野村ホールディングス、LinuxイベントでIT戦略を披露──「Linux+メインフレーム」で基幹システムを刷新

今年5月31日からの3日間、東京ビックサイトで開催されたLinux/オープンソース・ソフトウェア(OSS)の総合イベント「LinuxWorld Expo/Tokyo」の最終日(6月3日)、野村ホールディングスのグループIT戦略部長、金澤亨氏が基調講演を行い、同社のIT(情報技術)戦略を披露した。野村ホールディングスでは、LinuxとIBMメインフレームによって基幹システムをの刷新を行ったが、金澤氏の講演では、その背後にある同社の戦略/方針が具体的に語られた。

 周知のとおり、野村ホールディングスが傘下に置く野村證券のビジネスは現在、市況の好転や株式市場の活発化によって成長を続けている反面、個人投資家の増加に伴う口座数の急増、ネットを通じた株取引の活発化、および、対顧客チャネルの多様化、株式商品の複雑化、さらには競合の激化など、さまざまな「変化」と対峙している。加えて、個人情報保護法や日本版SOX法など、新たな法規制や制度への対応も迫られている。

 「その結果、証券ビジネスを支えるIT基盤には、ビジネスへの迅速な対応や、技術の革新/ライフサイクルに合わせたコスト構造の変革、エンタープライズ・アーキテクチャに沿ったIT統制などが強く求めらるようなった。しかも、IT基盤が満たすべきサービスのレベルも急激に高まっている」と、金澤氏は言う。

 そうした厳しい要求にこたえていくために、野村ホールディングが打ち出したITアーキテクチャの基本方針が「作らない」、「変わる」、「続ける」の3つだ。

 このうち「作らない」とは、システムの自社内開発にこだわらず、オープン・スタンダードに準拠した製品/ソリューションを積極的に導入し、活用していくという方針を指す。その背後には、システム構築期間の短縮や、IT基盤の柔軟性(=変化への対応力)の向上、革新技術のスピーディな取り込み、といったねらいがある。

 また、「変わる」というのは、技術動向に対する洞察力を高め、競争力の高いアーキテクチャを適宜採用していくことを指し、さらに、最後の「続ける」は、可用性の高いITによってビジネスの継続性を確保していくことを表している。

 これらの方針に沿って、野村ホールディングスが採用したのが、バックエンドの基幹データベース・サーバを、Linux(ノベル「SUSE Linux」)とIBMメインフレーム「IBM System z9」、および「Oracle Real Application Clusters」の組み合わせによって刷新するという手法だ。

 この基幹システムはすでに稼働を始めており、「現時点で毎秒1,000件のトランザクションを問題なく処理できる性能を発揮している」と、金澤氏は言う。また同氏は、「現在のCPUの稼働率から見て、処理性能は2,000トランザクション/秒まで伸ばせそうだ」とも付け加える。

 むろん、Linuxによる基幹システムの構築に際しては、さまざまな技術的な問題を解決する必要があり、今回の新システムが完成した背後には、「システム・インテグレーターなど、 ITベンダー・サイドの多大な努力があった」と、金澤氏は言う。さらに同氏は、「基幹システムの領域でLinuxがさらに普及するには、いっそうの信頼性、可用性の向上が求められるかもしれない」ともしている。

 とはいえ、オープン・スタンダードを採用した Linuxのようなソフトウェアは、それ自体の革新/発展のスピードが速いばかりか、IT革新の流れに沿って、新しいハードウェア/ソフトウェア技術を自社システムに柔軟に、かつ自由に取り込んでいけるというメリットがある。そのため、金澤氏も、「Linuxにはぜひ、技術的な側面のみならず、“業界標準のOS”として、さらなる飛躍/発展を遂げてほしい」と、Linuxへの大きな期待感を示す。

 ちなみに、金澤氏は今回、Linuxやオープンソース・ソフトウェアなど、革新技術と向き合ううえでのユーザー企業としてのスタンスについても言及し、話の最後をこう締めくくる。

 「現在、当社では、Linuxのみならず、グリッドや仮想化など、分散処理系の新たなテクノロジーにも大きく注目している。このような革新技術は、ユーザー企業にとってきわめて魅力的な技術だが、それを戦略的に活用していくためには、ユーザー企業のIT組織も、新技術の研究を積極的に行い、技術革新に対する洞察力を高める必要があるだろう。またそれが、われわれ(IT組織)の1つの使命だととらえている」

提供:Computerworld.jp