オープンなグラフィックカードが現実のものに

ビデオカードのクローズドソースドライバは、フリーソフトウェア信奉者を長年悩ませてきた厄介な問題である。たいていのビデオカードにはオープンソースドライバが存在するが、そうしたドライバはビデオカードの性能を完全に利用できていなかったため、ユーザはコストを取るか、パフォーマンスを取るかの二者択一を迫られていた。最近の朗報は、Open Graphics Projectが完全にオープンなビデオカードの実現を目指して前進しているということだ。しかし残念ながら、フリーソフトウェア信奉者が完全にオープンなビデオカードを使用できるようになるまでには、まだしばらく時間がかかるだろう。

OGPの発端は、2004年にTim Millerがオープンソースフレンドリなビデオカードを作成するというプロジェクトをLinuxカーネルメーリングリスト(LKML)で発表したことである。当時のMillerはTech Sourceに勤務していて、同社からこのプロジェクトについて支援を受けていた。

Tech Sourceは撤退したが、このプロジェクトは今も進行している。Millerはこのプロジェクトを支える「企業側の柱」として、Traversal Technologyを設立している。「我々は、OGPの仕様に基づくハードウェアを作成し、他の営利ビジネスとの仲介役を務めるための営利法人を設立した。我々の目的は、オープンアーキテクチャのグラフィックハードウェアの販売を通じて、我々の活動を維持し、今後もオープンアーキテクチャハードウェアの開発を続けていくための資金を得ることである」。

Open Graphics Foundation(OGF)の設立も進められている。MillerはOGFの役割を次のように説明している。「(OGFは、)OGPを正式に代表する中心的エージェントとしての役割を果たす。さらに、OGFは寄付金を受け付けて、それをOGPの開発者に必要なハードウェアを購入するための補助金に回す予定である」。

このプロジェクトの目標は、特許や知的所有権に煩わされずに利用でき、しっかりとドキュメント化されたプログラミングインタフェースを備え、完全なOpenGL実装をサポートし、高パフォーマンスの2Dグラフィックを実現し、ビデオ再生をサポートしている適正価格のビデオカードを作ることである。

このプロジェクトは、NvidiaやATIのようなヘビー級の3Dビデオカードに対して競争を挑むものではなく、Xglのようなソフトウェアや軽めの3Dゲームに必要な程度の3D機能をサポートするビデオカードを作成しようとする試みである。このカードで「Doom 4」をプレイするのは難しいが、Linuxデスクトップマシン用の動作保証されたビデオカードがあればいいというユーザにはぴったりである。このビデオカードの仕様はOpen Graphics DevelopmentのWebサイトで見ることができる。

Open Graphics Developmentシリーズ

Millerによれば、Traversalは遅くとも9月までにOpen Graphics Developmentシリーズ1(OGD1)カードを出荷する予定である。ただし、これはビデオカードではない。OGD1は、最終製品の開発に使用できるField-Programmable Gate Array(FPGA)ベースのテストカードである。Millerは、このカードそのものにも市場があると語っている。

「Tech Sourceから分離したため、我々はこれを自社の製品として販売してもよいだろうと判断した。FPGAベースのプロトタイプボードにはかなり大きな市場がある。さらに我々の製品は、これまで市場に出ていた製品に比べて、何分の一かの価格でより大きなロジックエリアを備えている。この製品は、我々に大きな利益をもたらすだけでなく、関心を持ってくれているパートナーに対して、我々の真剣さと競争力を示すことにもなる」。

Millerによると、このカードの価格は「最低1,000ドルだが、大量注文には割引がある」ということだ。競合製品はだいたい1,200ドル前後であるということについては、「機能は我々の製品の方が優れている」と語っている。

さらに、コントリビュータはこのカードを割安価格で入手できる。Millerによれば、「OGPに何らかの貢献をしたことを証明できる開発者」であれば、ODG1を600~700ドルで入手することができる(具体的な金額は実際のハードウェアの価格による)。

この技術を利用した固定機能ビデオカードのリリース時期や価格は、現時点ではまだ公表されていない。

ライセンス計画

現時点では、OGPで開発されたものはすべてフリーソフトウェアとしてリリースされる予定である。Millerは、最初はGNU Lesser General Public License(LGPL)を使用することも考えたが、コミュニティメンバの意見を入れて、GNU General Public License(GPL)を使用することにしたと語っている。「コミュニティのメンバが、すべてをGPLの下に置くことのメリットを私に説明してくれた。GPLは、無料使用しているユーザに自分の開発成果をコミュニティに寄付するよう求めることで、コミュニティを保護している」。

Millerは、デザイン全体をGPLの下で公開することには「少々リスクがある」と語っている。他のベンダがこのデザインを丸ごと利用し、「驚くような低価格で売り出して、我々を倒産に追い込む可能性もあるからだ」。

「低価格の製品が登場するという点だけを見れば、これはコミュニティにとってプラスである。しかし、もし私がここで十分な利益を獲得できず、今後のチップ開発に投資する資金が得られなかったとしたら、これはコミュニティにとってマイナスである。コミュニティのメンバの多くは、後でリリースする予定のHardware Description Languageの一部をエスクローに預託したことは賢明な判断だと同意してくれた。これにより、我々は当プロジェクト初のグラフィックカードであるOGC1から、OGC2開発のための初期投資と資金を回収できることだろう」。

さらにMillerは、二本立てのライセンス方式を用いる予定であることを明らかにした。「我々の技術を使用するが自分の開発成果を公開したくはない、というユーザに対しては、その権利を認める代わりに使用料を要求する。これによって得た利益を、我々はさらなる開発に当てることができる」。

OGPにとって大きな課題は資金集めである。普通なら、デスクトップLinuxの成功に利害関係を持つNovellやRed Hatなどの企業、あるいはLinuxユーザ群に製品を提供しているハードウェアベンダなどが、このプロジェクトに関心を持って支援してくれるのではないかと思うところだ。しかし、Millerや他の人々がこれらの企業に話を持ちかけても、はかばかしい成果は得られなかった。

「我々が学んだのは、オープンソース企業の財布のひもは非常に固くなっており、たいていの人は、実際のハードウェアを完成させて彼らに見せるまでは真剣に取り合ってくれないということだった。彼らが求めている結果であり、可能性ではない。2006年の8月または9月に実際の製品をリリースするまでは、我々はただの可能性にすぎないというわけだ」。

だが、彼らはそれで損をしている、とMillerは最後に述べた。「慎重なのはよいことだが、彼らがこれだけ大きな投資機会をみすみす失っているのは残念だ」。

OGPは開発者の助けも必要としている。DDRメモリコントローラ、PCIホストインタフェース、ビデオコントローラなど、いくつかの部分で開発者が必要であるとMillerは述べている。Millerによれば、興味のある人はOGPのメーリングリストに参加し、どのような作業があるのかを尋ねてみてほしいということだ。

他のプロジェクトの開発者(たとえばX.orgやLinuxカーネルの開発者など)との協力という点では、このプロジェクトは十分な関心を集めているとMillerは語っている。

「Linuxカーネルの開発者はドライバの開発に協力してくれており、他にも数多くの開発者がX11およびMesaのドライバを開発している。さらに言えば、私はX11のドライバ開発に手を出しており、それによって向こうのプロジェクトにも貢献することができている。また、私のパートナー、Andy Fongはカーネルドライバのグルである。オープンアーキテクチャのおかげで、OGAベースのカード用のドライバ開発は非常に簡単なものになるだろう」。

また、これはLinuxだけの話ではない。Millerによれば、OGPは、「このプロジェクトから利益を得る可能性があるすべての人」をターゲットにしている。「現在はLinux x86 PC上で正しく動作するように開発を進めているが、他にも数々のプラットフォーム(Solaris、Tru64、AIX、HP-UXなど)やアーキテクチャ(SPARC、Alpha、PowerPC、PA-RISCなど)のためのグラフィックカードの実験を数多く行っており、それらを実際に機能させるために何が必要かということも既に把握している」。

NewsForge.com 原文