Rachel App: Linuxで音楽作り

Rachel Appは、好奇心旺盛な女性だ。その関心の向かうところは、女性よりも男性のそれに近い。独立系シンガー・ソングライターであり演奏家、そしてLinux使い。さまざまなオープンソースのアプリケーションを駆使して、自分の音楽を作っている。

Appは8歳の時からコンピュータを使っている。しかし、ソフトウェアの自由の国を訪れるようになったのは、友人がオープンソースに誘ってくれた1998年からのことである。オープンソースの理念は、「痩せっぽちで不思議なインディー系パンク娘」のライフスタイルにピッタリだった。2003年11月にはLinuxに完全移行、そして今月、英国ブリストルで開催されるFAVEカンファレンスでフリーソフトウェア・ファンたちにLinux上でのミキシングについて話す。

Appがまだ幼かった頃、母親がAmstrad CPC6128を買ってくれた。そして、Basicと「身の毛もよだつアセンブリ言語」を覚えた。同じ頃、Appは、クラシック音楽とリコーダーを、後にはピアノのレッスンも受けていた。10代を通じて、音楽と技術はAppの両手のような存在だったのである。1992年には、Windows 3.1上でRolandのキーボード、SoundBlasterオーディオ、Cakewalkのシーケンサーを動かしていたのだ。「それから大学に進学したのですが、大学ではUnixばかりでした。先生方が開発した専門的なアプリケーションをUnixの上で使っていたのです。FortranやC++の勉強はしましたが、自分をプログラマーだとは思っていません」

そして、ついに、自分のコンピュータを買い本格的に音楽を作り始めた。2002年以来、100曲を超える歌を作り、3枚のCDを制作した。はじめは、Windowsコンピュータ上でフリーウェアのユーティリティ(「雑誌『Computer Music』についてきたものは何でも」)を使って最終のミキシングをしていた。その後、より高度なソフトウェアにアップグレードし、1年ほどは順調だった。ところが、突然、現実がAppの快適な技術の園に襲いかかったのだ。「2003年10月のことですが、最小構成のシステムを買ってきました。以前のコンピュータと同様にWindows 98を使うつもりでした。もちろん動きましたが、そこでハタと気づいたのです。Windows 98用の新作アプリケーションはもうリリースされないということに。私が使っていたOSは時代遅れになっていたのです。Windows XPにアップグレードするにはフルセットのXPが必要でしたし、何はともあれOSを変えるということが大きかった。そこで、Linuxを使ってみることにしました。オープンソース・ソフトウェアの理念、プログラマー同士が競争するのではなく協力しあうという理念は、とてもよく理解できましたし」

Linuxが気に入るかどうか確信が持てなかったため、Appはパーティションを切ってWindows 98を残した。しかし、11月にはオープンソースに納得し、Linuxを紹介してくれた友人に手伝ってもらいKnoppix CDをインストール、次いでDebianの非安定版にアップグレードした。「不安定版にすることにしました。テスト版ではありません。というのは、当時、最新の音楽アプリケーションがあったのですが、その多くはテスト版Debianのパッケージとしてはまだ手に入らないと考えたからです。友人は音楽関係のものはインストールしたことがなかったものですから、ALSAは自分でインストールしました。情報を集めるのと質問をするのにインターネットを使ってね。その数か月後に、Windows 98を完全に削除しました。やりたかったことがLinux上でできるアプリケーションを手に入れたからです」

AppはArdourHydrogenを「すぐに」インストールできた。唯一の問題はArdourの解説書がないことだったという。しかし、Appは、今、頻繁にArdourファイルをバックアップしている。「プラグインを幾つか入れてから、Ardourが突然クラッシュするようになった」からで、「ちょっと神経質になっている」そうだ。MuSeもインストールしようとしたが諦めた。ときどきRosegardenを使っているが、「私の曲はほとんどがギターをベースにしています。ですから、Ardourをマルチトラック・レコーダーとしてよく使っています。実際、持っていたマルチトラック・レコーダーを1年前に売ってしまいました。Ardourに満足していて、Ardourばかりを使っていたからです。ドラムスを入れようとHydrogenを使い始めましたが、今はあまり使っていません。ドラム・マシンがあるからです」。マスタリングにはJaminを、オーディオの編集にはAudacityを使っている。

Appは、8月20日にブリストルで開催されるFAVEカンファレンスで実演と指導を依頼された。FAVEは、Linuxなどオープンソース・プラットフォーム上の創作用ソフトウェアを愛用する人たちを対象とするコミュニティのイベントである。インターネット映画制作、2Dや3Dのグラフィックス、Creative Commonsライセンスにまつわる話、そして音楽制作に関するAppのワークショップが予定されている。「とても実用的なものにしようと考えています。マルチトラック・レコーダーとしてのArdourの使い方とか。Hydrogenの使い方も紹介するつもりです。ドラムスは、多くの日曜ミュージシャンにとって課題になっているからです」

FAVEの聴衆をどう考えるべきか、Appはまったくわからないと言う。「まったく予断なしに出かけます。何が起こるか本当にわかりません」。Appに確実と思えることは、聴衆のほとんどが男性だということ。しかし、Linuxと音楽への嗜好ということでは、Appは常に少数派の女性だった。「以前よりは技術を使う女性が多くなりましたが、まだまだ男性が多い世界です。DJやサウンド作りの世界にも最近は女性が増えてきましたから、できればフリーソフトウェアもそうなって欲しいですね」

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