Freespireに対するファーストインプレッション

Freespireとは、プロプライエタリ系LinuxディストリビューションのLinspireからの派生品であり、従来はサードパーティが手がけていたものであるが、今回は同社からフリー版製品としてリリースされた。現在Freespire Webサイトからは、初回ベータリリースがCD焼き込み用のISOイメージおよびVMware Virtual Applianceの形式で入手できる。全体的な仕上がり具合は、歴史が浅い分を差し引いても、かなりのレベルに到達していると言えるだろう。

Freespireは、Debian系列のディストリビューションであり、デスクトップ環境としてはKDEを採用している。ただし、ベータリリースおよび最終的な1.0リリースのベースとなっているのは、KDE 3.3および2.6.13カーネルだ。これらの旧式コンポーネントが選択された理由は、同社のロードマップによると公開までの日程を短縮するためであり、Freespireの1.0版が正式リリースされた後、すべてのメジャーコンポーネントの新規バージョンを速やかにFreespire 1.1用のテストブランチに投入する予定だとのことである。

CNRサービス

有料版のLinspireと同様に、Freespireでもデフォルトインストレーションのアプリケーションは最小限のものに止められており、その他のアプリケーションが必要であればLinspire社のCNR(Click-and-Run)サービスを介して入手するようになっている。インストール済みアプリケーションには、Firefox、Thunderbird、Gaim、OpenOffice.orgなどの同等品および、MP3再生、CDリッピング/焼き込み、BitTorrentダウンロードなどマルチメディア関連のソフトが多数バンドルされている。ただしゲーム関係については、ソリティアなど気分転換レベルのものしか用意されていない。

注目すべき点は、これらインストール済みソフトウェアの中には、Gizmo VoIPクライアント、RealPlayer、Adobe Flash、 Firefox用Mplayerプラグインなどのプロプライエタリ系アプリケーションもいくつか含まれていることで、QuickTimeおよびWindows Media関係のDLLもプレインストールされている。なお、iTunesライクなメディアプレイヤのLsongsおよび、iPhotoないしPicasaライクなスナップショットオーガナイザのLphotoも同梱されているが、これら2つのアプリケーションはLinspire社で開発されたものである。Linspire社ではこれら2つのアプリケーションはフリーソースであると謳っているが、Webサイトにはかなり以前のソースしか公開されていない。

Freespireも“新規ユーザ”主体のディストリビューションという路線を踏襲しているが、その一方で上級者やソフトウェア開発者を無視した構成にはなっていない。xtermのランチャはタスクバー上の一等地を占めており、開発者用ツール群もトップレベルのProgramsメニューからアクセスできる。デフォルトではEmacsやQt Designerおよび“vim”というアプリケーションがインストールされるが、CNRを使えばより多数のアプリケーションが利用可能だ。

CNR経由でのインストールに対応したアプリケーションは様々なカテゴリのものが収集されており、これらは個々のカテゴリにあるCNRサブメニューを選択することで取得できる(Programs -> Games -> CNRなど)。実際に使ってみると分かるが、わざわざCNRクライアントを起動して複数のリポジトリをブラウジングしてまわるよりも、こちらの方式の方が遥かに簡単に目的とするアプリケーションにたどり着くことができた。ここに選定されているアプリケーションの品揃えは全体的には満足行くものだが、私の個人的見解として、CNRからの任意選択ではなくデフォルトインストレーションに昇格させてもらいたいアプリケーションもいくつか存在している。たとえばGIMPなどは、Linuxの世界におけるデファクトスタンダードな画像エディタのはずだ。またLphotoに装備されているトリミングや赤目処理用ツールには、機能的な力不足を感じさせられる。

FreespireのカスタマがCNRサービスを利用する場合は、初年度用の年会費20ドルを支払って登録をする必要があるが、これはLinspireユーザの場合と同様である。またサインアップを行えば、30日間有効なフリートライアルも使用可能だ。このサービスからはプロプライエタリ系およびフリー系アプリケーションの双方が提供されているが、ベテランLinuxユーザにとってお馴染みのソフトウェアは、その大部分が収録されている。またCNRでは、基本的なカタログに加えて「aisles」という分類でカスタムアプリケーションリストのコーナーも設けている。こうしたaislesの中には情報的な内容のものもあれば(たとえば更新状況をまとめた「recently updated」など)、個々の利用者が個人的にまとめたものも存在する(Amazon.comのリストマニア的なもの)。

Linspireの“フリー”ディストリビューション版を作っておきながら、いざ積極的活用をするとなるとCNRのような有料サービスが必要というのは釈然としない気もするが、その点に関しては補足しておくべき事項がある。Freespireでは、ソフトウェアのインストレーションおよびパッケージ管理に、一連のAPTツール群も利用することができ、完全に無料でのLinspireリポジトリへの接続も行えるのだ。

CNRの最大のセールスポイントはユーザフレンドリな操作性にあるが、実際その使い勝手はapt-getやSynapticを使うよりも遥かに優れている。CNRに収録されているものは、すべて人間の目により厳選されたソフトウェアであり、また並記されている詳細な説明とスクリーンショットも有用だ。こうしたサービスは、Linspireのメインターゲットである初心者ユーザ市場にとっても、最適だと言えるだろう。

もっともFreespireの場合、そのターゲット市場はもう少し上級レベルのユーザだ。確かにコマンド行操作によるSynapticのインストールはそれほど大変な作業ではないが、どちらかと言えば、デフォルトでインストールしておくべき機能だろう。Linspire社の謳い文句にあるように、Freespireプロジェクトはコミュニティ主体の活動なのであれば、将来的なリリースではこうした点が改められることを期待していいだろう。

海老で鯛を釣る商法

Linspireの場合、APTおよびSynapticは同梱されていないだけではなく、ソフトウェアの追加は事実上CNRを介する方法のみに限定されている。またこれら2つのディストリビューションには共通して、ビデオドライバ、MP3サポートなどのクローズソースのコンポーネントおよび、FlashやGizmoといったプロプライエタリ系アプリケーションが同梱されているが、 Freespireの“フリー”は商用のLinspireよりも大幅に高いものだと言えるだろう。

Linspire社の目論見としては、ディストリビューション本体を無料化すると同時に、有料なCNRサービスへのアクセスを促進することで、より多くの収入が得られることを見込んでいると思われる。こうしたビジネスプランが成立しているのは、競合するディストリビューションの大部分はいずれも無料で配布されている現状において、最初に入手コストを要する製品が潜在的カスタマに敬遠されるであろうことは容易に想像が付くからだ。まずはカスタマにドアを開かせることが肝要であり、有料な商品を売りつけるのはその後から、ということなのだろう。

実際FreespireのWebサイトにある導入プランの解説ページでは、既存のLinspireライクなFreespireおよび、プロプライエタリ系コードをまったく用いていないFreespire OSS Editionという、2つのFreespireディストリビューションについての説明がされている。制作側の構想としては、今後ともディストリビューションを3本立てで維持してゆくメリットは薄く、そのうち2つのディストリビューションが大差ない存在と化した現在、最終的に有料版Linspireは廃止する方向で検討しているように感じられる。

Linspire社の実際のスキームがどのようなものであれ、現状のFreespireディストリビューションが同等の有料版ディストリビューションよりも魅力的であるのは事実だ。そこで採用されているのは、初期費用は無料化しておき、利便性と引き替えなら毎月の課金を厭わないという人間にはCNRを提供し、そうでない人間には伝統的なパッケージ管理システムを提示するという方式なのだ。これまではその開発活動の支援のあり方が、長年にわたりフリーソフトウェア擁護派からの批判を浴びてきた同社であるが、ここに至ってFreespireという強力なディストリビューションを提供してくれたのである。

NewsForge.com 原文