酒気検知器メーカーがソースコードの開示を拒否

酒気検知器Intoxilyzer 5000を製造するCMI Inc.は、フロリダ州サラソタ郡における複数の酒気帯び運転訴訟において、当該酒気検知器に使われているソフトウェアのソースコードを弁護側が依頼した専門家に閲覧させよという裁判所命令を拒否すると関係検察官に通知した。

11月2日、3名から成る判事団は、ソースコードを15日以内(11月17日まで)に提出するよう検察官に命じた。これは、弁護側は法廷に証拠として提出されたコンピュータ機器の動作に関するあらゆる情報――手引き書や障害対策の指示書のほか、原理的にはソフトウェアのソースコードも含まれる――を求める権利があるとした州法に基づくものである。

この訴訟は、オープンソースや技術の関係者からいろいろな意味で多くの関心を集めている。個人の自由に関わる装置――交通の取り締まりで使われる酒気検知器や選挙での電子式投票機など――にはオープンソース・ソフトウェアを使用し、すべての人が閲覧できるようにすべきであるという主張を強く裏付けるものと見られているからである。オープンソース・ソフトウェアであれば、裁判所命令は不要である。そして、この訴訟ではソフトウェアが設計どおりに動作しているかどうかが問題なのである。

このソースコード開示命令の結果が波及しうる裁判の被告は156名いるが、その一部を担当している弁護士Robert Harrisonは、州に対してIntoxilyzerのソースコードを開示するよう求めており、広範な事例証拠によって、このソフトウェアあるいは装置自体が人の血中アルコール濃度を正確に評価できない可能性があることは明らかだと述べている。

「この決定は嬉しい驚きでした。我々が訴訟で主張してきたように、法は、疑いなく、我々の立場を支持していました。法廷は我々の救済を認めるべきだ、さもなければこの法律を無視することになる、私はそう考えていました。これを扱った(判事の)勇気を讃えたいと思います」

裁判所命令は、弁護側の専門家、ラマー大学(テキサス州ボーモント)の教授Harley Myler博士がコードを調査し知見を報告することを認めている。コードを調査できるのはMyler一人であり、ソースコードの複写を受け取り調べた後バグの存否についてのみ報告できる。コードを複写したり配布したりした場合、裁判所命令に従い、Mylerは法廷侮辱罪で拘束される可能性がある。

Harrisonが検察官から聞いたところでは、CMIはすでに命令を受けているがソースコードの開示を拒否しているという。このままCMIがコードの開示を拒否し続ければ、関連する訴訟を担当する弁護士は、Intoxilyzerの出力の証拠採用を拒否できるだろう。

裁判所命令にはCMIに対する保護措置が含まれているが、CMIの製造責任者Bill Scofieldは、部外者にソフトウェアのソースコードを開示するつもりは全くないと言う。

「これは企業秘密です。有効性を確認する方法は他にもあるのですから、ソースコードを開示する理由は全くありません」。ただし、Scofieldは、どのような確認法があるかや、その方法がソフトウェアの機能の当否を判断するのに適当である理由については触れなかった。

一方、Harrisonは、機能不良を理由にCMIが装置をリコールした事例が少なくとも1つあると聞いている。それはIntoxilyzerの利用者の宣誓証言で、Intoxilyzerの機能の適切性に関する重要な知見を提供しうるものだと言う。

装置に使われているソースコードの開示をメーカーに強制することの成り行きについては、オンラインでも議論が沸騰している。その中で、プリンストン大学の教授(コンピュータ科学と公共を専門とする)Ed Feltenが主宰するブログFreedom to Tinkerの議論は興味深い。

Feltenは、10月21日の発言で、この訴訟がオープンソースに関するものではなく、フロリダの人々が「自分たちを告発した装置を調べる」ことができるかどうかに関するものであることを明らかにしようとした。「これは、件のソフトウェアがオープンソースであるべきか否かを巡る論争ではありません。被告人はソフトウェアをすべての人に対して開示することを求めているのではなく、弁護団に開示することを求めているだけです」

ブログへのコメントには、装置のソースコードを調べるべき十分な理由があるという指摘や、Intoxilyzerが誤動作した事例があるという主張もある。ガムやホットドッグ、あるいは無糖グミベアやBinacaでさえ、食べるとIntoxilyzerが違法な血中アルコール濃度を示すことがあるというのである。Intoxilyzerでテストされた人は、いずれも、飲酒していないと主張している。

Electronic Frontier Foundation(EFF)に所属する弁護士Matt Zimmermanは、酒気検知器や投票機などの製品については、企業秘密を守ることも、一般の人々が機能の妥当性を知ることも同じように重要だと言う。

「誰かの自由に影響を及ぼす重要な判断を行う場合、判断材料とする技術の動作について知ることができなければなりません。今回の訴訟は、裁判でそれが妥当とされた最近では数少ない例の一つです」

プロプライエタリの利点を失うことで発生するさまざまなマイナスに加え、ソフトウェアを公衆の目に晒すことで「設計やコードに欠陥があるのだろう、そうでなければ開示を求められるはずがない」と思われるのではないかと企業は恐れているとも言う。

電子投票と酒気検知器の問題について「政府は、本来政府がすべき仕事を外部に出しているのです。この訴訟は、人に危害が加えられたと主張しているのではなく、技術が本来の機能を果たしていないと主張しているのです」

どちらにとっても、要点は、これらの装置が人々の自由に影響する可能性である。その一方で、メーカーは装置の仕組みに関する情報を公開しない。どちらも、個人の自由に関わる場合、人々は技術の動作について知る権利があると政府に対して主張すべきだと、Zimmermanは述べた。

電子投票問題、そしておそらくは酒気検知器問題は、政治問題化する可能性がある。政府の隠蔽工作、あるいは少なくとも真剣に対策を検討していないことを示唆するからである。どちらも人間の権利の保護に関する問題であり、それ自体が政治問題となりうる。

Harrisonは、サラソタ郡には「リベラルな判事という砦がありません。ここは非常に保守的な郡なのです」と指摘した。裁判官は公平な裁判に対するメーカーと被告人の権利をともに保護し、判断をバランスさせる。また、判断が影響する可能性のある訴訟の数、1件か156件かは問題とならないが、訴訟の数そのものがIntoxilyzerのソースコードを開示する必要性を示すものになるだろうと言う。

「控訴審であの命令を弁護するのがとても楽しみです。コンピュータ・プログラムで犯罪を告発するなら、我々はその答えに至った理由を知らなければなりません」

電子投票と酒気検知器を巡る状況が、政府機関によるオープンソース・ソフトウェアの採用を促すだろうと推測されている。オープンソース・ソフトウェアであれば、Harrisonが扱うような訴訟や請求は最早不要である。そうした装置は公衆の目に晒され、あるべきように機能していることが確認されているからだ。これこそ、EFFは政府機関が使用するソフトウェアについて役割を果たしていくとZimmermanが述べた理由である。

「人々の自由が絡む場合、クローズされた技術は適切な方法ではありません。とりわけ、自由に大きな影響が及ぶとき、つまり投票の権利や酒気検知器などの場合は。その仕組みを調べることができないとき、法は人々の自由について判断すべきではないというのは確かに理に適っていると思います」

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