Linuxレビュー:Vixta――コンセプト的には評価できるが実践面での不安が残る新規ディストリビューション

 Vixtaは先月その初回リリースが行われたばかりの新規Linuxディストリビューションであり、そのベースとなったFedora 8は当時リリースされていない段階であった。同ディストリビューションの主目的は、Microsoft Vistaのビジュアル面をエミュレートすることとされており、バージョン095の同梱ソフトウェアは、一部の不安定版も含めて最新バージョンで固められている。

 このプロジェクトの目指しているものの1つが、あらゆる意味での完全なフリー化であり、追加設定をいっさい必要とせず、ユーザフレンドリで見た目も美しく親しみやすいディストリビューションを提供することが目標のようだが、残念なことに、そうした理想の中には機能的な完成や安定性は含まれていなかったようだ。

 Vixtaはインストール対応型のライブCD形式で提供されており、言語としては英語とポルトガル語での利用が可能である。このライブCDにおける簡素なブート画面と対照的な過剰気味のブート出力という構成はそれほど印象的な組み合わせではなく、またせっかくの詳細なブート出力も途中で表示されるスプラッシュ画面によって残り半分が隠されてしまう。

 ログイン画面をバイパスして出現するのは、スケールダウン版のKDE 3.5.7デスクトップである。デフォルトの壁紙は青い一輪の花とそれを取り巻く葉っぱというデザインとなっており、そこにアナログ時計とカレンダが表示されると、その段階でかなり込み入った印象を受けることになる。またアナログ時計とカレンダの表示位置が固定されているので、画面サイズによっては中央により過ぎていたり逆に画面からはみ出すことになってしまう。これらの小物はロックを解除して移動させることもできるのだが、次回のログイン時には元の位置に戻ってしまい、どうやら1280×1024画面のみに最適化されているため、デスクトップ全体のスケーリングが上手くいかないようである。

 簡潔にまとめられた光沢ブラックのパネルには小振りのメニュー表示ボタンが配置されているが、これをクリックして表示されるメニューは実際にVistaメニューとよく似た外観に仕上がっている。この功績はKBFXテーマをうまくカスタマイズできているためで、同様のテーマはkde-look.orgで入手することもできる。

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Vixtaのデスクトップ

 このメニューは2つのペインに分かれている。右側の領域にはInternetやSettingsといったメニューの見出しが一覧され、左側の領域には各見出しに属するアプリケーションという構成である。アプリケーションのリストが表示スペースに収まりきらない場合は、ペインの上下にスクロールバーが表示される。これらのアプリケーション群の見出しの下側には、KDEコントロールパネルのメインモジュールが一覧されている。こうしたメニュー構成は、パネルを何度も切り替えなければならない通常のKDE Kickoffメニューに比べて使いやすいよう感じられた。操作性に関しては、ペイン下部に配置された検索フィールドについても触れておくべきだろう。指定された検索用語に該当するものをピックアップするのは当然として、システムにインストールされていれば、メニュー中にないアプリケーションを起動させることも可能となっているのだ。

 これらすべての要素が調和することで、Vixtaのデスクトップは美しくかつ独特なものに仕上がっている。

 このデスクトップにはVixtaインストーラも配置されるが、それはFedoraのライブCDインストーラそのままであり、何のカスタマイズもされていない。パーティションの作成やファイルシステムの設定などのインストールステップは、すべてインストーラのガイドに従って実行するだけである。ただしこの方式でインストールされるのは標準システムだけに限定されており、ユーザによるパッケージ選択の余地はない。とは言うものの、ブートローダに関するいくつかのオプションは提示されるようになっており、またリブート後は、ユーザアカウント、rootパスワード、ファイヤーウォール、SELinuxオプションについての設定を行う必要がある。このインストーラについてはトラブルフリーであるかのように思われたが、後述するように今回の試用では1つの問題に遭遇することになった。

 Vixtaには、ソフトウェアマネージャとシステムアップデータが同梱されており、簡潔にまとめられたインタフェースを介してFedoraリポジトリにアクセスすることができる。私の試した限り、両者を用いた追加ソフトウェアのインストールおよびFedora用アップデートの適用は、いずれもスムースに処理できている。ただしアップデートについては、ネットワーク設定とセットアップツールに関する若干のトラブルに遭遇したため、アップデート終了後にネットワーク接続を手動で再開させなければならなかった。

 その他に同梱されているのは、Firefox 2.0.0.6およびOpenOffice.org 2.3.0のコンポーネント群である。

露呈される各種の問題点

 先のメニューからアクセス可能なアプリケーションの品揃えはかなり少なく、またKDEアプリケーションについても、Konquerer、Kate、Kolorpaint、KTorrentといったものだけであり、KMailやKontactなどはインストールされていない。

 その一方で、システムその他の設定ツールは非常に便利なものがメニュー中に取りそろえられている。その中でも特筆しておくべきは、サウンドカードの設定機能だろう。Vixtaの場合、大半のサウンドチップへの自動検出に対応しているのだが、仮にこれが機能しない場合においても、一部のサウンドカードについてはドロップダウンメニューから選択できるようになっている。またユーティリティ側から、サウンドカードの動作を検証することも可能だ。私の場合このテストを実施するまで手元のサウンドカードが正常に使えるか不明であったが、これはそもそも、KDEシステムの通知機能がデフォルトでオフにされているためである。この機能をオンにしておくことも可能なのだが、その場合はVixtaのaRtsサーバによってデバイスへのロックがかけられるようであり、他のアプリケーションから利用できなくなってしまうのだ。もっともVixtaにはCDその他のオーディオ/ビデオプレーヤが何も用意されておらず、audiocdプロトコルも認識できないので、この件そのものが大きな問題にならないということかもしれない。

 Fedoraアップデートの適用前、有線ネットワークはブート時にアクティブにされていた。設定ツールでホスト名の指定は行ったものの、ログインの段階でネットワークは使用可能となっていた。一方、無線LANチップは使用できなかった。というのも私の手元にある製品の場合、LinuxでサポートさせるにはNdiswrapper(編注:Windows用無線LANドライバをLinuxで利用できるようにするラッパー)を使うしかないのだが、このアプリケーションはFedoraで使用できるようになっていないため、このディストリビューションにもNdiswrapperは同梱されていなかったからだ。今回はNdiswrapperのソースからのコンパイルを試してみようとしたのだが、コンパイラはインストールできたものの、必要なカーネルソースが入手できなかったため断念することにした。

 Vixtaのカーネルは容量節約のためコンパイル済みにされており、最近のマシンで利用可能なCPUスケーリング(特定プロセスのCPUサイクルを低速化させて消費電力や発熱を抑制させる機能)に必要なモジュールも用意されていない。私のラップトップマシンの場合、Vixtaを搭載してプロセッサをフル稼働させると、他のシステムで行うソフトウェアのコンパイル時などのCPU全力運転時に比べて、発熱量が少し高くなるようである。システムトレイにはバッテリモニタ用アプレットも装備はされているが、残念ながら完全なサスペンド機能はサポートされていない。

 その他、パネルが点滅したり消滅してしまうケースに遭遇するのも気になる不具合の1つだ。CPUやメモリに対する負荷の大きい処理をする際にデスクトップからパネルが消えるといった現象が時々発生するのである。数秒も待てば再表示されるようになるものの、その際にウィンドウ群の表示位置がずれてしまう。

カーネル入れ替えの試みとその失敗

 このディストリビューションのカーネルはサポート面での制限が大きく、対応するソースも見つけられなかったので、私は他のカーネルをインストールしてみることにした。最初に試したのはソフトウェアマネージャを介して別のFedoraカーネルをインストールしてみることだが、この挑戦はブートできないという結末に終わった。次にシステムアップデータを使用してカーネルアップデータを見つけたが、この場合もブートさせることができなかった。手元にあった標準の2.6.23.1カーネルのインストールも試してみたが、これも他のカーネルと同様、ブート不可という結果に終わっている。この原因はおそらく、カーネルインストール時にnew-kernel-pkgが浮動小数点例外によるクラッシュに遭遇しているのであろう。そう考えると、システムインストーラ経由でインストールしたカーネルが動作しないことの説明がつく。結局、ライブCDにあったカーネルを使用するまで、新規にインストールしたVixtaシステムをブートすることはできなかった。

 Vixtaはコミュニティ向けのディスカッションフォーラムを運営しているが、その活動状況は活発とは言い難い。多くの質問に対する回答は「マニュアルを読んでください」という返信が付くのが関の山といったところである。

 これまでのところ、Vixtaのソースコードは公開されていない。先のフォーラムに挙げられた意見の中には、これはFedoraのコアをベースとしたディストリビューションなのであり、そちらのソースは簡単に入手できるので特に公開する必要はないのでは、という主張もいくつか見られるが、この件に関する問題の本質は別のところにあるはずである。

まとめ

 全体として見るなら、Vixtaのコンセプト自体は非常に歓迎すべきものである。現在主流のシステムに外観を合わせておくことは、新規ユーザが感じるであろう抵抗感を和らげる効果があるはずだ。実際Vixtaの外観は見栄えよくまとめられているのだが、システムとしての制限が強すぎることに関しては、これがライブCD環境である点を割り引くとしても大きく減点せざるを得ない。その他、多数のバグが残されている現状を鑑みると、日常的に使用可能なレベルに仕上がっていると見なすには無理がある。

 Vixtaは、既存の不安定版ディストリビューションをベースとして立ち上げられたばかりの若いプロジェクトではあるが、その運営方針に秘密主義の臭いが感じられる点において一抹の不安を感じざるを得ない。同プロジェクトのWebページで公開されている情報も限られたものでしかなく、またベースとしたオリジナルのディストリビューションから大きな変更はされていない派生版だとはいえ、そのソースコードを公開することはGPLに定められている義務である。

 Vixtaというコンセプトそのものには評価すべき点が多いのだが、問題はそうした理想の実践面にあるといったところだろう。

Linux.com 原文