Mac OS X用オープンソースアプリケーションの現状

Macユーザが現状で利用できるフリーソフトウェアの種類は、他のUnix系ユーザに比べて決して引けを取るものではないが、その功績はAppleの主力オペレーティングシステムに対するBSD陣営のサポート努力に帰すべきだろう。また様々なコンソール、デーモン、X11系アプリケーションのインストールや実行手順は、ソフトウェアパッケージ管理プロジェクトのFinkおよびMacPorts(旧DarwinPorts)などのおかげで、かなりのレベルにまで簡単化されている。とは言うものの、ネイティブなMac APIを組み込んで純正のMac用ソフトに近いルックアンドフィールを備えたフリー/オープンソース系アプリケーションというものは存在するのだろうか?

そうしたソフトも確かに存在しており、これらは基本的にX11ないしコンソールベースのアプリケーションを基にCocoa版が作成されたものおよび、最初からMac用アプリケーションとして構築されたものという2つの系統に分類することができる。ここでは、Mac OS Xで利用可能なフリーアプリケーションの中でも、現状でトップレベルの完成度に達している実用的なソフトウェアをいくつか紹介することにしよう。

NeoOffice

OpenOffice.orgスイートの正式版はX11をインストールしたMacで使うことができるものの、Aquaのルックアンドフィールは備えていない。これに対し、ネイティブのアプリケーションに近いルックアンドフィールを有しているのが、OpenOffice.orgをカスタマイズして生まれたNeoOfficeである。このソフトの場合、システムフォントを用いた画面表示、ネイティブのプリントドライバを用いた印刷、ドラッグアンドドロップ操作による他のMacアプリケーションとの間でのテキストやデータのやりとりが可能だ。しかも理解しやすいインタフェースや、各種Microsoft Officeファイルのインポートとエキスポートなど、OpenOffice.orgに装備されている機能の大半を使用することができる。

NeoOfficeの問題は、そのリリースサイクルがOpenOffice.orgのリリースより若干遅れ気味になるという点だ。またNeoOfficeは、その動作速度の遅さにも定評がある。とは言うものの、Microsoftから課金されないフリーで安定した優れたソフトであることに間違いはない。

NeoOffice 2.0 Beta 3がリリースされたのは8月29日のことであるが、その仕上がり具合は非常に良好であり、手元のIntel Macでも問題なく動作することを確認している。Mac用ハードウェアに予算の大半を注ぎ込み、ソフトウェアにまで手が回らないというユーザであれば、このソフトは必携品と言ってよいだろう。

HandBrake

DVDからMPEG-4ファイルへのリッピングおよびエンコード作業をコマンドラインで操作しているユーザにとって有用なソフトがHandBrakeで、これは多種多様なエンコードおよびビデオ処理用ライブラリをカバーしたフロントエンドとして機能するが、そうしたライブラリの大部分はLinux系開発者の手により作成されたものである。

HandBrakeの操作そのものは非常に簡単で、DVDにせよVIDEO_TSフォルダにせよ、オープン系の各種圧縮フォーマットに直接エンコードすることができる。しかもユーザがソースとなるメディアを指定すると、どのトラックをエンコードすべきかを、個々のトラックサイズを基にしてHandBrakeが自動的に推定してくれるのだ。またCD-RやVCDに収めたい場合などは、ターゲットファイルのサイズをユーザ指定することも可能である。

HandBrakeは、手元のビデオコレクションをiPod Videoで再生したいユーザにとっても最適なリッピングツールの1つだ。このソフトウェアについては、欠点を見つけるのが難しいくらいである。

Smultron

Mac OS XにはAqua様式で作られた簡易テキストエディタが標準装備されているが、私の好みからすると機能が省略されすぎている感がある。Mac用の古参エディタとしてはBBEditが存在するが、フリーソフトウェアではないし、TextMateやskEditと同列に扱うのも少し酷な話だろう。

そうした観点から選ぶ場合に候補に上るのがSmultronである。これは、プログラム言語やマークアップ記号の強調表示、ウィンドウの分割機能、タブ、正規表現検索などを装備した堅実な作りのソフトウェアである一方で、コマンドや“スニペット”を各自のiDiskに保存する.Mac同期などにも対応しているため、Smultronに対するカスタム設定をインターネット接続された任意のMac上で共有することも可能だ。

私の用途上、1つだけ注文を付けるとすれば、BBEditおよびskEditではサポートされているSFTP機能の追加である。将来的にこの機能が実装されるとしても、それまでは時間がかかるだろうが、現状でコマンドライン操作は敬遠したいがセキュアファイル転送は行いたいというユーザの場合は、使いやすい専用インタフェース上でSFTPを扱えるFuguを使えばよいだろう。

Q

Mac上でWindowsあるいはLinuxを使いたい。それもできれば無料かつ、デュアルブートやトリプルブートは避けたい、という場合はどうするか? 一番お手軽な方法はQを使用することだろう。これは有名なエミュレーションソフトウェアQemuをCocoaインタフェースで扱えるようにしたものである。実際QのインタフェースはVirtual PCを模したものになっており、単にQemuの機能を使えるという以上の操作性が与えられている。つまりMac というハードウェアにQというソフトウェアを組み合わせることで、WindowsやLinuxなど様々なバージョンの異種オペレーティングシステムを、Mac OS X上で好きな数だけ実行させることが可能となるのだ。

ただしParallelsなどの商用プログラムとは異なり、Q自身にバーチャライザは装備されていないので、ネイティブコードであってもその動作はエミュレーションされるだけである。そのため現在入手可能な最速のIntel Macであっても、そこでのゲストOSの実行速度は500MHz搭載マシン程度のものとなってしまう。

確かにQにバーチャライザは装備されていないが、その分はコストに反映されていると見るべきだろう。例えば、リスクを冒すことなく異なるOSを試してみたい、あるいはWindows用の旧式ソフトウェアの中に使い続けたいものがある、といった場合に有望な選択肢の1つとなるはずだ。

Colloquy

WindowsにおけるmIRCに相当するのが、MacにおけるColloquyである。Unix用に開発された優秀なIRCクライアントは、現在その多くがMacでも利用できるようになっているが、グラフィックス的に最も優れたクライアントソフトとなると、X-Chat Aquaを候補に挙げる人間も多いだろう。ところが更にその上をいくソフトとしてColloquyが存在しているのだ。

Colloquyは、安定して動作することはもとより、機能的にもまとまっており、ユーザによるカスタマイズにも対応している。インタフェースも整理されているので、初心者であっても直ぐに使えるはずだ。だからと言って機能的に貧弱という訳ではなく、IRCクライアントに必要な機能は一式装備されており、スタイルのカスタマイズ、ファイルの転送、自動ログインなどの機能の他、AppleScript辞書なども実装されている。インタフェースは可能な限りCocoa風にアレンジされており、定期的なアップグレードが行われている点も評価すべきだろう。

Colloquyは、フリーその他の形態で利用可能なすべてのMac用IRCクライアントの中でもベストなアプリケーションだと評価しても過言ではないだろうが、そうした意味においてオープンソースアプリケーションとしては異色な存在だと言える。

Macに関するオープンソースコミュニティは現在発展途上の段階にあるが、そうした状況はMac用オープンソースソフトウェアについても当てはまる。今後も優れたフリー/オープンソース系のネイティブMacソフトウェアがぞくぞくと登場するであろうことは、ほぼ確実な未来予測のはずだ。それらが手元のMacで活躍する日を期待して待とうではないか。

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