LynuxWorks:戦闘態勢のLinux

オープンソース特にLinuxがほぼすべての業界に進出した現在、最後まで残っている開拓領域の一つに軍用市場と航空宇宙市場がある。この分野の新しいアプリケーションは、FAA(米国連邦航空局)が定めた航空用ソフトウェア向けDO-178B認定などの高いハードルをクリアしなければならない。LynxOSリアルタイム・オペレーティングシステムやBlueCat Linux組み込みディストリビューションの開発元、LynuxWorks社(米国カリフォルニア)は、オープンソースと軍用/航空市場は共存共栄可能であるという考えに将来を賭けた。

LynuxWorks社(元Lynx Real-Time Systems社)は、1989年、同社の最初のオペレーティングシステムLynxOS 1.0をリリースした。これは、当初Motorola社のVMEボードとIntel 386プロセッサ搭載PC向けに提供された。2003年3月には、LynuxWorks社のLynxOS-178は、初のDO-178B認定可能、POSIX互換リアルタイム・オペレーティングシステムとなった。

LynuxWorks社の創立メンバーは、同社の成功の一部は、Linuxが優れた組み込みオペレーティングシステムになり得るという予見に負うと考えている。CEO兼会長のInder Singh氏は次のように話す。「最初にLinuxに興味を寄せたときはデスクトップやサーバ向けと考えていたのですが、私たちは組み込みOS市場での可能性に気づきました。POSIXが正式なオープンUnix標準でしたが、Linuxには事実上の標準になる潜在的可能性があると確信しました。多くの新しいアプリケーションソフトウェアの基盤としてのプラットフォームになり得ると感じたのです」このニッチを埋めるものとして、LynuxWorks社はすぐにBlueCat Linuxをリリースし、続いてLynxOS RTOSとLynxOS-178のLinuxバイナリ互換をリリースした。DO-178Bなどの認定を要する高度な安全性を備えた軍用/航空アプリケーションがターゲットだった。

現在、LynuxWorks社はLinuxについての同社の予見は正しかったと確信している。Singh氏は次のように話す。「Linuxの新興オープンスタンダード・プラットフォームとしての役割は、オープンソースという性質と同じくらい重要です。開発者たちは一つの供給元に縛られることを嫌います。実際、Linuxは、細分化された組み込みオペレーティングシステムの世界に欠けていた標準プラットフォームとしての役割を果たすことができました。それまではこのようなプラットフォームがなかったので、市販用のソフトウェアは開発されず、その多くがゼロから開発されていたのです」

LynuxWorks社の2つのLinuxディストリビューションは、それぞれかなり異なるものになっている。BlueCat Linuxが組み込みアプリケーション全般を対象にしているのに対し、LynxOSとLynxOS-178 は、ミサイル誘導システムや航空管制システムなどを対象とした高精度リアルタイム・オペレーティングシステムとして提供されている。Singh氏は次のように話す。「この2つの製品は異なってはいますが、Linuxソフトウェア・インタフェースで定義された同じオープンスタンダード・プラットフォームをベースにしているので、共通して言えることがいくつかあります。第一に、このオープンスタンダードに基づくソフトウェア・プラットフォームは、階層構造ソフトウェアやツールの増大する生態系へのアクセスを可能にします。第二に、顧客は、供給元が将来を左右したり、営利企業が顧客の利益より自社の事業戦略を優先したりすることがないと知って安心できます。最後に、顧客は供給元の戦略的決定に縛られません。サポート料金が法外な額に上がるようなことがあったら、ほかのところからサポートを受ければよいのです」

LynuxWorks社の事業が成功する上で何が大きな転換点となったかという質問に対し、Singh氏は、1989年にLynxOSを宇宙ステーションフリーダム(後に国際宇宙ステーション計画として復活)に提供したことを挙げた。同氏は、これが「10人程度しかいなかったこの会社に一気に大きな成功」をもたらしたという。このプロジェクトは、NASAとIBM Federal Systems社との共同作業となった。このときLynuxWorks社に課された作業について、Singh氏はこう話す。「専用の品質管理(QA)プログラムを実装することが求められました。”有人飛行の安全性保証”のためにNASAが定める要件を満たすためです。このときできあがったものが、今では組み込みオペレーティングシステム業界で最も強力なプログラムの土台となっています。また、私たちは、当時まだ未成熟だったリアルタイムPOSIX標準の最初の実装も開発しました」このプロジェクトを皮切りに、軍事関連の仕事がLynuxWorks社の事業の要となった。「インターネット・バブルがはじけて通信市場が低迷した後は一層そうなりました。最先端プログラムへの軍の投資は続き、ますます多くの組み込みソフトウェアが開発されました」

現在、軍事用の組み込みシステムはLynuxWorks社の重要な収入源になっており、目立たない小さな会社だった同社は、いまやシリコンバレーでも重要な存在へと成長した。いまでは社員数約150人、2006年には大幅に増員する予定だ。同社は先日、陸軍の次世代先頭システム(FCS)計画における主要組み込みシステムの契約を獲得した。

軍用市場向けソフトウェアのニーズ特有の課題は何かという質問に、Singh氏はこのように答えた。「主に品質、信頼性、ドキュメント、テクニカルサポートです。当社の製品は、徹底的なテストとQA手順に通します。これは他のどの組み込みOSベンダより徹底しています。実際、開発/テスト環境の自動化と包括的テストスイートの構築にかなり多額の投資をしました。また、セキュリティについては独自の技術手法を採用し、オープンソースLinux製品を非常に高セキュリティの分離カーネルのパーティション内で実行できるようにして、システム全体で最高レベルのセキュリティを実現しています」

LynuxWorks社は株式非公開企業であり、収入を公開していないが、Singh氏によれば、2004年の同社の収入は前年比21%増で、利益とキャッシュフローも増加したという。「さらに、軍用/航空市場を中心とする新案利益は165%の増加でした」

オープンソース・コミュニティの理想と軍事防衛産業の理想が相容れない部分はあるかという質問に、Singh氏はこのように話した。「軍事産業分野にオープンソースの場所はありますが、プロプライエタリソフトウェアとも共存していかなければなりません。オープンソースが最も適しているアプリケーションもあれば、そうでないものもあります。軍で働く科学者全体がますますLinuxを使用するようになってきており、初期設計とプロトタイプはLinuxベースのプラットフォームに基づいて作成されています。今では全員がLinuxに慣れ親しむようになりました。以前はこうしたR&D作業はSolarisで行われることが多かったのですが、その役割の多くがLinuxに取って代わられています」

LynuxWorks社は2回賭けをし――最初はLinuxで、次に軍用市場で――、そして勝ったのである。

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