仮想マシンをいかに管理するか──機能不足のツールを使いこなす

 仮想マシンは、もはや“当たり前”の存在になった。だが、そうやって多くの仮想マシンが使われるようになればなるほど、その管理は難しくなる。しかも、そこでは、仮想マシン特有の管理機能に加え、仮想サーバと物理サーバの一括管理やクロスプラットフォームへの対応といった高度な機能が要求される。さらには、仮想マシンのプロビジョニングをどう自動化するか、あるいは仮想マシンを利用するエンドユーザーへの課金をどうするかといった問題に対する解決策も求められる。本稿では、「仮想マシンの管理」に関する、そうしたさまざまな問題について考えてみたい。
急増する仮想マシン

 仮想マシンは、ITスタッフの作業効率を飛躍的に高める。稼働までに数週間を要する物理サーバと異なり、仮想サーバはわずか数日間で導入できるからだ。バージニア州マクリーンの新聞社ガンネットが仮想マシンを導入した動機も、まさにそこにあった。同社のITアーキテクト、エリック・カズマック氏は、「われわれのデータセンターでは数百台の仮想マシンが稼働している」と胸を張る。

 しかしながら、仮想技術が開発ラボを出て大規模なプロダクション環境へ移行すると、仮想サーバの増殖が急速に進み、それに伴って、仮想マシンを効率的に管理することが難しくなるという新たな問題が出現する。実際、ここにきて、高度な管理機能を持ったツールが存在しないことを憂う管理者も増えてきた。  そうしたことから、現在、既存のサーバ・モニタリング・ツールが、急速に仮想サーバ対応を進めつつある。だが、それらの多くはまだ、仮想マシンのコンテキストでフィードバックを解釈して対応する、といったことが行えるほどには洗練されていない。フォレスター・リサーチのアナリスト、フランク・ジレット氏も、「既存ツールは仮想マシンの特殊性を考慮していない」と指摘している。

 例えば、仮想マシンは、100パーセントの稼働率で実行されていても、サーバ・リソースをほんの一部しか消費しない。そのため、「これまでのようなモニタリングのしかたでは意味がないケースもある」(カズマック氏)のだ。

既存の管理ツールの問題点

 「現在のツールがすべて仮想スペースで利用できればいいのだが、そうはなっていない。近い将来、そうなる可能性もあまりない」と語るのは、サンディエゴに本拠に置くカルコムのCIO、ノーム・フィジェルドハイム氏だ。同氏は現在、より有効な管理を行うために、仮想マシン管理を目的としたツールをいくつか評価しているところだ。

 多くの企業にとって、仮想サーバのトラブルの原因を特定し、修正するという作業は、いまだに困難な作業である。しかしながら、データセンターの仮想サーバが増加を続けるなか、こうした作業の一刻も早い自動化が求められていることも事実である。

 もっとも、そうしたいわゆるパフォーマンス・モニタリングは、仮想マシン管理の1つの側面にすぎない。仮想マシン管理には、そのほか、物理サーバ上に置かれた仮想マシン群のパフォーマンスを最大限に引き出すための最適化、仮想マシンのプロビジョニングの自動化、ロードバランシング、パッチ管理、コンフィギュレーション管理、フェイルオーバー、それに、イベントに応じて自動的に適切なアクションを実行するポリシー・ベースのオーケストレーション対応といったタスクがある。

 このうち、例えばパッチ管理などの機能は既存のツールでもサポートされているが、その他のタスクについては、「(既存のツールよりも)システムが仮想であるという前提で開発された(新しい)ツール上でサポートするのがベストだ」と、カルコムの上級エンジニア、ポール・ポップルトン氏は語る。

 というのも、仮想マシンが増えれば増えるほど、既存のツールで管理するのが難しくなるからだ。しかも、仮想サーバは、いったん導入を決定してしまえば、あとはものすごい勢いで増え続けるものなのである。あまりにも簡単に新しいサーバを調達できるため、だれもが気軽に追加してしまうからだ。そのため、仮想サーバ・プロジェクトに着手したばかりの企業が、すぐに管理の問題に突き当たるといったことも珍しくない。「仮想サーバは、当初の予測を20〜30パーセントも上回る勢いで増え続け、すぐに手に負えなくなってしまう」とポップルトン氏は警告する。

 カルコムでは現在、WindowsとLinuxが混在する1,280台のVMware ESX Server仮想マシンが稼働している。そのうちの850台は同社のデータセンターで利用されており、1台の物理サーバが平均10台の仮想マシンをホストしているという。

 仮想マシンが10台程度であっても、パフォーマンスを最適化するのは容易なことではない。「われわれが直面した問題の1つは、それぞれの物理サーバのリソースをどう管理するかというものだった」とポップルトン氏は打ち明ける。ちなみに、この問題は、カルコムが現在ベータ・テストを行っている、VMwareのVirtualCenter 2管理ソフトによって解決されることになりそうだ。なお、同ソフトは、今年上半期の出荷が予定されている。

正しいツールを見つけ出す

 一方、ガンネットでも現在、VirtualCenter 2のベータ・テストを行っている。同社では、同ソフトのコンポーネントの1つであるData Resource Schedulerを使って、サーバ群をプールしてグループ分けを行ったり、管理者が設定したポリシーに沿って管理したり、といったことを試みているのである。また、もう1つのコンポーネントであるDistributed Availability Serviceを利用して、物理サーバがダウンしたときに、自動的に別の物理サーバに仮想マシンを移動して再起動させるといったことにも挑んでいる。

 また、マイクロソフトの上級技術製品マネジャー、ジム・ナイ氏によると、同社でも管理ツールの仮想マシン対応を進めているが、まだ十分ではないという。例えば、Systems Management Serverは物理マシン・イメージ・ライブラリを管理することはできるが、物理マシンのイメージと仮想マシンのイメージを識別することはできない。

 VMwareのVirtualCenterにしても、まだまだ足りない機能がたくさんある。VirtualCenterのユーザーであるポップルトン氏も、「クロスプラットフォームのツールがもっと必要だと感じている」としたうえで、「われわれは、現時点では確かにVMwareのユーザーだが、将来的にはどうなるかわからない」と、うそぶいてみせる。

 実際、同氏は現在、ToutVirtualが開発した仮想マシン管理ツール・スイート、VirtualIQの利用を検討しているところだ。

 この製品は、自動プロビジョニング、キャパシティ管理およびセキュリティをサポートしている。同氏はまた、プラットフォーム・コンピューティングが開発したVM Orchestrator(VMO)のような“物理システムと仮想システムのグリッド型管理”を可能にするツールにも注目している。

 VMOは、ユーザーが定義したポリシーをベースに、仮想マシンのリソースと稼働レベルを動的にアロケートあるいはコントロールすることで、キャパシティを最適化するツールである。

 ToutVirtualもプラットフォーム・コンピューティングも現時点ではVMwareしかサポートしていないが、両者とも将来的にはMicrosoft Virtual ServerとオープンソースのXen仮想マシン・モニタをサポートすることを表明している。ポップルトン氏はそれらのツールが登場するまで、必要なツールを自社開発する構えだ。「いま、われわれは自動プロビジョニングの最初のフェーズにいる」と同氏。

求められる“標準化”

 一方、ウォール街のある証券会社で技術サービス担当副社長を務めるクリストファー・ウェア氏は、最近、BMC Softwareが提供する仮想マシン管理のためのオーケストレーションおよびプロビジョニング・ツール、BMC Virtualizerを導入した。同氏によると、このツールはリソースの稼働率の問題をポリシー・ベースで解決するもので、Xen、VMware、Virtual Ironで作成された仮想マシンをサポートするという。

 Virtualizerも、ほかのクロスプラットフォーム・ツールと同様、VMwareや他の仮想マシンのAPIを統合し、プロプライエタリなツールの実行を自動化するものだ。例えば、VirtualizerはVMotionを使って、VMware環境内の物理サーバ間における仮想マシンの移動を自動化することができる。

 ウェア氏は、BMC Virtualizerを社内のすべての仮想マシンに対応させる作業について、「必ずしもプラグ・アンド・プレイというわけにはいかなかった」と、正直に語る。その理由はただ1つ、「共通する標準が存在しなかった」からである。

 そのため、同社の環境では、「仮想プロビジョニングを実行するためには、膨大な量のコーディングとカスタム化が必要だった」(ウェア氏)のだ。もちろん、そのためにかかったコストも相当なものだった。

 この標準化の問題は、他のIT分野と同様、仮想マシンの管理ツールの分野においても重要な問題になっているわけだが、フォレスターのジレット氏によれば、「現在、標準化が求められているのは、仮想マシンの制御と操作、フィードバックを得るためのインタフェースの部分だ」という。

 仮想化の基本的な部分については、チップとOSのレベルですでに標準化が図られていると見てよい。現在、VMwareやXenの開発者、およびインテルその他のベンダーの担当者によって、(ジレット氏が指摘しているような)より高いレベルでの標準化に関する話し合いがなされているが、残念ながら、いまだにコンセンサスが確立された様子はない。

 アイダホ州サンドポイントの衣料品販売大手コールドウォーター・クリークのITエンジニアリング担当ディレクター、スチュワート・ハバード氏は、ESX Serverを使って、60の仮想プロダクション・サーバを稼働させている。

 その同氏にとって、現時点における最大の問題は、「リソースの振り分け」だという。「ある仮想マシンがスタートしたときに、十分なリソースがないと、処理速度が著しく低下し、エンドユーザーから苦情が殺到する」(同氏)ことになるからだ。現在、同社では、VirtualCenterを使って、仮想マシンに適切にリソースを配分するようにしている。

求む! 仮想と物理の両方を管理できる管理ツール

 ここまで見てきたように、仮想マシンの管理には物理マシンの管理にはない難しさがあるわけだが、仮想マシンは、もちろん物理マシン上に構築されるものだ。となれば、管理者にとっては、当然、物理マシンと仮想マシンとを、“同時に”“同じやり方で”管理できることが望ましい。

 フォレスターのジレット氏も、「仮想化に特化した管理ツールも、オプションとして提供される分には悪くはないが、いずれにしろ、最終的には仮想と物理の双方を同時に管理できるツールが必要になる」と指摘する。また、仮想化対応コンフィギュレーション・ライフサイクル管理ツールを提供するブレードロジックも、1つのポリシーで仮想と物理の2つの世界を制御することは十分可能だと主張している。

 一方、カルコムのフィジェルドハイム氏は、「統合ツールがあればベストだが、仮想環境向けに特化されたツールでも十分に役に立つ」と、おうように構える。

 ともあれ、仮想マシンの管理に頭を悩ませているのは、現時点では、金融サービス産業など一部のアーリー・アダプタ(先進的導入企業)だけである。だが、今年から来年にかけて、仮想サーバがさまざまな業種のさまざまな企業に導入されていくことになれば、管理の問題も急速に拡散していくことになろう。

 その時期を見据えて、ジレット氏はこう予言する。  「仮想サーバの導入は、ITインフラの管理方法を再検討するきっかけになるだろう」

仮想プロビジョニングを自動化する
 仮想技術が個々のサーバのプロビジョニングを容易にし、迅速化するのは確かだが、その結果、プロビジョニングの要求(つまり、仮想マシンの構築要求)が大幅に増えれば、結局、管理者はそのために多くの時間を取られ苦労することになる。管理者のところへそうした要求を大量に持ち込むことになるのは、おそらく開発チームであろう。彼らは、仮想マシンをテスト・プラットフォームとして使っており、日常的に構築・破棄を繰り返す必要があるからだ。

 「少し前まで、開発者からESX Serverで仮想マシンを仕立ててほしいという要求がしょっちゅう寄せられていた」と語るのは、衣料品販売大手であるコールドウォーター・クリークのITエンジニアリング担当ディレクター、スチュワート・ハバード氏だ。

 開発者たちは仮想マシンの構築で待たされることを嫌ったが、だからといって彼らにプロダクション・インタフェース、すなわちヴイエムウェアのVirtualCenterへのアクセスを許すことははばかられた。そこで、ハバード氏は、アキンビが開発したセルフサービス・プロビジョニング・ツール、Slingshotを導入し、開発者たち自身の手で仮想マシンの構築、解体を行わせることにした。

 ちなみに、そうしたツールを提供するベンダーとしては、アキンビのほかに、サージエント、エニグマテック、プラットフォーム・コンピューティングなどが存在する。  ここで、コールドウォーター・クリークにおけるSlingshotの具体的な利用法を紹介しておくと、まず、同社の開発者が、ライブラリから仮想マシンのイメージを選ぶ。すると、あらかじめ決められた量の仮想マシン・リソースが個人またはグループに割り当てられる。開発者は必要に応じてリソースを確保して仮想マシンを構築し、用が済んだらそのリソースを解放して仮想マシンを解体する。「そうすることによって、リソースを無駄に待機させておく必要がなくなるわけだ」と、ハバード氏は強調する。

 Slingshotの導入は、IT部門とエンドユーザーにとってWin-Winの解決策となった。管理者はリソースに対するコントロール権を維持できたし、開発者も必要なリソースを手に入れるために煩わしい手続きを踏む必要がなくなったのである。「開発者をプロダクションから切り離すとともに、彼らが必要に応じて迅速に仕事ができる環境を整えた」と、ハバード氏の表情も明るい。

その仮想マシンの使用料は? ──仮想マシンに課金するのは現実的か
 仮想マシンを利用するエンドユーザーにも課金したいと考えているIT部門は、しばらく待つ必要がある。現行の仮想マシン管理ツールは、そうした仕組みをサポートしていないからだ。

 「いずれはチャージバック(使用量に応じた課金)をできるようにしたい」と語るのは、某証券会社で技術サービス担当副社長を務めるクリストファー・ウェア氏だ。問題は、仮想マシンが利用されたことをどのように測定するか、仮想マシンと共有ハードウェアのコストをどのように割り振るか──である。また、仮想マシンの台数とアプリケーションの利用度が、時間とともに大きく変動するといった問題にも対処する必要がある。

 こうしたことから、ウェア氏は、「仮想マシン管理ツールは、将来的にはリソースの割り当てや管理を行う機能だけでなく、チャージバックに必要な課金機能やキャパシティ・リポート機能なども搭載するようになるべきだ」と主張する。

 ただし、同氏は、そうしたツールがすぐに登場するとは思っていない。現行製品がフェーズ1であるとすれば、「製品に課金機能が組み込まれるようになるのは、おそらくフェーズ3ないし4あたりのことではないか」というのが同氏の見解なのである。

 ガンネットのITアーキテクト、エリック・カズマック氏もまた、仮想マシンの利用度に関する詳細な情報を請求書に記載できるような仕組みが登場する日を待っている。「われわれはまだ実施していないが、多くの企業でチャージバックが行われている。仮想マシンとはいえコストは発生するのだから、それが当然だと思う」(同氏)

 一方、ほとんどの管理ツール・ベンダーは、この件に関して態度を明らかにしていない。その中で、「現時点では難しい」という立場をとるのは、BMCソフトウェアのソリューション・マーケティング担当ディレクター、デビッド・ワグナー氏だ。

 「われわれの製品は、物理環境と仮想環境にまたがってリソースの利用度をアプリケーション別に示すことはできるが、それに金銭的価値を連動させることはできない」というのが、同氏の主張である。

 それに対し、マイクロソフトで仮想製品を担当する技術製品上級マネジャーのジム・ナイ氏は、「モニタリング・ツールを利用したレーティングやチャージバックが可能になれば、仮想環境は大きく進展するだろう。業界もそれを実現する方向に向かっている」と語る。

 フォレスター・リサーチのフランク・ジレット氏も、「状況が変わるのに、それほど時間はかからないだろう」と、ナイ氏同様、前向きな予測を示す。同氏は、IBMが今年2月にCIMSラボを買収したことを取り上げ、「(IBMによる)買収の狙いは、リソース利用とチャージバックに特化した仮想技術だ」と指摘する。

 こうした肯定的な意見が大勢を占める中で、カルコムのCIO、ノーム・フィジェルドハイム氏は、「チャージバックを採用する必要など、一切ない」と言い切る。同氏は、「そんなことをすれば、メリットがあるどころか、トラブルが増えるだけだ。私は社内でも、断固として“バッド・アイデアだ”と言い張っている」と、強硬な姿勢を崩さない。

(ロバート L.ミッチェル/Computerworld 米国版)

提供:Computerworld.jp