OracleのUnbreakable Linux導師

サンフランシスコ – 驚くなかれ、Wim Coekaertsは彼が現在も勤めているOracleに1995年に入社したときに、少しも不安を抱いていなかったということだ。いずれにしても、このとき、このベルギー生まれのLinuxエキスパートは、巨大なプロプライエタリ企業の「ライオンの巣」に足を踏み入れ、クローズドソース優勢のシリコンバレーに一撃を食らわせることになった。

Oracleに入社する以前、Coekaertsはベルギーのリューベン大学のデータセンターでいくつかのソフトウェアプロジェクトとLinux移行プロジェクトのマネージャーを務めていた。彼はサンフランシスコ湾レッドウッドシティの「Oracle神殿」でまったく相手にされない可能性もあった【訳注:「oracle」には「神託」の意味がある】。しかし彼は万事を心得ており、社交的な性格をうまく利用して、誰もが認めるOracleきってのLinuxエキスパートの地位を獲得した。彼の現在の肩書きは、「Principal member of technical staff, Linux Kernel Group, Corporate Architecture for Oracle Corporation」(Oracle社Linuxカーネルグループおよびコーポレートアーキテクチャ部門テクニカルスタッフ主任)である。

1年ほど前、Oracleは同社の数多くの製品がLinuxで使用できることをうるさいぐらいに宣伝していた。シリコンバレーのハイウェイ101沿いには、「Oracle + Linux = Unbreakable」(OracleとLinuxで故障ゼロ)という看板が数ヶ月も掲げられていた。雑誌広告、テレビやラジオのコマーシャル、Web広告も、このメッセージを声高に叫んでいた。Coekaertsは、同社がLinux推進派のリーダー的な役割を果たすようになった立役者である。

私は今年の7月にスタンフォード大学で開催されたTony Perkinsの「Always On」カンファレンスで初めてCoekaertsの話を聞き、彼の率直なアプローチと控えめな態度に興味を持った。その数日後、OracleWorldで数分間ほど彼と同席する機会を得た。よく知られた活発なエンタープライズソフトウェア「要塞」におけるオープンソース的姿勢の内幕についてインタビューできたのは有意義な体験だった。

NewsForge: なぜLinuxはOracleの事業計画にこれほど大きな影響を与えたのですか。

Coekaerts: そうですね、1つは、Linuxカーネルがうまく機能しているということでしょう。Oracleで取り入れようとしているLinuxテクノロジーは、さまざまな面で理にかなっています。顧客からはずっと以前からLinuxサポートについての要望が出されていますし、その要望は高まる一方です。手前味噌になりますが、当社はLinuxに時間的、人的、金銭的な投資をすることをごく早い段階から決定していました。他のさまざまな企業がLinuxに興味を持つずっと前からです。どこかとは言いませんが…(笑)

NewsForge: たとえば…IBMとか?

Coekaerts: ノーコメント!

NewsForge: Oracleに入社することになったきっかけは何ですか。

Coekaerts: 私は友人たちと一緒にLinuxをごく初期の段階から使用していて、自分用のツールを作ったり、お互いのアプリケーションをデバッグしたり、研究したりしていたんです。彼らには今でもアドバイスをもらっていますし、私が謙虚でいられるのは彼らのおかげです。それはさておき、8年と半年前、Oracleは自社製品にLinuxを統合するために新たな協力者が必要になるだろうということを実感していました。同社は既にその決断を下していたのです。そこで、私に話が回ってきました。Larry(Ellison)はLinux信奉者の先駆けでした。

NewsForge: あなたがOracleで最初に手がけたプロジェクトは何ですか。

Coekaerts: 1995年に、Oracle BelgiumでOracle DBをLinux上で動かすためのプロジェクトに参加しました。それが初仕事です。もう1つの初期の仕事は、Larryが「インターネット家電」と呼んでいたプロジェクトで、インターネット閲覧の機能だけでそれ以外は何も付いていない低価格マシン、というものでした。

NewsForge: それがThinkNIC X(New Internet Computer)になったのですね。これはあなたがわずか2週間ほどで作成したと聞いています。結局、大衆向けのインターネット専用マシンというアイデアはすぐにすたれてしまいましたが、あなたはこれで確たる実績を作りました。現在の主なお仕事は何ですか。

Coekaerts: 現在は、いくつもの大口顧客を相手にトラブルシューティング、バグ修正、カスタム設計といった作業をしています。数々の認定資格プロセスや標準化団体にも携わっているので、出張もよくあります。さらに、Red HatやSuSeといったLinux企業とも、バグ修正やその他の問題について密接にやり取りしています。

目下の主な仕事の1つは、Oracle 10gについての全社的な取り組みに関係しています。ときには1つの室内で40〜50台のマシンを使用し、それぞれが最適な動作をするように微調整しています。Linux Kernel 2.4ディストリビューションはクラスタをサポートしているので、Oracleデータベースを他のオペレーティングシステム環境と同じように効率よく実行できます。ただ、これについては特にメモリ管理とスケーラビリティの面でまだしなければならない作業がたくさん残っています。

私の考えでは、Oracleは昨年の(OracleWorld)カンファレンスで、すべての製品ラインでLinuxを扱うことに真剣に取り組んでいるという姿勢を示しました。今年のカンファレンスでは、昨年お約束したサポートと機能を実現したということを証明しています。

NewsForge: あなたがこれまでにOracleで克服した最大の課題とは何ですか。

Coekaerts: それは1つしかありません。最も難しかったのは、OracleにおけるLinuxについてすべての人に共通認識を持たせることです。オープンなコミュニケーションを維持し、すべての人に同じ知識を持たせるだけでも、たいへんな苦労をしました。なぜなら、LinuxはOracleのほとんどすべてのグループに入り込んできたからです。しかも、当社の従業員は約400,000人もいるのです。さらに、誰かがLinuxに関して何か間違ったことをしたり言ったりしていないかどうか注意を払う必要がありました。間違いを見つけたときには、私がその間違いを正しました――個人的に、ですがね。

NewsForge: 自分がLinuxにもたらした最大の貢献は何だと思いますか。

Coekaerts: 私や友人たちは過去何年にもわたって数々のデバッグを行ってきましたが、特に多いのはドライバです。また、未解決の非同期I/Oの問題があります。現在のOracleが使っている非同期I/Oライブラリとテストスイートは、Red Hat AS 2.1の非同期I/Oコードと同じものです。我々はFirewireドライバに一部改良を加えて、共有ディスク利用を可能にしました。さらに、リモートカーネルデバッグを行うためのFirewireドライバも開発しました。これを使用すれば、Firewireバスにデバッガを接続することができます。2002年には、クラスタファイルシステムを作成しました。このファイルシステムは生(raw)ディスクよりも扱いやすいので、クラスタデータベースの管理をより単純化します。

NewsForge: 自分がOracleで達成した最大の業績は何だと思いますか。

Coekaerts: そうですね、我々はLinux上で動く最初の商用DBを目指していて、実際にそれを成し遂げました。この仕事については誇りに思っています。このDBがうまく動作し、顧客がそれをほしがってくれたことは大きな喜びでした。さらに、Linuxが当社の他のソフトウェアに進出しているのも非常に喜ばしいことです。

NewsForge: 「Linux上の最初の商用DB」の実現に必要な人材や資材を獲得するために社内で伝道活動を行ったりしたのですか。

Coekaerts: それが違うのです。伝道の必要はそれほどありませんでした。社内のキーパーソンはすべてこれからしようとしていることの価値を理解していたので、大きな問題にはなりませんでした。

NewsForge: それはおそらく、Larry Ellisonがあなたのファンであるということも少しは関係しているのでは。彼の影響力は全社に及んでいると聞いていますよ。

Coekaerts: そうかもしれませんね(笑)。

NewsForge: あなたはいつでも好きなときに彼に会えるんですか。

Coekaerts: それが本当に重要な用件なら、たぶん会えると思いますが…。

NewsForge: OracleとLinuxについて、コミュニティにあまり知られていないようなことを何か教えてください。

Coekaerts: 我々のLinuxプロジェクトはオープンソースコミュニティに十分に知られていないと思います。あまり宣伝はしていないのですが、oss.oracle.comを見ていただければ、目下進行中のプロジェクトの一覧が載っています。同サイトでは無償の援助も得られます。

NewsForge: 質問があればあなたにメールを出してもよいのでしょうか。

Coekaerts: もちろんです。私へのメールはtalkinglinux_ww@oracle.comまでどうぞ。