新天地を開拓するEtherboot首脳陣

一般にはあまり知られていないEtherbootだが、このプロジェクトはシンクライアントやネットワークブートを利用する他のどのオープンソースプロジェクトにとっても必要不可欠な存在だ。今回、EtherbootのプロジェクトリーダーMarty Connor氏とメイン開発者Michael Brown氏の2人とIRCチャットをする機会を得たので、そのときのログに少し編集を加えたものをお届けしよう。
Linux.com: Martyさん(Connor氏)がEtherbootに取り組むようになったきっかけは何ですか。

Connor氏: 1999年に、何か面白いものがないかとRed Hatの展示会に行ったのがきっかけだよ。そこで展示をブラブラ見ているうちにすごいものを見つけた。それがネットワークブートだった。:)

まあ、そうやってNetbootの派生プロジェクトだったEtherbootプロジェクトに行き着いたんだけど、メーリングリストに参加し、役に立てることをしているうちに、プロジェクトのメンバーになっていた。

Linux.com: その後、どのようにしてプロジェクトリーダーの地位にまで登り詰めたのですか?

Connor氏: えーっと、それはちょっと説明が難しいな。ある日Kenがもう止めたいって言い出したので、僕がその跡を継いだって感じかな。

Linux.com: Kenというのは?

Connor氏: Etherbootには3人の歴代リーダーがいてね、Markus Gutschke、Ken Yap、そしてMarty Connorさ。

Brown氏: でもEtherbootを新しい方向に導いたのは君だよ。

Linux.com: その変化によって開発者を何人か失いましたか?

Connor氏: 1人か2人は離れていったけど、大勢ではなかった。ネットワークブートの業界標準であるPXEを採用するかどうかについての根本的な意見の対立を何とかする必要があったんだ。

Linux.com: あなたはどちらの側にいたのですか?

Connor氏: PXEを受け入れなければ活躍の場が狭くなると感じたので、採用するほうを強く支持したよ。そのために、自分で最初の資金を出してソフトウェアをフォークさせたくらいだから。

Linux.com: それはいつのことですか?

Connor氏: 2004年だったかな。それから、僕が「資金」と言っているのは、基本的にMichaelに渡す報酬のことだよ。常にEtherbootとgPXEのコアな部分は、普通は1人または2人で取り組んでいて、他の人たちがテストやドライバ開発、その他の関連する作業を担当している。

Linux.com: Michaelさん(Brown氏)はその前からボランティアとしてプロジェクトで活動していたのですか?

Brown氏: そうだね、2002年からこのプロジェクトに携わっている。

Linux.com: それまでは無償でやっていたのに一転して報酬が支払われるになったわけですが、そのときはどんな気分でしたか?

Brown氏: 実は、私が初めて手がけたEtherbootの仕事は報酬が貰えるものだった。もちろんその支払いはMartyからではなかったけれど。

Linux.com: それはまたどうしてですか?

Brown氏: その頃はいくつかの大学と協力してディスクレスのLinuxクライアントの実装をしていたのだが、ある大学から無線のディスクレス・クライアントが欲しいという要望があった。これはつまり、無線ネットワークを利用したブートの方法を探し出すということを意味していた。当時そんなものは存在しなかったので、初期の802.11bチップセットの1つを選んでEtherboot用のドライバを書いたところ、その大学がお金を出してくれたというわけだ。

それでもEtherbootプロジェクトが歓迎してくれたので、このプロジェクトの仕事を続けることにした。今ではほとんどEtherbootにかかりきりだ。

Linux.com: Martyさん、プロジェクトの成長ぶりはいかがでしょうか、2002年以降Etherbootのユーザやダウンロード数は増えていますか?

Connor氏: ええ、もちろん。僕が運営するROM-o-matic.netというサイトは、その場で動的にEtherbootイメージを生成することができるようになっている。それもとても簡単にね。その数も著しく伸びていて、今では週に約3,000~4,000のイメージが生成されているかな。ほとんどの人はこのサイトからEtherbootのROMを手に入れていると言ってもいいくらいだ。もちろん、ソースをダウンロードしてmake bin/rtl8139.zdskを実行することもできるけどね。

Linux.com: 他のプロジェクトではどんなところがEtherbootを利用していますか?

Brown氏: GRUBは、我々のドライバのあるバージョンを使っている。もちろんLTSPもそうだ。

Connor氏: Googleでlink:http://etherboot.orgとすると、僕たちのところにリンクしているサイトが337件返ってくるね。大量ってほどではないけれど、かなりの数字だ。ネットブート型のシンクライアントを宣伝しているところなら、ほとんどどこでもEtherbootについて触れているだろう。雑誌でもオンラインマガジンでもLinux関連の記事では、しょっちゅう取り上げられているしね。僕たちがLinuxWorldに出たときには、スーパーコンピュータやクラスタ、POSシステム、LTSPマシン、あるいは図書館の端末でも、ブートにEtherbootを使っている、というものすごい数の反響があったよ。

Google Summer of Codeに参加した昨年は、こんなに多くの応募が来るのかという嬉しい驚きもあった。確か30件近い応募があったはずだけど、こういう目立たないコンピューティング分野にしては驚くべき件数だよ。そこから12件を選び出したのに、結局割り当てられたのはたった4人の枠だった。

Brown氏: それでも、このGoogle Summer of Codeの活動からは素晴らしいコードが得られたよ。

Connor氏: そうそう、そのうち2人の優秀さは尋常じゃなかったね。決して他の2人をけなしているわけではないけど。

とにかく、飾り気のない地道なプログラミングにあんなに多くの人が興味を持ってくれたことが、僕たちにはすごく嬉しかった。メモリやその他のリソースに対する厳しい制約があるので、この手のプログラミングでは細かいところにまで気配りが求められる。僕たちが使える領域は全部で64KBほどしかないからね。

Google Summer of Codeには今年もぜひ参加したい。本当に楽しみにしているんだ。学生たちの手助けができて嬉しかったし、彼らには教え甲斐があった。Google Summer of Codeの学生と一緒に仕事をした去年の夏は、本当に実り多いものだったね。「自分の知っていることを他人に説明してみて初めて深い理解が得られる」とは、まったく良く言ったものだよ!

Linux.com: そう言えば、新しいアイデアが出ていると聞きましたが、そのことを世間の人々に伝えたいのでは?

Brown氏: LinuxWorld Expoでは、iSCSIとAoEによるブートが多くの人の関心を集めていたようだ。つまり、NASマシンから直接ブートを行うわけだが、これはWindows Server 2003のディスクレス・ブートが可能になることを意味している。

Connor氏: 僕たちの最新のコードgPXEは最先端を行っている。おそらく最も進んだネットワークブートのコードと言えるだろうね。

Brown氏: ストレージの仮想化はますます一般化しているようだが、我々はそのブート・コンポーネントを提供する。つまり、エンドユーザは、その他の点では完全に仮想化されたストレージを利用するサーバにOSイメージを提供するためだけに、別途ブートサーバを用意する必要がなくなるわけだ。

Connor氏: ごく自然な進化だね、まったく。

Linux.com: Windows Server 2003のディスクレス・ブートという話が出ましたが、ライセンスはどうなるのですか?

Brown氏: もちろん、Windows Server 2003のライセンスが必要だ。

Connor氏: これまでずっと、システム管理者はコンピュータ内部にハードディスクが存在することを呪ってきた。ハードディスクには問題が多すぎる。

Linux.com: 複数のマシンを同時にブートすることは可能ですか?

Brown氏: ライセンスの詳しい条文まではわからないが、ローカルのハードディスクに入れてもiSCSIディスクに入れても何ら変わるところはないと思う。我々にできるのは、人々が使っているマシンの寿命を延ばし、そのディスクをもっと安全な場所に移すことだ。NFSのようなファイルレベルのプロトコルを使うのではなく、iSCSIディスクをブロックデバイスとして直接マウントするので、2台のマシンから同時に1つのiSCSIディスクをマウントするのは、クラスターを意識したファイルシステムでもない限り、技術的に不可能だ。

Connor氏: これは本当にすごく役に立つ技術だよ。もっと低コストにしたのがAoE(ATA over Ethernet)で、iSCSIは言わばハイエンド版だね。

Brown氏: iSCSIブートでも、同じブートイメージから複数のマシンのブートができないわけではない。ただし、どんなときでも一度に立ち上げておけるのは1台だけだ。

Connor氏: もう1つ僕たちが取り組んでいるのは、今では珍しくなったTFTPサーバに代わってWebサーバからマシンをブートできるようにすることだ。まさに、ネットワークブートにおける新天地を切り開こうとしているわけさ。この業界の大半では、もう何年もかなり淀んだ状態が続いている。その大きな理由があなたのおっしゃったライセンスの問題だ。僕たちは、テクノロジによってできることや支援できることを実際にFOSSを通じてやっている。つまり、資源を共有するってことだよ。

また、AoEは非常にライトウェイトで効率性に優れたLANプロトコルだ。AoEを広めている企業Coraidは、僕たちのAoEブートコードの開発に資金を提供してくれた。

Linux.com: 誰か他にもEtherbootの開発に携わったり協力したりしている人はいますか?

Connor氏: ドライバのコーディングにはさまざまな人に協力してもらっている。ときには修正もしてもらうけどね。

Linux.com: 名前を出しておくべき企業スポンサーなどは?

Brown氏: Solarflare Communicationsかな。自社のNICのためのEtherbootドライバの開発、さらにはiSCSI関連のすべての作業に資金を出してくれた。

Linux.com: 企業スポンサーはどうやって見つけるのですか?あるいは向こうから声がかかるのですか?

Connor氏: 両方あると思うよ。

Brown氏: その通り。Etherbootのメーリングリストで私の名前を見て仕事を依頼してくる人がときどきいる。

Connor氏: LinuxWorldでもよく取り上げられるしね。僕たちはDonald Becker氏(Linuxカーネルのネットワークドライバの開発者)やH. Peter Anvin氏(SYSLINUXの作者)をはじめとするネットワークブートの関係者との協力も心から楽しんでいる。

Brown氏: そう言えばCoraidとの一件では、CEOにメールを出して「私はiSCSIブートに取り組んでいます。新たなプロトコルとしてAoEを追加するのに必要なちょっとした作業に費用面でご協力を願えませんか」と言っただけだった。

Linux.com: Martyさんはプロジェクトのためにまだ自腹を切っているのですか?

Connor氏: そうだよ、だけど好きでやっていることさ。ROM-o-matic.netのためのSDSL専用回線の費用を負担しているし、LinuxWorld Expoはかなりの出費になる。それでも喜んで出しているけどね。

Linux.com: 自活できるプロジェクトにしたいと思いますか? また、いつかそうなるでしょうか?

Connor氏: それはあり得る。その点はあまり心配してないよ、ときどき夢に見ることはあるけどね。楽しんでやっている限り、きっといい結果が出るし、そのために喜んで自分の務めを果たすよ。実際に稼いでいるのはMichaelだけどさ。:)

Brown氏: 今ではEtherbootの仕事をほとんど本業だと思ってるよ。

Linux.com: 新しい資金調達先を見つけようとはしないのですか?

Connor氏: そうだね、事業で利益を上げれば、たくさんの開発にお金を回せる。事業プランニングという点では、僕たちの技術は組み込みが可能である ― つまり、法人カスタマが要素技術として利用できる ― というところにポイントを絞りつつある。

もう少しでそういう体制になると確信している。そうすれば、開発資金も調達しやすくなるだろう。今でもMichaelはよくやってくれているけどね。

2年半前は単なる夢だったgPXEが、今ではMichaelのおかげで現実になっている。僕たちはネットワークブートに対する人々の考え方を変える一歩手前まで来ている、と僕自身は信じている。驚くほどの帯域幅が利用できるようになった現在、インターネット経由でも、自由自在にマシンをブートすることができる。

ネットワークブートのことを考えると本当にワクワクするよ! :)

NewsForge.com 原文