Microsoftは正直になれるのか

解説: Microsoftがまたやらかしてくれた。ゴールデンタイムに。確信犯だ。嘘つき集団、どつぼにはまった連中、それがビル・ゲイツのMicrosoftだ。彼らがHD DVD-ROMディスクについて真っ赤な嘘をついていたことがばれたのだ。これはニュースだろうか。いや違う。今年の夏テキサスが暑かったことや、カトリーナが大きな被害をもたらしたことと同じく、ひとつの事実に過ぎない。つまり、これがMicrosoftのやり方なのだ。彼らは常に不正直だ。

今回の件でもマイクロソフトは得意の偽装工作を行っている。本来の問題とは関係のない事実や数字を持ってきて人々を欺こうとしたのだ。これはMicrosoft ResearchのRichard Shupakが長年やってきた不正直なやり方と同じ種類のものだ。ここで彼の昔の悪事を紹介するが、不思議なことに、このときも悪役コンビのMicrosoftとIntelが絡んでいるところが今回の嘘つき事件と同じである。

Microsoftは、Wiodows 95が登場するまで「まったく新しい、完全な32ビットオペレーティングシステム」と喧伝し続けていた。しかし最終的にChicagoが登場してみると、まったく新しいわけでも、完全な32ビットでもなかった。当時そのことを指摘するだけの見識と誠実さをもったハイテク系ジャーナリストもいるにはいたが、ごくわずかであった。ほとんどの業界誌は異を唱えるだけの力量も勇気もなかった。 

勇気というのは変だろうか。いや、本当にそうなのだ。当時は、Microsoftの見解に沿わない記事を書くことは暴挙でしかなかったのだ。それが理由で、PC Magazineの人気ライターが解雇され、InfoWorldの編集者にビル・ゲイツ本人から電話がかかってきた。私も、Microsoft社員のネット上での悪徳行為について書いた記事について、どうしても発表するなら法的手段に訴えると脅された。

だから波風を立てないに越したことはないのだ。要するに、大手マスコミとMicrosoftの間には暗黙の了解があって、彼らの商売にとって都合のわるい事実は無視することになっていたのだ。

ところが、そこにIntelのPentium Proが登場した。Intelの新しいCPUは32ビットコード向けの設計になっており、その結果、16ビットコードでの動作は若干遅かった。Pentium Proで動作するWindows 95は同じ周波数の普通のPentiumの場合よりも遅い、と報道されたときのMicrosoftの様子を想像してみると良い。

さらに悪いことに、当時のWindowsにとって手ごわいライバルであったOS/2は、Pentium Proで実行したときのパフォーマンスがかなり良かった。幸いにも、サイバースペースの一角に多くのジャーナリストや識者などが集まっていて、そこでMicrosoft ResearchのRichard Shupakが必死に事実と格闘していた。

Shupakは、Windows 95が32ビット化においてOS/2に劣っているわけではないと主張した。したがって、Pentiurm ProにおいてWindows 95が遅くてOS/2が速いのなら、他の理由があるはずだと言った。彼は証拠として、両方のOSのソースコードの全行数と16ビットコードの全行数を持ち出した。確かに、この数字ではWindows 95はOS/2よりも32ビット化が進んでいた。この数字についてとやかく言うつもりはないが、これは事実を利用したまったくのごまかしであり、解明すべき事実は手つかずのままである。

Shupakの嘘は狡猾ではあったが完璧ではなかった。IBMのColin Powellはこの比較の誤りを指摘した。OS全体が一度にメモリに読み込まれることは決してないので、Shupakが使った数字には意味がない。実際にマシンが動作をしている時点で、16ビットコードと32ビットコードの割合がどうなっているのかが問題なのだと、Powellは指摘した。これを基準にするなら、最終的に公正な結論を下すことができるのはPentium Proということになる。そのPentium Proの下す結論では、何度やっても、どのアプリケーションを使っても、OS/2が速くてWindows 95が遅かった。つまり、Microsoftは「まったく新しい、完全な32ビット」という嘘を言い続けてきただけでなく、現実とのずれを隠すために嘘の上塗りを続けてきたのである。

そして10年が過ぎた。ここで、新しいDVD規格について、さらにソニーが支持するBlu-Ray Disc (BD)規格と 東芝のHD DVD規格との間で起きている意見統一をめぐる争いについて、述べることにしよう。MicrosoftとIntelはHD DVD規格を支持しており、最近その理由を説明した。最近The Registerにこの問題に関する記事が掲載され、それによると、MicrosoftのXbox 360とソニーのPlayStation 3がそれぞれの陣営のドライブを使う予定になっているため、公正な議論がされていないという。

この問題に関してMicrosoftとIntelが仲良く共同で発表した宣言には、こんなことが書いてある。

容量の優位性。 HD DVD-ROMデスクはダブルレイヤで30GBの容量で出荷される予定だが、BD-ROMディスクは25GBである。

すごいね。でもちょっとおかしい。これは事実ではない。10年前の出来事と同じようにこれを指摘する者が現れた。今回はMicrosoftの長年のパートナーであるDellとHPが実情を明らかにした。MicrosoftとIntelの発表はBlu-ray規格に関して間違った言及をしていると題されたプレスリリースを発表し、こう指摘した。

容量: Blu-rayディスクの容量は50GBである。BD-ROM、BD-R、およびBD-REはこの容量で出荷される予定だ。容量は30GBのHD DVD-ROMに比べて67%大きく、また記憶可能容量は150%大きく、これはコンピュータのユーザーにとっては重要な問題だ。

前述したThe Registerの記事で指摘されているとおり、MicrosoftとInteはBD規格の最小容量とHD DVD規格の最大容量を比較している。したがって、HD DVD規格の容量がBD規格よりも大きいという彼らの主張は正確でないというだけでなく、事実を完全に捻じ曲げたでたらめである。

彼らのやり口はどうだろう。わずかな真実も見て見ぬふりをして陰険な方法で利用する。これがMicrosoftが喜んで雇いそうな「高品質」社員のやり方で、彼らを雇う人間と同じく凶暴なドブネズミほどのモラルも持っていないのだ。これと同じようなごまかしは探せばいくらでも出てくる。Microsoftが出資したTCO研究でも、ベンチマークでも、「Get the Facts」式のキャンペーンのどこにでも、ごまかしを見つけることができる。

つまり問題は「Microsoftは嘘をついているか」ではない。もっと深いところにある。「Microsoftは正直になれるのか」が問題なのである。私と同じように無理だと結論を下すのであれば、次の問いはこうなる。「こういう会社と仕事をしたいか、彼らに仕事を任せられるか」である。

私は1999年にこの結論を下した。読者の皆さんはどうだろうか。

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