Ubuntuによる派生ディストリビューションの支援構想

先日NewsForgeに掲載された記事(OTP記事)では、派生ディストリビューションのメンテナが意図せずGNU General Public License(GPL)に違反する事態に陥る可能性について触れたが、それに対する反応がMatt Zimmerman氏より得られた。Ubuntuのテクニカルリーダの説明によると、同プロジェクトはこうした問題の解決に寄与できるかもしれない、とのことである。

問題の記事では、多くのメンテナが誤解している点として、オリジナルのアップストリームディストリビューションがソースコードを公開している限り、自分が手を加えていないパッケージについてはそのソースコードリポジトリを用意する必要はないと思いこんでいる事が指摘されていた。これは新規に課せられた義務という訳ではなく、大方において見落とされていたというのが真実のようである。またFree Software FoundationでGPLコンプライアンスエンジニアを務めるDavid Turner氏は、アップストリームのディストリビュータとの間に合意事項を設けることにより、これらディストリビューションの違反状態が解消される可能性を指摘していた。

こうしたTurner氏の提案に対しては、Fedora Boardの議長を務めるMax Spevack氏により反対意見が提示されており、その理由の一部はコストに関するものであったが、最大の障害としては、コードのフォーキング問題に対処する必要性および、ダウンストリーム側での変更に関する法的責任がアップストリーム側に課されてくる可能性が挙げられていた。

こうした流れを受けて今回Zimmerman氏が提案しているのは、Ubuntuプロジェクトが派生ディストリビューションとの間に合意事項を設ける可能性である。「何らかの法的な合意事項をアップストリームディストリビュータとの間に設けておけば、それで問題の要件が満たされることになるのかは、私にはよく分かりません」とZimmerman氏は、個々のディストリビューションに含まれるすべてのソースコードを公開することを義務化する件に言及した上で、「ただ我々Ubuntuプロジェクトは、バイナリを配布し続ける限りソースコードの公開を継続することを既に義務化しているので、こうした処理に関するサポートが役に立つようであれば、関連する技術を提供することも可能だと考えております」としている。

デスクトップ用ウィンドウマネージャのXfce4を用いるUbuntuの派生ディストリビューションの1つであるXubuntuのメイン開発者を務めるHenrik Nilsen Omma氏によると、Ubuntuのサポートする派生ディストリビューションとしては、シブリング(兄弟)系とインデペンデント(独立)系の2つの種類が存在していることになる。ここで言うシブリング系とは、KubuntuEdubuntu、Xubuntuなどのように、Ubuntuとの直接的な関係を保っているディストリビューションのことだ。こうしたディストリビューションはUbuntuと非常に密接した関係にあるため、Kubuntuのメイン開発者であるJonathan Riddell氏のように、これらを独立したディストリビューションだとは最初から見なしていない人間も多数存在している。実際これらのディストリビューションは、Ubuntuのメインリポジトリを共用しているだけでなく、UbuntuのスポンサであるCanonicalによる支援を受けており、これらの商標も同社が所有している。またこれらのシブリング系ディストリビューションはUbuntuの中核理念に対する同意を宣言しており、Riddell氏によると、リソースの共有を始めとする相互協力体制を確立しており、互いのパッケージの領分を侵すことなく新規バージョンのリリース時期をそろえるための活動を行っているとのことだ。

同じくインディペンデント系とは、Ubuntuとの関係がより緩やかなディストリビューションのことである。これらのベースとなっているのはUbuntuパッケージであるが、リポジトリについては独自のものを運用しており、場合によってはUbuntuとは異なる目的や原則に沿った開発が行われることもあって、例えば、プロプライエタリ系ドライバや生産性ソフトウェアを同梱しているパッケージなどがこうしたものに含まれる。またこうしたインディペンデント系ディストリビューションでは、Ubuntu系とのつながりの無い開発者やユーザのコミュニティが形成される傾向も存在する。なお、古くからあるUbuntuのシブリング系ディストリビューションであるKubuntuの派生ディストリビューションとしては、MEPIS、ImpiLinux、Arabian Linuxなど多数のものが存在している。

Zimmerman氏が念頭に置いていたものは、より多数のシブリング系ディストリビューションを育成することに間違いはないだろう。実際にZimmerman氏は、次のように語っている。「Ubuntuプロジェクトとしては、派生ディストリビューションの開発努力を支援するために必要なインフラストラクチャの整備と維持を最大限に努力してゆく用意があります。今後は、これらのディストリビューションとの間に密接な協力関係を築き、当方の用意したインフラストラクチャを利用してもらえるようにするつもりです。既に、Kubuntu、Edubuntu、Xubuntuについては、こうした体制が確立されています。これらの配布はすべてUbuntuのソフトウェアアーカイブから行われていますが、これはソースコードの配布に関しても責任が共有されていることを意味します。これ(合意事項の確立)により、個々の派生ディストリビューションは各自の目的とする作業に集中することができ、1つのパッケージを完成させる際に付随する些末的な作業の大部分から開放されるでしょう」。

このような既存のシブリング系ディストリビューションとの協力体制の確立を1つの先例と見なすのであれば、その際の合意事項の中にはUbuntuのプロジェクト理念への準拠なども強制される可能性がある一方で、フリーないしオープンソース系ソフトウェアのコミュニティの多くがソースコードの公開義務に関するトラブルから解放されるはずである。ただしZimmerman氏の説明には、Canonicalとの間における商標権の扱いも合意事項の中に含まれているのかが明示されていないのも確かだ。仮にそうした内容が含まれているとしても、独自のソースコードのリポジトリを用意するという負担から解放される限り、多くの小規模ディストリビューションは、そのような合意事項を歓迎するであろう。いずれにせよ派生ディストリビューションのメンテナはこうした合意事項を結ぶことで、当初の目的の外にある義務への準拠に煩わされることなく、本来の開発作業に集中できるはずである。

Bruce Byfieldは、コースデザイナ兼インストラクタ。またコンピュータジャーナリストとしても活躍しており、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿している。

NewsForge.com 原文