レビュー:Firefox 2.0に施された堅実な改善点

先週公開されたInternet Explorer 7に対抗する形で、Mozillaチームも新たにFirefox 2.0をリリースした。今回のリリースにおける変更箇所や新機能はさほど多くなく、最も目立つのは既存機能の改良である。とは言え、確かに1.5系列からの大幅な変更点はないものの、Firefox 2.0にはアップグレードするだけの充分な価値があると見ていいだろう。

今回追加された“新機能”の中には既に機能拡張の形で実現されていたものも多いが、機能拡張を介してしか取り込めない機能と、始めからブラウザにビルトインされている機能では、雲泥の違いがある。確かに上級ユーザであれば必要に応じて適当な機能拡張を自分で探し出す(あるいは自作する)だろうが、Mozillaとしてはより広範なユーザをカバーしたいという意向があり、得てしてそうしたユーザは「機能拡張を介して、フィッシング対策機能やスペルチェックあるいは様々なタブ操作機能をブラウザに追加する」という発想とは疎遠なものである。

今回の新規リリースでは若干の外見的な変更が施されているものの、それは目立つものではなく、むしろ特定しにくいくらいである。仮に黙ってFirefox 1.5をFirefox 2.0にアップデートしたとしても、ごく平均的なユーザであれば、新規アイコンセットの存在やテーマが変更されたことに大部分は気づかないのではないだろうか。

これは私がそうだったから言うのだが、ユーザが一番最初に気づく変更点の1つは、スペルチェック機能が追加されたことだろう。新たなFirefoxでは、GmailなどのWebメールクライアント上で文面を入力する場合、あるいはブログの掲載記事やフォーラムへのコメントを入力する場合、スペルミスした単語ないし辞書の未登録単語については、お馴染みの赤い下線が表示される。これらの単語を右クリックすると、正しい単語の候補がコンテクストメニュー形式で表示されるが(候補が存在する場合)、この状態で辞書への単語登録を行うことも可能だ。このスペルチェックの素晴らしい点は、テキストフィールド中のものであってもメールアドレスやURLは無視してくれることであり、また検索用のフィールドなど、通常はスペルチェックを必要としない入力フィールドについても反応しないようデフォルトで設定されている。

セッションの復元機能

今回のFirefox 2.0における開発サイクルは総じて比較的安定したものであったが、私個人としては原因不明のクラッシュに何度か遭遇しており、新たにFirefoxに搭載されたセッション復元機能を検証する機会を得ることもあった。以前のFirefoxであれば、クラッシュないし機能拡張の追加後にブラウザを再起動すると、その段階でFirefoxの作業状態はすべて破棄されてしまうので、例えばGoogleで有用なサイトを見つけ出した直後だったような場合は、検索作業を最初からやり直さなければならなかった。

今回新たにリリースされたFirefoxでは、セッション復元機能が組み込まれている。これは、クラッシュないし機能拡張の追加後にブラウザを再起動させる際に、まったく新規のセッションをスタートさせるか、再起動前のセッションを復元するかのオプションを提示するという機能だ。Firefox 2.0のリリース以前でも、これと同様の操作は機能拡張の形で実現されており、しかもこの機能拡張では、ブラウザで作業をしている途中で随時にセッション情報を保存するという機能も実装されていた。その点、Firefox 2.0のセッション復元機能が有効となるのは、クラッシュないし機能拡張の追加やアップデート後にブラウザを再起動した場合だけであり、通常の手順でユーザがFirefoxを正常終了させた場合にセッション情報を保存するかを確認されることはない。

Firefoxの機能拡張の管理画面(クリックで拡大)

一方でこのセッション復元機能にも秀逸な点はあり、それはテキストフィールドに入力途中であったデータでも記憶しておいてくれることで、例えばブログ用の記事の入力中でブラウザがクラッシュした、あるいは、結構な分量の記事を執筆中にうっかり機能拡張をインストールして再起動させてしまったような場合でも、ブラウジングの履歴と同様にFirefoxはそうした文章を保持してくれるのである。

ただし、これは私が操作した範囲で気づいたことだが、復元機能が有効なのは通常のテキストフィールドだけに限られるようである。例えばTinyMCEなどのJavaScript型テキストエディタをブラウザ上で使用している場合は、入力途中のデータは復元されることはないと覚悟しておく必要があるだろう。

機能拡張のインストールに関しては、Firefox 2.0では機能拡張およびテーマの管理機能が改められており、両者はいずれも「アドオン」で登録するよう変更された。その他には機能拡張のアンインストール機能が追加されており(訳注:アンインストール機能は過去のバージョンにも存在しており、新規追加されたのは一時停止機能)、全体的な機能拡張の管理操作が簡単化されている。

既に存在する機能拡張については、その全てとはいかないだろうが、大半はFirefox 2.0でも動作するだろう。実際、私自身も多数の機能拡張を使用しているが、これらの大部分が動作することをベータリリースの段階で確認している。唯一の例外はdel.icio.usという機能拡張だが、これについてもFirefox 2.0のリリース後にほどなく対応版が公開されているようである。

フィード機能の改良

Firefox 2.0もRSSとAtomのフィード機能をサポートしているが、今回はフィードのプレビュー表示や購読フィードのライブブックマーク化および、Bloglines、My Yahoo!、Google ReaderなどのWebサービスとの併用が可能となった。例えば、URLバーにあるオレンジ色のフィードアイコンをクリックすると、フィードがプレビュー表示され、購読オプションの設定画面に進むことができる。

Firefoxのフィードプレビュー機能(クリックで拡大)

何か特定のWebサービスを常用しているのであれば、フィード購読の登録先として、そうしたサービスの1つを指定することも可能だ。私の場合は、改良後のGoogle Readerを愛用しているが、そのFirefox 2.0との親和性は非常に高く、専用のデスクトップアプリケーション並の操作感で動かすことができる。

次に新たなブックマークの登録をする機会があったら、そのサイトがマイクロサマリに対応していないかを確認してみよう。Firefox 2.0で新規に搭載されたサイトのマイクロサマリ機能は、別名ライブタイトルとも呼ばれており、これはブックマーク上にアクティブな情報表示をするという機能だ。対応サイトをブックマークする際に登録画面を見てみると、名前フィールドの端にドロップダウン用ボタンが追加されているのが分かるだろう。デフォルトの選択肢は従来通りのサイトタイトルであるが、マイクロサマリに対応したサイトについてはプレビュー名が表示される。

ライブタイトルを用いたブックマークの登録(クリックで拡大)

例えばWoot.comは、本日の商品情報をマイクロサマリ形式で提供している。つまりこのサイトに関しては、登録しておいたブックマークを見れば、サイトのタイトルでなく商品情報が分かるという寸法だ。このようにマイクロサマリは非常に便利な機能ではあるのだが、惜しむらくは対応サイトの数が現状で非常に少ないことが難点だ。ただし未対応サイトであっても、独自にマイクロサマリ化することは可能である。

Firefox 2.0では検索機能も強化されており、入力中の検索キーワードに応じた候補の用語を自動表示してくれるようになった。Firefoxの右上にある検索ボックスに検索キーワードを入力していくと、以前に同じ用語で検索したことがある場合、1ないし2つ目の単語を入力した段階で候補が表示されるはずだ。

Firefox 2.0の謳い文句の1つは、フィッシング対策機能の追加だ。これは、Firefoxが既知のフィッシングサイトのリストをGoogleから収集しておき、そうした擬装サイトの1つにユーザがアクセスしようとした場合に警告するという機能である。ここ最近私のGmailアドレスに送信されてきたいくつかのフィッシングサイトで試しただけではあるが、その限りにおいて、この機能は有効に機能してくれた(皮肉なことにMozillaのフィッシングテストサイトを試したところ、正常に反応してくれなかった)。

タブ機能の改良

Firefox 2.0では、いったん閉じたタブを再表示する機能が追加された。こうしたタブの再表示機能をFirefoxが装備した理由だが、別のタブにフォーカスを移動させる際に、誤ってタブを閉じるためのボタンをクリックしてしまうケースが頻発するためだと考える方もおられるだろう。ところが、そうした誤操作をする確率は思ったほど高くはない。と言うのも、クローズボタンが表示されるのはアクティブなタブだけであり、誤ってタブを閉じるとすれば、連続して2度クリックする必要があるからだ。

タブバーの右端には、表示中のタブを一覧するためのメニューが追加されており、多数のタブを開いている場合などは、このメニューをクリックすることでタブ名をリスト形式で確認できるようになった。なおFirefox上で表示しきれないほど多数のタブを同時に開いた場合だが、その場合はタブタイトルが読めなくなるまでタブ幅を縮めるのではなく、タブ列の表示範囲を移動させるための矢印がタブバーの両端に表示される。

Firefox 2.0で変更されたタブのレイアウト(クリックで拡大)

今回のFirefoxについてはリリース候補からファイナルバージョンまでを試してみたが、未だ放置されているバグが1つあるようなので、ここで指摘しておこう。デフォルトのFirefoxでは、別ウィンドウとして開くタイプのリンクであっても、新規タブとして開くよう設定されている。こうした挙動自体にバグはないのだが、意図的に設定を変更してタブではなくウィンドウとして開くよう指定したところ、何故かFirefoxはこのデフォルトの挙動に復帰してしまうのだ。何が原因でデフォルトの挙動へのリセットが行われるかは不明であるが、私がFirefoxのタブ設定画面を何度確認しても「新しいウィンドウで開く」はチェックされ続けているのである。ここでの設定を「新しいタブで開く」に変更すれば問題は無くなるが、それは一時的な措置に過ぎない。

Firefoxの今後

Mozilla現象学者(実際にそういう肩書きだそうである)のMike Beltzner氏と2.0リリースについて語る機会を得ることができた。Firefox 2.0の新機能を絶賛するBeltzner氏が語ってくれたのは、Firefox Partyの新規リリース記念キャンペーンや、2.0以降のリリース予定についてであった。

Beltzner氏の語るところでは、Mozilla開発陣は機能拡張のインストールないしアンインストール後におけるブラウザの再起動を無用化しようと構想しているそうである。もっとも現行のFirefoxを見てみると、スタートアップ時に機能拡張を登録する必要があるので、現在のコードベースのままでそれを実現するのは無理があるだろう。

また同氏は、今後Firefoxのユーザはより頻繁に実験的なビルドに遭遇することになり、機能拡張や新規ビルドの形でFirefox Labsの開発する新機能を体験することになるだろうとしている。現状でそうした新種のビルドが完成している訳ではないが、Beltzner氏によると、実験的な機能を取り込んだFirefoxが世に出されるのは、そう遠い未来の話ではないとのことだ。

Firefox開発の最先端をフォローしたいのであれば、今の内からFirefox 3.0コードベースを視野に入れておくべきだろう。Firefox 3.0については開発計画およびナイトリビルドが公開されているが、これらの完成度はファイナルバージョンのFirefoxはもとよりベータリリース以前の段階にあるはずなので、試用する場合はそれ相応の覚悟が必要だ。実際、私が最新版のナイトリビルドを試したところ、起動させただけでsegfaultが発生した。

現行の暫定的なスケジュールによると、3.0リリースは2007年5月に予定されており、feature freeze(機能の凍結)および最初のベータリリースは2月末とされている。

NewsForge.com 原文