Syllable:一味違ったオープンソースOS

Syllableは、低レベルのハードウェア環境下での高速動作を目指した新型OSである。私が実際に試用したところ、目を見張らされる点が多々存在した。Syllableは大きな可能性を秘めた、偉大なOSだと言っていいだろう。

私がダウンロードしたのは、最新の安定版リリースに該当するGPLライセンスOSのバージョン0.6.1である。ISOファイルからCDへの焼き込みは簡単であったが、インストール作業はそれほどスムースには運ばなかった。より具体的には、パーティショニングをマニュアルで実行した後、ブートローダをセットアップする必要がある。これは、それほど高度な技能が必要となる訳ではないが、Syllableインストーラの場合、Linuxディストリビューションの自動インストールを実行すると、色々と不満な点が残されるのだ。パーティショニングの経験者にとってインストールはそれほど難しい作業ではないが、初心者にとってはそうはいかないだろう。とは言うものの、オンラインドキュメントを参照すれば、操作に必要なすべての情報が分かりやすい形式で解説されている。

今回のテストに用いたものは1.8GHz Pentium 4および512 MB RAMを搭載したマシンであったが、インストール完了後のSyllableの示した動作速度には正直驚かされてしまった。動作速度に関する限りSyllableは、Windows、Linux、Solarisを圧倒しているのである。ブートローダの起動からログインプロンプトの表示までに要したのは、わずか8秒弱に過ぎない。また、ログイン手続きからデスクトップ環境が使用可能になるまでの時間も、2秒ないしそれ以下であった。ここまでくると、コンピュータ側のPOST(power-on self test)に取られている時間の方が、OS側のブート処理よりも長いのではないだろうか。各種アプリケーションの起動も、1秒程度で終了している(ただしWebブラウザの場合は2秒ほどかかる)。私の経験からすると、通常インストールでこれほどの軽快なレスポンスを示すデスクトップOSはお目にかかったことがない。あえて匹敵するものを挙げるなら、信頼性が取り柄で私が使い倒しているPalm PDAくらいなものだろう。

Syllableの特長としては、そのシンプルさにも注目しなければならない。パワーユーザである私としては細々とした点までユーザ設定できる方式が好みなのだが、シンプルで分かりやすいレイアウトが嫌いだという訳ではない。こうしたシンプルさや操作性という観点から見た場合、Syllableは卓越した存在だと言っていいだろ。たしかにユーザ設定できる項目は限られているが、OSの運用に必要な設定機能はすべて提供されている。絞り込まれた設定項目は、細かな設定はできない反面、誰でも簡単に理解できるだろう。このように設定環境は高度に単純化されているため、デスクトップの全機能を(設定可能な範囲で)自分の好みにあった環境に整えるまでに、初回ブート時から10分もかからなかった。

遭遇した各種の不具合

これまで述べたような長所がある一方で、開発途上のソフトウェアである以上、未解決の問題が色々と残されているのも事実だ。実際、私がSyllableを試用している間も、各種の問題に遭遇した。そのいくつかは純然たるバグであったが、その他にもユーザインタフェースやプログラムの安定性上の問題もあり、また然るべき機能が装備されていないというものもあった。

最初に遭遇した問題は、ネットワークの設定に関するものであった。この場合、ネットワーク設定を入力しても、その情報が保存されないのだ。数回試しても上手く行かなかったので、仕方なくWebを検索して設定ファイルを手動で直接編集する方法を探し出した。編集後のファイルを保存すると、正常にネットワーク接続することができた。なお、この問題をSyllableのマニュアルwikiにレポートしたところ、新しいビルドでこのバグは修正されたので次回リリースでは解決されているはずだとの報告を受けている。OSセットアップ時に私が遭遇した問題はこれだけである。

ユーザインタフェース関連の問題は、どれもマイナーなものに過ぎない。私が気づいた箇所は、機能的な問題というよりも、ユーザインタフェース的な表示上の問題ばかりであった。例えば、あるウィンドウでは「Cancel」と「OK」という順番でボタンが表示されているのに、別のウィンドウでは「OK」の次に「Cancel」という逆の順番になっている、といった類のものである。また設定関連のウィンドウで、「save」ボタンが表示されるものもあれば、そうしたボタンが用意されていないものもある(後者の場合はウィンドウを閉じた際に自動保存される)。これらは機能的な問題ではないが、こうした不整合性が残されていると操作をする際に混乱を来す可能性があるだろう。

3つ目の問題は、各種プログラムの安定性に関するものだ。私が試した範囲では、日付/時刻ユーティリティおよびWebブラウザが、操作中にフリーズしてしまった。もっとも、いずれの場合もOS本体の動作には何らの影響も及ぼさず、何事もなかったかのようにOS本体の処理は継続されていた。問題は、フリーズしたアプリケーションを強制終了させる方法が不明だったことだが、これらを最小化したところ、他の作業を続行することができた。この時、他のブラウザのウィンドウを開いたり、他のプログラムにアクセスすることは何の支障もなく実行できたのだが、OSのリブートだけは正常に進行されなかった。どうやらSyllableのシャットダウンプロセスはフリーズ状態のアプリケーションを終了させることができないみたいで、こうしたケースでは、ユーザがマニュアルでリブート操作をするまで身動きが取れなくなるようである。これらの不具合は頻発するものでもないので、発生したら不便だという程度のマイナーな問題だと言えるだろう。

最後に説明するのは、私にとっては最大の問題でもあるのだが、それは一部アプリケーションに必要な機能が欠如しているという点である。繰り返しになるが、これらはベータ版OSにバンドルされたベータ版ソフトウェアなので、この段階で完璧を期すのは酷というものであろう。とは言うものの、あるべき機能が欠如していたり、付属アプリケーションに機能的な制限が付随していると、OSそのものの実用性が大幅に引き下げられてしまうのも事実である。

例えばSyllableに用意されているWebブラウザAbrowseは、基本的なHTMLおよびCSSにしか対応していない。このため、My Yahoo!やGmailなどのWebページは利用することができないのだ。もっとも、私が試したNewsForgeやOSnewsなど単純な構造のWebページについては、すべて問題なく表示された。また電子メールクライアントのWhisperは、手元の環境では正常に動作しなかった。私のアカウントの電子メールをチェックさせると失敗するくせに、同じメッセージを何度もダウンロードできるという現象が発生するのだ。また私が試した限り、作成したメッセージはいずれも送信することができず、Whisperがエラーを報告するだけで終わってしまった。こうしたバグもやがては解決される種類のものなのだろうが、現時点でこうした不具合が存在するという事実は、Syllableの実用的な評価を落とさざるを得ないだろう。

総合的に判断すると、Syllableの動作速度と操作性には非常に満足させられるものがある。大方の問題点は、このOSが未完成段階にある事に起因していると言っていいだろう。不具合はマイナーなものばかりであるし、各種アプリケーションにおける必要な機能の不在も、開発途上であるからには仕方ないという一面がある。非常に残念なことは、バージョン0.4段階のブラウザは未完成の度合いが高く、そのような問題があるため、フルタイムで使用するデスクトップOSとしての及第点を現状のSyllableには与えられないことだ。

色々と問題は残されているものの、私としては、動作速度の速さ、構成のシンプルさ、セキュリティの高さは、評価されてしかるべきだと思っている。少し考えれば分かることだが、どこの誰がSyllableをターゲットとしたウィルスを作成しようとするだろうか? また現状で発揮される十二分な安定性と高速性に対して、いったいこれ以上何を求める余地があるだろうか?

現在使用中のメインOSを乗り換えようとまでは思わないが、Syllableが実に良くできたOSであるのは間違いがない。これだけ高速かつ実用的なOSを作成したのはごく小規模なチームであり、そうした事実には誰もが勇気づけられるはずだ。

NewsForge.com 原文