米国土安全保障省の諮問委員会、RFIDによるプライバシー侵害を懸念

米国土安全保障省(DHS)のデータ・プライバシー/完全性諮問委員会は来週、RFID(Radio Frequency Identification)技術を用いた人物認証を批判する報告書を発表し、同委員会の会合で審議を行う予定だ。

 同委員会は、DHSの長官とその直属のCPO(最高プライバシー責任者)などが参加する諮問機関。今回発表を予定している報告書は現在草案段階であり、6月7日に開かれる同委員会の会合に向けて正式版の準備が進められている。

 同諮問委員会は、RFID技術が在庫管理などの用途に役立つことは認めるものの、「人と結びつくプロセス」に同技術を利用することは、プライバシーの観点から好ましくないと主張している。

 同諮問委員会の報告書には、「RFIDは主に物(例えば薬の容器など)の追跡に使用されるが、実際には人の行動の監視にも使えることが問題だ。同技術の利用はまだ模索段階にあり、今後の影響が予想しにくい。こうしたことから、われわれは提言として、RFIDを人の識別や追跡に利用することへの反対を表明する」と記述されている。

 同諮問委員会のハワード・ビールズ委員長によると、同報告書はまだ取りまとめ中であり、来週審議を行ったあとに、新アプリケーション/技術小委員会で改訂される予定だという。

 DHSのマイケル・シャートフ長官への正式な提言は、データ・プライバシー/完全性諮問委員会が四半期会合を開く9月か12月に行われる見通しだ。ビールズ氏は、「RFIDは総じて興味深い技術ではある。だがその一方で、プライバシーへの影響に関する懸念を呼び起こすおそれもある」と語る。

 データ・プライバシー/完全性諮問委員会は、報告書で次のように指摘する。「一部の人々は、RFIDシステムは迅速に個人を認証することが可能で、パスポートなどの身分証明書の有効性を保証するための手段になると考えているが、RFIDシステムによって迅速に本人確認を行えるとはかぎらない」

 RFIDを使った個人認証は、指紋など固有の生体的特徴とRFIDタグを組み合わせることによってのみ行われる。つまり、手作業の確認プロセスが必要になるため、スピード面のメリットは大きくない、というのが同諮問委員会の考えだ。

 また、同諮問委員会は報告書で、DHSが、RFIDタグ付きの電子パスポートを読み取り機に通し、個人識別番号で認証を行うシステムを義務づけたことも批判している。同報告書には「非効率的で業務プロセスを遅らせるDHSの安全対策は、RFID技術の本来の目的に反する」との一文がある。

 さらに同諮問委員会は、RFIDタグを個人の書類に付けることによるプライバシー・リスクは大きいと指摘する。RFIDを使った身分証明書を使う人は、どのような情報が送信されるかを意識しないまま、監視にさらされるおそれがあるという。報告書には「身分証明書を目で見てチェックする環境では、身元を特定されてもすぐに忘れられるため、個人は匿名で行動することができる。だが、RFIDを使った場合、身分証明書のタグから読み取られた情報が、個人の行動を追跡するために保存、共有、再利用される危険がある」と書かれている。

 一方、同諮問委員会は、RFIDシステムを利用する場合の適切なセキュリティ対策として、送信されるデータを暗号化することや、RFIDタグの動作を停止する機能を用意することなどを勧めている。

 RFIDの推進派の1人は、データ・プライバシー/完全性諮問委員会が作成した報告書は一面的な観点からRFIDを批判していると不満を述べている。業界団体メトロプレクス・テクノロジー・ビジネス・カウンシルのRFIDスペシャル・インタレスト・グループ代表、アラン・グリーブナウ氏は、「RFIDは、プライバシーを損なうことなく認証スピードの向上に利用することが可能だ。現在の監視カメラの使い方のように常識に基づいて運用すれば、人々に受け入れられるかたちでRFIDを活用することができる」と指摘している。

(マーク L. ソンジニ/Computerworld 米国版・オンライン米国版)

米国土安全保障省(DHS)
http://www.dhs.gov/
メトロプレクス・テクノロジー・ビジネス・カウンシル
http://www.metroplextbc.org/

提供:Computerworld.jp