Krita 1.6:ラスタイメージ用エディタの最新バージョン

今月上旬、ラスタイメージ用エディタとしてKOffice用オフィススイートの一角を形成するKritaのバージョン1.6が公開された。ここで短絡してはいけない。確かにKritaはKOfficeのバンドルソフトの1つではあるが、決してMicrosoft Office付属のPicture Managerのようなオマケ扱いの貧弱なツールではない。実際Kritaは、完成されたラスタグラフィック用ソフトとして十分に通用するだけの機能を備えているのだ。

Krita 1.6は、KOfficeのメインソースパッケージの一部として入手できる他、独立したバイナリパッケージとしてもダウンロードできる。なおKOfficeが対応しているのはKDE 3.3以降だが、Kritaの使用に必要なパッケージはkoffice-libs、koffice-data、krita-dataだけだ。

KritaのカラーマネージメントにはLittleCMSが用いられており、これは組み込みプロファイルの読み書きが行える他、ユーザによるモニタプロファイルおよびレンダリングインテントの指定、新規イメージへの特定プロファイルの適用、クリップボード経由でのイメージのインポート時に施す処置を指定できる。

このプログラムは感圧機能にも対応しており、グラフィックタブレットを用いたペン入力、消しゴム処理、カーソル移動などが行える。なお現状でティルト機能はサポートされていないが、必要なフレームワークは既に存在しているので、おそらく将来的なリリースで実装されると見ていいだろう。

Kritaを起動すると新規ドキュメント用のダイアログが表示されるが、ここでは新規の空白イメージに対する既存テンプレートの適用ないしカスタム設定を施すことができる。デフォルトのKritaでは、ウィンドウ上にすべてのインタフェースが表示されるが、その配置は左側にツールストリップ、右側にレイヤおよびオプション設定用パレット、上側にブラシ選択ツールおよびメニューバーという位置関係になる。これらはすべて必要に応じた非表示化ないし表示位置の変更が可能だ。

Kritaを初めて扱うユーザがおそらく意外に感じるのは、ツールストリップ上に配置されたシェイプ描画ツールの存在だろう。これはベクトル系のドローイングアプリケーションではお馴染みのツールだが、その一方でいわゆる“鉛筆ツール”を探そうとしても見つからないはずだ。ここが他のイメージエディタとKritaとで若干異なる点であって、ユーザによる描画モード(フリーハンドないしその他の図形要素)の指定はツールストリップを介して行い、描画のスタイルは画面上側にあるブラシ選択ツールで制御するようになっている。オプションとしては、鉛筆、ペイントブラシ、エアブラシ、消しゴムが選択できる。

同様にコントラストやカラーバランスなどの調整も「Filters」メニューの「Adjust」サブメニューから必要な操作を選択して実行する。またKrita上のイメージ中では選択範囲に対する回転やスケール変更を施せるが、一部の変形操作(反転や斜変形)についてはレイヤ単位でしか行えない。

このように一部のツールや操作についてはKrita独自の方式が採用されているものの、その他の機能については使ってみれば自然と分かるものばかりだ。範囲選択、カラー指定、文字ツール、レイヤなどの各種オプションや切り抜き/リサイズなどの操作については、特に説明は不用だろう。またキーボードを用いたショートカットも、その多くはGIMPのものと共通している。

バージョン1.6での新機能

Krita 1.6
Krita 1.6の水彩画モード(クリックで拡大)

今回のリリースでは、完全に新規なツールがいくつか追加されている。その1つがベジエ曲線ツールで、これは他の図形と同様に、3次ベジエのパスを個別に描画ないし調整するためのものだ。描画の完了したパスについては、任意のブラシオプションを用いて塗りつぶすことができる。

ベジエ選択ツールも、基本的には同様の操作を行うためのものだ。その他に追加されたのが境界部を選択するためのマグネット選択ツールで、これと同じ機能はアプリケーションによって「エッジ選択」、「ハサミ選択」、「スマート選択」など様々な名称で呼ばれている。このツールを用いてユーザが、イメージ上にある物体のおおよその外形線をトレースすると、データ的に境界線として認識される部分をコンピュータが自動判定してくれる。この種の自動判定はどれも完全なものではないが、有益なツールであることに間違いはない。

Krita 1.6では、同アプリケーションとしては初のパースペクティブ制御機能も実装されており、具体的にはパースペクティブ変更ツールおよび、2Dグリッドオーバーレイの消失点をユーザ指定するための“パースペクティブグリッド”などを操作することになる。変更後のグリッドは、パースをつけたラインを描画する際のガイドとして機能する。私も実際に使ってみたが、これらの機能を使いこなすには多少の習熟が必要だろう。

今回のリリースでは、アンシャープマスク、ノイズ、アジャスタブルブラーなど、用途の広いフィルタが追加された。またレイヤマスクについては、基本的な機能が拡張されている。例えば調整レイヤはバージョン1.5段階から利用できたが、その機能は限定的であり、今回のリリースでは従来不可能であったブライトネスやコントラストの調整が行えるようになった。

変更履歴の詳細については、KOfficeのサイトを参照して頂きたい。

Kritaの将来的なビジョン

Kritaのメンテナを務めるBoudewijn Rempt氏は、同プロジェクトの現状と将来的なビジョンについて説明してくれた。同氏によると、ラスタグラフィックのユーザから出される要求は非常に多様であり、プロジェクトの開発者にも時間的な制限があるため、これらのすべてに応えるのは不可能だということである。「手元にあるアプリが、そこそこの機能を備えたとします。すると、その途端に様々な要求が出されてきて、プロの写真家ならRAWイメージの非破壊的な編集機能が欲しい、イラストレータならより高度なブラシやフィルタが欲しい、Web開発者ならレイヤをスクリプタブル化して欲しいといった具合です……」。

開発チームとしては、すべての希望を一度にかなえる訳にはいかないので、今回の1.6リリースでは各分野にできるだけ均等に応える形で新機能の追加を行ったとのことである。例えばRempt氏によると、今回施されたアンシャープマスクの追加および調整レイヤの機能拡張は写真を扱うユーザにとって有用な機能であり、ベジエ曲線ツールとレイヤグループは主として“イラストレータとWeb開発者”の利便を図った措置だということになる。

次回のリリースについて語る際にRempt氏が特に強調していたのがナチュラルメディアツール群であり、今回のKrita 1.5で言えば新たに導入された“水彩画”風の編集モードがこれに相当する。2.0シリーズ用のプラグイン開発に携わっているのは、Rempt氏およびCyrille Berger氏の両名だが、Berger氏はダイナミックブラシのアーキテクチャを担当し、Rempt氏はCPaint(Irixベースの水墨画風ブラシシミュレータ)をKritaのコアに移植する作業を進めている。

本年初頭にRempt氏が私に語ってくれた説明 によると、こうした“クリエイティブ”なツール群こそがKritaの未来を切り開く存在だと同氏は見ているが、同時にこれらの追加はKrita本体にも大幅な変化を迫ることになるだろう、ということであった。例えば今回追加された水彩画のシミュレート機能は、既存のイメージモードとは完全に異なる描画モードであって、従来のフィルタや効果の中には同モードで使用できないものがある他、いったん通常のカラーモードに変換したら、その後で復帰させることはできない。

いずれにせよKritaの進むべき将来的なビジョンとしては、イメージの操作を充実させることよりも、イメージを創造する機能に重点が置かれている。これまでに同アプリケーションを扱ったことがないのであれば、今回の1.6リリースを1つの好機と捉えて、その機能を心ゆくまで試してみても良いのではないだろうか。

カラーモード
Kritaでは、標準的な8ビット/16ビット整数モードのグレースケール、RGB、CMYK、YCbCrの各カラーモデルを始め、16ビット/32ビット浮動小数点モードのRGB、16ビット整数のL*a*b、32ビット浮動小数点のLMSがサポートされている。その他、水彩画のシミュレート用として8ビット整数RGBモードも利用できる。

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