風説によって誇張された新しいGnashの機能

 フリーのFlashビューアといえば、GNU/Linuxデスクトップに最後まで残る機能面での大きな隙間の1つである。そのため、フリーのFlashプレーヤーGnashでYouTubeやLulu.tvの動画を再生できるようになった、と報じた先週のニュースは、あまりに出来すぎた内容で疑わしく思えた。残念なことに、その予感は的中した。

 問題のニュースは、Gnashプロジェクトのブログがソースになっているようだ。だが、このブログは、先日リリースされたバージョン0.8(3番目の「アルファ版」)のReadmeファイルの注意書きに記された制限事項についてあまり触れていない。そして、このニュースが例のオンラインメディアに届いたときには、そうした制限事項の記述がすっかり消えていた。

 ところが、Miriam Ruiz氏が提供するGnashの試験版Debianパッケージを試しても、結果は思わしくない。確かに今回のリリースでGnashは進化しているが、ニュースで報じられているような重要な段階にはまだまだ達していない。

 前回、Linux.comでレビューしたGnashはバージョン0.71で、これにはプレーヤーだけでなく一般的なWebブラウザ向けのプラグインも含まれていた。この段階では、GnashはまだFlash 7向けのFlashオペコードやActionScriptサポートが実装されていて、サウンドサポートにはどう見ても異常があり、機能そのものが存在していないと言えなくもなかった。次にリリースされたバージョン0.72では、若干の変更が加えられたものの、Flash 8および9で導入されたActionScript機能についてはまだサポートされていない部分が多数あった。

 今回リリースされたGnash最新版での朗報といえば、サウンド機能が実装されたことだ。Adobe Flash Playerを使った結果には及ばないが、サウンド機能は確かに存在する。また、画面もかなり洗練されたものになり、問題部分のデバッグに役立つ設定が多数加わっている。これにより、表示されるメッセージの詳細レベル設定のほか、ログやセキュリティに関するオプションの設定も可能になった。音声が正しく聞こえないFlashファイルを再生する場合には、サウンド機能をオフにすることもできる。

 Gnashのグラフィカルインタフェースには、ファイル再生の表示領域の拡大縮小や、リプレイ開始までの待ち時間の設定など、コマンドラインからの実行では利用できる一部機能のコントロールが欠如している。それでも、全体として見れば、今回のGnashは、アルファリリースの最終版としてほぼ期待どおりの出来になっており、十分に信頼に足るとはいえないものの基本的な性能は満たしている。

 問題は、Flash機能がまだ不完全なことだ。興味があれば、ソースコード中で部分的にしか実装されていない、またはまったく実装されていない機能の一覧をReadmeファイルで確認することができる。簡単に説明しておくと、以前のリリースとそれほど変わりはなく、Flash 7のいくつかのActionScript機能、Flash 8および9の多数の機能が未実装のままになっている。

 コンピュータに接続されたマイクやカメラから音声や画像を取得する機能など、未実装機能の一部は、Flashメディアサーバで使用されるものである。主な関心がデスクトップでFlashファイルをただ再生することにあるなら、こうした機能はあまり重要でない。しかし、欠けているその他の機能は、入力テキストの表示など、むしろ基本的なものである。特定の動画の再生時に使えない機能としてどんなものがあるかを厳密に確認したければ、コマンドラインからGnashを実行するときに、メッセージ表示用の-vオプション、動画用のオプションを含めて表示する-vaオプション、Gnashによる動画解析の方法を表示する-vpオプションのいずれかを指定すればよい。

 要は、YouTubeやLulu.tvから無作為にファイルを選んでGnashで再生しようとしても、何が起こるかはよくわからない、ということだ。読み込みが非常に遅いという点を除いて何の問題なく再生されるファイルもあるが、私の試した結果が一般的な傾向を示すものだとすれば、うまく再生できるケースは少ない。こうしたサイトのファイルを再生しようとすると、5回のうち少なくとも4回は読み込みすら行われない。テスト中、デスクトップ全体がフリーズしてしまったことも1、2回あった。どちらのサイトにも動画で使用されているFlashのバージョンは記されていないが、おそらく問題は、大半の動画が最新のテクノロジを使って作られていて、後方互換性に十分に配慮してFlash 7など古いフォーマットでファイルを生成するユーザが少ないことにあるのだろう。

 さらに調べると、Flashを使ったWebページのコントロールは、ほとんど常に動作することがわかった。理由としては、こうしたコントロールが比較的基本的な機能しか必要としないこと、あるいは、熟練したデザイナーがソフトウェアの最新版に依存するような設計を意識して避けていることが考えられる。Flashを使ったゲームについては、ものによって正否が分かれた。Flashセミナーの受講生が好んで作りそうな選択肢方式のクイズやパズルは、まったく動作しなかった。ご想像のとおり、部分的にしか実装されていないActionScript機能の一覧に記されているTextFieldやTextFormatが使われているからだ。テキストが表示されるべきところは空白になり、チェックボックスはすっかり抜け落ち、パズルのピースは何をしても動かせなかった。

 なお、ここに記した内容はいずれも、Gnash開発チームの取り組みを批判するものではない。かといって、彼らの成果物がプレリリース版どころかまだ開発初期の段階にあることを不完全さの言い訳にするものでもない。本当の問題は、実際にGnashのテストを十分に行わずに、誇張した内容を事実として報じるメディアの側にあるのだ。

 今回のリリースについても、次のように、いつも通りの結論が導かれる。進歩はしているが、Gnashはまだ、誰もが使えるレベルに達していない。当面は、Adobe製のフリーでないFlashプレーヤーを利用するか、Flashなしで済ませるかのどちらかを強いられることになるだろう。

Bruce Byfieldは、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリスト。

Linux.com 原文