カナダの反DRM連合がタイムリーに活動を開始

一般関係者の団体やプライバシーの学術専門家らによる連合組織は、カナダ政府に対し、デジタル著作権(DRM)テクノロジについての懸念および法的位置付けを述べた公的な書面および背景報告書を提出した。また、反DRMの取り組みを推進するため、この連合はIntellectualPrivacy.caというWebサイトも立ち上げている。

我々は、カナダにおけるDRMの状況について2つの団体のメンバーに話を聞いた。技術分野を対象としたカナダの代表的な法的支援組織であるCanadian Internet Policy and Public Interest Clinic(CIPPIC)の幹部顧問David Fewer氏と、オープンソース支援団体CLUEに所属するEvan Leibovitch、Russell McOrmondの両氏である。

先の書面は、以前からカナダの著作権問題に関わってきた省庁を監督する2人の閣僚、カナダ遺産大臣(Minister of Canadian Heritage)のBev Oda氏、同通産大臣(Minister of Industry)のMaxime Bernier氏に宛てて送られた。この書面には、CIPPICとCLUEのほか、連名でBC Civil Liberties AssociationやOnline Rights Canadaのような一般の関係者団体、カナダ学生連合(Canadian Federation of Students)やカナダ図書館協会(Canadian Library Association)などDRMの影響を受ける可能性のある団体、カナダ・プライバシー委員会(Privacy Commissioner of Canada)の前メンバーBruce Phillips氏やCanada Research Chair of Internet and E-commerce Law(インターネットおよびEコマース関連法における政府公認の研究者)の称号を持つオタワ大学(University of Ottawa)のMichael Geist氏らの専門家も署名していた。

連合は、書面のなかでDRMの好ましくない法的影響についての懸念を表明し、法律化するのならカナダにおける既存のプライバシーおよび著作権の法律との矛盾がないかを政府機関と共同で確認したいと申し入れた。また、法律化する場合は、プライバシーに対する負の影響がないことのほか、たとえば、私的利用の範囲で著作権作品に匿名でアクセスして視聴できるカナダ国民の権利を明文化するなど、プライバシーの保護を強調することを両省が保証するように、と書面で要求している。この陳情の根拠は背景報告書で述べられており、そこにはDRMテクノロジの問題と、「反論のない法案」がインターネットプロバイダや消費者などその他の関係者に与えうる影響が説明されている。全体として、書面は、DRMの問題を余すことなくまとめており、これ以上はないほど良いタイミングで提出されたといえる。

カナダにおけるDRMの法的状況

DRMおよび著作権の問題は、カナダでも米国でも変わらない。どちらの国でも、DRMを積極的に後押ししているのは、映画や音楽の業界とMicrosoftやAppleのような配給業者である。たとえば、カナダのCanadian Motion Picturesと米国のMPAA(Motion Picture Association of America)、CAAST(Canadian Alliance Against Software Theft)とBSA(Business Software Alliance)のように、諸団体の名前は違っても立場と主張もまたほぼ同じである。また、米国と同様にカナダも、WIPO(World Intellectual Property Organization)が提案した放送業者の保護に関する条約の影響を受けることになる。現在起草中のこの条約は、既存の著作権およびプライバシーの法律に対する妥当な例外としてDRMをとらえている。

ただし、カナダにおけるDRM関連法への反対活動には、有利な面がいくつかある。まず、CIPPICおよびCLUEによれば、カナダにおけるDRMは、米国に比べてかなり不利な法的状況にあるという。カナダには、WIPO Copyright and Performances and Phonograms Treaties Implementation Actを具現化し、DRMのようなテクノロジを法的に支持する著作権保持者を強く保護する米国のデジタルミレニアム著作権法(DMCA:Digital Millennium Copyright Act)に相当する法律が存在しないからである。

カナダでも2001年から同様の法律の制定が検討されている、とMcOrmond氏は指摘する。ただし、同氏をはじめ、意見を求められた人々は米国の先例から学ぼうとしたため、法案の起草が進むのは米国よりもずっと遅かった。Bill C-60と呼ばれる、DMCAに類似した法案は、2005年6月20日にカナダ議会に初めて提出されたが、その数カ月後、自由党が少数与党に転落したため、審議は延期になった。

Bill C-60が審議を通過できなかったため、現在、カナダの法律にはDRMに反対する根拠が少なくとも2つ存在する。1つは、カナダの著作権法(Copyright Act)では、レコーダブルCDおよびDVDのようなコピー技術による売り上げの損失を補うための徴収の権利が著作権保持者に与えられている点である。ただし、この条項は、カナダの音楽収集家が合法的にバックアップ用のコピーをとることも認めている。この条項が著作権法に含まれているため、どんな団体も、収入減の回避にはDRMが必要だ、と主張することは困難である。このことに不満を持つベンダや陳情団体が行うとすれば、それは(DRM法の制定ではなく)徴収率を増やしたり、徴収料の配分を決める監査の方法を変えようとすることだろう。

もう1つは、カナダの個人情報および電子文書法(Personal Information and Electronic Document Act)に米国よりも強い個人情報の保護が規定されている点である。この法律は、非行政組織が収集した個人情報 ― 多くの人々がDRMによる収集を恐れている類の情報 ― の扱い方を明確に定めている。こうした情報については、収集時に当事者の同意が必要で当初の目的以外では利用できないこと、正当な収集目的の必要性、およびセキュリティに配慮した保管などが同法の条項に記されている。これらの条項が存在する限り、少なくとも理論上は、どのような内容になろうともDRM法案が強い影響力を持つことは不可能だといえる。それどころか、特定の形態でDRMを実施すれば、カナダのプライバシー委員会への苦情申し立ての対象になる可能性さえある。

実際には、DRM法案がこれらの法律の適用範囲から明確に除外されることになるとも限らない。その一方で、カナダではこうした既存の法律がDRMに対する強力な法的防御になるのは確実だろう。

審議再開の見込み

「C-60の起案と、その作成に利害関係者が十分に関与していないことが発端だった」とLeibovitch氏は述べている。法案を潰した政権が変わったことで、反DRMのロビイストらには取り組みを再開する機会が与えられた。

彼らの活動が公然と行われているためか、政治情勢は急激に(反DRM側に)好転している。このところ、DRMの問題に対する世間の認識は、Canadian Music Creators’ Coalition(CMCC)の声明によって変わってきている。カナダの著名なミュージシャン、Barenaked Ladies、Arvil Lavigne、Sarah McLachlanらも参加しているCMCCは、最近、OdaとBernierの両氏にある書状を送った。

その書状のなかで、CMCCはDRMに強い反対の意を示している。そこには「アーティストたちは音楽ファンを訴えたくはないと思っている」と記されている。「レーベル側は私たちの意に反してファンを訴えてきた。こうした行為を可能にする法律を私たちは容認できない」というのがアーティストたちの思いだ。また、彼らの書状には、DRM ― テクノロジと称されるデジタル錠 ― は消費者の利益にとって最善のものとはいえないため、カナダのアーティスト育成に有益なほかの手段の検討を政府に要請する、とも書かれている。DRMにより保護されるはずの団体から寄せられたこの書状は、DRMに対する明確かつ公然たる非難だったのだ。また、そこには、DRMによって恩恵を受けるのが企業やカナダ国外にいる人々であることが暗示されている。

カナダに新しく保守少数政党が誕生した際に生じた反DRMの世論は、こうしてますます高まりを見せ、DRM関連の問題に対する同党の政策要綱へと発展し始めている。2月に保守党が政権を握って以来、この問題に関して行政側が非公式な話し合いを進める州の数は減ったが、6月13日には、放送および遠距離通信の規制を担う行政委員会であるCanadian Radio-television and Telecommunications CommissionにOda氏がデジタル諸技術による影響を調査するために公務で出席したことにより、公式な協議が始まったようだ。

Fewer氏は次のように述べている。「我々の予想によると、政府はこの秋またはそれ以降に法案をまとめるべく準備を進めている。この少数与党による政権は長くは続かないだろうが、現政権か次の政権になるかに関わらず、新たな著作権法案がきっと次の会期あたりに出てくるだろう、と我々は予期している」

この法案の内容が、破棄されたC-60と似たものになるかどうかについて、Fewer氏は「同じDRMの問題を解決してくれることを期待している。C-60と同じ内容になるかどうかはまだわからない」と答えている。

DRM関連の問題に対して現政権がとる方針を予想するにあたり、IntellectualPrivacy.ca連合は、閣僚について綿密な調査を進めている。McOrmond氏は「Maxime(Bernier氏)は未知数だ。参考になる経歴があまりない」と語る。というのも2月に初めて選出されたからである。

一方、Oda氏なら前遺産相よりもっと真剣に自分たちの懸念を聞き入れてくれるだろう、とFewerとMcOrmondの両氏は期待している。「以前、Bev Oda氏は遺産省の監査員(Heritage Critic、同省の批判を担当するメンバー)を務めていたため、著作権関連の書類が手許にあり、放送業界とのつながりも深い。つまり、彼女は著作権絶対主義者らの口やかましさに辟易しているはずであり、その経験が我々にとってプラスに働くのではないか、と考えられる」とFewer氏は語っている。

McOrmond氏も次のように述べ、同意している。「私がBev Oda氏に会ったのは、彼女がまだ遺産省の監査員だった頃だ。彼女は、さまざまな著作権支持者に関して、自由党の誰よりもずっと公平な考え方を持っていた」

これまで、Bernier氏もOda氏もDRM問題への見解を明らかにしていない。しかし、彼らの見解には関係なく、政府に働きかけを行うなら今だ、とFewer氏は強調する。法案が委員会にかけられるときになって問題を提起したのでは遅すぎる。我々は、この問題の実態を政府を教える必要があるのだ」

また、Fewer氏は次のように語っている。「政府は基本的に利害関係者を中心にした取り組みを行う。政府の意向は、関係者の動きと関心次第なのだ。利害関係者が動かなかったり、問題の当事者間の優劣にかなりの偏りがある場合、政府の政策には一方的な意見しか反映されないことがある」

DRMを支持するロビイストらも、政府に対しては同じ印象を持っている。CIPPIC創設者の1人、Michael Geist氏は、カナダレコード協会(CRIA:Canadian Recording Industry Association)の公認ロビイストDavid Dyer氏が、現政権の発足以来、遺産省の官僚と私的な会合を持ち続け、彼らをDRM支持団体の代表者らに紹介していることをブログ上で明らかにしている。

連合内の意見の相違

連合組織であるIntellectualPrivacy.ca内には、さまざまな意見が存在する。プライバシーの問題と、それには及ばないが消費者の問題にも目を向けているFewer氏はときおり、DRMが必然的であるかのような口ぶりを見せる。「我々は現実主義者だ。反論のない法律に良い法律はないし、カナダはそうした法律を制定すべきではない、と我々は確かに政府に言ってきたし、これからも言い続けるつもりだ。再三の警告にもかかわらず、政府が強硬な姿勢でそうした法案を作った場合は、その弊害を緩和するように陳述を行う」

CLUEがこうした懸念を共有する一方で、FLOSS(Free/Libre and Open Source Software)コミュニティも別の懸念を抱いている、とMcOrmond氏は説明する。彼はフリーソフトウェアの定義を引用し、次のように述べている。「法的な目的により、機器の所有者の権利(すなわち、その機器を管理するためのソフトウェアの実行、コピー、配布、調査、変更、および改善)を奪ってその機器を支配下に置くようなテクノロジは、FLOSSを使って実現することはできない。この点において、技術的なコミュニティと法的なコミュニティとの間に意見の相違が生じることがある」。 仮にDRM法案がプライバシーを保護するものになったとしても、FLOSSへの脅威は依然として残る可能性があるのだ。

そのため、CLUEが連合のほかのメンバーとの取り組みを継続する間、McOrmondとLeibovitchの両氏は独自の要綱案の作成も進めている。

その他の連合のメンバーにもそれぞれの立場がある。たとえば、連合に所属する各地の図書館協会は、主として法案が図書館に与える影響を懸念している。しかし、全体として見れば、この連合には利害関係者が分野の境界を超えて集まっている、とFewer氏は感じている。「この書面に記された各団体の署名を見れば、我々の連合の重要性を理解してくれる人がきっといるはずだ。また、各団体は、きわめてしっかりした一貫性のあるメッセージを語ってくれている」

どんな立場からであろうと、この連合は「DRMのような類の法律の制定に不安を感じている人々を ― たとえ、それが普通の個人であれ、オープンソース・プログラマであれ ― 支援するつもりだ。ぜひ、皆さんの意見を聞かせてもらいたい」とFewer氏は話を締めくくった。

Bruce Byfield氏はセミナーのデザイナ兼インストラクタで、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリストでもある。

NewsForge.com 原文