Blackboardのe-ラーニング特許、再審理へ

米国特許商標庁は、Blackboardの保有するe-ラーニング・システムに関する特許に対して、Software Freedom Law Center(SFLC)が請求していた再審理の開始を決定した。この特許に対しては、Desire2Learnも再審理を請求中だ。この2件の再審理請求によって、同特許は無効となるか、あるいはフリーソフトウェアのラーニング・システムの脅威とならない程度に特許範囲が狭められるだろう。Richard Fontanaは、SFLCを代表して、このような楽観的見方を表明した。

Blackboardが1月16日に出願した特許は、「アサインメント、アナウンスメント、コース教材、チャット、ホワイトボード機能、およびそれらに類するものを含む」コースを提供することによって「オンラインの教育を実装するためのシステムおよび方法」に関するものだ。問題は、この特許にコース教材にアクセスするためのグループ・パーミッションに相当するものが含まれていること。この特許が2006年7月26日に承認されると、Blackboardは、即日、大手競合他社の一社Desire2Learnを特許権侵害で提訴した。

これを受けて、この特許の影響を懸念したe-ラーニングを扱う3つのフリーソフトウェア・プロジェクト――ATutorMoodleSakai Foundation――がSFLCを代理人として11月30日に再審理を請求(既報)。Desire2Learnも12月4日に再審理請求を行った。

Desire2Learnに対する訴訟について、Fontanaは次のように述べている。「注意しろというシグナルを、特にオープンソース・コミュニティーに向けて送っているつもりなのでしょう。『SakaiやMoodleに乗り換えずに、当社のユーザーのままでいた方がいいですよ。皆さんを告訴するつもりはありませんが――告訴は可能だが――、SakaiやMoodleは告訴しますよ。係争中のソフトウェアを使いたくはないでしょう?』という、Blackboardの顧客に対するシグナルです。オープンソースだけでなく、教育用ソフトウェア・コミュニティー全体にとって、この特許は大きな脅威です」

Desire2Learnのプレジデント兼CEOであるJohn Bakerも同意見だ。「当社とBlackboard間の争いというだけでなく、この問題は、もっとずっと広いものだと考えています」。Desire2LearnはBlackboardのシェアに食い込んでいるが、「多分、当社の成長を妨害するための言い訳にしているのでしょう」

これに対して、Blackboardのシニア・バイス・プレジデント兼ジェネラル・カウンセル兼コーポレート・セクレタリーであるMathew Smallはそうした見方を否定し、この状況をe-ラーニング・コミュニティーの持つオープン性と特許システム間で発生した「理念の衝突」と見なしている。「正直に認める人はいませんが、自分の知的財産を守るには、適用可能な法律に頼るしかありません」。また、この特許が適用される範囲について誤解があるとも言う。そして、敵意があるどころか「当社はオープンソース・コミュニティーをいろいろな形で支援しています」と述べ、オープンソース・コミュニティーと対話を続けていけば恐れは払拭されるだろうという希望を表明した。しかし、何らかの対策を取るのかと尋ねると、「確かなことを言える段階ではありませんし、そうした事態は考えたくありません」と答えた。

Blackboardが同様の所感を繰り返し表明していることは、Fontanaも認める。しかし、疑念は消えない。「最初の接触から数か月が経ちますが、Blackboardはオープンソース・コミュニティーを告訴しないと約束する文書をまだ何ら示していません。これまでのところ、Blackboardが真摯に取り組んでいる様子は全くないのです。正しい行動をし、強制力のある形で約束するよう望みます」

再審理請求の内容

SFLCが請求していた再審理の開始が決定し、Desire2Learnもまた再審理を請求しているという状況に、Fontanaは明るい兆しを見ている。「再審理請求が2件あるということが、それぞれの再審理請求を補強しています」。というのは、それぞれの主張と証拠が異なるからだ。一方、Smallの見方は異なり、再審理開始の決定は「自動的な手続きで、事の理非を表すものではなく」、Desire2Learnの再審理請求は同社に対するBlackboardの訴訟を引き延ばす戦術だと言う。

2つの再審理請求の論点は、どちらも先行技術の存在だ。つまり、特許の請求項に含まれる概念が従前に存在していたことを示す文書を再審理請求の根拠としている。SFLCが提出している先行技術は、大部分がアイルランドのe-ラーニング企業TopClassが制作したマニュアルだ。一方、Desire2Learnが提出した先行技術には学術誌や論文も含まれている。Fontanaによると、Blackboardの仮特許が認められたのは1999年のため、先行技術はその1年以上前に公表されたものでなければならない。

2件の再審理請求は、手続きの方法が大きく異なる。SFLCの場合は一方当事者手続き、つまり一方の当事者だけによる1回限りの申し立てだ。Fontanaによると、SFLCがこの方法を選んだのは、裁判手続きに比べ費用が少なく時間もかからないからだという。また、主張の理非は、専門的事項に熟練しているとは限らない判事ではなく、特許を専門とする審理官が判断することになり、この点も有利だという。

一方、Desire2Learnが請求したのは当事者間手続きによる再審理だ。米国では比較的新しい制度で、通常の裁判と同様に当事者の双方が証拠を示す。

これまでのところ、2件の再審理請求は個別に処理されている。Bakerによると「協力を求めて(SFLCに)接触していますが、残念ながら、この件では別々に対応しており、協力はしていません」。SFLCはフリーソフトウェア・プロジェクトの代理としての立場がある。そのため、プロプライエタリ企業と密接に連携することに消極的だということなのかもしれない。

今後の手続き

SFLCの再審理請求が単独で進められる場合、米国特許商標庁の特許審理官が審理することになる。Blackboardは2か月以内に対応し、SFLCが議論と証拠を追加することを選んだ場合は、新たに再審理請求を行う必要がある。

しかし、Blackboardも、Desire2Learnも、SFLCも、2件の再審理請求は一括されるだろうと予測している。その場合、一方当事者手続き当事者間手続きという違いがあるため「進行が遅くなる」が、Fontanaは「さほど遅くなるわけではない」と言う。

Desire2Learnの法律顧問Diane Lankは、同社の請求は2月末までに決定が出ると考えている。

どちらの再審理手続きも、結審するまでには最長2年かかる。再審理により特許が取り消された場合――全当事者が予期しうる結果――、Blackboardは、今より特許範囲を狭くなるようにクレームを修正して特許を再申請するだろう。Fontanaによると、そうなったとしても「今より相当に弱い形になるでしょうから、SFLCのクライアントにとって危険性はなくなります」と言う。

そして、SFLCは自身のクライアントとe-ラーニング・コミュニティーを守るだけでなく、「特許制度をよりよく機能させることにより、今回の申し立てで重要な役割を果たしていると自負しています。法的要件を満たしているだけの特許を問題とする特許庁の仕事を支援したいと思います」と述べている。

Bruce Byfield、コンピュータ・ジャーナリスト。NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalの常連。

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