Webrunner改めMozilla Prism:顕著な機能向上を果たしたWebアプリ専用ブラウザ

 Mozillaをベースにシングルサイト志向の“Webアプリケーション”ブラウザとして誕生したWebrunnerについては本年7月にレビュー記事を掲載したところだが、この10月に同ブラウザはMozilla Prism名称を変更してMozilla Labsサイトに移管された。当初Prismを実行できるのはWindowsプラットフォームだけであったが、現在ではMacおよびLinux対応ビルドも利用可能となっている。

 Webrunnerの開発目的は、個々のWebベースアプリケーションを1つの独立したプロセスとして実行させることで、デスクトップとの統合を図ることにある。このツールを介してアクセスする個々のWebアプリケーションについては、システムドック、パネル、Applicationsメニューに起動用ランチャを配置でき、起動後はそれぞれ専用のウィンドウにて実行されることになるが、通常のブラウザに見られるツールバーやナビゲーション用アイテムは排除されている。

 現行のPrism 0.8リリースではGecko 1.9レンダリングエンジンが装備されており、これは最新版のFirefox 3ベータと同様のものだ。ダウンロードについては、Linux、Mac OS X、Windows用にビルドされたPrismバイナリがそれぞれ入手できるようになっている。Linuxパッケージはtarボール化されており、その展開先は任意のディレクトリでかまわないが、展開するだけでPrismを直接起動できるようになっているのでインストーラなどは付属していない。

 Prismを起動するにはコマンドラインで「./prism &」と指定すればいいが、この操作に関してはWebrunnerに対する大幅な変更が施されている。最終公開版のWebrunnerでは読み込むサイトを個別の.webappファイルに記述してコマンドライン引数として指定する必要があったが、Prismではダイアログボックス上で目的ページのURLと名称を指定する方式に改められているのだ。このダイアログボックスにて必要な情報の入力後にOKを押すと、サイトへの接続が実行されると同時に、専用のランチャがユーザの指定位置に作成される。ここで指定した設定情報は、Linuxシステムの場合、各自のデスクトップ環境におけるFreedesktop.org Desktop Entry Spec系の.desktopファイルとして保存されるようになっている。

 先に触れた.webappファイルについては、自動的に作成された上で、この.desktopファイルにある「Exec=」行を介してリンクする方式に改められた。その収録先はMozillaで使われるデフォルトのプロファイルディレクトリである。なおPrismのランチャ用アイコンの指定もこの.desktopファイルで行われているので、アイコンのデザインが気に入らない場合は各自で変更すればいいだろう。

 従来は個々の.webappを手作業で作成していたことに比べると、今回の改善は操作性の大幅な向上をもたらしたと評していいだろう。その他、先のWebアプリケーション設定ダイアログには、ロケーションバーやステータスバーの表示などに関するいくつかのオプションが提示されるようになっている。Webアプリケーションのセッション実行時にオリジナルサイトから移動することはないというユーザであっても、これらの機能は重宝するはずだ。

ユーザの要望と今後のロードマップ

 Prismの開発陣はMozilla Labsのフォーラムにて、コメント、質問、フィードバックを受け付けている。それを見ると、ユーザ側の関心はPrismの現行機能を各種の方向に発展させることにあるようだ。

prism_thumb.jpg
新しいランチャをMozilla Prismで作成

 また一部のユーザからは、PrismのWebアプリケーションではFlashなどのFirefoxプラグインを検出できないとのレポートが出されているが、これはFlashプラグインをインストールした位置関係によって異なるようだ。Prismのインストール先がhomeディレクトリであった場合、同ディレクトリ中の.mozillaディレクトリ下にインストールされたプラグインは認識できるのだが、システム全体で使用する/usr/lib下のプラグインは検出できないのである。

 Prism自身は機能拡張をサポートしているものの、現状でそのインストール、ロード、アンロード用のインタフェースは用意されていない。開発者の1人であるMark Finkle氏は、機能拡張を手作業でインストールして実行させるための方法をブログにて説明しているが、この件に関連する注意事項として、Prismは本質的に不要なコンポーネントをそぎ落としてスリム化したブラウザであるため、Firefox機能拡張の多くは動作しないであろう可能性を指摘している。

 より実用的な問題として、現状のPrismはWebプロキシ経由のアクセスをサポートしておらず、これはイントラネット内部で利用する場合の障害となるかもしれない。

 なお非公式なものであるが同プロジェクトの掲げる今後のロードマップとしては、ドラッグ&ドロップやオフラインモードの実装およびデスクトップイベントの通知機能への対応といった、デスクトップシステムとの統合促進などが挙げられている。

 先のフォーラムに上げられたコメントの中には、最小限の機能を備えたプレファレンス設定用インタフェースの実装という提案もあったが、これは開発者サイドもその有用性を認めている。サイト固有ブラウザという性質上、Firefoxにあるプレファレンスの多くは意味をなさないだろうが、フォント、クッキー、個人データの管理などの必要性はあるはずである。

 既にWebrunnerを使用してきたユーザであれば、ランチャの作成機能が使えるだけでもPrismに乗り換える価値はあると言えるだろう。あるいはこのシンプルかつ有用なツールを使ったことのないというユーザであれば、これを機会に一度試してみることをお勧めしたい。

Linux.com 原文