12年温められて誕生したFreeDOS 1.0

オープンソースのMS-DOSオペレーティングシステムを手がけるFreeDOSプロジェクトが「終了」したという噂が広まって2カ月後、開発者のJim Hall氏によってFreeDOSバージョン1.0がリリースされた。無料でダウンロードできるこのオペレーティングシステムはGNU GPLライセンス以外のプログラムを少数含むものの、主としてGNU GPLの下でライセンスされたさまざまなプログラムで構成されている。また、このFreeDOSバージョン1.0はLinux CD Mallから6.95ドルで購入することもできる。

FreeDOSは昔のDOSベースのゲームのユーザを対象としてDOSにしか対応していない古いソフトウェアを実行したり、またはキャッシュレジスタのような組み込みのDOSシステムを備えたシステム向けのサポートとして利用される。Hall氏は「正直なところ、FreeDOSをダウンロードする人々はPCエミュレータで古いDOSのゲームをプレイする人々がほとんどだろう」と話している。「私個人はDOOMやDark Forcesが大好きなのだが、これらは実にすばらしいゲームだった。しかし、組み込みシステムの市場を軽く見てはいけない。依然としてDOSを使おうとする組み込みシステムの設計者は数多くおり、彼らはFreeDOSのバージョンが1.0になったことを非常に喜んでいる。というのも、これで彼らの販売する組み込みシステムでFreeDOSを利用することが正当化されるからだ」

実際、どんな市場であれ軽んじるのは賢明ではない。というのも、FreeDOSは業務用の2つのコンピュータ製品系列、DellのDimension n Series E510やHewlett-Packardのビジネス用デスクトップPCでも利用できるからだ。

FreeDOSはもともと7月末のリリース予定だったが、Hall氏はバージョン1.0のダウンロードを可能にする前に万全を期すためにリリース時期を数週間延期することを決めたという。リリース直前の数週間は、たまたまWin32の機能を持つ場合にハードディスクドライブがブートできなくなるおそれがあるという準備段階のFreeDOSディストリビューションに生じた小さな問題を除けば、特に変わったことはなかったとHall氏は述べている。「この問題を修正する前にバージョン1.0をリリースしなくてよかったと思った。発表以降の全ダウンロード件数を考慮すると、諸事情を適正化するためにリリースを数週間延ばすという決断は非常に良かったと思う」

開発に12年かかったFreeDOSへの取り組みは、Microsoftが来るべきWindows 95のリリースとともにMS-DOSのサポート中止を発表した1994年に始まった。Hall氏がDOSのパブリックドメイン版を開発するプロジェクトの立ち上げを決断すると、すぐにほかの開発者たちから協力の申し出があった。ゆっくりとではあったが、作業は着実に進み、Hall氏がささやかな楽しみを味わおうと決めた2006年7月のとある日まで続いた。SourceForge.netのサーバを指すFreeDOS.orgのDNSエントリを変更する際、Hall氏は変更前のサイトに「FreeDOSは終わりを迎えた」というメッセージを出した。単なる冗談だったのだが、Hall氏がFreeDOSプロジェクトを終わらせたという噂はたちまちコミュニティ全体に広まった。

FreeDOSの終了告知を出したことをHall氏は「愚かな行いだった」と語っているが、皮肉にも、このことがプロジェクトをにわかに活気づかせ、今月になって待望のバージョン1.0がリリースされるという結果をもたらしたのだ。「7月後半のあの一件以来、我々は目の回るような忙しさに見舞われた。あのときの(FreeDOS開発者とコミュニティ外部の両方からの)反応が非常に協力的で、我々が目標としてきたFreeDOSバージョン1.0の完成を支援したいという内容だったことは実に興味深い。

「プロジェクトにはまったく新たな利益が生まれた。数名の新規メンバーがFreeDOSプロジェクトに加わり、しばらくあまり活動に参加していなかった以前からのメンバーが突然新しいコードを書いたり、1.0に向けてのアップデートを作成したりするようになったのだ」

新バージョンでHall氏が気に入っている機能の1つにヘルプシステムがある。「HTMLベースのヘルプシステムを備えることになったのがとても嬉しい」と彼は話している。「HTMLは非常にシンプルな文書化サブシステムなので、このシステムによって人々はヘルプ用のドキュメントをかなり簡単に書けるようになった」。彼をはじめとするプロジェクトのメンバーは、ネットワーク接続も確実に行えるようにした。「私はネットワークに接続せずに(私には必要ないので)FreeDOSの設定を使用することが多いが、世間にはFreeDOSを使ってインターネットやローカルのLANに接続するユーザが大勢いる。基本的なネットワーク機能を動作させるためにCrynwrパケットドライバのコレクションが存在し、プログラマであれば、Wat32ライブラリとリンクさせてTCP/IPを追加することができる」

Hall氏はすでにFreeDOSの今後のリリースに向けた計画を策定中だ。「私は“DOS”の定義に関わる境界を押し広げたいと考えている。ユーザ空間のレベルでは、おそらくGNUの各種ユーティリティをFreeDOSに加えるためのGNU的なプロジェクトの復活を意味することになるだろう。バージョン1.0では、意識してGUIを是認しないようにしていた。なぜなら、“適切な”GUIが載ったフレームウェアのことで気を取られたくはなかったからだ。しかし、バージョン1.0というマイルストーンに到達した今、改めてGUIの問題について考えたいと思っている」

「システムのレベルでは、ぜひとも64ビットコンピューティングに向けた移行を開始したいと考えており、64ビットの環境で我々に何ができるかを検討している。FreeDOS-32の開発陣は何年か前にフォーク版を開発し、FreeDOSに32ビット拡張機能(マルチタスク処理、メモリ保護など)を追加しようと苦労しているが、この取り組みには大いに注目すべきだと私は考えている。全体的に見て、バージョン1.0のリリースにこぎつけ、MS-DOSで可能だったことを実現させた(あるいは超えた)現在、FreeDOSにはちょっとした刷新が必要だと思う。今なお我々はFreeDOSを“DOS”たらしめるものに対して誠実に向き合う必要があるが、今日のコンピューティングに関連した開発を奨励したい。

FreeDOSは事実上どのコンピュータでも実行できるが、Hall氏はFreeDOSのインストールおよびブートにはPCエミュレータを利用するように推奨している。Macユーザの場合は、IntelベースのMacがブートに使用するExtensible Firmware Interface(EFI)のサポート不足から「そう遠くない将来の」エミュレータでFreeDOSを実行する必要が出てくる。Hall氏によると、今のところExtensible Firmware Interfaceは今後の実現機能リストには載っていないという。

12年もの開発期間を経たとあっては無理からぬことだが、Hall氏はBas Snabilie氏に頼んで新たにプロジェクトのマスコットBlinkyを作らせたというほどFreeDOS 1.0のリリースに興奮している。

「しかし、私をひどく興奮させている大きな要因は、我々がやっとバージョン1.0のリリースを果たせたことにある」

NewsForge.com 原文