デトロイトの高校がデスクトップをオープンソース化

2003年、University of Detroit Jesuit High School and Academyの技術責任者であるJohn Hansknechtは考えあぐねていた。同校にはWindows NTの下でMicrosoft Office 97が動作する旧型のコンピュータが100台ほどあり更新の時期を迎えていたのである。

Microsoft Office 2000にアップグレードするのは簡単だが、そのためにはコンピュータ自体もアップグレードしなければならず、莫大な費用が必要となって技術関係の予算が圧迫される。そこで、思いついたのがOpenOffice.orgの利用だった。

昨年、Hansknechtはコンピュータ・アプリケーションの教員Peter Guentherと学校司書Vondra Abbottに協力を求め、OpenOffice.orgの評価に着手した。同校に必要な条件を満たし、Microsoft WindowsとLinuxのどちらでも動くオフィス・スイートがあれば、Microsoft Officeのコストは不要となる。しかも、大枚を払ってハードウェアを定期的にアップグレードする必要性も少なくなるだろうと考えたのだ。

しかし、OpenOffice.orgが無償だというだけでは不十分だ。ソフトウェアの品質と機能が同校に必要な条件を満たすことも同様に重要である。1,000人近い学生が学ぶ進学校として、同校は教育のための技術を含む教育内容を重視している。同校で使うオフィス・スイートは、生徒および教員が使用する上での安定性と機能に関する条件を満たす必要があるのだ。さらに、機能とコストの両面で同校の教員技術委員会を納得させなければならない。

当時、同校にはMicrosoft Windows XPが動作する新型PCが158台、Microsoft Windows NTとMicrosoft Office 97が動く旧型PCが110台あった。この旧型PCをWindows XPにアップグレードするには、実用上ハードウェアを完全に入れ替える必要があった。そこで、Hansknechtは、Linux Terminal Server Project(LTSP)のソフトウェアを利用して旧型PCをLinux端末に転換したら、と考えた。LTSPクライアントに対応してLinuxサーバーを新たに購入する必要があるが、PCを入れ替える必要はない。

コスト分析をしてみると、その結果は圧倒的だった。Linuxの場合に要する費用は約21,000ドル、Microsoft Windowsの場合より100,000ドル以上も少ないのだ。しかし、Linuxへ移行するにはWindows XPでもLinuxでも動作し、しかも同校の条件を満たすオフィス・スイートが必要だ。同校の場合オフィス・スイートを2種類使うのは現実的ではなく、新型PCのWindows XPを削除するのは費用対効果が低く利益を損なうことになる。

オフィス・スイートの機能に関して同校が必要とする条件は単純だ。完全な機能を持ったワードプロセッサ、グラフと図が書ける表計算ソフトウェア、プレゼンテーション・ソフトウェアの3つが揃っていること。テクノロジー・クラスで教える機能のすべてを備えていること。宿題での使用にも有効であること。WordとExcelとPowerPointのMicrosoft形式の文書ファイルを開けること。この最後の条件については、皮肉なことに、OpenOffice.orgとMicrosoft Officeは互角だった。生徒の自宅では、Microsoft Officeの古いバージョンやMicrosoft Worksが多く使われていたからだ。他のMicrosoftオフィス製品との互換性に問題があったMicrosoft Office 2000さえ使われていたのである。

OpenOffice.orgにはさらに利点があった。無償のオープンソース・ソフトウェアであるため、OpenOffice.orgをすべての教員と生徒に配布することができるのだ。先走って言えば、同校は、生徒が自宅に持ち帰って自分のシステムにインストールできるように、貸し出し用の「ライブラリ」CD-ROMを30セット用意した。

話を戻すと、OpenOffice.orgの採用を進めるため、Hansknechtはコスト分析と実施計画を教員技術委員会に提出した。また、OpenOffice.orgとオープンソースの理念に関する解説や情報を教員を含む決定権のある人々に配布した。オープンソース・ソフトウェアの概念と利点を知ってもらうためである。

最終的に、Hansknechtの提案は同校の技術チームに上げられ、2003年5月に実施する旨の最終決定が下りた。この承認を受けて、コンピュータ・ラボの一つをLinuxおよびOpenOffice.org 1.1に衣替えした。まず試行し、そこから得られた知見に基づいて夏期休暇中の全校コンピュータ移行計画を作るためである(夏期休暇は生徒のためのもので、技術サポート職員のためのものではない!)。

OpenOffice.orgに慣れてもらえるように、生徒および両親向けに移行の際の留意点を記した配布物を作り、年度初めには技術サポート職員による教員および生徒向けオリエンテーションを開催した。45分間のオリエンテーションではOpenOffice.orgスイートの構成を概説し、OpenOffice.orgとMicrosoft Officeの主な違いについて説明。さらに、よく使われる機能について「Microsoft Officeの機能に相当する操作」を紹介した。勿論、高校であるから、OpenOffice.orgを使用する授業もある。

今では同校の教員および生徒のすべてがOpenOffice.orgを使っている(管理職の中には、ソフトウェアの都合で今もMicrosoft Officeを使っている人もいる)。宿題についてはOpenOffice.orgを使うよう義務づけてはいないが、同校では今も毎年度初めに説明会を開いて、OpenOffice.orgの使用を勧め、無償のコピーを用意し、Microsoft Office形式からの変換に関して予想されるトラブルについてアドバイスしている。

OSSへの移行成功に至る6つの手順
University of Detroit Jesuit High School and Academyがオープンソース・ソフトウェアに成功裏に移行できたのは、次の6つの手順で計画を実施したことが大きい。
  1. 小さく始める――まず、自分自身を含む小人数で対象のソフトウェアを使ってみる。
  2. 資料を用意する ――詳細なコスト分析を行って、計画のコストと利点を明らかにする。
  3. 決定権を持つ人々に情報を伝え理解してもらう。どういうソフトウェアか、利点は何か、なぜオープンソースが広く受け入れられ使われているのかを説明する。そして、正式のコスト分析を提出して、提案がしっかりした事実に基づいたものであることを示す。
  4. 試行プロジェクトを実施する。これによってサポート職員を訓練し本移行の準備とする一方、見落としていた問題を拾い出して対応する。
  5. 本移行の計画を立て実施する。
  6. ユーザーの教育と研修を行う。これは移行に伴う一時的な作業ではない。移行後も続く、通常業務と心得るべきである。
Microsoft Office形式の文書の移行では、特に複雑なPowerPoint文書を除き、実際上大きな問題は生じていない。しかし、授業用のPowerPointプレゼンテーションを大量に持っていた教員の中には、その例外に当たったケースもある。そうしたプレゼンテーションをOpenOffice.orgで作り直すことはできるが、教員は既存のものを作り直すより、新しいプレゼンテーションを作る方を好むもののようだ。そこで、同校では、暫定措置として無償のMicrosoft PowerPoint Viewerを使えるようにした。Hansknechtは、OpenOffice.org 2.0で変換性能が改善され、こうした暫定措置が不要になるだろうと期待している。現在OpenOffice.orgリリース2ベータを評価中で、夏になるまでにはアップグレードするか否かが決定される。

OpenOffice.orgはMicrosoft Office形式のファイルを読み込むことはできるが、マクロの変換はできない。しかし、この点は同校では問題にならなかった。生徒も教員も多くはマクロを本格的には使っていなかったからだ。もう一つ、ちょっとした問題があった。同校はTurnitin.comの「盗作防止」サービスを利用していたが、このサービスがOpenOffice.org形式に対応していなかったのだ。ただし、OpenOffice.orgはMicrosoft Office形式で保存することができるため、手間が増えたというレベルの問題だ。

同校では年末ごとにOpenOffice.orgの導入について再評価を行っているが、これまでのところ、このプロジェクトは同校の目標と条件に沿っていることが確認されている。

また、予想しなかった利点もあった。LTSPの採用によって既存ハードウェアの寿命が延びただけでなく、応答時間やシステムの安定性も改善したのである。

OpenOffice.orgを他校に勧めるのに、Hansknechtにためらいはない。さらに、Hansknechtはオープンソース・ソフトウェアの利用を広げてもいる。MozillaブラウザGIMPグラフィックス・ソフトウェアApache Webサーバー、Moodleコース管理システムなどなど。

こうして、University of Detroit Jesuit High School and AcademyのOpenOffice.org移行計画は成功した。しかし、それは偶然のことではない。計画、努力、情報の周知徹底、通常業務としてのサポート。こうしたことすべての結果なのである。

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