プロプライエタリ・ソフトウェアに学ぶ新規ユーザー獲得法

最良のものが最大の人気を集めるとは限らない。品質の劣る製品が多くの、ときとして絶大な人気を博すのはよくあることだ。しかし、だからといって、市場の多くを獲得するために、品質の追求を犠牲にしなければならないわけではない。だから、オープンソース・ソフトウェアを支持する者として人気を求めたりプロプライエタリ開発者に学ぶことを忌避すべきではない。正しい例を参考にすれば、品質の追求を犠牲にすることなく、オープンソース・ソフトウェアの利用を促進できるのである。

独占会社のない市場でアプリケーションが人気を集める秘訣は、次の3つだと思われる。すなわち、何らかの意味でクールあるいは魅力的であること、取っつきやすいこと、習慣性があること。こうした特性を備えているアプリケーションでなければ、ほとんどの平均的ユーザーは現状に固執し、新しいアプリケーションを使おうとはしない。実際、多くのユーザーは、自分のコンピュータにあらかじめインストールされていないプログラムなど、決して使わないのだ。しかし、魅力的で設定しやすく手放したくなくなるようなアプリケーションであれば、平均的ユーザを、現状維持という障害を乗り越えて使ってみようという気にさせることができる。そして、そのようなアプリケーションが数本あれば、一般の人々の間に、オープンソース運動全般に対する強い関心を喚起できるだろう。

Konfabulatorというアプリケーションがある。仕事に使っているPCにインストールして以来、私は何人もの人から、どこで手に入れたのかと問われ、インストールを手伝ってくれないかと頼まれた。目を引くデザイン、楽しさ、設定変更が容易、小さいけれど他では得られない便利さを持っているアプリケーションである。

しかし、FirefoxやOpenOffice.orgのような地味なソフトウェアとなると、Konfabulatorの入手方法を聞いたその同じ人物が使ってみようともしないのだ。こうしたアプリケーションは使えば役に立つはずだが、今使っているWebブラウザとオフィス・スイートに十分満足しており、乗り換える必要性を感じないのである。

クールなアプリケーションあるいはOSが一般の人々の目を捉えたとしても、覚えるのが面倒だったり使うのが難しかったりすれば不興を買うだけである。インストールができなかったり設定が困難だったり、今持っているデータがほとんど使えなかったりすれば、一般の人々の大部分は使うのを諦めてしまうだろう。インストールの手順を簡単にし、わかりやすい説明書をつければ、新規ユーザーの獲得に大きく近づく。

しかし、本当に普及を目指すなら、アプリケーションに習慣性がなければならない。「一度使ったことがあるけど、結構クールだよ」と「もう手放せないね」の違いは大きい。ユーザーをして、本当は複雑なアプリケーションの使い方を覚えさせ、友人たちに使用を勧めさせるのは、後者のようなアプリケーションなのである。

iLifeの場合

オープンソース・アプリケーションは、安定性や機能で勝ることが多いが、常用ユーザーを獲得する能力ではプロプライエタリ・アプリケーションに劣る。例として、大評判のMacintosh用プロプライエタリ・アプリケーション・スイートiLifeを見てみよう。iLifeは、音楽クリップや写真やビデオを作ったり取り込んだり保管したり買ってきたり編集したりするアプリケーションだ。世界最大のオンライン・ディジタル・ミュージック・ストアやあまたあるストリーミング・オーディオ・ソースにもアクセスできるし、自分のライブラリに保管してある写真のプリントを発注することもできる。

iLifeが人気を博しているのは、すべてのMacにプレインストールされているからだけではない。単純なインタフェース、直感的にわかりやすく配されたメニュー、アプリケーション間の完璧な連携、合理的なデフォルト設定。こうした配慮により、初心者でさえもiLifeを存分に使いこなせるからなのである。初めての人でさえ、数分もあれば、ビデオカメラの映像を取り込んだり、画像や歌のコレクションを作ったり、それをDVDに焼いたりできるのだ。

それだけではない。そうした各種形式のコレクションを保管する場所としてライブラリが用意されており、直感的で気の利いた方法でコレクションを整理できるし、あらゆる形式のデータを集中管理し複数のラベルを付けることもできる。そのラベルは、iLifeからもFinder(Appleのファイル・マネージャ)からも検索でき、どちらにもインクリメンタルに検索できるバーが付いている。どのような形式のデータであろうと、iPodやオンライン・アカウントと同期が取れ、編集もでき(iLifeまたは他のプログラムで)、標準ファイル・フォーマットあるいはCDやDVDに書き込むことができる。付属するテンプレートは気が利いており、ドラッグ&ドロップで操作可能。初心者でさえ、数分もあれば見事な作品を完成できる。その上、iLifeアプリケーションは、Macのデフォルト・デスクトップ上にあるDockからクリック一つで容易に起動できるのである。

オープンソースとデスクトップLinuxの改善点

iLifeが示しているのは、Appleがクールな機能を満載した大いなるソフトウェアを作ったということだけではない。そこから入ればすぐに成果を手にできる扉を入門者にわかりやすく用意することの重要性をも示しているのだ。それが入門者を引きつけて放さないのである。上級者向けに外部プログラムとの拡張性と協調性を備え、基本的な単純性と効率性を犠牲にすることなく機能を増やすことができるようにしている。こうした点について、オープンソース・ソフトウェア、とりわけデスクトップLinuxの改善余地は大きいと思われる。近年、Microsoftから容易に移行できるオフィス・ソフトウェアの開発では大きく進展したし、各分野にLinux向けの強力なアプリケーションが幾つか存在する。確かに、Linuxソフトウェアは、使った人に「すごい!」と思わせる。しかし、その「すごい!」をそのまま新規ユーザーの獲得に結びつけることのできる十分に入りやすい扉が用意されていないことが多いのである。

しかし、決して、初心者用Linuxソフトウェアを一般大衆に与えよと提案しているのではない。また、オープンソースやLinuxの開発者たちがユーザーの立場に立っていないと言っているのでもない。こうした点では、Mozilla Foundationなどのグループが大きな成果を挙げている。しかし、オープンソース全体がコミュニティとして、こうした点を真剣に追求すれば、オープンソース・ソフトウェアの利用と人気は急速に拡大するだろうと思うのである。

一般ユーザー向けに構成されているLinux(大概は、デスクトップ・アイコンが幾つか追加されており、それについて若干の説明がある。5分もあればできることだ)であれば、普通の人にもすぐに快適に使えることを、私はこの目で見て知っている。この快適さがあれば、人々はLinuxを主要なOSとしてすぐにも使うことができる。そして、それが、Linuxの持つ多くの機能やさまざまなプログラムに触れる機会を作り、使ってみようかと思わせるのだ。また、誰かに新しいシステムの基礎を教えてもらわない限り近づこうとしなかった人々がいることも知っている。しかし、開発者やディストリビュータがほんの少し手助けするだけで、ほとんどすべてのユーザーを、そうした状態に陥らせずに済むのである。

手始めに、Linuxディストリビューションのシステム・デフォルトを初心者向きに設定しよう。これは簡単だが効果的である。経験のある熟練者はどのみちデフォルトの多くを変更するものだ。ならば、デフォルトを変えそうもないユーザー向けの設定にしない理由があるだろうか。WebアプリケーションやAVや事務用の基本アプリケーションを選定する際、これが特に意味を持つ。新規ユーザー向けに、デスクトップからクリック一つでアクセスできるようにするのだ。しかも、プログラムの名前かアイコンを見れば、初心者にも、どのようなプログラムかすぐにわかるようにする。インストール・パッケージがこのように設定されていないなら、経験豊かなLinuxユーザーは、Linux初心者の友人たちのために設定してあげようではないか。こうした簡単なことで、新規ユーザーが自分の新しいデスクトップに馴染みやすくなるのである。

Linuxのディストリビュータやデスクトップ管理の開発者は、ファイル構成をわかりやすくしよう。簡単なことだが、新規ユーザーにとっては、それだけでも大助かりなのだ。たとえば、Mac OS Xでは、ユーザーのホーム・フォルダの中にあらかじめ必要なフォルダが用意されており、文書やさまざまなAVファイルを置くことができる。Finderのサイドバーには、こうしたフォルダやアプリケーション・フォルダへのリンクがある。また、Appleアプリケーション(多くのサードパーティ製アプリケーションも)の「開く」や「保存」ダイアログでは、適切なフォルダがあらかじめ設定されている。こうした配慮を取り入れることで(KDEファイル・マネージャなどを少し変更するだけのことだ)、新規ユーザーはずっと快適に使うことができるようになる。一方、熟練者はといえば、彼らはファイル構成やサイドバーを好みに合わせて変更することができるのである。

アプリケーションの開発者にも、配慮をお願いしたい。たとえば、アプリケーションごとに特別なファイル形式を採用するのではなく、アプリケーション間でデータを直接エクスポートできる(iLifeなどのように)インポート/エクスポート機能を用意する。そうすれば、あまり知識のないユーザーにとっては混乱しにくくなるし、誰にとっても効率が高くなる。従来のインポート/エクスポート機能を捨てるのではなく、補完するのである。アプリケーション間のドラッグ&ドロップも、もっと使いやすくなるだろう。そして、こうした点でもオープンソースの特技であるカスタマイズ性能を発揮すれば(スイート内のアプリケーション間だけでなく、関連のある外部アプリケーションにも直接エクスポートできる機能など)、プロプライエタリのアプリケーションよりも魅力あるものになるだろう。

開発者がそうした機能を統合してくれないのなら、オープンソースのサードパーティ製プラグインを作って、オープンソース・アプリケーション間の相互運用性を改善しよう。さらに、そうしたプラグインに対応するプロプライエタリ・アプリケーションとも、相互運用できるようにする。たとえば、プロプライエタリではあるがRewireという良い例がある。これがあれば、専門家向けのプロプライエタリなオーディオ・アプリケーション間で相互運用が可能になる。また、オープンソースのMIDIシーケンサもあり、楽譜をLilypond形式に直接エクスポートできる。

可能であれば、関連するアプリケーションをスイートとして同梱(iLifeのように)しよう。時間はかかるだろうが、理想的である。オープンソースにも、Kontactという素晴らしい例がある。幾つかのアプリケーションがグループ化され相互に連携し、Kontactのサイドバーから簡単に切り替えることができる。NewsForgeの2月の記事では、ScribusとGIMPとInkscapeの統合が提案されている。すべてのアプリケーションをスイートにできるとは限らないが、大概のオープンソース・アプリケーションには、統合すれば新規ユーザーにとって使いやすくなる可能性がある。

結論

いろいろと述べたきたが、新規ユーザーにも使いやすいアプリケーションやディストリビューションを実現する方法のごく一部を挙げたに過ぎない。少数とはいえ、そうした努力を始めたプロジェクトもある。こうした努力を続けることで、魅力的で、取っつきやすく、ユーザーが繰り返し使ってくれるようなソフトウェアが現れてくるのだ。Linuxを見た人が1回クリックしたらLinuxの「すごい!」機能を目の当たりにするようなLinuxディストリビューションが増えてくれば、そしてソフトウェア開発者がアプリケーション間の連携を図ることに真剣になれば、オープンソース・コミュニティは、新規ユーザーの勧誘と獲得に向けて歩みを早めるどころか、大きく前進できるだろう。

Linuxは、強力で汎用性のあるオペレーティング・システムである。クールで手放したくなくなるような機能やアプリケーションも多い。それをわかってもらうのに2か月もかかるなどということのないようにしようではないか。

Kris Shaffer 音楽家。空いている時間に、Webデザインとオープンソース技術関連の仕事をしている。最近のプロジェクトには、Mac OS X向けグラフィカル・アプリケーション――コマンドラインを使う必要のないオープンソース楽譜アプリケーションLilyPond――の製作などがある。

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