Mozillaから特定サイト用ブラウザWebRunnerが誕生

 最近、ウェブベースのアプリケーションがデスクトップアプリケーションの代わりに使われるようになってきた。ウェブベースの、オフィススィート/メールクライアント/マルチメディアアプリケーション/一般的な生産性ツールは今ではどれも非常に便利に使うことができるようになっている。しかしそのようなアプリケーションの実行という観点からは、標準的なウェブブラウザは必ずしも最良の方法というわけではない。そこでウェブベースのアプリケーションにより適したツールを提供しようと、Mozillaプラットフォーム・エバンジェリストのMark Finkle氏がWebRunnerに取り組んでいる。

 WebRunnerは、SSB(Site-Specific Browser)と呼ばれるタイプのソフトウェアで、一度に一つのアプリケーションだけを動かすように設計されている。WebRunnerはまだ完成していないが、すでに将来性を感じさせるアプリケーションだ。

 WebRunnerの現在の最新版はバージョン0.5だ。WebRunnerはFirefoxの機能縮小版であり、WebRunner自体のプロセスの中で一度に一つのサイトだけを実行することができる。WebRunnerブラウザには最低限のユーザインターフェースしかなく、ツールバーやナビゲーションのためのユーザインターフェースさえもない。WebRunnerのウィンドウには、Google Reader、Flickr、Webベースのヘルプデスク、各種のウェブメール用クライアントといったアプリケーションを使用するのに必要となる最低限のものだけが用意されている。

なぜSSBなのか

 サイトの閲覧にはFirefox(やその他のブラウザ)を使用するだけで良いはずなのになぜ特定サイト用のブラウザが必要なのだろうか? 例えばニュースサイトなどのコンテンツ系のウェブサイトの場合は、表示がFirefoxを使ったときと他のブラウザを使ったときとでまったく同じではなかったとしても、大した問題ではない。しかし、アプリケーションが特定のブラウザではまったく機能しないという場合には、ユーザにとっては大きな問題となる。

 開発者もユーザも同じように、ブラウザの非互換性にはうんざりしてきている。多くのウェブ開発者がまだ若いのに頭が薄くなってしまったのは、サポートすることを求められたブラウザの大群に必死に対応しようとした結果であることは疑う余地がない。一方でLinuxユーザも、IEに特化したサイトについて常にブラウザの非互換性に悩まされている。

 一部のウェブベースのアプリケーションを、メインのブラウザセッションとは別のプロセスで実行することにはメリットがある。一つには、Firefoxの通常のセッションがクラッシュしてしまった場合でも、生産性アプリケーションのために使用しているSSBは影響を受けない。また、ここ何年かの間にFirefoxやその他のブラウザには、閲覧中のページ以外のページやセッションのデータを盗み取られる可能性のある脆弱性が存在していたが、SSBを使えばセキュリティをさらに高めることができる。金融機関などがSSBを提供すれば、ユーザに自社のオンラインサービスと「だけ」やり取りをさせることができるようになって、ユーザがフィッシングや詐欺に会う恐れが小さくなるので良いかもしれない。

 開発者にとってのメリットとして、SSBによって単純化されたアプリケーションインターフェースを使用することができるようになるということがあげられる。厳密に言えば、使用しているアプリケーションがブラウザベースなのかどうかについてユーザが知っている必要はまったくない。WebRunnerの開発がもう少し進めば、「ここをクリックしてアプリケーションを起動する」以上のことをユーザが知る必要なく、WebRunnerで特定のサイトを実行するようにカスタマイズしたパッケージが作られるようになるだろう。

 最後に、WebRunnerでは他のブラウザ(Firefoxも含む)ではできないようなカスタマイズも可能になるはずだ。というのも、Firefox用の拡張は多くのウェブサイトで問題が出ないように対応する必要があるが、SSBの拡張やカスタマイズは一つのウェブサイトやサービスにのみ適用できれば良いためだ。

WebRunnerの入手と実行

 WebRunnerを入手するには、Mozilla wikiのWebRunnerページへ行き、自分のプラットフォーム用の適切なインストーラを取得すれば良い。Linux用、Mac OS X用、Windows用の各パッケージかソースコードを選ぶことができる。

 Linux上では次に、tarballを展開し、インストーラを実行する。あるいは、WebRunnerを置いておきたい場所でtarファイルを展開して、そこから実行するようにしても良い。私はこの方法で行なった。

 webrunnerディレクトリの中には、(当然ながら)webrunnerという実行ファイルがある。また、.webappという拡張子のファイルがいくつかある。このファイルによってどのサイトを実行するのかをWebRunnerに伝えたり、WebRunnerの動作を制御するいくつかの追加のパラメータを指定したりすることができる。WebRunnerの起動は、例えばGoogle Readerの.webappの場合、以下のようにして行なう。

./webrunner -webapp greader.webapp

 起動はこのように非常に簡単だ。もちろんMozillaの開発者たちがあなたの元にやって来て代わりに起動してくれるというならもっと簡単になるのかもしれないが……。Google Readerは通常のブラウザの場合と同じように実行されるので、心ゆくまでフィードを閲覧することができる。なおGoogle Readerの外部のページを開くリンクをクリックした場合には、ユーザのデフォルトのブラウザ(私の場合はFirefox)で読み込まれる。

 Mac OS XではWebRunnerをインストールすれば、 どれでも.webappファイルをクリックするだけでWebRunnerを起動することができる。おそらくWindowsでも同じように起動することができると思うのだが、今回はWindowsでは試してみなかった。

自分の.webappファイルを作成する

 付属の.webappファイルのどれにも入っていないサイトを実行したい場合にはどうすれば良いだろうか? そういう場合も問題はない。自分でカスタマイズした.webappファイルを作成すれば良い。

 Finkle氏はGoogleのサービス用の.webappファイルをサンプルとしていくつか提供しているが、WebRunnerでGoogle以外のサイトを利用したい場合でも、好きなテキストエディタを使って1、2分程度調整するだけで、自分用の.webappファイルを簡単に作成することができる。それでは以下のサンプルを見てみよう。

[Parameters]
uri=https://www.linux.com/
icon=linuxcom
showstatus=yes
showlocation=no
enablenavigation=no

 uriというパラメータは、名前が示している通りなので、読み込みたいURI/URLを指定すれば良い。WebRunnerはSSLをサポートしているので、セキュアな接続を行ないたい場合にはURIにhttpsを使用することができる。

 iconパラメータは、WebRunnerの当該インスタンスのアプリケーション・アイコンとして使用されるアイコンだ。アイコンはwebrunnerディレクトリの下のchrome/icons/defaultにXPixMapファイルとして保存されている。アイコンが無い場合には「webrunner」と指定しておけば、システムはデフォルトのWebRunnerアイコンを使用する。

 さらに、showstatusshowlocationenablenavigationの各パラメータを設定することで、WebRunnerの動作をカスタマイズすることができる。showstatusを有効にしておくと、WebRunnerはブラウザウィンドウの下部にステータスバーを表示する。showlocationを有効にしておくと、URIを表示する。ただしURIを変更することはできない。Firefoxを普通に実行した場合とは違って、WebRunnerではロケーションバーは表示のみで編集はできない。WebRunnerにはナビゲーションバーはないが、enablenavigation=yesと設定しておけば、ホットキーを入力することで、閲覧履歴を通して前のページに戻ったり先のページに進んだりすることができる。

プラグインを有効にする

 WebRunnerを使って最初にすぐに気が付いた点として、私のシステムにはFlashがインストールされていたにも関わらず、WebRunnerがFlashを認識しないということがあった。Linux上のWebRunnerでFlashを有効にするためには、webrunner/xulrunner/pluginsの中にflashplayer.xptとlibflashplayer.soとをコピーするかリンクしておいてWebRunnerを再起動すれば良い。

 拡張は今の時点ではまだサポートされていない。WebRunnerのインターフェースを使用して拡張をインストールする方法はなく、また手動で拡張をインストールする方法の説明も見当たらなかった。しかし拡張のサポートはWebRunnerのロードマップに記載されているので、今後リリースされるバージョンのWebRunnerでは利用可能になるはずだ。

 WebRunnerはまだ開発初期の段階にあるが、大きな将来性を感じさせるアプリケーションであり、現在でもすでに便利に使うことができる。「特定サイト用のブラウザ」には数多くの興味深い利用事例が考えられる。Firefoxコミュニティからこのようなプロジェクトが誕生したことを嬉しく思う。

Linux.com 原文