「Get the Facts」キャンペーンの裏側
この広告はMicrosoftの展開戦略の一部である。Microsoftの名声は90年代の間に大いに損なわれ、同社のスポークスマンは――社長Bill Gatesから一般社員にいたるまで――とても信頼性を声高に語れるような状況ではなかった。そのため、彼らは自らのアイデンティティを覆い隠し、自社のマーケティング活動を、彼らの嘘をそのまま垂れ流してくれる提灯持ちのマスコミへとアウトソーシングするようになった。Microsoftにとっては、自分達よりも信頼性のある相手を見つけ出すのは造作もないことだった。
注意してほしいのだが、MicrosoftはGtFキャンペーンで初めて誠実な広告からの路線転換をしたのではなく、従来のペテン的戦略を踏襲しただけである。たとえば2003年には、南アフリカ共和国がMicrosoftの誇大広告に対して市場からの引き上げを命じた。問題の広告は、事実を大げさに書きたてようとするどころか、完全にひっくり返して、Windowsは非常に安全であるためハッカーを絶滅に追い込めると主張していたのだ。
それはそれとして、問題はGtFキャンペーンだ。このキャンペーンがどのように実施されてきたかと、なぜLinux陣営がこのキャンペーンに大きく幻滅したかについて考えてみよう。
タネも仕掛けもある調査報告
カードの山に事前に細工をしておけば、どんなことも不可能ではない。GtFキャンペーンの最初の広告はTCO調査に関するもので、資金提供はMicrosoft、調査報告はIDCが行っていたが、この調査では、WindowsのTCOはLinuxよりも低いとされていた。しかし、IDCのアナリストであるDan Kusnetzkyは雑誌『BusinessWeek』に対して次のように語っている。「(Microsoftは)Linuxを使った方が必ずコストがかかるようなシナリオばかりを選んできた」。
リンゴとオレンジの比較
Microsoftは見当違いの比較が好きだが、ときにはそのせいで苦境に陥ることもある。GtFキャンペーンで紹介された「独立機関による」TCO調査では、LinuxはWindowsよりも10倍コストがかかるとされていた。しかし、BBCでも報じられたとおり、この広告はソフトウェアのコストを公平に比較しているように見せつつ、実は2台のIBMメインフレーム上でLinuxを実行したときのコストと2つのIntel CPUを搭載した1台のPC上でWindowsを実行したときのコストを比較したものであったため、誤解を招くということで広告の差し止めを命じられた。
なぜ今これを問題にするか
なぜ今さら、Redmondのネズミたちのよく知られた恥を並べ立てるのかと不思議に思う読者もいるだろう。読者の皆さんは、GtFキャンペーンの一環であるにしてもそうでないにしても、Linuxを標的にしたMicrosoftの広告がミスリーディングと嘘ばかりであることをよく知っているからだ。私がここでMicrosoftの欺瞞をあらためて指摘した理由は2つある。1つ目は、あまりに嘘が多いので信じてしまう人がいること、2つ目は、Microsoftの新しいペテンのタネを発見したので、それをぜひお知らせしたいと思ったことだ。
少し前のSlashdotの記事とそれに関する討論を見ていてわかったのだが、どうやらGtFキャンペーンの最新の広告記事の1つ――おそらく企業内でのLinuxへの関心の低さを示す偏った「調査」だと思うが――が額面どおりに受け取られ、Microsoftの狙いどおりの効果を上げているようなのだ。数週間前のNewsForgeの記事にもあったように、この調査報告の書き手は事実をねじ曲げて、そこかしこにRedmond寄りの偏見を差し挟んでいた。この調査は、本来であれば「Linuxは引き続きMicrosoftの縄張りに深く食い込みつつある」という結論を示すものであるはずだが、Slashdotの記事では、GtFキャンペーンは有益で、LinuxはWindowsよりも劣っているということの証明として言及されていた。
この記事が書かれたときには知らなかったのだが、実は、このInfo-Techの調査報告の資金はMicrosoftから提供されていた――ただし、これまでのMicrosoftの息のかかった数々の調査とは異なり、「事前の」資金供与ではなかった。Microsoftはおそらく、彼らのメッセージ(それが事実かどうかに関係なく)を裏付ける調査報告やベンチマークに資金を提供するときには、事前供与では問題があるということを学んだのだろう。今回はもっと密やかに行動し、調査報告が出た後に費用を支払ったのである。
ではいったいどうやって? 私はWaggener Edstromの広報担当を通じて、この件についてMicrosoftに問い合わせてみた。Waggener Edstromのスポークスマン、Ted Rodunerは次のように語った。
MicrosoftはInfotechの調査報告を「Get the Facts」のサイトに掲載するときに、同社標準の転載費を支払った。なお、MicrosoftはInfotechの調査報告書の作成に関与しておらず、MicrosoftがInfotechと連絡を取ったのは調査報告書が公開された後だ。
私は先ごろ、この支払いは「業界標準の」転載費だったということを知った。しかし、この情報はMicrosoftのさまざまな「業界標準」と同じように秘密にされており、Microsoftは決してこれを明らかにしようとせず、答えが知りたければInfo-Techに聞けと言うばかりだった。
GtFキャンペーンで紹介されたこの「研究報告書」がどのくらいの収入になったのかをInfo-Techに重ねて問い合わせてみたが、返事は来なかった。同社はもともとこの調査報告書の話で我々に接触してきて、報告書の作成者がインタビューに応じる用意があると言ってきたのだが、彼らがまず指摘したのはこの調査報告書はMicrosoftの資金供与を受けていないということであり、金額についてはいっさいコメントしなかった。
Microsoftは、あなたの気付かないうちに、「Linuxは既にピークを超えて、市場勢力も弱まりつつある」という誤った結論を世間に根付かせてしまうおそれがある。彼らはこの嘘をできる限り長く吹聴し続けようとするだろう。
良いニュースと悪いニュース
GtFキャンペーンは2004年1月に始まり、MicrosoftがLinuxを深刻な脅威として認めたことを世間に印象付けたが、もしMicrosoftが同キャンペーンを当初の予定どおり進行させているならば、あの広告に悩まされるのは今月で最後になるはずだ。
これは良い方のニュースである。悪い方のニュースは、Microsoftがかつて失敗に終わった「Linux Mythsキャンペーン」に代えてGtFキャンペーンを展開したのと同じように、いずれまた、いつものプロパガンダを新しい看板の下で振り回し始め、多くのITバイヤーがそれを虚構ではなく事実として扱うようになるだろうということだ。
MicrosoftはGtFキャンペーンを始めたがゆえに正直さを捨てたわけではないので、GtFという嘘ばかりのプロジェクトが終わったからといって、正道に立ち戻ることはないだろう。サソリは死ぬまでサソリということだ。
原文