Adobe Flash Player 9 for Linuxベータバージョンの試用レポート

Flash PlayerのLinux対応版は未だバージョン7のまま据え置かれており、WindowsおよびMac用のものに比べると、期間にして2年以上、バージョン換算でメジャー番号2つ分は遅れており、その間に1件の企業買収劇まで挟んでいるという始末である。ところが先日、ついにAdobeからFlash Player 9 for Linuxのベータリリースが公開された。長いこと待望されていた新バージョンだが、はたして待たされただけの価値はあるのだろうか? 現状でインストールするレベルにまで仕上がっているのだろうか? それとも少し待ってでも安定バージョンの正式リリースを入手すべきだろうか?

問題のベータバージョンはAdobe Labsからダウンロードでき、その際にユーザ登録などをする必要はない。ただし現状でダウンロードできるのは32ビット版x86 Linux用のELFバイナリのみであり、オーディオ機能を使うにはALSAが必要である。その代わりという訳でもないだろうが、今回はNetscape Plugin互換のブラウザ用プラグインだけでなく、スタンドアローン形式のGTKプレーヤも提供されている。

いずれのパッケージも通常のgzip圧縮されたtarボールで提供されており、その中にはバイナリおよびreadme.txtが収録されている。ブラウザ用プラグインのインストール先は、ユーザ各自のプラグイン用フォルダ(FirefoxおよびMozilla Seamonkeyの場合は ~/.mozilla/plugins)またはシステム共通のプラグイン用フォルダ(通常は/usr/lib/firefox/plugins/ないし/usr/lib/mozilla/plugins)とすればよい。スタンドアローン版プレーヤは、どの位置にあっても実行できる。

既存コンテンツへの対応状況

今回のテストでは、手元のUbuntu 6.06システムにインストールされていたFlash 7プラグインをバックアップしておき、Flash 9ベータバージョンを数日使い続けてみることにした。結論から先に言うと、ネット上に出回っている大半のFlashコンテンツは、今回のベータバージョンで一通り再生できるようである。例えばプレーヤの対応度を確認するため、Flashを利用している様々なWebサイトにアクセスしたが、いきなりクラッシュするという事態には遭遇しなかった。インタラクティブ形式のFlashゲームも同様で、BGM再生も含め、どれも正常にプレイできている。しかもリリースノートにある注意書きに反し、ブラウザ用プラグインをFirefoxではなくOperaにインストールしてみたところ、ごく正常に機能してしまったくらいである。

ただし、ビデオの再生に関しては、奇妙な振る舞いをするケースに遭遇した。YouTubeはもとより(ここではFlash 7版のビデオコーディックを使用しているからある意味当然だが)、ESPNおよびその他ランダムに選んだビデオ系サイトでも、収録コンテンツは正常に再生できている。問題が発生したのは、Adobe系フォーラムにも報告されているように、Flash 9版ビデオのクリッププレーヤを採用しているNBCテレビのLate Night with Conan O’Brienサイトにあるコンテンツをプラグイン再生させてみた時である。複数のユーザからサウンド再生上の不具合やビデオのフリーズといった問題がレポートされていたが、私の場合そうした状況には遭遇せず、最初の段階ではすべてが正常に機能していたので、試しにウィンドウをいくつか開いて複数のビデオストリームを再生させてみたが、それでも問題は生じなかった。ところが、そうこうするうちに画面が乱れ始め、ビデオ再生はフリーズしてしまったのである。結局、再起動させるまでビデオ再生は再開できなかった。またcomedycentral.comなど、最初からまったくコンテンツ再生ができないサイトも存在するようである。

先のフォーラムにはこの件に関するスレッドが立っており、それによると既に開発チームはこの問題を認識していて、現在対策が進められているとのことだ。なおAdobeからは、Flash 9ベータバージョンに対するいくつかのマイナーアップデートがリリースされているが、それに関するアナウンスは出されていない。今回参考にしたスレッドは10月に立てられたものだが、その段階でかなりのユーザが再生開始直後のフリーズ現象を経験しているようであり、ブラウザそのものがクラッシュする場合もあることが報告されている。

スタンドアローン版Flashプレーヤ

今回追加されたスタンドアローン版プレーヤは、非常に出来がいい。インタフェースは使いやすくまとまっており、システムファイルを選択することや、GNOMEクリップボードとの併用も可能だ(この機能は複雑なURLでリンクされたビデオを扱う場合に不可欠)。また.SWFファイルはローカルかリモートかを問わず読み込み可能で、いずれの場合もブックマークしておくことができる。このように非常に出来のいいプレーヤなのだが、Webブラウザ用コンポーネントは省かれているため、オンライン再生を前提としたFlashコンテンツについては一部の機能が使えないケースも覚悟しなければならない。それでもWootブログからリンクされたジョーク系Flashゲームを使う場合は問題なかったし、URLにあるEMBED情報を取り出す労を厭わなければ、Web用のビデオコンテンツも再生できるようだ。

次に、不満足な点の報告に移ろう。実のところ、このスタンドアローン版プレーヤの完成度はそれほど高くないのだ。例えば、ユーザの利便性を考えてスタティックなHTMLに.swfを埋め込んでいるサイトも存在するが、そうしたファイルをこのプレーヤは認識することができない。より深刻な問題は、YouTubeなどに収録されているスタンドアローン版Flash用ビデオファイル(.flv)を再生できないことで、奇妙なことに、これらのファイルが.swfにラッピングしてある場合は正常に再生できるのである。とは言うものの、このプレーヤのコンセプトにはかなり惹かれるものがあり、仮に私がFlashゲームの中毒患者であれば、そうしたゲームの実行用ソフトとして手元に置いておくだろう。実際、今回のテスト終了後にブラウザ用プラグインは安定したFlash 7バージョンに戻すとしても、このプレーヤだけは残しておこうか検討しているところである。

今回のFlash 9ベータバージョンに関するテストでは、Gnashプロジェクトが作成したビデオ再生のテスト環境も試してみた。結果はある程度は予想できたことだが、いくつかのテストに失敗している。またpowerflasher.deに用意されているストレステストには合格レベルに達したものの(このサイトへのアクセスそのものは特に危険ではない)そのパフォーマンスは月並みな結果でしかなかった。もっとも、この種のテスト結果は眉唾物だと思っている読者も多いかもしれない。私の経験からすると、大部分のFlashコンテンツはパフォーマンスの改善にさほどの関心を払っていないはずだ。

今後の展望

最後に1つ付け加えておくべきは、Adobeから提供されているflashsupportというライブラリの存在で、これはFlash 9プレーヤのAPIに対するCバインディングを行うために用意された“追加インタフェースサポート”のレイヤである。このライブラリは開発途上だが、現段階のものであっても、Open Sound Systemのサポート(これによりサウンド関係の問題が解決したことがフォーラムにいくつかレポートされている)および、OpenSSLやInternational Components for Unicodeの追加をすることができる。flashsupportと言っても実質的には1つのファイルでしかなく、下記に一部を抜粋したライセンス規約にあるように、そのソースコードは自由に使用することができる。

Adobe Systems Incorporated grants to you a perpetual, worldwide, non-exclusive, no-charge, royalty-free, irrevocable copyright license, to reproduce, prepare derivative works of, publicly display, publicly perform, and distribute this source code and such derivative works in source or object code form without any attribution requirements.(Adobe Systems Inc.はここに、独占的な使用権、使用料の請求権、特許の行使権を伴わない、あらゆる地域において永続的に有効かつ変更不可能な著作権を提供するものであり、本ソースコードについては、二次的使用、派生ソフトの作成、外部への公開、公共の場での使用や頒布および、派生ソフトのソースないしはオブジェクトコードの形態による頒布をする際に、権利者に関する表記をする必要はないものとする)。

これを読んで、どのような感想を持たれただろうか? 過去を振り返ると、Adobeという企業のLinuxおよびオープンソースに対する態度は常に揺れ続けてきた。フリーソフトウェアの保守派に言わせるとFlashなどは不倶戴天の仇敵であるはずなのだが、その親玉であるAdobeは今年の秋に、Flash 9の主要コンポーネントの1つであるActionScript仮想マシンをMozilla Foundationに寄贈しており、今では同プレーヤ用のライブラリをオープンソース(あるいはフリーソフトウェア)化してリリースしているのだ。

私自身は、これでAdobeもフリーソフトウェアの擁護派になったと単純に喜ぶ気にはなれないが(仮に実現すれば同社SDK群の使用制限を緩和する方向に進むであろうし、ひょっとすればLightroomのオープンソース化につながるかもしれない)、一方で今回の件はたとえ小さなステップであっても歓迎すべき歩み寄りであるのは間違いなく、それがプロプライエタリ系ソフトウェアの権化と見なされていた企業であればなおさらである。

Flash Player 9 beta for Linuxについては、その開発プロセスにおけるオープン性を評価すべきであろう。それと言うのも、Adobeの公式ブログで進行状況を逐一追跡することができ、同社のフォーラムにアクセスすれば他のユーザとの意見交換もできるからだ。プラグインそのものには未完成の部分が残されてはいるが、安定バージョンに達するのはそれほど先の出来事ではないだろう。またスタンドアローン版プレーヤは、その正式公開を待つ価値のあるポテンシャルを有している。

NewsForge.com 原文