反DRMキャンペーンを展開するも困難に直面

Free Software Foundation(FSF)は6月10日(土)、デジタル著作権管理(DRM)に反対して進めているDefective By Design(発想からして欠陥)キャンペーンの活動を全米各地のアップルストアで実施したが、数々の困難に遭遇した。各地の抗議活動の半数が店舗の警備員や警察官に妨害され、今回のキャンペーン全体としても主要メディアの注目を集めるという点ではほとんど成果が得られなかった。こうした難点はあったものの、発起人たちは、当日までのわずか2週間で抗議活動の参加者を動員できたこと、DRMの意味するところを一般の人々に知らせることができたことから、今回の抗議活動を成功と判断している。

「現在、DRMに関してさまざまなことが進められている」と今回の抗議活動の準備にあたってFSF常任理事のPeter Brown氏はNewsForgeに語っていた。彼はその一例として、DRMが組み込まれた機器にはラベルを貼るべきだ、という英国議会の委員会が最近出した勧告を取り上げた。「人々はDRMの問題に気付きつつある」とBrown氏は言う。「我々はこの議論を主要メディアで始めたいと考えている」

Appleをターゲットにしたのは、DRM搭載機器の大手供給元の1つだからだ、とBrown氏は説明する。iPodを製造し、iTuneストアを所有するAppleの楽曲ダウンロード市場におけるシェアは80%近くあるかもしれない、とも指摘している。「基本的に、AppleがしていることすべてがDRMだ」と彼は言う。Appleが現在製造中のビデオiPodには音楽用のものよりも制限が増えている。AppleはDRMを積極的に利用し、今後さらに制限を強めていく考えを示している。

Defective By Design
Defective by Design

今回の抗議活動は、会社としてのAppleではなく、ただ同社のDRMポリシーに反対するものだとBrown氏は強調している。「DRMの最大の供給者として、Appleはひどいことをしようとしているが、Apple自体は悪の根源ではない。我々は、Appleのやり方に行き過ぎがあること、彼らの製品ラインナップからDRM機能を取り除く必要があることを伝えたいだけだ。圧力をかけないと彼らは方針を変えようとはしない」

Brown氏は、Defective By Design がさまざまな立場の人々が連携した活動であることも強調している。「こうした抗議活動に参加するすべての人に我々の組織への協力を求めているわけではない」と強調する。「多くの人々がこの活動に参加してくれるのは、ただDRMの特定の利用法に反対しているか、DRMについて独自の考え方を持っているかのどちらかの理由からだ。Defective By Designは、DRMに反対する理由を持つあらゆる人が行動を起こせる場であり、DRMは撤廃すべきだ、というのが我々全員の非常に明確なメッセージだ」

抗議活動の準備

Defective By Designキャンペーンをとりまとめているのは、Brown氏のほか、Gregory Heller氏と、インターネットキャンペーンの管理と推進を行うCivicActionsのHenri Poole氏だ。Poole氏は、FSFの理事でもある。6月10日の抗議活動の計画は、WinHEC 2006会場の外で行われた同キャンペーンの最初の活動の直後に始まっていた。

6月10日の1週間前になって、今回の抗議活動が電子メールで支持者たちに通知された。自発的な参加を求めると共に、ほかの参加者を集めるように要請するものだった。Electronic Frontier Foundation(EFF)もまた、メンバーにこの抗議活動のことを知らせた。ただし、EFFの活動推進家Danny O’Brien氏は、単に「支援」することがEFFの主な役割だった、と述べている。EEFもまたDRMに反対する主な組織の1つだが、O’Brien氏によると、EEFの役割はDefective By Designを補完するものであって、それはコミュニティ活動ではなく、法的な問題への対処だという。

各地の抗議活動は、キャンペーン本部の指示ではなく「現地で」計画された、とBrown氏は説明する。活動内容の詳細は、本部が用意した素材を使って各地の判断で決められた。ピケサインの画像、ビラのほか、場合によっては、前回の抗議活動でキャンペーンのトレードマークになった黄色いハザード・スーツも用意された。

行動の計画は、現地のリーダー役に任され、参加者たちの関心に基づいて決められた。「黄色のハザード・スーツを着て参加したいという人たちがいた」とBrown氏は述べている。「我々はピケサインと、参加者に配ってもらうビラを用意した」(同氏)。その他の人々には、抗議活動の写真やビデオの撮影、ビラの配布、報道関係者への連絡、インターネットへのできるだけ速やかな画像とレポートのアップロードを担当してもらった。

当初、抗議活動を予定していたのはニューヨーク、サンフランシスコ、ボストン、シアトル、シカゴ、プレーノーだったが、準備中に参加希望者が集まったため、ロサンゼルスとニューヨーク州のハンティントンステーションも追加された。ロサンゼルスのリーダー役Jesse Weinstein氏によると、同市での抗議活動が加えられたのはわずか2日前だったという。前日、各地のリーダー役はDefective By Designの発起人たちと電話会議を行い、最終的な計画について話し合った。

明暗が分かれた当日の様子

活動の最終準備が整うにつれ、キャンペーンの成功はますます確かなものに思われた。抗議活動に参加したいという人々が1日に100人近くも現れ、直前にいくつかの都市が抗議活動に加わることにもなった。また、Google Newsと6月9日付の『BusinessWeek』誌のオンライン版が、DRMへの反対が増え続けていることに関してAppleと今回のキャンペーンの計画に言及したのだ。

リーダー役たちは、Defective By Designキャンペーンが初めて主要メディアで取り上げられたことを喜んだものの、活動実施の日が知れ渡ったことで、Apple側には各地の警備員や警察に対して事前に警戒を要請する機会を与えたことになり、抗議活動そのものにとっては不利な情勢になったのだった。

計画された以上に首尾よく抗議活動が進められた都市もあった。シカゴでは、Brown氏が約30名の抗議者 ― ほとんどは地元のGNU/Linuxユーザグループのメンバー ― を率いて、北ミシガン大通りにあるアップルストアの外で行動を起こした。一団は駆けつけた警察に出会ったが、Brown氏が「我々の目的はデモではない。ここでDRM問題に対する注意を喚起するだけだ」と説明すると、彼らは引き揚げた。

San Francisco event
サンフランシスコでの抗議活動

このあと、アップルストアの店員たちは店の前に並び警戒態勢をとった。店から15フィート以内に入ると警察を呼ぶぞ、と脅しをかけてきた店員たちに対し、店への出入りを妨げてはいない、やれるものならやってみろ、と抗議者たちが応じる一幕もあった。

店の外では、抗議者たちによってビラが配られ、街頭パフォーマンスが行われた。「ビートルズのアビイ・ロード(Abbey Road)のジャケット写真を真似て、アップルストア付近の横断歩道を行く我々Defective By Designのメンバーの写真を撮影していると、飛び入りの人たちが加わってパレードになったのは痛快だった」とBrown氏は語る。

一団のユーモラスな行動が功を奏したのか、通りがかりの人たちは進んでメッセージに耳を傾けてくれた、とBrown氏は話している。また、「近寄ってきて、Appleを責めないでくれ、彼らはそれほど悪くはないんだ、と言う人が何人かいた。彼らには、Appleが現在行っていることではなく、これから行おうとしていることのほうが問題なのだ、と説明した」とも彼は語っている。2時間にわたるシカゴでの活動では、2300枚以上のビラが配布されたとBrown氏はみている。

サンフランシスコのマーケット通りとストックトン通りとの角にあるアップルストアでも、Poole氏と自発的に抗議に参加した約20名が抗議活動を成功させていた。iPodの衣装を着たアップルストアの面々が抗議者の周囲で踊りまわってはいたが、Poole氏が事前に店のマネージャや警備員と話し合うことで問題の発生を防いでいたため、店の入口がふさがれることも妨害されることもなかった。「彼らはとても面白がっていた。面倒なことは何も起こらなかった」とPoole氏は述べている。

サンフランシスコでの抗議活動が成功したもう1つの理由は、アップルストアの店員の1人がこのキャンペーンの支持者だったことかもしれない。「僕も店の仲間たちも、あなたたちの抗議運動には賛成している」とその店員はPoole氏に語ったという。

通りがかった人々もPoole氏の一団を受け入れていたようだ。「まったくだよ、(DRMを搭載した)Apple製品のことは本当に残念だ、と多くの人々が言っていた」とPoole氏は話している。この抗議運動に参加したいという通行人も1人いたという。また、サンフランシスコの活動には、主要メディアで唯一取り上げてくれた『BusinessWeek』誌のレポーターが現れた。地元のKRONおよびKTVUの両局からは撮影班の到着が期待されたが、結局現れなかった。

ニューヨークのLuke Gotszling氏とプレーノーのMike Crist氏からも、より小規模ではあったが同様の結果が報告されている。

しかし、その他の都市で行われた抗議活動は、警備員による深刻な妨害を受けていた。ボストンでは、John Sullivan氏ら12名がケンブリッジ・ギャラリア・モール(CambridgeSide Galleria)にあるアップルストアに到着すると「それを上回る数の警官と警備員が待ち構えていた」という。警備員たちの「不穏で気がかりな」態度に反し、抗議者の一団はすんなりと店内に入ることを許された。店員は彼らをほとんど無視していたが、何人かが展示コーナーの前にポスターを貼り始めると、すぐに警備員から出て行くように言われた。一団はモールから向かいの駐車場へと撤退して、ビラの配布を続けた。

また、シアトルの抗議者たちは、ユニバーシティビレッジにあるアップルストアにたどり着くことさえできなかった。「我々はキングカウンティの警官に遭遇し、私有地では憲法修正第1条の権利を行使できない、との通告を受けた」とGregory Heller氏は語っている。一団は、この問題で論争するよりも駐車場の入口に退くことを選び、そこでビラの配布を行った。

ロサンゼルスでは、4名の小さな抗議集団がショッピングモールの警備員によって阻まれ、すぐ立ち去るように言われた。代わりに、彼らはサンタモニカのサードストリート・プロムナード(Third Street Promenade)にあるアップルストアに向かった。

警備員によって完全に妨害された唯一の活動が、ロングアイランドのハンティントンステーションにあるウォルト・ウィットマン・モール(Walt Whitman Mall)におけるものだった。中に入ることを完全に拒否されたのだ。この抗議集団のうち2名は、ニューヨーク5番街の抗議活動に合流しようとしたが、ニューヨークの担当者が、終了までに着くのは無理だと彼らに伝え、あきらめさせた。

警備員や警官からの妨害によって参加しようとする気持ちが冷めた、とNewsForgeに語った参加者もいた。しかし、キャンペーンの発起人たちはこうした妨害行為と衝突することのないように最善を尽くした。「ショッピングモール内にあるアップルストアのいくつかで問題が起こるかもしれないことは、前からわかっていた」とHeller氏は語っている。また、警備員や警官がいたこと自体は「キャンペーンがApple側に伝わっていた証拠であり、良いことだった」とBrown氏は述べている。

問題の1つは、参加者たちに社会的活動の経験が乏しかったことかもしれない。当日、最も成功した抗議活動の2つで先頭に立っていたのが、市民権や当局への対応のしかたについて熟知したDefective By Designの発起人だったことが大きく影響していた可能性がある。

「我々の呼びかけに応じて、今日は8つの都市で抗議参加者が集まってくれた」とHeller氏は活動の数時間後に語った。「既に我々の行動は、メディアの報道、ブログへの書き込み、Flickr上の8地点すべての写真で取り上げられている」とFSFの常任理事Peter Brown氏も同意している。「我々はわずか2週間で新たに2300名の支持者を得たのだ。今回のニュースでその数は倍に膨れ上がるだろう」とBrown氏は語る。

しかし、Heller氏にとって、この日の抗議活動でもっと重要だったのは、一般の人々との接し方や彼らが本当に疑問に思っていること、この問題の本質を伝える方法を、参加者たちに学んでもらい、そうした説明に慣れてもらえたことだった。「参加者の多くが活動の後で食事に出かけたり、共に楽しいひとときを過ごしたようだ。それも重要なことの1つだ。反DRM抗議運動のコミュニティが構築されつつあるわけだ」(Heller氏)。

Brown氏によると、唯一残念だったのはメディアへの露出が不十分だったことだという。「我々は多くの時間を使って各紙の関係者に電話やファックスで知らせていたし、今朝はずっと何度も電話をかけ続けたが、返答はいつも決まって、手の空いている報道班はない、というものだった」

その他の点では、どんな問題が生じても発起人たちがひるむことはない。「我々は活動を継続する」とBrown氏は述べている。「今回の活動はまだ2度目に過ぎない」

次の段階へ

DRMテクノロジを広めている大手企業MicrosoftとAppleをターゲットにしてきたDefective By Designキャンペーンは現在、次の活動を計画中だ。「今や我々は、映画館への客足が伸びる夏の大ヒット作公開時期に向けて動き出すつもりだ。我々の次のターゲットは大手の映画会社になるだろう」とBrown氏は語る。「しかし、DRMの実現を可能にしているメーカーに対しても活動は続けていくつもりだ。概してメーカーは我々のコミュニティに最も近しい存在であり、最も我々の意見に耳を傾ける必要がある存在でもある」

また、Brown氏は「近々Defective By Designは新しいメディアキャンペーンの詳細を公表する」とも話している。

DRMへの反対は米国内だけでなく世界的に起こっている、とBrown、Hellerの両氏は述べる。Heller氏は、既存の取り組みの邪魔にならない場所に限り、このキャンペーンを米国の国境を超えて展開する可能性にも言及している。

とにかく、土曜日の抗議活動のすべてが成功したわけではないが、DRMについての公的な議論の必要性を示すという点ではどの活動も貢献している。DRMは複雑な問題であり、「時間と場所を設定して冷静な議論を行うに値する。議論になれば、我々が勝つ」とHeller氏は語っている。

Bruce Byfield氏はセミナーのデザイナ兼インストラクタで、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリストでもある。

NewsForge.com 原文