小さくなったLinuxの使い比べ:LNX-BBCとDamnSmall Linux

Linuxのすばらしい点の1つとしてその汎用性があげられる。これは、LinuxベースのBootable Business Cardでいかんなく発揮されている。そのうち、特におもしろい2つを紹介しよう。DamnSmall LinuxとLNX-BBCだ。

BBC(Bootable Business Card)は、名刺サイズのCD-ROMに収録された正真正銘のOSだ。「小さな力持ち」とでもいうべきBBCは、ユーザビリティよりも実用性に重点を置いているのが普通だ。また、これ自体にレスキュー&リカバリ・ツールが含まれており、これを利用して、情報を取得したり、機能していないOSがインストールされたマシン上で破損した設定を変更したりすることができる。インストールは不要で、CD-ROMから起動して利用できる。ハードディスクにどのようなOSがインストールされていても問題なく利用でき、明示的に選択しない限りはハードディスクの内容を勝手に変更することはない。

名刺型CD-ROMには50MB分のソフトウェアしか格納できないので、とにかく容量を節約することが重要になっている。KDEかGNOMEかというおなじみの論争は、BBCには無縁だ。なぜなら、これらのデスクトップ・ソリューションはどちらも、BBCよりもはるかに多くのディスク・スペースを必要とするからだ。その代わり、FluxboxやBlackboxなど、軽量のウィンドウ・マネージャは利用できる。

BBCの歴史

オープンソースの世界では、あるものが初めて登場したのはいつか、ということを正確に知るのは難しいが、特定の分野で最初に大きな話題になったプロジェクトを挙げることはできる。BBCの場合は、初代のLinuxcare BBCが、皆の想像力を惹き付けたプロジェクトだった。

1999年、Linuxcare社の従業員で編成された小さなグループが立ち上げたLinuxcare BBCは、初開催のLinuxWorld Expoで配られ、強烈な印象を残した。クレジットカードサイズのこれらのミニCDは、当時、破損したあらゆるPCを修復することのできる完全なツールキットだった。その数年後、BBCを開発した従業員たちはLinuxcareを去り、LNX-BBCと呼ばれる新しいプロジェクトを開始した。LinuxcareもBBCプロジェクトを継続したが、2001年には休止状態になったようだ。

2002年、私はLinuxcare BBCとLNX-BBCの比較記事(A Tale of Two Business Cards、英文)を執筆した。現在、Linuxcare BBCプロジェクトはアクティブではなくなっているので、今回は最新のLNX-BBCと、比較的新しいDamnSmall Linuxを比較してみたい。

LNX-BBC

LNX-BBC V2.1は、BBCの典型といえる。経験豊富なシステム管理者が利用することを想定してデザインされており、システムのリカバリに使う一連の強力なツールを提供する。

起動は簡単だ。解像度を選択してゴーサインを出せばよい。リカバリ機能を全面に出す意味で、既定ではX Window System(X11)が無効になっているが、テキスト・コンソールの指示に従えば、パスワードなしでrootとしてログインできる。ログイン時に、操作方法の説明を表示するには「help」と入力するよう指示がある。シンプルだがインタラクティブなヘルプ・メニューには、ネットワークの設定、PPPのセットアップ、X11の開始などに関する、多くの役立つ情報が盛り込まれている。

コマンドラインでの操作に慣れている人なら、このディストリビューションに含まれる数々のユーティリティを便利に活用できるだろう。マニュアルには、1000を超えるプログラムが収録されていると書かれている。テキストベースのネットワーク・ユーティリティには、さまざまなEthernet診断ツール、パケット・スニファ、ワイヤレス・スニファ、Webブラウザ、その他主要なネットワーキング・クライアントが含まれている。HTTP、DHCP、Samba、トンネリング用の小規模なサーバも用意されている。ほかにも、Windowsレジストリ・ユーティリティ、侵入捜査ツール、多数のファイル・ユーティリティなど、便利なツールが含まれている。

X11も収録されているが(startxコマンドで起動できる)、主力はやはりコマンドライン・ユーティリティだ。GUIがないと作業できないという人は、LNX-BBCには満足できないかもしれない。X11を必要とする主な機能はBrowseXとEtherealの2つだ。BrowseXは軽量な、クロスプラットフォームのブラウザで、私が前回見たときよりも格段によくなっている。軽くすばやい表示が実現されているし、ページのレンダリングはなかなかのものだ。Etherealは優れたグラフィカルなネットワーク・プロトコル分析ツールで、ネットワーク管理者用のツールキットでは重要な役割を果たすことが多い。

ローカル・ディスクは、読み取り専用モードで自動的にマウントされる。これは、ユーザが明示的に許可しない限り、システムの内容を何一つ変更しないという方針の一環だ。書き込みアクセスでドライブを再マウントする方法はhelpコマンドで確認できる。

さらに、LNX-BBCプロジェクトは、特定の目的で拡張できるようになっている。プロジェクトのWebサイトには、ソフトウェアを追加するためのソースとツールを提供し、自動的にBBC ISOファイルをビルドしてくれるGAR build systemに関するたくさんの情報が掲載されている。組織でカスタムのBBCツールキットを作成したい場合に非常に便利だ。

DamnSmall Linux

ここ数年、いくつかのBBCプロジェクトが計画されているが、その中でも特に面白いのが、新顔のDamnSmall Linuxプロジェクトだ。DamnSmall 0.5.2はKnoppix(Debianから派生)の派生物だ。ご存じない人のために説明しておくと、Knoppixはインストールなしで利用できるフルサイズのLiveCDで、優れた自動ハードウェア検出と設定ルーチンを持つことで知られる。

DamnSmallでも、Knoppixのこの利点は十分生かされている。私は試しに、DamnSmallをちょっと変わった環境でテストしてみることにした。PCMCIAスロットとワイヤレス・ネットワーク・カードを持つデスクトップPCだ。驚いたことに、DamnSmallはPCMCIAスロットを認識して、そのスロットとワイヤレス・カードに適したドライバをロードし、ユーザの操作を一切必要とせずにネットワークをセットアップしてみせた。これは特筆に値するパフォーマンスだ。

起動時には、使用するXサーバの種類、解像度、マウスの種類など、いくつかの質問に答える必要がある。確かに、何も知らない人にとってこの作業はあまりうれしくないが、このディストリビューションはまったくの初心者向けではない。PCを使った経験が少しでもあれば問題はないだろう。

起動が完了すると、LNX-BBCのBlackboxと同様のFluxboxが表示された。右クリックでメイン・メニューを表示し、「Enhance」サブメニューを選択した。ここで「Icons」をクリックすると、面白いことが起きた。デスクトップに突如、CDに収められた主要なアプリケーションのアイコンが出現したのだ。ポケットに収まるサイズのLiveCDとしてはかなりの出来だといえる。

しかしさらに重要なことに、ここで表示されたアイコンは、このディストリビューションがLNX-BBCとはかなり異なるということを示している。DamnSmallのアイコンやメニューは、システム管理者がマシンの修復に利用するユーティリティよりも、基本的なデスクトップの機能を提供することに主眼が置かれている。DamnSmallは、プロのシステム管理者が使う緊急時用のツールキット的要素は少なく、むしろミニ・デスクトップとしての利用を想定しているのだ。

このディストリビューションは、シンプルなデスクトップで必要とされる基本的な機能はほとんど備えている。提供されているプログラムは、Sylpheed(電子メール)、xpdf(Acrobatファイル)、Scite(プログラム編集)、nviとTed(テキストエディタ)、xmms(音楽プレイヤ)、xzgv(画像表示)、xpaint(画像編集)などだ。その他の機能としては、gphone(インターネット電話)、cdrecord(CDおよびDVD作成)、parted(パーティション・エディタ)、tcc(ANSI Cプログラムのコンパイル)、wvdial(PPP接続ツール)がある。チャット、FTP、VNCのクライアント、シンプルなWebブラウザ、SSHサーバ、NFSサーバも用意されている。さらに、xpacmanやカーソルなどのおまけまで付いている。

DamnSmallには、基本のブラウザが2つある。DilloとLinksだ。ネットワーク接続があれば、メニューから選択するか、またはアイコンをダブルクリックすることで、Mozilla Firebirdをインストールできる。帯域幅が大きければ、インストールは何の苦もなく、すぐに完了する(私はケーブル・モデム接続を利用していた)。

1つ残念な点を挙げると、音量調整機能が見当たらず、マイクをオフにすることができなかった。なぜかはわからないが、マイクの音量が最大になっているらしく、マイクが拾った音がスピーカーから聞こえてくるという状況だった。まあ、耳障りではあるが、すべてを台無しにするほどの欠点ではない。

両社の比較

ここで紹介した2つのBBCは、明らかに別々の目的のもとで開発されたものだ。LNX-BBCは、高度な回復作業を行うベテランシステム管理者向けの、強力なツールだ。一方のDamnSmallは、一般ユーザ向けの、フレンドリなミニチュア・システムだ。ネットワーク診断や侵入分析などの機能が必要なシステムには、優れたツールキットが用意されているLNX-BBCをお勧めする。ファイルの編集などの単純な機能、または補助的な環境が必要な場合にはDamnSmallが適役だろう。

LNX-BBCは主にコマンドラインを使い、X11はオプション扱いだ。DamnSmallは基本的にX11デスクトップで、コマンドラインも利用できる。システム上のハードウェアの設定に関しては、LNX-BBCは最善を尽くしているものの、経験のあるユーザが必要に応じて、手作業で設定を微調整する必要があるかもしれない。一方DamnSmallは、可能な限り、最小限の介入でハードウェアを認識および設定するというKnoppixのコンセプトを実装している。私の環境では、LNX-BBCは1台のマシンのPCMCIAネットワーク・カードに正しいドライバをロードできず、もう一方のマシンでは、正解のde4x5ドライバではなく誤ったドライバ(tulip)を選択してしまった。DamnSmallは、両方のマシンのネットワーク・インターフェイスを正しくロードおよび設定し、私はほんの少しの入力を求められただけだった。

さて、この2つの持ち運べるツールキット、どちらを選ぶだろうか。私の答えは「両方」だ。どちらも便利な機能を備えているし、その小ささは申し分ない。収録されているツールを活用できそうなら、どちらもダウンロードしてみる価値が十分ある。