Eben Moglen氏、GPLv3ドラフト第2版について語る

「我々の取り組みはスケジュールどおり順調に進んでいる」とEben Moglen氏は述べ、GNU Public Licenseバージョン3(GPLv3)のドラフト第2版が本日(7月27日)公開されたことに満足を示した。公開されたドラフト第2版は、何千という人々が6カ月以上も電子メール、メールフォーラム、世界各地でのミーティング、ドラフト作成に携わる4つのサブ委員会での議論を通じて作成されていたドラフト第1版に寄せられた意見を取り入れたものである。

Free Software Foundation(FSF)およびSoftware Freedom Law Center(SFLC)を代表してGPLv3公開に至るプロセスのスーパーバイザーを務めるMoglen氏は、「今回のドラフトの主な目的は、我々が進めてきた質の高い、膨大な取り組みを反映させることだ。今朝(27日)公開したマークアップ版を見てもらえばわかるが、前回公開した内容に対して数多くの変更を加えなければならなかった」と説明している。このドラフト第2版が公開された直後、Moglen氏はその要点をNewsForgeに語ってくれた。そうした重要なポイントには、GPLを使いやすくしてさらに国際化を進めるための記述の簡素化、潜在的に制約のあるテクノロジやピアツーピア・ダウンロードに関する問題の明確化、GNU Lesser General Public License(LGPL)の大幅な簡素化が含まれている。いくつか問題は残っているものの、このドラフト第2版はGPLv3最終版の内容を明確に示した初めてのものだとMoglen氏は考えている。

今回のドラフトは、最も普及しているフリーソフトウェアライセンスであり、15年ぶりの大きな改訂を迎えるGPLの更新プロセスにおける最新状況を反映した内容になっている。何か月にもわたる企画立案を経て、2006年1月、それまでは公な議論が一切行われていなかったドラフトに対する改訂プロセスが開始された。それ以来、ドラフト第1版の内容が幾度となく吟味されてきた結果が今回の第2版である。11月にはドラフト第3版の公開が予定され、最終版のほうの公開は予定としては2007年1月、遅くとも2007年3月15日までには行われることになっている。

なお、ドラフト第2版の全文はGPLv3のサイトから入手できる。またこのサイトには、改訂プロセスの詳しい説明や、Moglen氏が変更内容について語った音声ファイルも用意されている。

簡素化と国際化

ドラフト第1版では、当初のライセンスに対する定義の追加や、現行GPLの各条文の再構成に加えて、内容を明確化するための変更がすでに行われていた。これらの変更内容は第2版にも引き継がれており、当初に比べての定義の増加や、法律の教育を受けていない人々でもライセンスを容易に理解できるようにするための削除と挿入が全体を通して見受けられる。

特に、ディストリビュータに当てはまる追加の許諾事項および制限事項について記した第7条の変更は顕著である。今回の変更内容は、提案したドラフトが世間の人々には理解しがたく使いにくいものだったことを我々自身が認識した結果として、すっかり書き直したものだ、とMoglen氏は改訂チームの声を代弁する。

ドラフト第2版の記述を明瞭化したもう1つの理由は、著作権法が異なる地域においてもGPLv3を使いやすいものにするためだった。「たとえ地元にいる著作権の専門家自らがGPLを担当した経験がない地域でも、人々がその地域の著作権問題について法律家に尋ねることができ、すぐに役立つ回答を引き出せるようにすることを目的としている」とMoglen氏は語っている。

この目的を果たすため、「配布(distributing)」を「譲渡(conveying)」に、「派生著作物(derivative work)」を「変更(modification)」に置き換えるなど、ドラフト第2版にはいくつかの用語の変更が加えられている。一見些細なことに思えるが、こうした変更は「ほかの業界の著作権規定には見られない中立的な用語を用いるようにする」と共に、その他の領域では「何ら重要な意味を持たないか、または米国の法律が重要とみなす意味を持たない」用語を削除しようとする試みを表している。

Moglen氏は、以降の改訂でも記述がさらに変更されるものと予測している。すでに少なくとも1つのサブ委員会がこうした問題に注力しつつある。「我々は、GPLv3の国際化をより確固たるものにするためにできることは何でも行うつもりだ」とMoglen氏は語っている。「何よりも深刻に受けとめている唯一の問題は、ユーザの自由を守ることだ」

不測の欠陥への対応

GPLv3のドラフト第1版において、最も物議を醸し出したのがデジタル著作権管理(DRM)テクノロジに対する強い反対の意を示した第3条だった。「Defective By Design(設計からして欠陥)」キャンペーンからも明らかなように、FSFはDRMとの対決姿勢を強く打ち出しているが、ドラフト第1版の言い回しは非常に曖昧で、電子メールの暗号化やネットワーク化されたコンピュータへのソフトウェアのインストールを許可する際の制限事項を認めないとも受け取れるものになっていた。ドラフト第1版の表現だと、デジタル署名されたカーネルやモジュールが認められないことになってしまう、 とLinus Torvalds氏が指摘したことは周知のとおりだ。

こうした意見が取り入れられた結果、今回の第3条は大幅に書き直されている。ドラフト第2版の作成指針は、あるテクノロジまたはそのアプリケーションによってそのコードの実行および変更を行うユーザの権利が奪われるかどうかに置かれている。「我々の目標は、テクノロジそれ自体が問題なのではなく ― そのテクノロジを利用するとユーザが無力になってしまうことが問題なのだ、ということをできる限り明確に示すことだ」とMoglen氏は述べている。

もう1つ、ドラフト第1版では予期していなかった事態がピアツーピアのダウンロードだった。こうしたダウンロードでは「ソフトウェアを受け取る側もまた、その受信に関わる可能性があるのは単純にピアツーピアの通信プロトコルがそういう働きをするものだからだが、実際には、そのソフトウェアを受け取った人物がコードの再配布を行ったとは我々はみなさない。その人物はそのソースコードを持っていないし、提供もできないからだ。これは、とある解説者に指摘された問題だが、この点が明らかになってすぐ、我々は何らかの対策が必要なことを悟った」とMoglen氏は説明している。その結果、今回の第6条e項では具体的に、ユーザがソースコードとバイナリコードのある場所を知っていて、相手のP2Pユーザにその場所を知らせる限り、ユーザピアツーピアによるソフトウェアの譲渡を認めるとしている。

LGPLの見直し

GPLv3のドラフト作成者たちは、GPLの下でのプログラム再配布の許可とそのための要件を定めた第7条を書き直した後、同じ条文に手を加えることでGPLとLGPLとの関係を明確化できることに気付いた。なお、LGPLは、フリーのライセンスと独占的なライセンスの両方の下でデュアルライセンスを行うためによく使われる。LGPLを別のライセンスとして管理する代わりに、第7条に補足的な例外といくつかの小さな変更に簡約化することが可能だったのだ。この変更はLGPLバージョン3のドラフト第1版で行われており、Moglen氏はこれを「GPLライセンスの成果物に上乗せできる追加許諾」と述べている。

「これは単なる簡素化であって、LGPLの本質を変えるものではない。これで、この世界に基本的なコピーレフト・ライセンスを2つ存在させるのではなく、コピーレフトであるGPLと追加許諾としてのLGPLが存在することになる。実際に起こっている以上の変更が行われていると思っている人々が、この状況を難しく捉えないように我々は願っている。もちろん、純粋に簡素化されたことを彼らに理解してもらうための手立ては必要だが、GPLの効用は実質的には何も変わっていないのだ」とMoglen氏は説明している。

次の段階に向けて

総じて、Moglen氏はドラフト第2版に満足しているようだ。「FSFがGPLv3に必要と考える変更は、ほとんど完了した。我々自身はこのライセンスなら受け入れることができる、と考えている」(同氏)。ただし、この先何か月後には追加の議論に基づいてさらなる変更が行われるだろうとMoglen氏は見ている。

Moglen氏は、今回変更された、DRMに関する記述や簡素化されたLGPLについての議論が生じることを予期している。ただし、変更が多くなるだろうと彼が予想しているのは、特許に関する第11条である。彼は、第11条の記述には「大がかりな特許ポートフォリオや特許管理にかなり関心を寄せている組織と進めている話し合いの現状」が反映される、と述べている。この話し合いは「特許保持者とFSFとの二者間協議ではなく」、すべての利害関係者を巻き込んだ「業界のコンセンサス」を打ち立てようとする試みだ、と彼は強調している。「我々の公開した条文によって、この話し合いをまとめようとする動きに拍車がかかることを私は望んでいる。特許保持者に受け入れてもらえるもので、自由を保護する特許政策があれば、我々は必要な活動を完了できるだろう」

話を終えるにあたってMoglen氏は特に次のように語っている。「最初の機会を逃したらもう参画の時期はない、などとは考えてもらいたくない。我々はまだほかに国際的なミーティングを予定しており、各種の討論委員会やその他の公的な場でも非常に多くの審議会が行われる。それらが終わるまでには、ほかにも非常に意義深く重要な意見が寄せられることは間違いない。我々の目標は、きっと手にできるはずの自由の評定および保護のためのプロセスを最大限に共有することだ」

Bruce Byfield氏はセミナーのデザイナ兼インストラクタで、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリストでもある。

NewsForge.com 原文