「オープン標準へのコミットが顧客価値の最大化に通じる」─米国デルのマネジャーが語るLinux戦略

デルのLinux戦略──その全容を日本の企業に訴求すべく、先ごろ、米国デルでLinuxとHPCC(ハイパフォーマンス・コンピューティング・クラスタ)、および仮想化にかかわるグローバル・アライアンスを担当するマネジャー、ケビン・ノリーン(Kevine Noreen)氏が来日し、東京ビックサイトで催されたLinux/オープンソース・ソフトウェアの総合イベント「LinuxWorld Expo/Tokyo 2006」(会期:今年5月31日〜6月2日)で講演を行った。ここでは、同Expo会場で実施したノリーン氏に対するインタビューの概要を、一問一答の形式で報告する。
独自UNIXの呪縛からユーザーを解き放つ

──まずは、Linuxに対するデルの基本的な戦略を確認させてほしい。

 デルの戦略上、Linuxはきわめて重要なプラットフォームだ。もっとも、われわれの目標は、単にLinuxという技術を普及させることにはない。

 デルにとって最も重要なのは、ITによる顧客のメリットを最大化することであり、そのために、業界標準の技術やオープン・スタンダードの技術が存在していると考えている。要するに、われわれがLinuxにコミットし、それを重要なOSとして位置づけているのは、その採用を通じて多大なメリットが顧客にもたされるからにほかならない。

──では、Linuxはどういったメリットを顧客にもたらすのか。

 重要なメリットの1つは、ユーザー企業の基幹システムのプラットフォームを、ベンダー固有のプロプライエタリなOSとハードウェアから解き放つことができる点だ。例えば、ベンダー固有のハードウェアと、それに強く結びついた商用UNIXによって基幹システムを構築したユーザーは、製品選択や技術選択の自由を奪われ、システムの拡張や強化もベンダーの思惑や戦略に依存したかたちで進めざるをえなくなる。

 これに対して、Linuxベースの基幹システムならば、市場に相次いで登場する革新技術を用いて、自由に、そして柔軟にシステムを強化していくことが可能だ。これによって、ユーザーは自社にとってのITの価値を高め、そこから多くのビジネス・メリットを享受することができる。

──デルでは、従来の商用UNIXの代替としてLinuxをとらえているのか。また、LinuxとWindowsとの競合については、どう考えているのか。

 先にも触れたとおり、基幹システムのサーバ・プラットフォームを商用UNIXサーバからLinuxベースのサーバへと切り替えることで、ユーザーは多くのメリットを得ることができる。ただし、ユーザーの状況によっては、WindowsベースのサーバをLinuxベースに切り替えることで、大きなメリットが創出される場合もある。さらに、基幹システムの商用UNIXサーバを、Linuxではなく、Windowsベースへと移行させたほうが、より多くのメリットを享受できる場合もあるだろう。

 要するに、大切なのは、独自性の強いプラットフォームを、オープンかつ業界標準の基盤へと切り替えることであり、その際にLinuxを選ぶかWindowsを選ぶかは、ユーザー側の判断や状況に委ねられているというわけだ。そのためデルでは、Linuxと同じく、Windowsも重要なOSとして位置づけ、今後もWindowsに対して積極的にコミットしていく方針だ。

仮想化技術の標準化を推進

──現在、IA(インテル・アーキテクチャ)のサーバ領域では、「仮想化」に対する注目度とニーズがにわかに高まっている。この点について、米国での状況を聞かせてほしい。

 サーバの仮想化は、サーバ統合を実現するソリューションとしても、また、従来のソフトウェア資産をスムーズに新しいサーバ環境へと移行させる手段としても、きわめて有用だ。実のところ、ほんの2年〜3年前まで、米国のユーザー企業はIAサーバの仮想化技術に対して懐疑的だった。これは、今日における日本のユーザーの状況に似ているかもしれない。

 ただし米国の場合、すでに多くの企業がIAサーバの仮想化技術の有用性と実用性を認め、その導入に動き始めている。おそらく近い将来、日本でも同じような動きが見られるに違いない。

──IAサーバの仮想化を実現する技術として、現在、「VMware」、「Windows Virtual Server」、そして「Xen」の3つが、今後の主流を成すと目されている。デルは、この3つの技術に対してどういったスタンスを取るのか。

 われわれが自らの判断で、これら3つの技術のいずれか1つを「担ぎ上げる」ということはない。3つの技術のどれを使うかは、顧客が決めることであって、われわれが決めることではないからだ。

 よって、デルは今後も、VMwareとWindows Virtual Server、そしてXenのすべてにコミットしていく。とはいえ、仮想化という同じ領域で3つの異なる技術が鼎立し、それぞれの互換性が何も確保されていないというのは、ユーザーにとって喜ばしい状況ではない。

 そこで、われわれとしては、これら3つの技術の相互運用性を確保すべく、APIなどの標準化を推し進めていくつもりだ。この取り組みを遂行することーーすなわち、IAサーバの仮想化技術に関するの標準化を推進することは、IAマシンのリーディング・カンパニーであるデルの役割であり、使命であるとも考えている。

──ところで、デルは最近になって、ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)の領域にも注力し始めているようだが、そのねらいはどこにあるのか。

 LinuxによるIAサーバ・クラスタは、きわめて高い演算能力を必要とする科学技術系のユーザーにとっても、実に効果的なソリューションだ。これまで、科学技術演算の領域では、ベンダー独自の技術をベースにした専用のスーパーコンピュータが広く使われてきた。

 しかし、われわれは、インテルのプロセッサとLinuxという業界標準のオープンなコンポーネントを用いて、低コストで、しかも実に高速なコンピューティング・システムを構築することができる。

 その性能は、プロプライエタリな技術とアーキテクチャを有する多くのスーパーコンピュータの性能を凌駕しており、実際、デルが米国研究機関サンディア・ナショナル・ラボラトリーズ(Sandia National Laboratories)に向けて構築したハイパフォーマンス・コンピューティング・クラスタ(HPCC/同クラスの通称は「Thunderbird」)は、世界におけるスーパーコンピュータの性能ランキング(http://www.top500.org/)で、TOP5にランクされている。

 こうした性能が、独自性の強いアーキテクチャを備えた科学技術演算専用のスーパーコンピュータによって実現されたのであれば、それによって、いわゆるビジネス用途のサーバ製品の売上げやビジネスが好転する可能性は低いかもしれない。

 しかし、繰り返すようだが、デルでは、HPCの分野でも、一般のビジネス用途で用いられている標準の技術、コンポーネントを用いている。そこでの成功によって、幅広いユーザーが、デルの技術力と能力の高さをあらためて認知してくれると確信している。

提供:Computerworld.jp