KDE 4で劇的に変わるデスクトップ

年に一度のKDEカンファレンス、aKademy 2005の余韻もおさまったところで、現在KDEの開発者たちが取り組んでいる課題について取り上げてみることにしよう。KDE 3.5もまだリリースされてはいないが、開発者たちは既にKDE 4に取り組んでいる。既に多くの作業がQt4(KDEのベースとなるGUIのツールキット)に既存のコードを移植する段階に来ており、KDE開発者たちは、世界でもっとも普及しているフリーデスクトップの表示や動作を劇的に変化させるプロジェクトに取り組んでいる。

KDE 3.5は10月後半のリリース予定だ。このバージョンでユーザーや開発者に提供されるデスクトップは、成熟して安定したものであり、さまざまなアプリケーションが統合されているであろう。

KDE開発者たちにとって、KDE 4は新しいコンセプトやアプリケーションを実験したり取り入れたりする機会であり、それによって現在のアーキテクチャに基づいたデスクトップよりも、さらにパワーアップされたものができると考えている。KDE 3においてアーキテクチャが大きく変更されたのと同様に、KDE 4でもデスクトップ環境の変更を行い、サードパーティによるアプリケーションの開発を急増させたいと考えている。KDE 4のリリースは少なくとも1年以上先になりそうなので、開発者が実験に費やすことのできる時間は充分にある。

Appealを使ったデスクトップ

Appealは非常に野心的な新しい活動であり、ソフトウェアプロジェクトというよりは「変化への宣言」というべきものである。1996年のKDEプロジェクト発足以来、KDEプロジェクトの方向性を決めてきたのは開発者たちである。ユーザビリティの専門家やアーティストたちがKDEで果たす役割の重要性は増してきているとはいえ、位置づけとしては、ほとんどできあがった作業を仕上げる程度のものであった。Appealの目的はこれを変えることだ。Appealプロジェクトは、アーティスト、ユーザビリティ専門家、プログラマ、KDEの熱心な支持者を開発の初期段階で結集する仕組みであり、そのためにオフラインで会合を開き、またメーリングリスト、Wiki、Webフォーラムなどを通じた継続的なコミュニケーションを維持している。

ファイル階層に依存しないファイル管理法

Appealにおける重要な活動のひとつはTenorという「文脈連結エンジン(contextual linkage engine)」だ。Tenorは文脈データ(MP3に格納されたメタデータ、テキストファイルの内容、ファイルとそのファイルを作成したアプリケーションとの関連など)を集め、別のKDEフレームワークを通じてアプリケーションに渡すものだ。これによりアプリケーションは、より便利なファイル検索の方法をユーザーに提供することができる。たとえば、Tenorを使ったアプリケーションなら「過去1週間にWebからダウンロードしたすべての画像」のリストを取り出すことができる。

Tenorで最も目を引くアプリケーションはデスクトップ検索であろう。これはGNOMEにおけるBeagleという素晴らしい検索ツールに相当するものだ。しかし、Tenorプロジェクトの主導者であるScott Wheelerはさらに先を見据えており、「どうすればデスクトップ上に集めたデータをもっと簡単に管理できるだろうか」というテーマを持っている。したがって、ユーザーがドキュメントを検索しやすくなるだけでなく、アプリケーションの開発者にインタフェースの変更を可能にするデータを提供することができるだろう。たとえば、現在のKDEコントロールセンターでは設定モジュールがわかりにくい階層構造で管理されているが、検索インタフェースを使って、関連する項目や、使用パターンから得られた情報を表示できるようになるかもしれない。

Tenorが開発されている方法から考えると、KDE 4がリリースされたときにどのような形で使われているのかを予測するのは難しい。Wheeler自身はTenorを使ったアプリケーションを開発する予定はないが、他の開発者が適宜使えるようにフレームワークを提供することをしている。開発者たちがTenorを使い始めれば、デスクトップに革命的な変化が起こり、検索やナビゲートが可能なWeb状のデータ管理が従来の階層構造のデータ管理に取って代わるだろう。

より機能的で美しいデスクトップ

KDE 4のもっとわかりやすい変化を期待しているユーザーに知ってもらいたいのがPlasmaだ。Plasmaは全く新しいデスクトップシェルをデザインして実装するプロジェクトで、壁紙やアイコンを含めたデスクトップと、パネルとパネルのアプレット、SuperKarambaのようなデスクトップアプレットを組み合わせて、整合性のある革新的な表示を実現する。

Plasmaの4つの基本コンセプトは、従来のコンポーネントの組み合わせに取って代わるものだ。その4つとはデスクトップ、アプレット、エクステンダ、パネルである。アプレットは作業の管理やデスクトップの管理を支援するもので、時計や、アプリケーションランチャ、ハードウェアから通知される情報など、Plasmaチームが思いつく限りのものを提供してくれる。エクステンダはアプレットに追加情報を表示させる単純な方法を提供する(図1)。パネルはアプレットを連結する方法を提供するものだが、このコンセプトは採用されずにアプレットを自動的にひとつに固定する方法が取られるかもしれない。

図1: 初期のエクステンダのコンセプト

Plasmaチーム(KDE開発者の中核メンバー、有望なデスクトップ開発メンバー、および熱心なユーザーの混成部隊)は順調に進歩している。すでにSuperKarambaをKDE 3.5に統合し、既存コンポーネントをQt4に移植して、現在は以後の作業をサポートするためにフレームワークの見直し作業を行っている。

その一方でPlasmaフォーラムでは、アプレットのアイディアが考え出され、描き出され、議論されている。注目すべきアイディアとしては、滑らかな半透明エクステンダ、Tenorを使って組み込んだデスクトップ検索アプレットのほか、限られた動作しかしないがFlashを使った人気コンセプトのデモといったものまである。アイディアはさまざまで、かなり変更を加えたもの(タスクバスケットなど)もあれば、グラフィックをわずかに変更したもの(アニメーションのシステムトレイなど)もある。

KDE 4のデスクトップは3.xで見てきたデスクトップに似ているように見えるかもしれないが、機能と美しさの点ではかなり違ったものとなるだろう。まず、すべてのコンポーネントが大きな構想を念頭に置いてデザインされ、当初からアーティストやユーザビリティの専門家が協力する。またKDE開発者のメーリングリストよりずっとオープンな、Plasmaフォーラムのコントリビュータたちの要求がデスクトップに反映される。XorgとQt4の新しいグラフィカル機能を使うことによって、デスクトップはさらに美しくなるに違いない。

さらにPlasmaはKHotNewStuffという比較的新しいフレームワークを完全に統合し、これによりKDEアプリケーションは新しいプラグインや、エクステンション、データをWebからダウンロードすることができる。セキュアで無難なアプレット集が利用可能になり、コミュニティ提案が受け付けられるだろう。

サードパーティ開発者にも開かれたKDE開発

KDEプロジェクトにとって、デスクトップをより魅力的で使いやすいものにすることは言うまでもなく最優先の課題だが、開発プラットフォームを提供することも同様に重要だ。KDE-Apps.orgにはサードパーティの開発者によって作られたアプリケーションが数多くあり、その中には、科学者、企業、デザイナーなどが使用する専門ツールもあるが、独立系ソフトウェアベンダーによる取り組みはまだ比較的少ない。

独立系ソフトウェアベンダーの関与を増やす方法のひとつは、トレーニングの機会を提供することだ。10月にサンディエゴで開かれるOpen Source Development WorkshopsはKDEプラットフォームでの開発を考えている開発者向けのトレーニングである。しかし、多くの企業はKDEの強力なフレームワークを使わずに純粋なQtアプリケーションを開発しようとしているため、トレーニングだけでは問題は解決しないと考えるKDE開発者もいる。

近年KolabやKontactを開発したことで有名なMartin Konoldは、RuDI(KDEとQtの間の互換層であり、純粋にQtで書かれたアプリケーションでもKDEの強力な機能を使うことができる)という大胆な解決方法を提案している。こうしたアプリケーションをKDEで実行すると、RuDIがTenorやネットワーク透過ファイルダイアログなどKDEの機能を使えるようにしてくれる。KDEを使っていないマシンで実行しても、RuDIは問題なくQtの機能だけを使うようにしてくれる。

KonoldのアイディアはQtとKDEだけにとどまらない。RuDIはGtkとGNOMEの開発者にとっても役に立つもので、GNOMEアプリケーションをKDEで実行した場合や、その逆の場合に表示がおかしくなる問題を解決することができる。またアプリケーションがどのプログラミング言語で書かれていても、使用しているデスクトップ環境での動作に従わせることができる。

RuDIは、独立系ソフトウェアベンダーがKDEの機能を使ってアプリケーションの開発をしたがらない原因になっている、いくつかの問題を解決することができる。まず、過去9年間に互換性のない変更を3度行ったKDEのAPIとは違って、Qtにリンク可能なより安定したAPIを提供することができる。また、独立系ソフトウェアベンダーがKDEのライブラリに対して静的リンクを行って、後に互換性や統一性の問題を起こすという可能性を減らすことができる。

さらには、開発者がQtだけを使って実際にはKDEデスクトップになじまないアプリケーションを作成して、KDEの機能が使われないという可能性を減らすことができる。もしこれが完成すれば、魅力的だが複雑なKDEのアーキテクチャを開発者が余計な心配をせずに使えるようになるだろう。

結論

KDEコミュニティから生み出される成果は素晴らしいが、KDE 4が最終的にリリースされたときにどの機能が採用されているかは誰にもわからない。Tenorはまだ漠然としたアイディアであり、書かれたコードも少ない。Plasmaフォーラムで議論されたアイディアは面白いが、まだアイディアに過ぎず、評価を行い、ユーザビリティテストを行い、実際のコードを書くところまで進展させなければならない。

Appealは、デスクトップをより使いやすく、美しく、統合されたものにする可能性を持っている。Qtを開発しているTrolltech社はRuDIに興味を示しているが、それを実現するには多くの作業や協力が必要になるだろう。

こうした革新的な試みが実を結べば、KDEはさらに優れたデスクトップ環境となるだろう。来年のaKademyが開催されたときに、どういった進展があったのかを見るのが楽しみである。

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