レビュー:堅実な作りだが斬新(edgy)とは言い難いUbuntu Edgy

スケジュール通りに行けば、Ubuntuチームは本日、コードネームEdgy Eftと名付けられたUbuntu 6.10をリリースする予定である。既に私は過去数週間に渡ってベータバージョンおよびリリース候補を試用してきており、今回のリリースがDapperからの堅実かつ実用的なアップグレードであることを確認しているが、同時に承知させられているのは、それほどの新機軸が取り込まれている訳でもないことだ。

今回のリリースでのlive CDデスクトップインストーラは、x86、AMD64、PowerPC用のものが用意されており、サーバインストールCDに関しては、x86、PowerPC、AMD64、UltraSPARCシステムのものが利用可能だ。また、OEMシステムやRAMが192MB以下のシステムおよびその他の特殊なケース用として、x86、PowerPC、AMD64用の代替インストールCDも作成されている。

Ubuntuのインストール作業は非常に簡単だ。私の場合、UbuntuおよびKubuntu用のlive CDインストーラを片手に複数のマシンへのインストールをしたが、UbuntuサーバについてはVMware Serverを介してのインストールを行ってみた。こうしたインストールの作業自体はどれも単純であり、すべて問題なく終了している。インストールに要する時間はマシンの処理速度によっても変わるが、おおよそ20分から1時間程度はかかっており、その大半はバックグラウンドにおけるファイルのコピー作業で費やされた分であった。

Edgyにおける変更点

Ubuntu Edgyに施された最大の変更箇所だが、これについては一般のユーザが気づかなくても不思議はないだろう。それは、Unix System Vのinitをベースとした従来型のinitデーモンがUpstartで置き換えられたのである。

置き換えられた理由の1つは、ブートプロセスにおける依存性問題に対処するためであり、これは例えば、USBないしネットワークドライブをマウントする必要があるのにUSBやネットワークのサブシステムが準備できていない、といった状況が相当する。これは些細な不具合ではあるが、私にとってもUbuntu Dapperを使っていた間に常に煩わされていた問題の1つであった。私の環境ではUSBドライブを/etc/fstabに設定してブート時にマウントするようにしてあるのだが、たいていの場合USBサブシステムの用意ができていない段階でディスクをマウントしようとするので、リブートをする際にファイルシステムが無い旨を告げるエラーが発生するのである。

Ubuntu Edgy GNOME desktop
Ubuntu EdgyのGNOMEデスクトップ(クリックで拡大)

こうしたUpstartへの移行は透過的な変更であり、大方のユーザは気づきもしないだろう。システムが“正常に動作”している限り、Ubuntuユーザの大部分は、何か内部的な変更があったかを知ろうとはしないものだ。

実際、今回のEdgyにおける変更の多くは、ユーザにとって非常に気づきにくい部分に施されている。アップデートの内容は、Kubuntuユーザ用のKDE 3.5.5やGNOME 2.16を筆頭に、Evolution 2.8.1、Firefox 2.0、OpenOffice.org 2.0.4、Gaim 2.0beta3など非常に多岐にわたっているのだが、その大半は微妙な変更ばかりなのだ。

Edgyでは、いくつかのアプリケーションが追加採用された。例えばEdgyには、GNOME 2.16の中にあるメモ帳アプリケーションのTomboyも組み込まれている。また今回のリリースから“パーソナルフォトマネージャ”のF-Spotが利用できるようになったのは、写真愛好家たちにとっての朗報だろう。

意外だったのはGnucashがデフォルトでEdgyにインストールされていなかったことで、この2.0リリースは7月には公開されており、現状でリポジトリから入手できるのである。またUbuntuにデフォルトで用意されているアプリケーション群の中に、ファイナンス関係のものがないのも見劣りする点の1つだ。

視覚に障害のあるユーザにとっての朗報は、GNOME 2.16の一部としてEdgyでOrcaスクリーンリーダが利用できるようになったことだろう。私個人としてはスクリーンリーダを使う必要はないのだが、その使用感を確かめる目的でOrcaを起動してみた。結論を言うと、コンセプト的には優れているのだが、そのまま実用に供せるというレベルでもない。

例えばOrcaは、Rhythmboxが動作していると何も読み上げることができない。もちろんRhythmboxを停止させれば、メニューやタイトルの読み上げはもとより、一部のアプリケーション内テキストの読み上げもできるのだが、この場合の対応具合はどのアプリケーションをOrcaの読み取り対象とするかで大きく異なってくる。より具体的に説明すると、OrcaはGNOMEデスクトップのメニューやテキストおよびEvolutionはサポートしているものの、GNOME上で動かしているKDEアプリケーションのテキストを読み上げることはできず、GNOMEアプリケーションについてはいずれも未対応だ。その他、Orcaの合成音声を聞き取るには若干の慣れが必要だと思うが、これはすべての合成音声に共通する問題だろう。

Ubuntu 6.10を試用していて感じた不満の1つは、どのアプリケーションもクラッシュしなかったことだ。と言うのは冗談だが、実のところは、バグレポートの作成をサポートしてくれるApportを試す機会がないかと適当なチャンスをうかがっていたのである。大部分のユーザにとってバグレポートの報告というのは馴染みのない作業だろうが、このApportは、アプリケーションのクラッシュ時におけるバグレポート作成を一部自動化してくれるソフトなのだ。

結局、今回の試用時にクラッシュしたのはデイリービルド版のFirefox 3.0だけであり、このアプリケーションを起動させると直後にsegfaultが発生したのだが、それに伴って.crashファイルが/var/crashに作成されていた。そして肝心のApportはこのクラッシュを検知できず、手作業での起動も試みたが、結果は同じであった。

Kubuntu Edgy KDE desktop
Kubuntu EdgyのKDEデスクトップ(クリックで拡大)

Rhythmboxについては、クラッシュはしなかったものの、安定性の面に問題があるように感じた。と言うのも、かなりの頻度でフリーズが発生し、ウィンドウのサイズを変更しようとしただけでフリーズしたケースにも何回か遭遇したのである。

従来のリリースと同様、Edgyにおけるハードウェアの対応レベルには非常に感服させられるものがある。手元で試した限り、それがワークステーションでもラップトップでも特に問題はなく、ワイヤレスカードやサウンドカード関連のトラブルも生じなかった。またKubuntu上でプリンタ(Brother 1270N)をセットアップしてみたが、これも正常に動作してくれた。Epson製のUSBスキャナもスムースに認識され、Kooka経由で問題なく使用できている。

総括すると、UbuntuおよびKubuntuは堅実に構成されたデスクトップシステムと言ってよいだろう。私個人としてはUbuntuのネットワーク設定ツールの方がKubuntuのものより好みだが、大方においてどちらも使いやすいことに変わりはない。今回私は、メインで使っているワークステーションにKubuntuをインストールしてから、apt-get経由でUbuntuデスクトップパッケージを追加してみた。どちらのインストールでもトラブルは発生せず、テスト用に両者のデスクトップ環境を併用しつづけたが、快適に操作できている。

Edgyのサーバリリースに関しては、Dapperでも利用できたLAMPサーバインストールおよびDNSサーバインストールという2種類のインストールオプションが利用できる。ただしサーバアプリケーション用の設定ツールは用意されていない。Ubuntuがデスクトップ環境に普及した理由の1つは、デスクトップユーザの多くが必要とする各種のツール群を提供していたからだ。ところがサーバ環境となると、Ubuntuに用意されているのは単純なインストール機能だけであり、管理者が必要とするであろうツールについては基本的な機能しか装備されていない。こうした状況を受け、Ubuntu開発者メーリングリストでは現在、Apache、BIND、Postfixの付属ツール以外にも独自のサーバ設定ツールを提供する必要性についての議論が続けられている。

これはパッケージのインストール作業をしているときに気づいたのだが、Edgyでは新しいギミックとしてapt-get用のautoremove機能が追加されている。このコマンドはapt-get remove package という構文で使用でき、これを実行すると指定パッケージの削除後に不用となる依存関係が存在した場合に、apt-getが該当するものを自動的に削除するかをユーザに問い合わせてくれるので、無用化した付属パッケージ群をいちいち手作業で削除する手間から解放されるのだ。

Edgyはその名に恥じぬ構成か?

Mark Shuttleworth氏によってUbuntu 6.10のリリースが予告されたのは4月のことであり、その内容は「最先端ないしは斬新的」なリリースとなる予感を抱かせるものであった。そして現在、予告されたリリースが公開される時機が到来したのだが、はたしてこれは最先端という表現に値するのだろうか?

一部に関してはイエスである。特定のディストリビューションにおけるinitシステムの置き換えという作業を、基本的に1回の(短い)リリースサイクルでやってのけたのは、称賛に値する大胆な行為と言っていいだろう。今回開発者たちは、GaimやFirefox(2.0版のファイナルリリース前)など一部のベータパッケージを採用することで、旧式化したバージョンをUbuntu Edgyが抱え込む状況を回避したが、これはISOの確定とほぼ時期を同一とする決断であった。またXenもEdgyのパッケージリポジトリに含まれているが、これはデフォルトでのセットアップは行われない。

その一方で、Edgyの大部分は非常に保守的な構成でまとめられている、と言わざるを得ない。いわゆる“うねるウィンドウ”(Compiz/Beryl)はデフォルトではインストールされないし、Network ManagerもEdgyのデフォルトパッケージには組み込まれておらず、それはSMARTパッケージマネージャについても同様で、AMD64システム上で32ビットアプリケーションを利用したい場合にx86パッケージを提供するmultiarchも同じ扱いだ。Beagleに関しても、他のディストリビューションでは既に採用例があるのに、デフォルトではインストールされない。

Edgyはアップグレードに値するだけのリリースではあるが、それは、自分のお気に入りのプログラムの最新版を取りそろえたデスクトップ環境さえ使えればDapperまで得られていた長期サポートは不用だというユーザにとっての話であって、事前に期待されていたような斬新的な構成のリリースだとは言えない。

NewsForge.com 原文