Linux搭載ハンドヘルドのNokia 770を飾る多彩なアプリケーション群

来るべきワイヤレス接続ネットワークを中心としたシンハードウェア型のサーバ/クライアントモデルへの移行に際し、多くの組織がその準備段階でもたついている現状において、時代を一歩先取りしているのがNokia 770 Internet Tabletである。これはブラウザ、電子メールクライアント、マルチメディアプレーヤなどの基本ソフトを装備したハンドヘルド型のデバイスなのであるが、その真の魅力は、ある程度の制限付きながらも各種の新規アプリケーションをインストールすることで機能を拡張してゆけるLinuxベースのシステムという点にあると言えるだろう。

Nokiaの出資するMaemoというプラットフォームは、各自のニーズに応じた設定その他の変更をユーザが簡単に実行できるようにしたものである。そしてオープンソースを活用したパソコンライフにとって、770のハードウェアとMaemoの開発環境という組み合わせは、まさにドンピシャな存在なのだ。

770で使用できるプログラムは、いくつかのカテゴリに分類されている。まずは工場出荷時にインストールされているデフォルト装備のアプリケーション群だが、スリム版Opera Webブラウザを始め、オーディオプレーヤ、ビデオプレーヤ、ニュースリーダー、電子メールクライアント、その他各種のデスクトップ用サポートツールなど、これだけでも大盤振る舞いの状態だ。

セカンドカテゴリにあるものは、他のプラットフォーム上で熟成されたプログラム群の移植版で、デフォルトで装備されていないものがこの中に分類されている。具体的には、VNCビュワー/サーバ、FTPクライアント、Xターミナルサーバ、IRCクライアントおよび、膨大な数のゲームおよび各種のシステム関連ツール群が該当する。いくつかのプログラムは簡易的なGUI操作が可能だが、それ以外のものはコマンドラインで起動することになる。なお、システムレベルの操作はデフォルト装備のプログラム群がその大半を処理してくれるため、基本的にユーザはデスクトップのGUIモデルと同等の操作感を味わえるはずだ。

サードカテゴリには、鋭意開発中であるが一般公開するには今一歩というものがここに分類されている。具体的には、Asterisk、rdesktop、kismet、J-Pilot、Tcl/Tkなどのソフト群だ。その他にも「計画中」や「希望品」などとされたアプリケーションもいくつかあるが、これらは実質的にベーパーウェアの域を出ていない段階である。本稿の執筆時では、完成段階のカテゴリにあるものが103個、鋭意開発中のカテゴリにあるものが73個存在していた。

簡易化の追求されたダウンロードとインストール手順

工場出荷時のインストール済みアプリケーションの起動は、こぢんまりしたNokiaデスクトップに配置されたアイコン群をクリックすることで行える。新たにアプリケーションを追加したい場合に一番お手軽な方法は、まずはWebブラウザを開くことだ。ブラウザが起動すると(先に説明した)各カテゴリへのリンクが表示されるので、目的のカテゴリをクリックして利用可能なプログラムの一覧を確認しよう。インストールしたいプログラムが見つかったら、そのリンクをクリックするだけでダウンロードが開始される。なおNokiaは、ソフトウェアのインストールにDebianパッケージングシステムを採用することで、依存性問題の最小化を図っている。

ファイルのダウンロード用ウィンドウを見ると.debファイル名が確認できるはずだ。「Open」ボタンをクリックするとダウンロードが完了して、インストーラが起動する。最後にパッケージのインストール用ウィンドウの「OK」ボタンをクリックすれば、インストールは完了だ。

インストール後のアプリケーションの起動も簡単である。新規インストールしたプログラムは、メインアプリケーションメニューのアイコン(紙を2枚重ねたような図柄)の下に配置されるので「Extras」タブを表示させる。このアプリケーションメニューのアイコンは、KDEデスクトップでお馴染みの巨大「K」アイコンに相当すると考えればいいだろう。アプリケーションメニューのアイテムをクリックすれば、目的のプログラムが起動する。

コマンドライン方式のプログラムを使いたい場合は、あらかじめxtermをダウンロードしておく必要がある。その後、目的のプログラムをインストールすれば、コマンドプロンプトからの実行が可能だ。

実際の使用感はどうか?

Linuxユーザならば気になるであろういくつかの代表的ツールについて、その使用感を試してみた。

xterm:xtermウィンドウが画面にポップアップ表示されるのは、私の愛用しているAMD/SUSE搭載ラップトップと同様だ。lsを実行すると、カレントディレクトリ中のファイルが一覧され、dfを実行するとマウント済みファイルシステムの一覧が表示される。それではテキストファイルの表示を試してみよう。当然のごとくcatがそのまま使える。ディレクトリツリー上の移動もcdで可能だ。

duも、エンドレスにリスト表示が続く点を除けば、正常に機能してくれた。これはCtrl-Cキーが使えないので、数分がかりで表示される長大なリスト出力を止めようがないためだ。-hオプションを付けて実行すれば、ディレクトリの使用状況がメガバイト単位で表示されるようになる。du -helpと入力すれば、コマンドの簡易ヘルプが表示される。

vncviewer:SUSE 10.0とKDEを搭載したAMD Athlon 64ラップトップ上でデスクトップ共有機能をオンにしておいてから、「Extras」タブにあるvncviewerプログラムを起動してみた。小型のポップアップウィンドウにVNCパスワードを入力すると、すぐにラップトップ側の画面が表示された。

ただしラップトップのマウスを動かすと、画面の再描画が終わるまでに若干のタイムラグが感じられた。770の搭載プロセッサは200MHz ARMなので、こうした処理には若干力不足といったところであろう。また、画面上の各部を確認するにはスクロール操作を多用することになるが、これは画面サイズが770側は800×480であるのに対してラップトップ側は1280×800という違いがあるためである。

Ogg Vorbis Player:770にはMP3プレーヤが標準装備されているが、Oggファイル用の再生プログラムは用意されていない。これらのファイルを再生したければ、Ogg Vorbisプレーヤを770にダウンロードすればいい。今回は試しに私のWebサーバにあるファイルをいくつかオーディオフォルダにダウンロードしてみた。音量が多少小さかったものの、内蔵スピーカの再生音としては上々の品質であった。ヘッドホンで聴くには十分である。

若干の失望を味わったのは、Sambaやネットワーク共有ドライブからのファイル読み出しができなかったことであるが、こうした機能の770への移植作業は途についたばかりである。おそらく将来バージョンでは、正常に使えるようになるだろう。

次は何を期待できるのか?

現状で多数のエクストラパッケージが利用可能な状態に整備されていることを考えると、770プラットフォームに関心を寄せているデベロッパは、かなりの数に上っているのだろう。バイナリのダウンロードも、簡単かつスムースに実行できる。

過去に行われたLinuxベースのハンドヘルドコンピュータを普及させようという試みは、Sharp Zaurusがその最たる例であるように、かんばしい結果を残せなかった。770の場合、すでにNokiaはハードウェア的な補強策を講じており、カスタマイズその他の活動を奨励するための開発環境も整備されていることから、かなりの好結果を期待できるだろう。ハンドヘルドを用いたワイヤレス接続式ネットワーク型サーバ/クライアントテクノロジ分野の開拓を目論んでいるメーカーやベンダであれば、770からは目を離せないはずだ。

Rob Reilly:コンサルタント、トレンドウォッチャ、執筆家。Linuxおよびオープンソースを活用したポータブルコンピューティングを専門とし、映像テクノロジとの統合に関する深い造詣を有している。

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