Open Tech Pressの編集方針

本日6月1日をもって、japan.linux.comはOpen Tech Press(OTP)へと生まれ変わった。リニューアルのご挨拶に代えて、テクノロジー・メディアとしてのOTPの今後の方向性をご紹介したい。

はじめに

このたび開設したOpen Tech Press(以下OTP)の前身、 japan.linux.com(以下jlc)を開いたのは2003年4月のことだった。つい先日 のことのように思えてならないのだが、冷静に考えればすでに3年以上の 月日が経過している。現在では、jlcはオープンソースを始めとしたソフトウェア開発の 最新動向に関する主要な情報源の一角を占めるまでに成長した。まさに光陰矢の如しとはこのことだが、これも数多くの読者の皆様のご支援、ご支持の賜物である。心から感謝したい。

OTPではこれまでjlcで培ったカラーは維持しつつ、規模やカバーする対象をさらに拡大し、分量、質の両面で従来 にも増して良質な記事を世に送り出すことを目指している。以下では、 OTPはどのような性格のメディアを目指しているのか、jlcとの違いはどこ にあるのかを、編集責任者という立場からご紹介したい。なお、OTPを運営するOSDNによるOTPに関する紹介 も併せて参照して頂けると幸いである。ちなみに、OSDNが他の用途を見つけない限り、数年間ほどはjapan.linux.comというURLでも本サイトにアクセスすることは可能だ。

OTPとは何か

OTPは、ソフトウェア技術やそれを取り巻くトピック全般に関心を持つ中 上級の技術者からマネジメント層を主要な読者として想定した、日本にお けるオンライン・クオリティ・ペーパー (quality paper)を目指している。 取り上げる話題のコアとなるのは、jlcと同様、GNU/Linuxを始めとしたオープ ンソース・ソフトウェアを中心にしたオープンなシステム、オープンなアー キテクチャ、オープンなテクノロジーであり、特にエンタープライズ市場 における最新のトピックは積極的に取り上げていくつもりである。個々の 細かい技術論にはあまり踏み込まないが、その折々でホットな話題につい て、簡潔に整理されていながらも、内容的にはできるだけ突っ込んだ、か つ軸のぶれない議論を読者の皆様に提供することを使命とする。

OTPの主要なコンテンツは、以下の2つである。

海外記事の翻訳

OTPでは今までと同様、米OSTG社が運営するニュースサイト 群 (NewsForge、Linux.com、IT Managers’ Journalなど)の主要記事の翻訳を掲載していく。従来同様、原文記事が掲載されてから1日から2日後に は翻訳が用意できるような体制を構築しているので、それなりの速報性も 確保されていると考えている。従来よりも更に豊富で良質な翻訳をタイムリーに読者へとご提供できるよう、今後も創意と工夫を重ねていく所存だ。

なお、NewsForge等で掲載された記事で、一般の読者にも重要と思われる にも関わらず筆者が見逃した(翻訳がしばらく経ってもOTPに掲載されなかっ た)と思われる記事があれば、是非筆者までお気軽にご連絡頂きたい。

また、今後はNewsForge等の提携サイト以外に掲載された記事であっても、Creative Commonsの一部ライセンスなどの下で公開され、翻訳とその公開が自由に行えるものであれば積極的に翻訳して取り上げていく予定である。

OTPオリジナルの論説記事

従来同様OTPのメインコンテンツである。これまでのところ、旧jlcでは主に筆者が論 説記事を執筆してきた。しかし、実は立ち上げ当初から外部の方の投稿は 受け付けており、外部の方に執筆して頂いたイベントのレポートなども掲 載した実績がある。

今後も主に筆者が執筆していくこと自体には変りないが、OTPでは従来以上に外部の方からの投稿を歓迎したい。今後、さまざまに異なった立場の方々が、さまざまに異なる意見をある程度まとまっ た形でぶつけ合う場として、OTPの論説欄を育てていきたいと考えている。 一般的なウェブ日記やブログで期待される以上の数の読者に伝えたいこと、 知らしめるに値すると考えられることをお持ちの方で、本稿で今まで述べ てきたような当OTPの方針を汲んだ文章を書いていただける方は、是非記 事を投稿して頂きたい。継続的に執筆して頂ける方には薄謝を進呈してい る。ただし、原則として実名(ないしそれに準ずるもの、例えば仕事でお 使いのペンネーム)を記した署名記事であることに留意して頂きたい。

なお、記事の投稿に関して具体的には、ライターガイドラインを参照して頂ければ幸いである。何か疑問があれば、こちらも筆者までお気軽にお問い合わせ願いたい。

なお、ご好評を頂いていたjlc Diaryは、後述のようにバックエンドを移 行したこともあって一旦終了とさせて頂いた。今後折があれば、Slashcodeの journal機能を用いた新サービスとして再び復活させる予定である。また、 記事へのトラックバック機能は、要望が多ければ復活させることも検討している。ポッドキャストの提供など新たな試みも計画しているのでご期待頂きたい。

jlcとの違い

まず目に見える違いは、ご覧の通りサイトの外見である。名称の変更に伴い、徹底し た再デザインを行った。これにより、従来よりもすっきりとした、閲覧し やすいサイトになったと自負している。もちろんまだ至らぬ点は多々ある と思われるので、読者の忌憚のないご意見、ご叱正をお待ちしたい。

また、サイトのバックエンドとして現時点で最新のSlashcode 2.5を日本語化し採用 した。これによって一足先に2.5ベースへの更新を完了していた兄弟サイ ト、Slashdot Japanに機能面で キャッチアップすることができ、細かい部分でのユーザビリティも格段に 向上したと確信している。今後はSlashcodeの開発動向を注視し、最新の機 能を野心的に採り入れていきたいとも考えている。

バックエンドの変更に伴い、サイトのポリシーを一点だけ大きく変更した。 というのは、今までと違い、今後は掲載した記事に関して読者からのコメントをお受けすることに したのである。コメントの投稿方法はSlashdot Japanと全く同一であり、モデレーション等もSlashdot Japanと同様に機能する。これにより、読者とより緊密なコミュニケーションを図り、また読者間での活発な意 見交換を促進していきたい、というのが運営側としての希望だ。読者の皆様には、議論への積極的な参加をぜひお願いしたい。

なお、コメントを残すにはログインを必須としている。アカウントの作成はもちろん 無料である。また、現在Slashdot Japanにアカウントをお持ちの方は、そ のアカウント名がすでに予約されており(他の人間が同名で作成できないように予約されているだけで、作成自体はまだされていない)、これ によってSlashdot Japanと同じアカウント名でOTPにもアカウントを作成できることが保証されている。このことも含め、今後はSlashdot Japanとより一層の統合を図り、相互補完関係を築いていきたいと考えている。

記事内容に関する基本的なポリシーという意味では、jlcにこれまで掲載された記事はそのまま引き継いでいることもあって、今後新たに掲載する記事に関してもそれほどの違いはない。ただ、jlcがjapan.「linux」.comを名乗りつつも、GNU/Linux運用のノウハウに特化した本家Linux.comの単純な日本語版でもなければ、 GNU/Linuxに関する話題のみを取り上げるサイトでも無かったのと同様に、OTPもGNU/Linuxに留まらず幅広い話題を取り上げていきたいと考えており、jlcよりも取り上げる話題の範囲を更に拡大したいとも考えている。今までと同様、*BSDやGNU HURDなど、いわゆるオー プンソースOSに関わる話題であれば積極的に取り上げていくし、場合 によっては、著作権や特許に関する話題など、ソフトウェア開発に直接、あ るいは間接的に関わってくる分野に関しても踏み込んだ議論を展開する場 合がある。更に、近縁の分野として、音楽や映像など芸術の分野におけるデジタル・コンテンツの流通の問題やオープン・コンテンツの議論、あるいは「オープン」「自由」といった概念そのものに関するより根源的な議論も随時取り上げて行く予定だ。GNU/LinuxはあくまでOTPが関心を持って採り上げる選択肢、テーマの一つに過ぎないということは、ここで改めて強調しておきたい。

OTPが読者の皆様にお約束すること

以上、OTPがjlcと変わった点について述べてきた。以下では、従来通り で変わらないことについてもお話しておきたい。それは、OTPというメディアを運 営する上で、編集責任者としての筆者が読者の皆様にお約束することである。

2004年の7月、NewsForgeにNewsForge 主筆(Editor in Chief)の Robin `Roblimo’ Millerが、「Why NewsForge doesn’t publish only pro-FOSS stories」という記事を掲載した。OTPはNewsForgeの日本語版では ないが、基本とするポリシーはこの記事と全く同じなので、できればご一読 頂きたい。簡単に言えば、「オープンソースを賛美する見解だけではなく、 批判的な見解も同等、ないしむしろ積極的に取り上げる」ということであ る。これはオープンソースに限らず、OTPが今後取り上げるどのテーマに関しても同じことだ。OTPは、ある見解に関して、それを支持する意見も否定する意見も等し並に扱うメディアでありたいと考えている。

しかしその一方で、OTPは、 記事の公正中立も、不偏不党も、あるいは正確さも、全く保証しない と 言うことを強調しておきたい。意図的に誤りを混入させるということ は絶対に無いし、極力正確な情報をお伝えすることを心がけてもいるが、 それでも記事に誤りが存在することはあるだろう。また、例えば筆者はで きる限り中立的な書き方をするよう心がけているが、一方で個人としては 明確にオープンソース支持派である。このような事情から、誤りやある種 の偏りが記事に入り込んでくること自体は、原理的に避けがたいものだと 筆者は考える。

このように書くと甚だ無責任なように感じられる方もおられるだろ う。しかしその代わり、OTPの記事では、ある結論に至ったとして、その 過程をできるだけ読者に分かりやすいよう公開することをお約束する。す なわち、読者が書き手の思考を追体験できるような記事を心がける。全て の記事にはニュースソースの在処と結論に至るまでの思考のプロセスや論 理が明記され、希望によっては読者がそこから書き手の考えを後から検証 できるようにする。そうした記事以外は、OTPには掲載しない。これによっ て、実質的な公正中立性を確保したいというのが筆者の願いだ。そのため にも、誤りや不明確な記述を見付けた際には、読者から厳しくご叱正頂け ると幸甚である。

主筆について

現在のところ、OTPの編集責任者としての主筆はjlcと同様、本稿の筆者である八田真行(mhatta)である。 翻訳記事の選定、投稿記事の審査、及び論説の執筆に関して責任を負っている。ただし記事内容に関する責任は個々の筆者に帰属する。

NewsForgeにおいて同様の立場にあるのが、主筆の Robin `Roblimo’ Millerである。NewsForgeの読者の方は、筆者のOTPにおけ る仕事も Roblimoとほぼ同じと考えて頂いて差し支えない。

至らぬところも多いと思うが、読者のご叱正を頂く中で、OTPを今後とも実質的に信頼できるメディアへ仕上げていきたいと考えている。NewsForgeのポリシーである「Ask your readers what they want, then give it to them (読者に読みたいものを訊け、そしてそれを提供せよ)」は本サイト のポリシーでもあり、筆者の個人的なポリシーでもある。今後もご愛読の ほど、くれぐれも宜しくお願い致します。

Off Topic Press?

最後に、蛇足ながら…OTPはもちろんOpen Tech Pressの略であるが、個人的には「Off Topic Press」でもありたいと考えている。 「オフトピック」という表現は、Slashdot Japanのユーザにはおなじみかもしれない。話の流れ、あるいは社会の大勢とはあまり関係のない話題のことだ。多くの場合、あまり世間的には歓迎されない。

3年前のjlcの設立以来、この世界では実に様々なことが起こった。好ましい変化もあれば、好ましくないものあったが、いずれにせよ、3年前の世界と、現在私たちが生きている世界は、多くの点で大きく変わっている。特に、インターネットが普及して以来、ソフトウェアを始めとした技術的革新が私たちの生活に影響を与える速度は桁違いに早くなっているように思われてならない。そして、そのような技術の多くは、ほんの数年前には「オフトピック」な話題だったのである。当時はごく少数の人々の関心しか集めなかったようなものが、現在では私たちの生活に不可欠な一部分になっている、そんなケースは意外に多い。

筆者は、数年後の私たちの生活に大きな影響を与えるだろう新しいイノベーションの萌芽は、現時点ではオフトピックな物事の中にこそ隠れていると思う。OTPでは、そんなオフトピックな話題も臆することなく取り上げていきたい。それによって、一日先でも一ヶ月先でもない、一年先二年先の世界のSneak preview(試写)を読者の皆様に提供する、そういったメディアへとOTPを育てていきたい、というのが筆者の密かな願いである。