続々登場するWebベースのオフィス生産性アプリ──Office代替の“本命”となるか

米国Googleが6月6日、Webベースの表計算ソフトウェアを公開したことは、オフィス生産性アプリケーション市場で支配的地位にある米国Microsoftの「Office System」への挑戦として大いに注目を集めた。だが、これは業界初の動きというわけではない。

 Microsoft自身をはじめ、Yahooやアスク・ジーブスなどの著名なWebポータル/検索サイトも傍観の姿勢をとっているなか、主に米国西海岸に本拠を置く新興企業が、WordやExcelによく似たWebベースのオフィス生産性アプリケーションを次々に開発し、それらの提供を開始しているのだ。

 代表的なWebベースの文書作成ソフトウェアとしては、Ajax 13の「ajaxWrite」、Silverofficeの「gOFFICE」、 AdventNetの「Zoho Writer」、iNetOfficeの「iNetWord」、そしてGoogleが今年3月に買収したライトリーの「Writely」などが挙げられる。

 また、Webベースの表計算ソフトウェアには、表計算ソフトウェアの元祖「VisiCalc」を設計したことで有名なダン・ブリックリン氏が開発した「WikiCalc」(アルファ版)や、香港のティームズ・アンド・コンセプツが開発した「EditGrid」、イスラエルのアイローズ・ドットコムが提供する「iRows」、Ajax 13の「ajaxXLS」、カナダのスモールソート・システムズの「Dabble DB」などがある。

 さらに、Microsoftの「PowerPoint」やプロジェクト管理ソフトウェアに似たWebベース・アプリケーションも存在する。前者にはストラクチャード・データの「Thumbstacks.com」などが、後者にはプロジティの「Project-On-Demand」などがある。

 これらのサービスの大半は無料で提供されており、従来のMicrosoft製品にはなかった同時編集といったコラボレーション機能を備えているのが特徴だ。

 例えば、Excel形式のファイルを読み込み、基本的な計算処理が行える「Google Spreadsheets」は、マクロなどの高度なExcelコマンドはサポートしていないが、1つのスプレッドシートを最大10人のユーザーがIM(Instant Messaging)ウィンドウで対話しながら同時に編集することが可能となっている。

 従来のように変更個所を赤く記した文書を電子メールで何度もやり取りするのに比べて、1つのファイルを同時に編集したほうが格段に便利であることは言うまでもない。

 米国シンクストラテジーズのアナリスト、ジェフ・カプラン氏は、「次期リリースのMicrosoft Office 2007が、Webベース・アプリケーションの攻勢にさらされるのは間違いない。なかにはMicrosoftの新しいソフトウェア・スイートに投資する代わりに、SaaS(software-as-a-service:サービスとしてのソフトウェア)を選択するユーザーも出てくるかもしれない」と語る。

 Microsoftは、Office 2007に搭載される重要な要素の1つとしてコラボレーション機能を挙げているが、同機能を利用するには「SharePoint 2007」などのバックエンド・ソフトウェアを追加で購入する必要がある。

 また、同社は「Office Live」を通じていくつかのコラボレーション機能を提供する予定だが、売上高への影響を恐れてか、主要なOfficeアプリケーションのOffice Live版の提供には踏み切っていない。

 米国IDCのアナリスト、メリッサ・ウェブスター氏は、「Microsoftは今後、MSNとOffice Liveのユーザー向けにいくつかの新機能を提供しそうだが、それらはいずれも自社のデスクトップ製品に縛りつけるものだと思われる」と予測している。

 米国ティア・ワン・リサーチのアナリスト、ダスティン・レクター氏も、「MicrosoftのOfficeアプリケーションの優位性が近いうちに失われることはないが、もし同社が今後何の行動も起こさなければ、長期的に見て、その立場はより不利なものになっていくだろう」と述べている。

 一方、プロジティの社長、マーク・オブライエン氏は、「Microsoftはすでに市場の一部を失いつつある」と語る。同氏によると、同社のProject-On-Demandは、提供開始からわずか3カ月で無料版、有料版を合わせて100社のユーザーを獲得したという。なお、Project-On-Demandは、セールスフォース・ドットコムのオンデマンド・アプリケーション共有サービス「AppExchange」にも組み込まれており、同社の約45万人のユーザーが利用できるようになっている。

 オブライエン氏は、「Project-On-Demandのユーザーは小さな会社だけではない。フォーチュン500の大手企業も数社含まれている」と力説する。

 しかし、IDCのウェブスター氏は、Webベース・アプリケーションを早期に導入するユーザーは、一般消費者か小規模企業がほとんどだと見ている。同氏は、「提案書、契約書、予算案などの企業文書を、GoogleのWebベース・アプリケーションを使って作成するのは今のところ無理がある。少なくとも今後数年間はそうだろう」と指摘する。その理由として同氏は、グーグルはSaaSに基づくビジネス・モデルをまだ構築しておらず、企業のデータを保護するメカニズムやサービス・レベル保証などが提供されないことを挙げている。

(エリック・レイ/Computerworld オンライン米国版)

提供:Computerworld.jp