レビュー:ツールが拓くマインド・マッピングの新たな可能性

 マインド・マッピングは相関する発想を図として視覚的に表現する方法の一つだ。評価はさまざまで、そこで使われている樹状表現や色分けが発想の組織化という本来の作業を阻害するという意見がある一方、この方法で作る図は簡潔ですぐに理解でき、ほかの方法では見逃されがちなパターンを明らかできるという意見もある。

 いずれにせよ、GNU/Linuxには、こうした活動のためのプログラムがあまた存在し、選択の幅は広い。その中から、筆者の経験に基づき、有効性が高いと思われるkdissert(現在はSemantik。Debianのリポジトリーでは旧名のまま)とVYM(View Your Mind)を紹介しよう。どちらも、強力なグラフィカル・インタフェースとマインド・マッピングにはない機能――テキストやグラフィックスの貼付、できあがった図をほかのプログラムで使える形式にエクスポートするフィルター――を備えている。

 予期されるとおり、両プログラムとも、中心になるのは編集ウィンドウだ。ただし、ボタンの配置は異なる。kdissertではウィンドウの周囲に配置されており、上には基本コマンド、左にはファイル・マネージャー風の表示で使うボタン、右にはカスタマイズ用のボタン、下にはテキストやイメージを挿入する際に使うトグルスイッチが並ぶ。一方、VYMでは、すべてのボタンがウィンドウの上に2列に配置されている。どちらの配置にも欠点があり、周囲に並べれば目的の機能が上下左右のどこにあるかがわかりにくく、2列表示にすれば数が多すぎて目的のボタンを探すのが大変だ。

マインド・マッピングの手順

 両プログラムとも、中央から始め、発想するたびに枝をつなげていく。kdissertでは枝や小枝は直線で表され、その名前には囲み罫が施されている。このため、図を見た印象は固い。これに対して、VYMの場合はスケッチ風だ。枝は幅のある線で表され、多くは曲線的。先が次第に細くなり、その先端付近に枝の名前がある。囲み罫はない。

 kdissertでは、ほかの文書形式にエクスポートする際に枝を順序づけることができる。これを利用すると、枝の配置を換えずに優先順位を表現することも可能だ。また、枝を再編成して、起点から等距離の位置にグループ化することもできる。

 両プログラムとも、起点をドラッグすれば図全体を平行移動させることができるが、作業領域には固定された座標軸がないから、平行移動することに技術的な意味はない。

 枝を書き加える際は、両プログラムとも、右クリック・メニューを使い、必要に応じて枝をドラッグする。VYMにはドラッグ&ドロップ機能があり、たとえば、小枝をドラッグするだけで別の枝に付け替えることができる。kdissertにこの機能はないが、キー・コマンドを覚えてしまえば不自由はない。両プログラムとも、図が複雑になりウィンドウに収まらなくなったらスクロール機能を使うことになる。あるいは、表示倍率を変更することもできる。

 両プログラムとも、枝を色分けして何らかの意味を表したりアイコンを貼付して情報を付加したりすることができる。たとえば、kdissertでは、注意、名案、作業中、区分を表すアイコンを枝に貼付することができる。同じように、VYMでもマーク付けは可能だ。使い方によるが、優先順位、発想の評価、承認・不承認などを表すことができる。しかし、こうしたマークには、通常のアイコン同様、弱点もある。図柄を見ただけで意味が直感的にわからないことがあり、また小さくなると読み取りにくくなるのだ。いずれの問題点でも、意味の追加という当初の目的が相殺されてしまうことになる。自分が使うマークを体系的に定めることができればこうしたマーク付けは有効だろうが、どちらのプログラムにもその機能はない。

 なお、VYMでは枝の太さで重要性を表すことができるが、色分けやアイコンとは異なり、これなら一目で意味がわかる。

テキストとグラフィックスの貼付

 VYMでは枝に名前を付けることができる。メイン編集ウィンドウで枝をクリックすると、別途編集ウィンドウが開き、そこにRTF形式でテキストを入力する。ほかの点については、メイン・ウィンドウの中で図を直接編集することができるので、なぜこのような方法で名前を付けることにしたのか解せない。もっとも、そのお陰でテキストに若干の書式を付けることができるのだが。

 テキストの扱いにくさではkdissertも同じだ。枝に付ける名前やテキストは、メイン・ウィンドウの下にあるトグルスイッチで開閉されるサブウィンドウを使って入力する。両プログラムとも、テキストを見るには、編集ウィンドウで枝を選び、ウィンドウまたはサブウィンドウを開く必要がある。これでは、テキストの付加という利点が死んでしまう。

 グラフィックスの貼付は、kdissertの場合、テキストよりもやりやすい。枝の近くにはサムネールで、編集ウィンドウの左にある形式的なツリー・ペインではそれより少し大きめに表示される。イメージにキャプションを付けることもできる。一方、VYMでは、イメージを図の中にドラッグ&ドロップすることはできるが、非表示か、細く黒い枝の末端に表示され、往々にしてテキスト以上に扱いにくいものになる。

エクスポート

 両プログラムとも、完成した図をそれぞれ専用の形式で保存することができる。さらに、kdissertでは.PNGファイルとしてエクスポート可能。VYMでは、エクスポートする形式を.JPEGや.BMPなどの一般的なグラフィックス形式から選ぶことができる。

 図がプレゼンテーションや文章の概要の場合、作成に使っているプログラムが取り込める形式にエクスポートすれば手間が省けるというもの。というわけで、両プログラムとも、HTML、LaTex、XML、OpenOffice.orgへのエクスポートをサポートしている。とはいっても、VYMはOpenDocumentのプレゼンテーション形式にしかエクスポートできず、しかもOpenOffice.orgに同梱されているあまりパッとしないテンプレート2種のいずれかを使うことになる。一方、kdissertは、プレゼンテーション形式にもワープロ形式にもエクスポートできるが、グラフィックスの位置づけに問題があり、しかもOpenOffice.org 1.x形式だ。したがって、両プログラムとも、マークアップ言語にエクスポートするのが無難かもしれない。

 VYMもkdissertも、図を裏紙に描くのではなくコンピューター・スクリーン上で描くことで、マインド・マッピングの方法を広げる可能性を持っている。しかし、追加された機能には一長一短があり、色やフォントの設定にかまけて本来の目的である発想や組織化が疎かになる可能性もある。

 枝を追加したり辿ったりする方法を覚えなければならないことも問題かもしれない。ドラッグ&ドロップが使えるVYMの方がkdissertより若干は楽だろう。しかし、どちらでも、慣れてしまえば問題はなくなるはずだ。

 今、自分の創造活動にマインド・マッピングを役立てている人にとって、kdissert(Semantik)やVYMには試してみるだけの価値が十分にある。紙でやっていたことをコンピューター上で行うことで、古くからあるマインド・マッピングという方法に新しい可能性が生まれるかもしれない。

Linux.com 原文