Litrix:ブラジルからの贈り物

Litrix LinuxはGentoo Linuxを基にブラジルで開発されたディストリビューションだ。Gentoo同様、自分の手で構成しなければならない部分はあるが、ハードウェアの検出能力が高く、Litrix Centralという構成ツールを備えているため、想像よりは簡単に自分のLinuxシステムを構築できるだろう。

 先月リリースされたLitrix 7.12はインストール可能なライブDVD、より正確に言えばライブDVDのISOイメージを圧縮したファイルだ。圧縮した理由はわからない。というのは、976MBのこのファイルを展開しても992MBになるだけなのだ。i586プロセッサー向けで、対称型マルチプロセッサー(SMP)システムをサポートしている。このリリースをノートパソコンで試用してみたので報告する。使用したパソコンはHewlett-PackardのPavilionで、AMD 64プロセッサー、Nvidia GeForce Goグラフィクス、Broadcom 4311ワイヤレス・チップを搭載している。

 ブラジルで開発されたため言語は基本的にポルトガル語が使われている。私は英語を話すので2個所変更した。まず、自動的に起動されるKDE 3.5.8デスクトップ環境の言語。これは、KDE Control CenterつまりLitrix Centralを使って簡単に変更することができる。コマンドとファイル名は万国共通であり、ポルトガル語のキーテーブルは英語とよく似ているので、これだけでも大きな支障なく使うことができる。しかし、さらに快適に使えるように基盤となる環境を変更した。変更すべき主なファイルは2つ、/etc/env.d/02localeと/etc/X11/xorg.confだ。02localeファイルでは言語指定、xorg.confファイルではXkbLayoutをpt_BRからen_USに変更する。変更を有効にするために、コマンド「env-update && source /etc/profile」を実行し、いったんログアウトしてから再度ログインした。また、新しいソフトウェアが自分の言語でインストールされるようにしたい場合は/etc/make.confのロケールも変更する。しかし、言語に関するこうした設定をすべて変更しても、Litrix Centralウィンドウはポルトガル語のままだ。同様のアプリケーションがほかにもいくつかある。ただし、アプリケーションはビルドし直すことができるし、Litrix Centralはそのままでも理解はさほど難しくない。

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Litrix

 インストーラーは簡潔に出来ている。1画面のみで質問は3つだけ。ポルトガル語だが、理解するのに困難はない。第1の質問には選択肢としてCFDiskとQTPartedがあるのでパーティショニングのステップ(必要な場合)だとわかる。第2の質問にはすべてのパーティションが表示されているのでインストールするパーティションの選択が求められていることがわかる。第3の質問にはドロップダウン・ボックスがあり、reiser、ext2、ext3、jfs、xfsが並ぶ。察するに、インストールするファイルシステム・タイプを選べということだろう。3つの質問の後に残るのはInstalarと名付けられたボタンだけなので、これをクリックする。インストールの終わり近くで、ブートローダをマスター・ブート・レコードに設定するかどうかを尋ねてくる。

 ライブDVDを使用中のハードウェアの検出とサポートはまずまず。インストール後はさらによくなった。今回の試行では、ライブDVDはノートパソコンのサウンドを正しく構成し有線のイーサネット・アダプターを検出した。しかし、グラフィックス・アダプターではしくじってしまった。実際には1つしかないグラフィックス・チップを2個検出し、そのような構成ファイルを作成したのだ。本物のチップセットに対応する設定を見ると、ドライバーにはnvが、解像度には1024×768が設定されていた。LitrixにはNvidiaのプロプライエタリー・グラフィック・ドライバーが同梱されているので、/etc/X11/xorg.confファイルのnvをnvidiaに変更した。これは私の好みだ。

 インストールが終わったらインターネット接続を構成する。大概の場合はLitrix Centralを使えば十分だろう。しかし、高度な設定を行う場合は、Gentoo同様、/etc/conf.dにあるファイル群を変更する必要がある。今回の試行では、ライブ環境では接続に失敗したが、ハードディスクにインストールした後は容易に設定できた。LitrixにはNdiswrapperが同梱されているが、wpa_supplicant(これはWi-Fi Protected Accessサーバーとパスキー・ネゴシエーションが可能)は含まれていない。したがって、ワイヤレス・アクセス・ポイントを無防備のまま放置するか、あるいは、有線のポートとRJ-45ケーブルを使って臨時に接続し必要なソフトウェアをダウンロードする必要がある。今回の試行では後者を選んだのだが、wpa_supplicantの入手には思いのほか手こずることになった。

 Litrixは、Gentoo stageのダウンロードなしに入手可能なものとしてはGentooにかなり近い。そして、ディストリビューションが何かに基づいて作ったものであれば、そこに含まれるバグとそれに伴う問題から無縁ではいられない。実際、wpa_supplicantをインストールしようとしたとき、その類のバグとおぼしき問題が発生した。

 emergeはGentooのパッケージ管理システムPortageで頻繁に使われるコマンドだ。たとえば、データベースのアップデートなら「emerge --sync」、アップデートの有無を調べるなら「emerge -up world」などとする。今回は、「emerge wpa_supplicant」というコマンドで必要なパッケージをインストールすることになる。ところが、このコマンドが機能しなかった。Qtに対する依存性のためだ。その上、Qtをアップグレードした場合、動作不安定などの不具合を防ぐためにKDEのリビルドが必要になることがわかった。そこまでの手間を掛けたくなかったので、wpa_supplicantのソース・コードをダウンロードし、手早くビルドすることにした。

 できればこうした問題はきわめて稀なものであってほしいところだが、有り難いことに、発生した問題はこの1件だけだった。強力なユーティリティemergeで問題が発生することは、通常、ほとんどない。

 emergeはシステムのアップグレードでもよく利用されるが、Litrixにはグラフィカル・ツールを望む利用者のためにKentooが用意されており、アップグレード関連作業はこれで用が足りる。Litrix Centralから呼び出すことができ、データベースの同期、systemまたはworldの新着アップグレードの表示、標準出力の表示、アップグレードなど、必要な機能はすべて揃っている。

 Litrix Centralから操作可能な便利なシステム・コンポーネントはほかにもある。たとえば、ユーザー、プリンター、グラフィカル・インタフェースのキーテーブル・レイアウト、スタートアップ・サービス、ログインのオプションなど。KPackageを使うとインストール済みのパッケージを確認することもできる。

 インストールが終わったら、何はともあれ、Litrixを眺めてみよう。花の写真を使った壁紙、上端には半透明のアプリケーション・パネル、そしてKBFXのスタート・ボタン。下端のパネルにはメディアのアイコンが並び、システム・トレイがある。そこには当然あるべきアイコンのほか、すべての仮想デスクトップについて、開いているウィンドウとタスクのすべてをフルスクリーンで表示するKomposeもある。

 メニューに並ぶアプリケーションも気が利いている。KDEアプリケーションのほかに、グラフィカルな処理のためのPicasa、Webの閲覧と電子メールにはFirefoxとThunderbird、マルチメディアの処理にはAmarok、Audacious、Kaffeine、MPlayer、友人とのチャットにはaMSNとKopete、事務処理用にはOpenOffice.org(ここではBrOffice.org)が用意されている。このほか、編集やメディア制作、あるいはファイル共有のための便利なアプリケーションもある。これらもろもろを支えるのは、Linux 2.6.22.9、GCC 4.1.2、Xorg 7.2だ。中にはシステム構成の変更を必要とするものもあるが、マルチメディア・サポートはインストール直後から使え、暗号化されたDVDの閲覧も可能だ。もっとも、今回の試行ではAdobe Flash Playerを自分でインストールする必要があった。Firefoxが一般的な/usr/libではなく、/optにインストールされているためだ。

 今回の試行で発見したアプリケーションに関する問題は、Yakuakeターミナル・エミュレーターのトラブル1件だけだった。このエミュレーターはインストール済みで、何もしなくても使えるようになっている。通常は折り畳まれた状態にあり、使うときに画面の上端から引き出し、終わったらキーを押して閉じるのだが、この開閉をした後にたびたび応答しなくなるのだ。こうなると新しいタブを開くしかないのだが、ボタンを1回クリックしただけでは開かないことがあり、さらにはまったく機能しないこともあった。

 しかし、これ以外は快適だ。もっとも、Gentoo同様、ハードウェアの高度な構成を自分の手で行わなければならない部分はある。若干の問題はあるものの、デスクトップは美しく、初心者向けの有用なアプリケーションも用意されている。ライブDVDは携帯用のシステムには適していない点もあるが、コンパイルなしに実際に使えるGentooシステムをインストールする手段としては素晴らしいものだ。

Linux.com 原文