MozillaとLinuxディストリビューション間の協力体制の成立

Mozilla Foundationは、今後の開発およびリリース体制をLinuxディストリビューション側の要請に合わせる方向で改善してゆくことに同意した。同ファウンデーションからの発表では、今回の合意に関心を示すすべてのLinuxディストリビューションとの間で、パッチの管理、ディストリビューション専用パッケージの作成、開発ポリシの決定に関し、より直接的な協力関係を築くようにするとされている。

これまでにもMozillaからはLinux用の“vanilla”パッケージとして、Webブラウザ、電子メールソフト、および各種の複合製品が提供されてはいたが、実際問題としてLinuxユーザの大部分は、各自のディストリビューション側から用意されるカスタムビルドを使用するのが常であった。通常こうした措置において個々のディストリビューションが行っているのは、GCCや標準Cライブラリなど低レベルのシステムコンポーネント間の相違点を補完するためのパッチをvanillaソースに当てることだが、その他にも非Mozilla系のテキストレンダリング用ライブラリであるPangoを使用した言語を独自にサポートするなど、Mozillaの正式コードには実装されていない機能を付加するような場合も見られている。

個々のディストリビューション側で独自に施される変更箇所はそれぞれが膨大な数に上るため、アップストリーム側にパッチを移植するのは、不可能とまで言わないもののかなり困難な作業であり、またMozillaの商標使用に関する論争といった二次的な問題を発生させる原因ともなっていた。更に現在のMozillaの運営方針では、分岐コードについては安定版のセキュリティ関連の修正のみを受け付けるものとされている。多くのディストリビューションは独自のリリースを長期間サポートしているが、それらにFirefoxを同梱する場合、同ブラウザの旧バージョンに対するサポートを継続してゆく必要があり、しかもメジャー版の安定パッチを開発してもアップストリーム方向に適用できないケースが大部分なのである。

11月に開催されたFirefox Summitでは、MozillaのMike Connor氏、Red HatのChristopher Aillon氏、NovellのRobert O’Callahan氏が会談し、どのような変更を施せばLinux Mozillaの開発プロセスがより有用に機能するようになるかについて意見を交換した。そこで決まった開発方針は、Connor氏が個人で運営しているブログの12/4(月)の記事として掲載されている。

主要な変更点としては、Linux固有の開発プロセスを監督するためのグループを新規に立ち上げることが挙げられている。このグループにはMozilla Foundation以外の人間が有志として参加し、Linuxディストリビューションおよびその他の利害関係者側の要請を代表させるとのことだ。こうした代表者は、Linux固有のコード変更、パッチの準備、変更箇所のアップストリーム方向への反映について責任を負うことになる。

これまでは個々のディストリビューションごとに各自のパッチセットを個別に管理していたが、今回の措置により、そうした作業の重複が軽減されるはずである。Aillon氏の言葉を借りるならば、複数のディストリビューションが提携することで「どのディストリビューションがどのようなパッチを準備しているかを特定する必要がなくなり、すべてのLinuxユーザが恩恵を受けられるでしょう。また優れたパッチが1つ作られれば、すべてのLinuxユーザがそれを利用できるようになるはずです」ということになる。

またリリースサイクルの食い違いは互換性の維持を妨げる大きな要素の1つだが、新たな協力関係の成立により、すべてのディストリビューションが足並みをそろえて新規リリースのFirefoxに対応することが保証されるようになるはずだ。そして、あるいはこれが一番重要な点かもしれないが、新規のアイデアを自由に提案できるようになることで今後の開発力が加速されるのではないかとAillon氏は予測している。「現行の開発体制では、わざわざパッチを作成してもオフィシャルなビルドに反映されるまで非常に長期間待たされることが確実であるため、安定状態にある分岐コードに対して積極的な開発を施そうという意欲をそぐ形になっています。今回の開発方針の変更によってこうした反応性の悪さが改善されることで、プログラマの意欲が刺激され、開発テンポを促進させる効果が得られるものと期待していいでしょう」。

そうした措置の一環としてMozillaのダウンロードページには、各ディストリビューションの専用ビルドがリンクされると同時に、開発者向けとしてナイトリビルドが提供されるようになるはずである。また今回の会合ではFirefoxのみが検討されたが、同様の協定をThunderbird、SeamonkeyXULRunnerなど、その他のMozilla系アプリケーションに対して結ぶことも考えられる。

Aillon氏が同氏のブログで書いているように、今回の合意はLinuxユーザにとっての“偉大な一歩”である。同氏は、Mozillaとの緊密な協力体制が築けたことで、Debianを悩ませているブラウザの商標問題を緩和する方向に寄与するであろうことを示唆しているが、その一方で具体的な解決の到来が約束されている訳ではない点に注意を喚起している。

今回の協定への参加を正式に表明しているのは今のところRed HatとNovellだけであるが、その他にいくつかのベンダも関心を示しており、例えばSunもその中の1つである。その最終的な参加を予測しているのも、やはりAillon氏だ。「この運動は1つの共同努力ですし、実際そうなるべき性質のものです」。

NewsForge.com 原文