人に費やされるのが一般的である。

こうした人員の効率を高めるためのツールを作れば、売れ筋の商品になるのは確かだ。システム管理者は、数多くのマシン、あるいは1台のメインフレームの数多くの論理区画に対して、ソフトウェアのインストールや更新を行う。こうした仕事を楽にしたいというニーズはある。しかし、ニーズはそれだけにとどまるものではなかった。Lyford氏がほどなく気付いたのは、顧客企業が既に抱えている人員、たとえばWindows上でマウス操作による管理しか経験のない管理者を、LinuxCareが開発するツールで活用できるようになれば、ツールの付加価値として大きな売り物になるということである。つまりこういうことだ。大規模なデータ・センタを運営するとなったら、高度なスキルを持つエンジニアを何としても用意する必要があるのはもちろんだが、そうは言っても、繰り返し行う定型的な作業の多くは、スクリプト化してGUIで実行できるようにすれば、スキルが低くて安上がりな人員でも間に合うのではないか、そう考えたのだ。

その後には、文化の違いに関する考察もあった、Lyford氏は、Linuxは「適応性と柔軟性が主眼となることが多い」と言う。一方、「データ・センタは安定性と信頼性が主眼となることが多い」と指摘し、「ポイントとなるのは、インフラストラクチャを柔軟でかつ信頼できるものにすること」だと語る。

雑多なコンピュータ環境への対応

さらには、こんなことも考えた。たとえ四六時中「Linux」を話題とし、社名も「LinuxCare」で、個人的にもLinuxに肩入れしている(Lyford氏自身がそうである)としても、次の事実に目をつぶるわけにはいかない。すなわち、大手の企業データ・センタは、Unix、Windows、旧型のメインフレーム・オペレーティング・システムがあちこちに混在する、雑多な環境になっているということだ。

Lyford氏はその点についてこう語る。「CIOたちが頭を悩ませる原因となっているのが、サポートする必要のあるアプリケーションの数や、サポートする必要のあるプラットフォームの数についてであり、そして当然大きいのが、予算についてです。」

「これはいらだたしい問題です。(社内の人間が)必要なアプリケーションを考え出しても、それは特定のプラットフォームでしか使えないのです。」

それならば、多数の論理区画のそれぞれで異なるオペレーティング・システムのイメージを実行できる、大型のメインフレームはどうだろう?新しい論理区画を必要に応じてものすごく簡単にポンと作成できる、Linuxベースのユーティリティを作り出せばどうなるだろうか。1台のzSeries上では、Windows、Linux、Unixを並行して動作させることができる。新入りのMCSEでも論理区画の作成や管理が行えるくらいの簡単なユーティリティを作れば、かなり売り物のソフトウェア製品となるはずだ(できれば、高度なエンジニアも裏に控えていて、困難な問題には介入してきて対処してもらえるとうれしいが)。

このソフトウェア製品を本当に簡単に使えるものにして、新しい論理区画(要はメインフレーム内の仮想コンピュータ)の作成と提供を、まったくの新米ホヤホヤのMCSEでもほんの1〜2分で実行できるようにしたらどうなるだろうか。

もちろん、そこで使うテンプレートを作成するために高度なエンジニアも用意しておく必要はあるが、各テンプレートは1度作成するだけでよく、それ以降はすべてマウス操作だけで済むのだ。いっそのこと、そこまで簡単にするなら、仮想サーバのセットアップをデータ・センタの人間に任せる必要もないかもしれない。内部の各クライアント部門に一定のディスク容量を割り当てて、こう言うだけでいいのだ。「さあどうぞ。必要な仮想サーバをご自分でセットアップしてください。オペレーティング・システムとアプリケーション・テンプレートはこちらで用意したものならどれでもどうぞ。当方へのご連絡は、何か問題があったり、新しいテンプレートの作成が必要な場合に限るようお願いします。」

サーバの一元化

CIOたちにとって、これはほとんど究極の境地のようなものである。ユーザ自身が作成および管理した数百〜数千におよぶサーバが、1台の大きなメインフレーム上ですべて動作しており、数百〜数千台の別個のマシンで動かすのに比べて、1サーバ当たりのメンテナンス時間ははるかに短くて済むのだ。

のみならず、このシステムはユーザにも好まれているとLyford氏は言い、その理由についてこう語る。「サーバについてあれこれ勉強したいのではなく、自分の仕事に取りかかれればそれでよい、という人は世の中に非常にたくさんいます。たとえばアプリケーション開発者がそうです。こうした人は、現在は誰かにサーバを準備してもらわなくてはなりませんが、Levantaを使えば自分で準備できるようになります。」

皆さんはどうかわからないが、は共感を覚えた。あとは、現在使っている東芝製のノート・パソコンの代わりに、zSeriesのメインフレームを用意するだけでいいのだが…。

実際にメインフレームを所有していて、それが悩みの種となっている、企業データ・センタの経営者やCIOたちの多くは、LinuxCareのLevantaに興味を持ったようだ。そして、実際にLevantaを購入したり、少なくとも購入を検討している所はかなりの数にのぼる。こうして、LinuxCareは現在、衰退ではなく成長の過程にある。昨年は15人の人員を採用したとのことだ。また、財務面でも十分な成績をあげており、取締役会やその背後の出資者たちを納得させている。

LinuxCareは、過去の浮き沈みについて隠そうとしていない。同社のPress Centerページを見ると、会社の設立当初から現在までのプレス・リリースやニュースが、マイナス的なものも含めて、ほぼ完全に掲載されている。また、同社のResourcesページやCommunity Centerページは、きわめてLinux中心の内容となっている。

open-projects.linuxcare.comは情報が古くて中身も乏しい(しかも現在はLinuxCareのメインページからリンクされていない)が、Lyford氏によると、LinuxCareの従業員たちはさまざまなオープン・ソース・プロジェクトに積極的に貢献しており、会社が背後に付いてのオープン・ソースのリリースも「近いうち」に見られそうである。

単一製品に注力

今のところは、LinuxCareは単一の製品に焦点を絞っているが、その対象をメインフレーム以外に広げていく動きも、やがては見られるかもしれない。

Lyford氏によると、近い将来に株式新規公開の予定はないし、非現実的な業績を求めるような期待を出資者から受けていることもないとのことだ。

90年代のLinuxブームに乗る形で華々しくデビューした企業が、成熟したリーダーシップのもとで、落ちつく場所を無事に見つけ、独自ながらも的を絞ったソフトウェア企業となった。そしてこの先、ゆっくりと着実に成長していきそうな可能性を強烈に示している。