ポータブル・オープンソースソフトウェア

ライブCD Linuxディストリビューションを使えばCDやDVDで本格的なコンピューティング環境を実行できるが、Windowsベースマシンを使用するなら、リムーバブルストレージデバイスにWindowsポータブルアプリケーションを入れて使う方が便利だろう。幸い、Windowsマシンを使うからといって、オープンソースソフトウェアを使えないわけではない。実際、人気の高いポータブルアプリケーションの多くはオープンソースだ。OpenOffice.org、Thunderbird、Firefox、Gaimなどがある。あまり知られていないものにも、USBフラッシュドライブやモバイルハードディスクに入れられる優れたポータブルアプリケーションがあるので、いくつか紹介しよう。

FullSyncはWindowsのディレクトリの同期とバックアップを行うJavaベースユーティリティだ。FullSyncはポータブルアプリケーションではないが、コンピュータ上のアプリケーションとリムーバブルストレージデバイスの同期を行う場合に便利だ。

たとえば、Portable FirefoxとPortable Thunderbirdを使用していて、ブックマーク、設定値、電子メールなどをモバイルハードディスクとコンピュータの間で同期したいとする。これを行うには、FirefoxとThunderbirdのユーザプロファイルのデータとモバイルハードディスク上のプロファイルを同期するFullSyncジョブを作成する。

Torpark

パブリックコンピュータや職場のコンピュータからWebにアクセスする場合、セキュリティとプライバシーが心配だ。Firefoxではディスクに保存したプライベートデータをすべて削除できるが、インターネット接続自体は保護されない。

セキュリティと匿名性の確保には、Portable FirefoxTorを組み合わせたTorparkを使用できる。Torは、オニオンルータというサーバの分散ネットワークを使って、保護された匿名のインターネット接続を作成する。Torparkには、統合され事前設定されているTorソフトウェアが付属しており、起動するだけで後の処理が自動的に行われる。

ただ、Torparkは若干遅いので、OpenWengo VoIP(後述)など低レイテンシ接続が必要なアプリケーションを使う場合は、Portable Firefoxの方がよいだろう。

KeePassとPassword Safe

パスワードとログインデータをUSBキーで持ち歩くなら、KeePassを使えばすべてのパスワードを1つの暗号化データベースに保存できる。実質的に解読不可能なAdvanced Encryption Standard(AES)またはTwofishアルゴリズムでデータベース自体を暗号化できる。KeePassでは、複数のパスワードのグループ化やソート、新しいパスワードグループやサブグループの追加ができる。

KeePassの付属的な機能はどれも不要という場合は、PasswordSafeがある。これはユーザ名とパスワードを暗号化データベースに保存するシンプルなユーティリティだ。便利なのは、レコードを選択すると、パスワードがクリップボードにコピーされることだ(この動作はプログラム設定で変更可能)。Password Safeを終了すればクリップボードはクリアされるので、パスワードは残らない。

TrueCrypt

USBキーのドキュメントや機密データを保護する最も効果的な方法の1つが、それらをデバイスの暗号化領域に保存することだ。TrueCryptを使うとそれができる。

USBキーやモバイルハードディスクにTrueCryptをインストールするには、コンピュータ上でTrueCryptを起動し、[ツール]->[トラベラーディスクのセットアップ]を選択する。TrueCryptをインストールすると、ファイルまたはパーティションに基づいて暗号化ボリュームを作成できる。わかりやすいウィザードで暗号化ボリュームの作成手順が案内され、TrueCryptの機能説明が表示される。作成したボリュームをTrueCryptでマウントすれば、通常のディスクドライブと同様にこのボリュームを操作できるようになる。

NeoMem

NeoMemは、便利な自由形式データベースアプリケーションで、パスワード、シリアル番号、リンク、連絡先一覧、メモなど、事実上あらゆる種類の情報を保存できる。

NeoMemでは、ハードウェア、パスワード、銀行口座などを表すクラスを定義でき、クラスごとに独自のプロパティとフィールドセットを持つことができる。たとえば、銀行口座クラスなら、銀行名、口座番号、種別、コメントなどを含めることが可能だ。目的のクラスの新しいオブジェクトを作成すると新しいレコードが追加される。このようにして、1つのデータベースにさまざまな情報を保管できる。なにより重要な点として、NeoMemでは、プライベートデータを扱うアプリケーションに不可欠の要件、作成したデータベースの暗号化ができる。

Rainlendar

Rainlendarは小さいながらも優れたカレンダユーティリティで、終日の予定、定期的な予定、予定分類、アラーム、タスクリストなど便利な機能が多数そろっている。Rainlendarは本来ポータブルアプリケーションではないが、USBキーでも適切に動作する。Rainlendarの圧縮版をダウンロードして圧縮解除し、USBキーに移せばよい。Rainlendarを既にコンピュータにインストールしていて両方のカレンダを同期するには2つの方法がある。FullSyncを使ってevents.ini、todo.ini、rainlendar.iniファイルをUSBキーのRainlendarフォルダにコピーするか、Rainlendarサーバを実行し、これを使ってカレンダを同期する。

Openwengo

ポータブルVoIPアプリケーションを探しているなら、Openwengoがある。Openwengoはオープン標準に基づくオープンソースソフトウェアであり、2つのエディションがある。1つはスタンドアロンアプリケーションとして、もう1つはFirefoxの拡張機能としてだ。後者は簡単にPortable Firefoxにインストールできる。Openwengoで電話をかけるには、アカウントを作成しコールクレジットを購入する必要がある。Openwengoでは、Skypeと同程度の料金で固定電話にも電話できる。

Damn Small Linux

USBキーから本格的なLinuxデスクトップを実行したいなら、Damn Small Linux(DSL)が最適だ。このスリムなLinuxディストリビューションは128MB USBキーにおさまり、持ち運びたくなるアプリケーションはすべてそろっている。

さらに、Damn Small LinuxはQEMUエミュレータで実行できるので、Windows内でもDSLを使用できる。Damn Small Linuxのいずれかのミラーサイトからdsl-embedded.zipファイルをダウンロードして圧縮解除し、dsl-windows.batをダブルクリックするとQEMUが起動する。QEMUを使ってDSLを実行するとかなり遅いが、ともかくコンピュータを再起動しないでもWindowsのままLinuxを実行できる。

その他のアプリケーション

当然ながら、ここで紹介したアプリケーションは、利用可能なオープンソース・ポータブルソフトウェアのほんの一部だ。以下のアプリケーションも検討する価値がある。

  • TightVNC:優れたVNCサーバとビューアのパッケージ。リモートコンピュータにアクセスして操作できる。
  • LockNote:暗号化が組み込まれているシンプルなメモ帳。
  • Portable Thunderbird:広く使用されているオープンソース電子メールクライアント、Mozilla Thunderbirdのポータブルバージョン。
  • nPOP:電子メールは使いたいがPortable Thunderbirdほどの機能はいらないというユーザ向き。
  • Explore2fs:Linux ext2fsパーティションにアクセスするためのシンプルなツール。
  • Wackget:wgetのWindows版。ダウンロードの管理に使う。
  • VLC media player:ほぼすべてのメディア形式の再生に対応。
  • XAMPP Lite:リムーバブルディスクから本格的なApache/MySQL/PHPサーバを実行できる。
  • Miranda IM:軽量IMクライアント。IRC、ICQ、MSN、Yahoo、AIM、Jabberをサポートしている。
  • Notepad++:テキストエディタ。構文強調表示、正規表現、ドラッグ&ドロップ、タブインタフェース(複数ドキュメントをすばやく切り替えられる)、マルチビューモード(2つのドキュメントを並べて表示)、テキストズームの機能がある。

次の旅行ではラップトップの代わりにをUSBキーを持っていこうと考えているなら、役に立つアプリケーションはたくさんある。ここで紹介したソフトウェアだけで、モバイルコンピューティングに必要なものがほとんどすべて揃う。あとは目的地にUSBキーを使えるコンピュータがあることだけ確認しよう。

Dmitri Popov――フリーライター。ロシア、英国、デンマークのコンピュータ雑誌に執筆。

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