フリーソフトウェアによる楽譜編集

 コンピュータ上で楽譜を扱う必要がある人は限られている。だが、もしあなたが実際に譜面の入力や編集、または保管を電子的に行うのなら、数多くのフリーソフトウェアから好みのものを選ぶことができる。

LilyPond

 コマンドラインベースのプログラムLilyPondは、最も簡素にして明解な楽曲管理の手段だ。LilyPondによる処理は、次の2段階で行う。まず、楽譜にしたい曲を音符の種類や長さ、各種指示を使って(テキストファイルに)記述する。続いて、作成したテキストファイルに対してlilypondコマンドを実行すると、楽曲のPDFファイルが出来上がる。この過程は、プログラムのコードを編集したうえでコンパイルを行って実行形式に変換するのに似ている。なお、テキストファイルの作成や変更には、任意のテキストエディタが使用できる。Emacsのような一部のエディタには、LilyPondファイルの編集用に、構文の強調表示オプションやコンテキスト固有のオプションが備わっている。

 LilyPondは大半のディストリビューションで利用できる。また、手作業で組版が行われた譜面にできるだけ近くなるようにレイアウトの最適化された美しい出力を生成してくれる、完成度の高い安定したアプリケーションである。構文や譜面の組版作りを習得するための優れたチュートリアルも用意されている。

NoteEdit

クリックで拡大

 NoteEditは、KDEライブラリをベースとしたグラフィカルアプリケーションだ。ツールバーから音符の長さを選択し、五線上の該当する位置をクリックして音符の高さを指定することにより、譜面の入力が行える。さらに、各種記号(変調、タイ、調音)の追加や体裁面の調整(余白、パートの分割、演奏に関係のない注釈など)も、すべてグラフィカルに行うことができる。なお、NoteEditパッケージに収録されているハンドブックは、オンラインでも参照できる。

 手作業によるポイントアンドクリック操作のほか、NoteEditでは、MIDIキーボード(MIDIインタフェースに対応した電子ピアノ機器の鍵盤)も利用できる。MIDIキーボードを使うと、該当する鍵盤のキーを押すことで音符を入力できる。この場合は、電子ピアノの鍵盤で曲を演奏するだけでNoteEditが採譜を行ってくれることになる。また、譜面にした曲はMIDIキーボードを介して音として聞くこともできる。

 譜面を印刷するためにNoteEditは外部の組版プログラムを利用しており、LilyPond、ABC music(abcm2ps)、MusiXTeX、PMXが使える。つまり、LilyPond形式でエクスポートを行えば、いつでも質の高い出力結果が得られるわけだ。なお、LilyPond形式によるエクスポート機能は、以降で取り上げるすべてのグラフィカルプログラムで利用できる。ただ残念なことに、NoteEditはLilyPondファイルのインポート機能はサポートしていない。

 NoteEditの開発は停止状態にあり、細かなバグ修正だけが行われている。その主要な開発活動はCanorusという新しいアプリケーションに移行しているものの、Canorusのバージョンは0.3.1でまだ不安定である。

Rosegarden

クリックで拡大

 Rosegardenは単なる音楽エディタではなく、各種電子楽器で合成された複数トラックのミキシングをプロレベルで行えるフル機能のオーディオおよびMIDIシーケンサだ。楽譜エディタは、このプログラムの不可欠な部分である。NoteEditと同じく、RosegardenもKDEライブラリを使って書かれている。

 Rosegardenには、NoteEditで利用できるものとよく似た音楽入力機能がある。とにかく譜面を入力するのが目的なら、NoteEditでもRosegardenの楽譜エディタでもほとんど違いはないはずだ。だが、曲の合成や複数トラックのミキシングを行いたいのであれば、Rosegardenを使うしかない。便利なことに、RosegardenではNoteEditで作成した曲のインポートが可能であり、逆にRosegardenで作成した曲をMusicXML形式を介してNoteEditにインポートすることもできる。

 また、Rosegardenは、オーディオシーケンサーやシンセサイザーでは標準的なマトリクスエディットモードをサポートしている。これは、縦軸にピアノの鍵盤イメージ、横軸に時間をとり、音の高さと長さをグリッド形式で表示するものだ。グリッド上のセルをクリックすることで、音の高さと長さが記録される。このようにして入力した曲はあとで楽譜エディタを使って編集でき、逆に楽譜エディタで作成した曲をマトリクスエディットモードで編集することもできるので、曲の特定のセグメントごとに都合のよいツールを利用することが可能だ。また、どんな入力方法を利用しても、楽譜を保存したうえで印刷することができる。印刷は、Rosegardenから直接行うか、LilyPond形式でエクスポートしたファイルに対してLilyPondを実行するかのどちらかで行う。

 Rosegardenの各機能を利用すると、使っているシステムがサポートしている任意の楽器で既存の楽譜を再生することができる。そのためには、JACKオーディオサーバを動作させ、MIDI出力信号を音に変換するためのハードウェアMIDIデバイスまたはソフトウェアシンセサイザ(あるいはその両方)を用意する必要がある。具体的なセットアップの詳細については、Rosegardenのヘルプページを参照してほしい。

Denemo

クリックで拡大

 Denemoもまたグラフィカルな楽譜エディタだが、NoteEditやRosegardenと違って、GNOMEデスクのコンポーネントであるGTK+ライブラリを使用している。このアプリケーションでは、洗練されたフロントエンドをLilyPondに提供することに主眼が置かれている。ユーザインタフェースは、新しいユーザにとっても便利で直感的にわかりやすいものになっている。

 Denemoは、楽譜の編集だけでなくオーディオ再生の機能も備えており、MIDIベースの再生とCsound出力の双方をサポートしている。Csoundモードでは、Csound言語で記されたオーケストラファイルがその場で作成され、Csoundによる再生が行われる。Denemoの高度な機能については、マニュアルを参照してもらいたい。Denemoは急速に進化している将来有望なプログラムだ。

その他のアプリケーション

 音楽エディタは、ここで紹介したもの以外にも存在する。たとえば、Songwriteは楽譜の編集機能も備えたギタータブ譜用のエディタだ。以前のTkユーザインタフェースが使われているので少し不格好に見えるが、開発者によると、次のメジャーバージョンでは現在のGTK+ツールキットが使用されるという。

まとめ

 フリーソフトウェアには、楽譜を編集するためのアプリケーションが多様かつ豊富にあり、さまざまなニーズや慣行に合わせたものが存在する。Rosegardenは高度なミキシングとシーケンスの機能を備えており、とりあえず簡単な楽譜編集の作業を行ってみようという新規ユーザには贅沢過ぎるかもしれない。NoteEditはKDEユーザにとって最適なツールであり、GNOMEユーザに適しているのがDenemoである。こうしたアプリケーションのほとんどはレンダリング用のバックエンドとしてLilyPondを利用しているので、これらのどのプログラムを使ってもLilyPondによる質の高い組版機能の恩恵を受けることができる。ただし、どのアプリケーションもLilyPondのインポート機能はサポートしていない。

Alex Roitmanは熱烈なフリーソフトウェア支持者であり、2002年からGRAMPS開発チームに参加している。

Linux.com 原文