MPlayerプロジェクトのアップデート状況

人気の動画プレーヤアプリケーションMPlayerは、2003年9月から1.0リリースの候補段階にある。今回、この巨大プロジェクトの開発者数人をつかまえ、アップデート状況などをきいてみた。

その数人とは:

  • Alex Beregszaszi(20歳、ハンガリー、学生)「ここ数年、貢献者と開発者をしてきて、2004年からメンテナになりました」
  • Diego Biurrun(29歳、ドイツ[アルゼンチン生まれ]、永遠のCS学生兼パートタイム管理者)「文書とWebサイトの維持管理者であり、公式代表です。パッチの検証やあれこれのテストをし、メーリングリストでも手広く活動しています。ときには、ごくわずかながらコーディングもします」
  • Felix Bunemann(23歳、ドイツ、Linuxセキュリティとネットワークの専門家)「MPlayerチームに参加したのは2001年第1四半期で、最初はビデオ出力ドライバへの貢献者でした。その後、いくつかのビデオ/オーディオ出力を手がけたほか、アスペクト比のコードと設定もやりましたし、パッチの維持管理者とサポータをかなり長くやり、いくつかのMPlayer移植にも関係しました。現在は時間がとれなくて、MPlayerの仕事はほとんど放棄状態です」
  • Sascha Sommer(20歳、ドイツ、情報科学学生)「Windowsへの移植の維持管理者の1人です。ほかに、QuickTime DLLをLinuxで動作させる手伝いをしたり、nVidiaビデオカード用に、Xサーバを迂回してビデオ再生を速くするvidixドライバを書いたりしました」
  • Arpad Gereoffy(26歳、ハンガリー、ネットワークとUnixのシステム管理者、以前はMplayerコーダ)
  • Ivan Kalvachev(26歳、ブルガリア)「卒業したての元学生で、現在は求職中です。ビデオシステムをやっていて、XvMCがこれまでにやった最大の仕事です」
  • Roberto Togni(32歳、イタリア、電子技師)「MPlayerにかかわりはじめたのは、2002年の初めです。コーデックの実装から始めて、いまでもこれが主な活動ですが、コードの大部分をいまFFmpegに移動中です。それから、demuxerをちょっとやって、バグ修正をして、他プロジェクト(たとえば、realrtsp)からのコードの移植など。最近では、いろいろな人がメーリングリストに送ってくるパッチの検証と実装ですね。バイナリのコーデックパッケージも作っています」

Newsforge:MPlayerが1.0に近づきつつあります。フルリリースをどうしたいとお考えですか。

Roberto:将来的にはすべてのコーデックをネイティブに(バイナリなしで)サポートすることが大目標ですが、これは複雑です。

Ivan:バグがないこと。DVDメニューが欲しいものリストに入っているんですが、1.0リリースに間に合うかどうかわかりません。

Alex:0.90シリーズよりは安定した強力なプレーヤにしたいですね。それと、夢として、NUTのサポートを充実させて、これをほんとうに使いものになるようにしたいです。

Newsforge:xine、Ogle、VideoLANなど、動画プレーヤプロジェクトは数多くあります。なぜMPlayerなのでしょうか。

Sascha:高速であること。それに、設定の融通性が高いマルチプラットフォームプレーヤで、普通のフォーマットならどれでも再生できること。

Diego:速度と多機能の2点です。OgleはDVD専用のプレーヤですから、他のビッグ3とは比べられませんね。MPlayerはDVDもきれいに再生できますが、メニューをサポートしていません。ですから、そういう派手なことには他のプレーヤを使うか、それ抜きで直接動画を見るかです。MPlayerは、いま入手できる最も効率のよいプレーヤです。私の500MHz K6-IIIでもほとんどの映画を支障なく見られます。これだけのパフォーマンスは、Linux用であれWindows用であれ、ほかのプレーヤにはありません。

Newsforge:以前、MPlayerのイメージの悪さが言われたことがありました。開発者と関連コミュニティが傲慢だという印象を持たれたようです。MPlayerのイメージが好転した原因は何でしょう。

Diego:一部の開発者が離れ、新人と入れ替わったことで、MPlayerを取り巻くコミュニティがかなり変わりました。ま、年月も経っていますから、私たちも成長して、少しは柔らかくなったでしょう。

Ivan:文書類が充実してきたし、メーリングリストに投げ込まれるナパーム弾も減ったし、協力的なIRCチャネルもあります。マニュアルを読みたがらない人が多いのは、まあ、誰かに尋ねたほうが簡単ですからね。間抜けな質問をするには、irc.freenode.netの#MPlayerが最適の場所です。答えるのを商売にしている人はいないので、時間はかかりますけど。

Newsforge:90年代末には、ユーザをWindowsからLinuxへ鞍替えさせるには「キラーアプリケーション」が必要だと一部で言われていました。最近は、「Windowsで使えれば、Linuxへの移行も問題ない」と言われることがあります。OpenOffice.orgやGIMPなどがそのいい例ですね。MPlayerもこの路線を歩むのでしょうか。

Diego:そう、私もその考えに賛成です。OSを切り替える前に、Linuxで稼動するアプリケーションに慣れておければ、切り替えにともなう苦痛は少なくてすむでしょう。

Ivan:私は、Windowsの海賊版でFOSSプログラムを使ってみるよう友人に勧めています。これまでのところ、ほとんど問題はありません。Windows用のMPlayerにはGUIがありません。フロントエンドがいくつかあることはありますが、あまり人気がありません。しかし、Windows版MPlayerの最大の問題は、ブラウザプラグインがないことでしょう。たとえば、FirefoxはMPlayerをダウンロードアプリケーションとして実行できますが、Web統合メディアではそれができません。Linuxなら、いくつかのプラグインがあります。私にとって、FirefoxとMPlayerは最高の組み合わせですよ。

Felix:MPlayerの目標は、Windowsユーザを呼び寄せることではありません。プロジェクト発足時の目標は、DivXファイル再生用の使えるプレーヤをLinuxにも、ということでした。後になって、MPlayerの可能性と人気の高まりを見て、できるだけ多くのOSとアーキテクチャに移植しようということになりました。

Sascha:MPlayerがユーザをLinuxに呼び寄せる助けになるのかどうか、よくわかりません。これはコマンドラインプレーヤですから、何をやらせるのでもオプションをタイプしなければなりませんから、それを嫌がる人には適しませんね。GIMPとOpenOffice.orgは、どちらもXで動作するアプリケーションで、どちらもWindowsのプロプライエタリ製品と似た使い方ができます。MPlayerにも、最近、新しい外部フロントエンドが開発されましたから、これで少しは状況が変わるかもしれません。でも、去年目についたのは、MPlayerを含んでいるLiveCDへの需要が大きいことです。MPEGデコーダのような特殊なハードウェアを使うためだと思いますが、これはWindows版ではまだサポートされていない機能です。

Newsforge:昨年、第2世代MPlayer構想が発表され、ユーザ間ではかなり話題になりました。しかし、あの発表のあと、何がどうなっているのか、さっぱり聞こえてきません。MPlayer G2プロジェクトはまだ有効なのでしょうか。現在のMPlayerと比べて何がどうなるのでしょう。

Roberto:G2の最大の眼目は、コアをライブラリとして書き、いろいろなフロントエンドで使えるようにすることです。コーデックが(たぶん、demuxerも)FFmpegに移されて、それにはコードのかなりの部分を書き直す必要があります。ということは、G1アーキテクチャに含まれるいくつかの問題を解決したり、長年の開発からくるコードの不恰好さを解消したりする好機でもあるわけです。

Arpi:G2は、基本的にはプレーヤのコア部分とAPIへの技術的変更ですから、とくにユーザの目に触れるような変更ではありません。よく、G2の新機能は何か、ときかれますが、機能の数から言えば、実はG1よりG2のほうが少ないほどです。

G2は、ゼロからの出発です。プレーヤのあちこちを再設計し、一部はG1からコピーしてそのまま、あるいは多少手直しして使うつもりでしたが、長い間にはパッチがいくつも当たったりして、G1のAPIやコードの汚れを完全には取り除けません。それで、全体の書き直しが必要です。

もちろん、長期的に見れば、G2のほうが機能豊富になります。G1より制約がずっと少なくなりますから、DVDメニューや正確なインバーステレシネなど、G1でできなかったようなこともできるようになります。

G2の開発過程では、作業中断かと思うことも何度かありました。まず、新しいビデオフィルタ(vf)レイヤで意見が分かれました。まったく新しい複雑なものにして、もっと多くの機能を――たとえば、複数ソースからのビデオマージや複数ディスプレイでの再生などを――という声もありましたが、私はG1のvfを、その短所も含めて残そうという意見でした。新しいvfのほうがいいのですが、実装には何年もかかりますし、G1のフィルタとコーデックを移植する(実際には書き直す)のにさらに1年かかります。

それから、ライセンスをGPLからもっとフリーなものに変えたいと思いました。RMSの言うフリーではなくて、自由の意味のフリーです。GPL+商業ライセンス、BSD、LGPLなど、選択肢はいくつかありました。まあ、最後にはひどいフレーミングに会って、私は一時G2プロジェクトから離れ、開発もそこで中断しました。

しかし、G1が日に日に悪くなっていく状況でしたから、もう1度G2をやってみる決心をして、反対意見もありましたがライセンスをLGPLに変えました。中心的な開発者が何人か賛成してくれたのは幸運でした。私1人で何もかもやらなくてよくなりましたからね。現在、G2の設計の細部を詰めているところで、ほどなく新しいプレビューができる予定です。

Newsforge:Linuxプレーヤといえば、リバースエンジニアリングが何かと話題になります。現在、リバースエンジニアリングについては法律も揺れています。この面でのEUと米国の動きが気になりませんか。

Alex:法律を研究するか、プログラマをやるか、2つに1つです。両方はできません。もちろん、法律と特許は気になりますが、私たちにどうこうできる問題ではありません。特許から自由なプレーヤなど、誰にもできないということになりませんか。リバースエンジニアリングについて言えば、いくつかの国(ノルウェーにハンガリーに、たぶんスイスも)では、互換性維持のために認められています。

Diego:リバースエンジニアリングは、いくつかの国では禁止されていますが、オーストラリアやスイスなど、これを明示的に認めている国もあります。これまでのところ、リバースエンジニアリングで問題が起きたことはありませんし、将来的にも問題が起こるとは思っていません。ただ、ソフトウェア特許が成立すると、ソフトウェアという分野全体、とりわけフリーソフトウェアに冷却効果を及ぼすことが心配です。マルチメディアは法律的な地雷原で、もしEUでソフトウェア特許が成立したら、私たちの仕事は危険にさらされます。ですから、なんとか阻止したいと思っています。EUに住んでいる方々は、ぜひご協力ください

Newsforge:ユーザに何かお願いをするとしたら、どんなことになりますか。

Felix:ビールをおごってもらうことかな。結局、みんな楽しいからこれをやっているわけですし。ああ、RTFM(マニュアルを読め)を忘れないこと。これさえしてくれたら、開発者の仕事はうんと楽になります。

Ivan、Roberto、Arpi、Diego:そうそう、RTFM!;-)