企業ITの全領域を最適化する仮想化技術の新たな役割が浮き彫りに――次世代IT基盤を創出するVMwareのビジョンとは

 VMwareは7月13日から、東京・大阪・名古屋の3会場をリレーして仮想化の最新動向と効果的な活用方法を紹介する「VMware Virtualization Roadshow 2007」を開催した。同イベントでは、「ITインフラの最適化」、「災害復旧・ビジネス継続性」、「エンタープライズ・デスクトップ管理」という3つのテーマにフォーカスし、戦略的な仮想インフラの構築や、仮想化導入効果を最大限に引き出す方法などが、同社およびパートナー各社から紹介された。東京で行われた基調講演や事例講演、パネルディスカッションを中心に同イベントで発信されたメッセージを検証してみよう。

Computerworld.jp

「仮想化は企業ITの全領域の最適化する
戦略的なアーキテクチャだ」

 午前中の基調講演では、米国VMwareで製品マーケティング担当バイスプレジデントを務めるラグー・ラグラム氏が、仮想化の最新動向を紹介した。同氏は、「サーバ統合によるITインフラの最適化」、「ビジネス継続性の確立」、「ソフトウェア開発環境の効率化」、「デスクトップ環境の管理性/セキュリティ向上」の4分野においてVMware仮想化ソリューションの優位性をアピールした。

virt_0.jpg
「仮想化は企業ITの全領域の最適化する戦略的なアーキテクチャだ」と強調する米国VMwareの製品マーケティング担当バイスプレジデント、ラグー・ラグラム氏

 まず、現在多くのユーザーが取り組んでいるのが、サーバ仮想化によるITインフラの最適化である。Gartnerによると、世界中にはすでに約50万の仮想サーバが存在し、今後3年の間にそれが8倍の400万に急拡大するという。

 このように仮想サーバの急速な普及が予想されるのも、仮想化技術を使ってサーバ・リソースをプール化することで、アプリケーションが必要とするときに必要な分だけサーバ・リソースをダイナミックに割り当てることができる画期的なオンデマンド・インフラを構築できるからにほかならない。

 ラグラム氏は、「仮想化による最適化はサーバだけにとどまらず、ITインフラ全体に及ぶ」と力説する。サーバ・インフラに要求される作業負荷をバランスして効率的に分離することによって、システムのコンピューティング・リソースやI/Oリソースなどのあらゆるリソースを緻密に制御できるようになる。これにより、ITインフラのコスト削減をはじめ、使用率の向上、省スペース化、運用効率の向上、管理性の強化、開発環境の効率化、ディザスタ・リカバリ環境の構築などを容易に実現することが可能になるのだ。

 例えば、約1,000台あったサーバをVMwareによって80台に集約した米国の公益事業会社のケースでは、サーバ本体だけでなく、ホスト・アダプタやストレージ・スイッチなどハードウェア・リソース全体を最適化することにより、省電力化と冷却の効率化、省スペース化を実現し、仮想化へのマイグレーション・コストも含めて、約800万ドルのコスト削減に成功したという。

 また、企業の社会的責任として環境対策が必然化するなか、「グリーンIT」の取り組みにも注目が集まっているが、仮想化インフラはこの分野にも貢献できると強調した。その実例として、米国カリフォルニアの電力会社PG&E(Pacific Gas & Electric Company)が、仮想化インフラを構築した顧客企業に対して年間400万ドルの報奨金を支払う制度を導入していることを紹介した。

 こうした取り組みは、仮想化インフラによる消費電力の縮小が、環境問題に貢献することを示しており、グリーンITのトレンドは米国だけでなく世界各国に広がっていくと同氏は見ている。

virt_1.jpg
「VMware Virtualization Roadshow 2007」の講演会場(東京)

 ラグラム氏は、今後注目されるトレンドとして、仮想デスクトップソリューションを挙げる。現在、企業ユーザーは、社内のデスクトップPC1台を管理していくために年間2,000ドルを費やしているとされており、これが企業にとって大きな負担になっているだけでなく、情報漏洩などセキュリティ上のリスクを生み出す元凶にもなっているからだ。

 VMwareは昨年、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)と呼ぶデスクトップ仮想化ソフトウェアを投入したが、これによってデスクトップ環境をすべてデータセンター内のサーバ上の仮想マシンに統合することができる。

 「エンドユーザーはどこにいても仮想マシンにアクセスでき、物理PCの削減、コンピューティング・リソースの一元管理、PC上のデータ保護など、従来のデスクトップの課題だった管理コストの削減やセキュリティの向上を実現できる」(ラグラム氏)

 ラグラム氏は基調講演の最後に、仮想化の本質について触れ、「仮想化は単にシングル・サーバのパーティショニングでもハイパーバイザーによるテクノロジーでもない。ITインフラあるいはデータセンター全体を効率的に運営するための戦略的なアーキテクチャだ」と締めくくった。

仮想化プラットフォームで優位性を発揮する
「クアッドコア・プロセッサ」のインパクト

 午後のランチ・セッションでは、IntelのIT部門を担当する情報システム部長の海老澤正男氏が、「クアッドコアIntel XeonプロセッサとIntel IT仮想化環境の優位性」と題して講演し、仮想化プラットフォームにおけるクアッドコア・プロセッサの優位性と同社の社内システムの仮想化への取り組みを紹介した。

 海老澤氏はまず、Intelのサーバ向けプロセッサのラインアップを紹介し、大規模なサーバ仮想化にはIntel Xeonプロセッサ7000番台、主流インフラの仮想化には5000番台が適しているとアドバイスした。そのうえで、デュアルコアIntel Xeon5160とクワッドコアIntel Xeon5300シリーズを搭載したサーバに内部仮想化ワークロードをかけた場合の検証結果を明らかにした。

virt_2.jpg
「仮想化プラットフォームにおけるクアッドコア・プロセッサの優位性」を強調するIntelの情報システム部長、海老澤正男氏

 同氏によると、クアッドコア・プロセッサを搭載した仮想化プラットフォームを、デュアルコアのそれと比較した場合、性能比で60%以上、対価格性能比で30%以上、対電力性能比で20%以上の優位性が認められたという。

 一方、コスト効果を検証する同様のテストでは、クアッドコアを搭載したプラットフォームは、デュアルコア・プラットフォームに比べて、サーバやスイッチの償却費、年間光熱費、管理コストなどを含むTCOの削減で約30%の優位性が見られたとしている。

 Intelでは現在、半導体を設計する際のシミュレーションのために、開発部門で約6万台のサーバを使用しており、世界136カ所のデータセンターに膨大な数のサーバを抱えている。

 しかし、こうした従来のIT資産は、需要のピーク時に合わせてキャパシティの設計がなされてきたため、サーバの平均使用率が15%以下にとどまるなど、ITインフラはIntelの成長を支えるのに十分な性能やキャパシティを満たしていないという。

 また、サービス指向アーキテクチャー(SOA)が急速に普及する中で、インフラの拡張性や柔軟性に対する要件も高まってきているが、現在のインフラではそのニーズに応えることも期待できない。

 Intelでは、こうした課題の解決に向け、IT部門がすべてのデータセンターのコンピュータ・インフラとサポート・プロセスに責任を持って管理することを前提としたホスティング・ビジネス・モデルを導入する計画だ。

 これは、タスクに対するリソースの配分および再配分をポリシーとルールに基づいて自動制御できるユーティリティ・コンピューティング・ベースのインフラを構築する取り組みである。

 Intelは、仮想化技術によってあらゆる部門のアプリケーション・ニーズに応える「データセンター・ユーティリティ・ホスティング・プラットフォーム」を今後5年間で構築するというビジョンを掲げている。

 また、2006年末時点で、バッチ処理でのCPU使用率を66%に高める効率化を実現し、2010年までの目標として、エンジニアリング部門での設計用データセンターの最適化を実施し、CPU使用率を80%まで高め、4億2,800万ドル相当の投資効果を創出する見通しを披露した。

仮想化の効果を実際に検証し
効果的なITインフラの構築を

 イベントの最後を飾るパネルディスカッションでは、VMwareの代表取締役社長である三木泰雄氏がモデレーターを務め、仮想化インフラへの移行の効率的な進め方について、仮想化ソリューションを提供するベンダーのスペシャリストが論議を繰り広げた。

 まず、サーバ・コンソリデーションのビジネスを展開する日本IBMのアドバンストテクニカルサポート部門でシステムズ&テクノロジー・エバンジェリストを務める佐々木言氏が、仮想化によるサーバ・コンソリデーションの基本的な手法について紹介した。

 同氏は、コンサルティング、設計・検証、構築、運用の4つのフェーズで仮想化の効果を検証しながらサーバ・コンソリデーションを進める重要性を強調したうえで、その注意点について次のように指摘している。

 「仮想化によるサーバ・コンソリデーションでは、これまでのようにサーバの能力を個々のアプリケーション処理のピークに合わせるのではなく、リソースの使用率を適切に検証・分析したうえで、システム全体として効率的に処理できるようにサイジングを行う必要がある」

 仮想PC型のシンクライアント・ソリューションを手がけるNECでマーケティング本部マネジャーを務める平智徳氏は、検証済みの実証モデルを使って、クライアントの体感速度を含めた性能やコスト、安全性をシュミレーションしながら、仮想デスクトップ環境を構築することを推奨している。

 同氏は、「まずは小規模構成のシステムからスタートしてみて、エンドユーザーの体感速度やコスト効果を検証したうえで、システムを拡張することが望ましい」と強調する。

 一方、クアッドコア・プロセッサを提供するIntelのプロダクト&プラットフォーム・マーケティング本部で、テクニカル・マーケティング・エンジニアを務める岩本成文氏は、仮想化環境でのアプリケーションの性能や可用性などテストできる検証センターを東京に開設したことを紹介し、仮想化アプリケーションの開発に取り組むソフトウェア・ベンダーや企業ユーザーを積極的に支援していくことを表明した。

 同氏によると、実際に検証センターでテストを行った事例を見ると、仮想環境で動作に支障の出るアプリケーションはほとんど見られず、導入効果がより明確になるケースがほとんどであるという。

 また同氏は、今後本格化すると見られるネットワークやストレージの仮想化への対応も見据えたうえで仮想化プラットフォームへの移行を進めることが望ましいとアドバイスしている。

virt_3.jpg
パネルディスカッションでは、仮想化インフラへの移行の効率的な進め方について、仮想化ソリューションを提供するベンダーのスペシャリストが論議を繰り広げた(左から、VMware 代表取締役社長 三木泰雄氏、日本IBMのアドバンストテクニカルサポートシステムズ&テクノロジー・エバンジェリスト 佐々木言氏、NEC マーケティング本部マネジャー 平智徳氏、Intelプロダクト&プラットフォーム・マーケティング本部テクニカル・マーケティング・エンジニア 岩本成文氏)

(Computerworld.jp)

提供:Computerworld.jp