格段に向上したWin4Lin 5.0

 どうしても必要なWindowsアプリケーションをLinux上でも利用可能にするためのソフトウェアは今やいくつも存在する。そのような中でWin4Linは、サポートにお金を支払っても良いと考える人々向けの安価なツールとして何年にも渡って生き残ってきた。最近リリースされたWin4Lin 5のUbuntu版は30ドルだが、前リリースの難点を一掃したうえ「ほぼネイティブの性能」という謳い文句を実現している。

 昨年レビューしたWin4Lin 4翻訳記事)は不完全なGUIとコマンドラインへの過度の依存が原因で、決して使いやすいものではなかった。さらにハードウェアサポートの不十分さも加わって、最低限のユーザビリティしか提供していなかった。しかしWin4Lin 5では、それらすべての点に関して改善しており、デスクトップユーザ(特にUbuntuユーザ)向けの特別価格も提供されている。

 今回はWin4Lin 5を1GBのRAMを搭載した2.0GHz Core 2 Duo E4400マシンと、2GBのRAMを搭載した1.8GHz Core 2 Duo E6300マシンの2台のデュアルコアマシン上で試してみた。なお両マシン上でホストOSとしてMandriva Spring 2008.1とUbuntu 7.10の両方を試してみたのだが、ディストリビューション間での性能に差は見られなかった。

 これまでのバージョンと同様にWin4Lin 5も、オープンソースのプロセッサエミュレータQEMUと、そのコンポーネントである性能アクセラレータKQEMUをベースにしている。インストールには、32ビット/64ビットアーキテクチャ用のコンパイル済みバイナリとしてRPMまたは .debを利用できる。インストール方法については、Fedora、openSUSE、Debian、CentOS、Ubuntu、Mandrivaなどのメジャーなディストリビューション向けの充実した手引きが用意されている。なおインストールの際には各ディストリビューションのオンラインリポジトリからGCCコンパイラとカーネルのソースコードを取得してrpmコマンドやdpkgコマンドを使ってインストールする必要がある。Win4Linでは、ゲストOSに利用できるのはWindowsのみとなっている。複数のWindowsゲストをインストールすることができるが、同時に実行できるのは2つだけだ。

パワフルなGUI

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Win4Lin 5.0

 Win4Lin 5ではシンプルで優れた設計の分かりやすいGUIを利用して、Win4Lin上のすべてのゲストインスタンスに適用されるグローバルな設定を指定したり、Windowsゲストをインストールしたり、ゲストについての様々な設定を調整したりすることができる。

 Windowsゲストをインストールする際には、ゲストに割り当てるRAMの容量や仮想ドライブの最大容量をスライダーを使って変更/設定することができる。インストールはCD/DVDドライブ以外にも、ISOイメージからも可能だ。ユーザガイドでは、Windows CD/DVDのISOイメージを作成してCD/DVDの代わりに使用すればインストール時間が短縮できるとして推奨されている。またWindowsのアップグレード版CDからのインストールも可能だが、その場合は旧版のWindowsがある場所をWin4Linのインストーラに伝える必要がある。なおゲストインストール用インターフェースの指示に従ってインストール開始前にプロダクトキーを入力しておけば、インストール中ずっとその場にいなくてもインストールすることが可能だ。

 Win4Linは、デスクトップ上の1ウィンドウ内でWindowsを実行する。このWindows用のウィンドウの大きさを変更すれば、その大きさに合うようにWindowsの解像度も自動的に調整される。17インチと19インチの2台のワイド画面モニタでこの機能を試してみたところまったく問題なく動作して、全画面モードにした場合にはWindowsも自動的に全画面を使うようにサイズの変更が行なわれた。またサウンドの再生/録音も自動的に設定されるが、ALSA、OSS、EsounDなどのサウンドサーバを使用するようにゲストの設定を変更することも可能だ。

 サウンドサーバの他にも、Windowsゲストセッションのカスタマイズのために調整できる設定項目は数多くあって、ゲストに割り当てるRAMの容量を変更したり、多言語入力用のキーボードのロケールを変更したり、仮想フロッピードライブなどのデバイスを有効にしたり、「PDFとして出力」オプションなどの機能を有効にしたりすることができる。物理的なCD/DVDデバイスも利用できるが、それに加えてISOイメージやUDFイメージを物理的なCD/DVDメディアかのようにWindowsに見せかけることもできる。そのためにはWin4LinのGUIを利用するか起動中のWindowsゲスト内でShiftとF12キーを同時に押すかして、CD/DVDドライブ用のイメージを指定すれば良い。またゲストを全画面モードで実行してCtrl-Alt-Delキーの組み合わせをWindowsゲストに送信することもできる。しかし試してみたところWindows XP上ではISOイメージを使用することができなかった。Win4Linの開発元Virtual BridgesのCTO Leonardo E. Reiter氏によれば原因はCDの変更を正しく検知しないXPのバグのようだ。そこでユーザガイドに説明されている対処方法に従ったところ、ISOイメージを利用することができた。

 Win4Linにはまた、ゲストを「スナップショット」モードで実行するという興味深いオプションがある。文書によればスナップショットモードでは、ゲストに対して行った変更がセッション終了時に無効になるので、「レジストリ崩壊や全体的な性能低下など、時間が経つにつれて起こるWindowsの自然劣化の防止」に役立つのだという。ただしユーザ設定と文書の変更についてはゲストがスナップショットモードで実行されているかどうかには関係なく保存される。またゲストセッションのバックアップとリストアもWin4Linのインタフェースでボタンをクリックするだけで行なうことができる。

 Win4LinのすべてのゲストとLinuxホストとの間では、コピー&ペーストがデフォルトで有効になっている。ただしファイル自体のコピー&ペーストをしたい場合には、Windowsゲストの中でホストのフォルダを表示する、共有フォルダ機能経由で行う必要がある。

優れたハードウェアサポート

 手元のデュアルコアマシンにはインストールすることさえできなかった前バージョンと比べれば、Win4Lin 5のハードウェアサポートは格段に向上している。オンボードのサウンドカード、ワイヤレス/ワイヤレスでないEthernetカード、USBとPS/2のキーボード/マウスなど基本的なデバイスはすべて機能した。なおWin4Linはハードウェアに対して直接命令を行わずハードウェアの呼び出しをLinuxホストによる中継に依存しているので、Windowsゲストの音量を上げるためにはホスト上で音量を上げる必要がある。

 Win4Linの前リリースでは、同じ理由から、利用可能なプリンタがLinux上で利用可能なものだけに限られていたが、Win4Lin 5ではLinuxでは利用できないプリンタも利用可能になった。しかし今回マニュアルの手順通りに試してみたところ、手元のLinux非互換のプリンタを利用することはできなかった。ゲスト内にWindows用ドライバをインストールしてテスト用ページの印刷を試したのだが、「印刷ジョブを作成できない」という内容の表示が出て操作は毎回失敗した。

 また今回のバージョン5では、USBメモリ、カメラ、携帯音楽プレーヤなどのリムーバブルUSBデバイスへの読み書きができるようになった。ただしWin4Linはハードウェアへのアクセスを間接的に行うため、これらのデバイスに対するアクセスはホストがマウントしたフォルダ経由で行う必要がある。なおStart(スタート)→Programs(プログラム)→My Host Computer(マイ・ホストコンピュータ)の中には/media、/mnt、/homeなど、これらのデバイス上のファイルにアクセスするためのマウントポイントへのショートカットがいくつか用意されている。

フロートアプリケーション

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フロートWindowsアプリケーション

 Microsoft Office、Adobe Reader、VLCメディアプレイヤ、Visual Studio試用版、Quicken試用版などのWindowsアプリケーションをいくつかWin4Linのゲスト上にインストールして使用してみたところ、仮想化ゲスト環境内での起動速度について、ネイティブに起動した場合の速度との顕著な差は感じられなかった。またどのアプリケーションもネイティブと同程度の優れた性能で、遅延や性能上のボトルネックなどはほとんど感じられなかった。

 とは言えWin4Linの最大の利点は、通常の完全なWindowsセッションを起動せずにWindowsアプリケーションを利用できるということだ。つまりWin4Linでは、Windowsゲストの中にインストールしたWindowsアプリケーション用のランチャをLinuxデスクトップ上に作成することができる。そのために必要なのはWindowsゲストの設定を編集してRDP(Remote Desktop Protocol)接続を有効にしておくことだけだ。これによってWindowsゲストがバックグラウンドで実行されてRDP呼び出しを待ち受けるようになり、Linuxデスクトップ上のアイコンからWindowsアプリケーションを呼び出すと、RDP経由でWindowsゲストと接続してアプリケーションを実行できるようになる。この機能はWin4Linの用語で「フロートWindowsアプリケーション」と呼ばれている。

 フロートWindowsアプリケーションの初回の実行の際には、必要なファイルを読み込むために(物理/仮想マシンのリソースにもよるが)かなりの秒数がかかる。今回試した2台のデュアルコアマシン上では、Microsoft Wordを起動するのに初回は10秒から15秒ほどかかった。しかしWindows OSの毎回必要となる部分がバックグラウンドで一度実行されてしまえば、それ以降はどのアプリケーションもほぼ瞬時に起動した。フロートWindowsアプリケーションの場合、アプリケーションは他のネイティブのLinuxアプリケーションとまったく同じように専用のウィンドウ内で直接的に実行され、ウィンドウのサイズを変更した際にもネイティブのLinuxアプリケーションとまったく同じように各デスクトップの境界をちゃんと認識しタスクバーを覆い隠してしまうようなこともなかった。

まとめ

 Win4Linの今回のリリースでは短所を補って余りある長所がある。性能について言えば、これまでのどのリリースよりも優れている。ハードウェアへのアクセスをLinuxに依存しているのにも関わらず、Win4Lin 5ではUSBデバイスがサポートされていて、(今回試した特定のLinux非互換プリンタは利用することができなかったものの)Linux非互換プリンタもサポートされているようだ。また、Windows全体が必要というよりは一つか二つ程度の単独のWindowsアプリケーションが必要なだけというユーザには、フロートアプリケーション機能が便利だろう。

 Virtual BridgesはWin4Lin 5をもって、他の高価な仮想化ソリューションとの差をほとんど無くしたうえ、今後開発を進めるべき素晴らしいプラットフォームを手にしたようだ。今後はプリンタだけでなくゲーム用デバイスやワイヤレスカードなどのLinux非互換ハードウェアへの対応や、ホスト上の3Dグラフィックカードなどの利用が向上することを期待したい。

 特定のアプリケーションが必要なためにWindowsを手放すことができず、有料サポートを利用することがあるかもしれないという場合には、仮想化の選択肢としてWin4Lin 5も是非検討すると良いだろう。

Linux.com 原文