フランス議会が新著作権法を可決──iTunesの運営が困難に?

 フランス国会は6月30日、新著作権法案を可決した。同法が施行されれば、オンライン・ミュージックストアを提供するベンダーやオープンソース・プログラマーのほか、デスクトップLinuxやP2P(ピア・ツー・ピア)ファイル共有を利用するユーザーなどに多大な影響が生じると見られている。

 今後、DRM(デジタル権利管理)技術を使ってダウロード用の楽曲を保護している企業は、相互運用可能なシステムを開発しようとしているライバル企業に自社の技術情報を提供することが義務づけられることになる。

 これにより、アップルコンピュータは、iTunes Music Storeからジュークボックス・ソフトウェアのiTunesやミュージック・プレイヤーのiPodへの楽曲のダウンロードを制限するのに使用しているDRM技術「FairPlay」による管理を断念しなければならなくなる可能性が高いと見られている。

 フランス議会で可決された著作者の権利に関する法律は、DRMを使っている企業に相互運用情報を提供させるための監督機関の設置を義務づけている。なお、DRM技術の開発者は、システムのセキュリティが損なわれるという事実を示すことができれば、この開示情報に基づいてソースコードの公開の差し止めを要求することができる。

 フリーソフトウェアの活動家リチャード・ストールマン氏は、オープンソース・ライセンスの下で各種の選択肢を提供したいと考えているプログラマーにとって良くないニュースだと落胆の色を隠さない。

 ストールマン氏は、「NDA(守秘義務契約)の下でこの種の情報を提供しなければならなくなれば、この情報を使ってフリーソフトウェアを開発することは不可能になる」と指摘する。同氏は、6月26日にパリで開催されたコンファレンスに出席し、NDAによりソースコードの公開が妨げられる可能性があるとの見方を示している。

 新著作権法では、著作権が設定された作品の不正な流通を「明白に意図した」ソフトウェアの開発、発行、普及促進、配布などで有罪が言い渡されると、3年以下の懲役または30万ユーロ(37万5,000ドル)以下の罰金が科されることになっている。

 このため、P2Pファイル共有システムや、DVD(DRMシステムを使って暗号化されている)の復号や再生機能をサポートするソフトウェア・ディベロッパーは大きな影響を受けると見られている。

 一部の専門家からは、オープンソースのDVD再生ソフトウェアの開発や配布が非合法になるかもしれないという懸念が現実化することで、デスクトップLinuxが普及する可能性が遠のくとの見方も出ている。

 ストールマン氏は26日、「DVDを視聴するためのアプリケーションがないという単純な理由だけで、Linuxの普及が妨げられる可能性が高い」と述べていた。

 フランスの消費者には、個人的な使用に限って著作権が設定された作品を複製する権利が認められるものの、コピーの回数はDRMによって制限され、これまでのように無制限に複製することはできなくなる。また、DRMの開発者に課される制限は、監督機関が決定することになっている。

 新著作権法の審議は数カ月前から行われており、6月30日に行われた締めくくりの審議は、出席者が少ないにもかかわらず、激しいやり取りが繰り広げられた。早期成立を目指す政府が緊急手続きを発動して、通常行われる第3・第4読会の審議を省略し、上院の最終読会の審議のみにしたからだ。

 法律の発効には、大統領の署名が必要になるが、新たな混乱が生まれる可能性もある。報道によると、法案に反対している社会党は、同法案を憲法評議会にゆだね、法案の中身や法案を通すための手続きが合憲かどうか判断を仰ぐことも検討しているという。

(ピーター・セイヤー/IDG News Service パリ支局)

フランス上院議会
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提供:Computerworld.jp