保守担当者の辞任で明らかになったDebianプロジェクトの問題

Debianプロジェクトの最も活発な開発者の1人だったMatthew Garrettの辞任により、同プロジェクトの運営方法に関するいくつかの問題に注目が集まっている。特に、Garrettは自身のブログにおいて、礼儀の欠落と意思決定の遅さを指摘しており、Ubuntuに比べてDebianに批判的な意見を述べている。UbuntuはDebianに由来するディストリビューションで、このところますます多くのDebian保守担当者がUbuntuを支持するようになっている。

GarrettはDebianにオフィスを構えていなかったが、2005年にはプロジェクトリーダー候補だった人物である。彼はポリシーディスカッションに積極的に参加し、debian-develおよびdebian-legalメーリングリストにも活発に投稿していた。さらに、彼はUbuntuの技術委員会を構成する4人のメンバーの1人であり、Ubuntuのラップトップサポートを担当していた。別の活発なDebian保守担当者であるBenjamin Mako Hillは、彼のことを「ひどく印象的な人物」と表現している。現在、Debianリーダーのアシスタントを務めているSteve McIntyreは、「ほとんどのDebian開発者はMatthewの脱退を残念がっている」と語っている。事実、McIntyreを含め数人の開発者がこの件についてブログを書いている。

Garrettによる批判

Garrettは自身のブログの中で、Debianの自由参加制のディスカッションに大きな苛立ちを覚え、コミュニティの他のメンバーに不満を持つようになったということを明かしている。Debianの組織に比べて、Ubuntuの組織はもっと整然とした構造をしていると彼は指摘した。特に、Ubuntuの行動規範について言及している。これはUbuntuのメーリングリストに課されている指針で、「ディスカッションでは主に技術的な内容を話すように鋭意努めること」とされている。さらにGarrettは、Ubuntuのやや格式ばった構造を、「すべての開発者が平等ではなく、一部の人の意見を他の意見よりも重く扱わなければならない場合もあるということを明確に認めている」として高く評価している。また、Ubuntuの創始者で出資者であるMark Shuttleworthについて、次のように述べている。「最終的には、ある1人の人物が独断的な決定権を持ち、その人の言葉が事実上の法律になるということが、多くの場面で助けになっている」。

これらの発言の補足として、GarrettはNewsForge編集部にさらにこう語っている。「おそらくDebianの最大の問題点は、すべての開発者の声は平等であるという考え方にある。それが真実でないのは明らかだ。意思決定をする立場の人は、しばしば大衆の支持ではなくメリットのことを考えて決定を下す必要があり、そうした立場の人には、全員の意見を聞く義務はない。もし全員の話を聞いていたら、開発者どうしの言い争いによってディスカッションが長引いてしまうだろう。どの開発者も、自分の意見が無視されたときには自分の意見をもっと明確に説明してやろうと考えるからだ」。

Garrettによれば、さらに深刻な問題は、Debian開発者の多くが公開ディスカッションに参加しなくなり、閉ざされた場所で意思決定が行われているということだ。「話をまとめやすくするために、あまり宣伝されていない(あるいは秘密の)IRCチャネルで少人数で話し合いが行われている」。Garrettはこう結論付けた。「Debianのオンラインコミュニケーションは、実際に機能しているコミュニティとは言いがたいものになっている」。

彼はブログを次のように締めくくった。「組織としての自由と、組織としての効率性の間には、適切なバランスというものがある。Debianは、実務的なコミュニティの形成という点では、このバランスがうまく取れているとは言いがたい。その意味で、Ubuntuは興味深い実験である。よりかっちりとした構造と、確かな社会的規範を遂行しようという強い意志を組み合わせることで、より実務的なコミュニティができるだろうか?という実験だ」

それに対する反応

Debian開発者たちは、Garrettのコメントに対する反応を公の場で話し合うことを避けている。多くの人はメディアの目を避けて、debian-privateメーリングリストにのみコメントを書いている。しかし、表立った発言の有無にかかわらず、Garrettの辞任が大騒ぎを呼び起こしたのは明らかだ。

このような反応が起きたのは、Garrettの発言が目新しいものだったからではない。礼儀の欠如とDebianの意思決定の遅さについての不満は、Debianのメーリングリストでもしばしば言及されており、ここ数年のDebianリーダー候補者の多くは、この問題についての解決策を演説で取り上げていた。むしろGarrettのコメントと、Debianから手を引いてUbuntuの活動に注力するという彼の決断は、これらの問題をあらためて強調することになった。というのも、彼の決断は他のDebian開発者のそれと同じだったからだ(中でも有名なのは、Ubuntuの技術委員会の現行メンバーの1人、Scott James Remnantである)。Hillは、彼自身もUbuntuの開発に携わっているのだが、このような決断に対する驚きの気持ちを次のように表現した。「私はこれまで常に古いプロジェクトに忠誠を誓ってきた。その第一に来るのがDebianだ」。

公に発言している人々は、Garrettのコメントを概ね冷静に受け止めている。Garrettの指摘は真実かどうか尋ねると、McIntyreは「確かにそうだ」と答え、Debianの運営の仕方に対する不満は「珍しいことではない」と続けた。意思決定の遅さの例として、McIntyreはDebianの次期リリース「etch」を12月に発表するために決定しなければならないいくつかの事項を挙げた。さらに別の例として、Debianのメインリポジトリに残されている非フリーソフトウェアについての論争を挙げた。多くの開発者は、Debian Free Software Guidelinesを満たしているソフトウェアだけを残そうと考えているが、話がなかなかまとまらないでいる。

「1,000人の開発者を同じ方向に進ませるためにはいろいろな問題がある」とMcIntyreは述べた。さらに、主要開発者の間で意見に大きな隔たりがあるので、「いくつかの提案については意見をまとめるのが難しいと考えるようになっている」と付け加えた。

McIntyreは、かつては礼儀の欠如という問題があったことを認めているが、「最近はそれほど大きな問題ではない」と考えている。しかし、Ubuntuの行動規範の執筆者であるHillはこれに反論するだろう。Hillによれば、以前、礼儀についての不平に対し、コミュニティからの次のような反応があったそうだ。「これはDebianプロジェクトだ。我々は恐怖によって動く。嫌なら出て行け」。

このような態度の結果、「Debianコミュニティには相当なフラストレーションが溜まっている。ネットバトルが当たり前になり、惰性とフラストレーションが蔓延している」とHillは語っている。Hillは、Garrettの辞任がDebianコミュニティに一石を投じ、Enrico Ziniの提言のように、同コミュニティが独自の行動規範を採用するきっかけになってくれればいいと願っている。

Debianの将来

Ubuntuの構造的なアプローチによって、迅速な進行が可能になり、一部の開発者が望むような雰囲気が生まれる可能性はあるが、Debianは今後もフリーソフトウェアコミュニティにおいて独自の役割を果たしていくだろうとHillは述べている。Hillの主張はこうだ。「(Debianは)究極の独立コミュニティである。誰でも参加することができ、1つの団体や企業の監督下に置かれることはない。これは大いに意義のあることで、これからも多くの人を魅了し続けるだろう」。

Garrettの辞任の影響について、Hillは次のように結論付けた。「これはDebianの最期でもなんでもない。ただ、これを機に皆が目覚めてくれることを期待している」。

Bruce Byfield ― トレーニングコースの開発者およびインストラクター。NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に記事を執筆するコンピュータジャーナリストでもある。

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