Fontmatrix――デスクトップ環境待望のフォント管理ユーティリティの登場

 GNU/Linuxデスクトップでのデザインワーク的な用途に耐えるフォントマネージャの登場は積年の夢であった。理想的なフォントマネージャに求められる要件とは、TrueType、Type1、OpenTypeなどの現行フォーマットをサポートし、特定のフォントセットを必要時にアクティブにする機能を設けることで使用頻度の少ないフォントによるシステムメモリの浪費を回避するというものである。

 これまではFonty Pythonがこうした理想像に最も近いものであったが、以前にもレポートしたように、このツールはTrueTypeフォントしかサポートしておらず、インタフェースが過度に複雑すぎるという欠点を抱えていた。そして新たに登場した最有力候補がFontmatrixである。このツールにもいくつかの不備が残されているものの、その基本機能には満足させられる点が多々存在している。

 Fontmatrixの場合、ユーザアカウント別の管理に対応している点で、システム全体ないしは単一アカウントでの管理しかできないKDE Control Centerのフォントマネージャ機能とは対照的である。Fontmatrixの作成者であるPierre Marchand氏によると、この仕様は最初から意図していたものだそうだ。「システム全域を対象としたフォント設定はアプリケーション的なニーズを満たすためのものであり、完全な制御と安定性とが求められます」と同氏は前置きし、それに相対するデザインのプロが求めるニーズとは「システムを共有する他のユーザに気兼ねすることなく、各自のプロジェクト別にフォント環境を使い分けられるというものです」と説明している。

 現在Fontmatrixは同プロジェクトのアーカイブからtarファイル形式で入手可能だが、プロジェクトWebページのトップにある説明にてMarchand氏は、近日中にパッケージ形態での配布を行う予定だとしている。また最新版のバージョン番号は0.1であり現在はバージョン0.2が鋭意開発中だとのことだが、確かに多少の不備は残されているものの、現状のFontmatrixでも実用に供せるだけの完成度に充分達しているので、試作段階という印象を与えかねないこうしたバージョン表記は控えめすぎるのではないだろうか。

 Fontmatrixを使用するにあたっては、事前にFreeTypeおよびQt 4.3の開発パッケージを各自のシステムにインストールしておく必要がある。個々の環境でどのパッケージが必要であるかを確認した後(この作業には多少手間がかかるかもしれない)Fontmatrix本体をインストールするが、具体的な手順としてはファイルの展開先ディレクトリにて「qmake -o Makefile typotek.pro」およびそれに続けてmakeを実行すればいい。これにより新規に作成された./binディレクトリにfontmatrixバイナリが置かれるはずである。

 Fontmatrixを起動すると独自のフォルダ群が作成されるので、このプログラムを実行する前にhomeディレクトリにある.fontsフォルダの名称を変更しておいた方がいいだろう。こうしておくと仮にFontmatrixをアンインストールする事態になっても、先のフォルダをオリジナルの名称に戻すだけで済むようになる。

 Fontmatrix起動後のフォント登録は、「File」→「Import」を選択してフォントの格納ディレクトリを指定することで行う。その際にはイニシャルタグの指定用ダイアログが表示されるが、通常はタイプフェイス(書体)の名称を指定しておけばよく、これらの名称はFontmatrixウィンドウの左側ペインに表示されることになる。

 左側ペインでのイニシャルタグ表示では、登録フォントがディレクトリツリー形式で名前順に一覧されるが、同時に各タグごとのフォント数も表示され、またフォントの表示サンプルが右側のペインでプレビューされるようになっている。各イニシャルタグの有効化と無効化は、タグツリーを開いて各タグ中のフォントを有効化すればいいが、画面下部には「Activate all」あるいは「Deactivate all」というボタンも用意されている。またどちらの方式で有効化したフォントセットであっても、「File」→「Save」を選択すると、デスクトップ環境を再起動させることなく即座に他のプログラム群でも使用可能となる。

 多数のフォントを管理する上で便利なのが、Fontmatrixの登録フォントを各種の条件指定で検索する機能である。その他にFontmatrixでは、複数のタグおよびタグセットを登録しておき、表示対象をドロップダウン形式のメニューで選択するという操作も行えるようになっている。実のところタグとタグセットの違いは些細なものでしかなく、しかもややこしいことに、タグの作成は右側のペインで行い、タグセットの作成は「Edit」→「Tag Sets」で行うという混乱を招きかねない仕様になっている。もっともMarchand氏の説明するところでは、タグセットという概念はツリービューを整理する上で便利だというコメントが、初期段階のFontmatrixユーザから返されたことがあるそうだ。こうした仕様が混乱を招くようであれば、特定プロジェクトで使用する全フォントを1つの専用ディレクトリにまとめておき、そうしたディレクトリ単位でFontmatrixに登録するようにすればいいだろう。

 こうしたタグによるフォント分類以外にもFontmatrixには、フォント情報の確認、サンプルテキストの表示、フォント中で使用可能なグリフ(glyph)の一覧をするためのタブ群が右側ペインに用意されている。このうち最後の2つのタブは、Fontmatrixの現行バージョンにおいて最も完成度の低い部分ではなかろうか。それと言うのも、サンプルテキストはアルファベットの大文字小文字と数字が無機質に一覧されるだけで段落単位でのテキスト表示がされるようにはなっていないし、グリフについても他のプログラムに比べてフォントの表示がかなり暗めに感じられるからだ。もっとも現状でこれらはそれほど役立つレベルに仕上がっていないので、今はこの程度の表示能力でいいのかもしれない。

 同様の不備は、Fileメニューから作成できるフォントブックについても見られる。この機能を使用すると、由緒正しきLorum ipsum dolorで始まるダミーテキストを配置したフォントサンプルが、ファイルまたは印刷形態で利用できるようになっている。ところが私がこの機能を試したところ、フォント名の代わりに黒い長方形が印刷されてしまい、せっかくのフォントブックもその有用性が大いに減殺されてしまうのだ。

 こうしたタグ/タグセット、サンプルテキスト/グリフ表示タグ、フォントブックに見られる不備が、Fontmatrixの有用性を引き下げていることに間違いはない。またインタフェース操作でフォントを削除できないという不備も今後の課題となってくるだろう。現状でこの件については、FontMatrixによってhomeディレクトリに追加される.fonts-reservedフォルダから不要なものを手作業で削除することで対処するしかないのだ。

 以上、各種の不具合が散見されるものの、Fontmatrixの基本機能に限ればその安定性に問題はない。実際私は実務の現場で使用しているが、Fontmatrixのもたらす操作性の向上は疑いようのない事実だ。将来的にFontmatrixが、GIMP、Inkscape、OpenOffice.org、Scribusを常用する人間にとっての標準的ツールキットとなることは、成熟するのを待つことができればという条件は付くものの、それほど大それた予測でもないだろう。

 GNU/Linux用の本格的なフォントマネージャの登場を待ちわびる時期が長く続いたが、それも今やようやく終わりを告げつつあるようだ。

Bruce Byfieldは、コンピュータジャーナリストとして活躍しており、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿している。

Linux.com 原文