刺激的かつ啓蒙的なRed Hat Summitのセッション

テネシー州ナッシュビル発 ― 今年のRed Hat Summitで唯一本当に困ったのは、執筆と食事、それにパーティー以外の時間をどの講演に割り当てるかを決めることだった。興味のあるセッションが見当たらなかったのではなく、聞きたい講演が同じ時間に重なったときに1つを選ぶのに苦労したのだ。ここでは、行われた90のブレークアウトセッションのうち3つについて簡単に報告する。

SELinuxの概要

Red HatのChris Runge氏の発表では、SELinuxがLinuxのセキュリティ向上に何をもたらすかについて、私にも理解できる言葉で語られた。彼は次のように説明していた。現代のすべてのオペレーティングシステムと同様に、Linuxでは任意アクセス制御(DAC)が行われている。DACでは、ユーザが自分のデータに対して読み書きの権利を持ち、ユーザが実行するプログラムもユーザと同じ権利を持つが、スーパーユーザはすべてのデータとファイルに対して完全な権限を持つことを意味する。首尾よくシステムを乗っ取ろうとする侵入者は、セキュリティ上の弱点を発見して、最終的にスーパーユーザの特権を手に入れてしまう。

SELinuxには、ユーザによるポリシーの上書きが不可能な、強制アクセス制御(MAC)の仕組みが加わっている。MACは、DACと共に機能するが、ずっと強力である。Runge氏は、MACのルールおよびポリシーがどのように用いられるかを説明するため、例としてApacheサーバを取り上げた。Apacheの場合、HTTPユーザとそのプロセスには、80番ポートの監視、ページの表示に必要な設定ファイルおよびHTML/データの読み取り、およびログファイルの読み書きの各権利が与えられる。このHTTPサーバに障害が起きても、侵入者はこれ以上の権限を手にすることはできない。仮にMACがなかった場合は、システム上のあらゆるデータにアクセスする権限が侵入者の手に渡ってしまうことになる。

デスクトップ環境のグラフィック機能の最新情報

Red HatのKevin Martin氏は、来るべき3Dデスクトップ環境とその機能について語った。彼は、SUSEとRed Hatが提供する3Dデスクトップ機能がどのようにして同じところに落ち着くかについても少し触れていたが、それぞれの実装方法には違いがある。Red HatがXサーバの内部で処理を行うのに対し、SUSEはXサーバ上で動作するXglを開発するというアプローチをとっている。

WindowsやAppleのデスクトップ環境からの乗り換えをこのまま増やしていくためには、Linuxデスクトップ環境ならではの優れた魅力が必要になる。デスクトップ環境においてSUSEとRed Hatが手を組めば、同等に優れた2つのプロジェクトを独立して進めるよりもずっと大きな効果が期待できるのだが。

ソフトウェア特許と特許改革

Public Patent FoundationのDan Ravicher氏は、米国の特許システムの問題点とその解決の難しさについて語った。一時期のPTO(米国の特許商標庁)には分別があって、特許に「ふさわしくない題材」であるとしてソフトウェア特許の出願を完全に拒絶していたという。

PTOをないがしろにし、我々を現在の混乱状態に陥れた要因は2つある。1つは、1982年に米連邦議会が制定した法律に基づいて設置された特別裁判所である。この新しい裁判所の裁判官は、現職の裁判官からではなく、この法律を作った議員の支援者から選ばれた。そのため、この法律の制定を求めて議員に働きかけた連中や、それ以上に強力な特許法を求める人々の側に立った裁定が常に行われることになってしまった。

2つ目の要因は、純粋なソフトウェア特許が認定されるかどうかという疑問に対して明確な答えを出したState Street事件の判決である。ここ数年間でソフトウェア特許を急増させた責任は、この判決にある。

Ravicher氏は、特許改革の主要な阻害要因として次の3つを挙げている。

  • 製薬会社
  • 特許法制定の当事者(PTO、連邦巡回裁判所、議会)
  • 特許弁護士

では、現在の特許制度のどこが問題なのか、説明しよう。特許は武器である。特許侵害訴訟を起こされたら、事業の防衛に200~400万ドルもの費用がかかることになる。たとえ訴訟に勝っても費用がかかることに変わりはない。

最近、多くの企業が実際に発明していないソフトウェアや手法に関する特許を不正に申請しているが、これは違法である。しかし、Mircosoftのこうした行為を私がPTOに報告したところで、無視されるだけだろう。議会が制定した法律である以上、PTOはその法律に従わなければならないのだ。権利請求内容の正当性について異議を唱えることができるのは、侵害の申し立てから自社を守るときだけである。そうこうしている間に、特許の不正利用者は続々と新たな武器を蓄えていくのだ。

「One Laptop Per Child」プロジェクト

石器時代のある村に長老がいるとしよう。新しい時代の到来を予見する彼は、できるだけ多くの村人を来るべき時代に備えさせることを自らの使命としている。使命を果たすために、彼は新しい道具を作り出さねばならない。その道具には石が必要になる。彼は2つの石をじっと見つめている。一方は大きくて重い石、他方は小さくて軽い石だ。それぞれを手にとり、重さを調べたが、どちらの石にも彼が満足していないのは明らかだ。だが、大きい石よりは小さい石のほうがずっと気に入っているらしい。この話は、Nicholas Negroponte氏と彼の使命である「One Laptop Per Child(世界中の子供たちに1人1台のノートPCを)」プロジェクトについて語ったものだ。2つの石は、WindowsかLinuxかというオペレーティングシステムの選択を表している。

Negroponte氏は性急な性格で、テクノロジそのもの、とりわけ高度なものには関心を示さない。だが、テクノロジがどのように利用できるかについては優れた鑑識眼を持っており、その力は十分に発揮されている。この日の朝の基調講演に出た彼は、最初の1、2分間は、演壇の照明に対して不満を述べ、聴講者の顔が見えるように彼に当てる照明を暗くするか、場内への照明を明るくするように要望した。それに応えるため、さらに1、2分間が費やされた。

まず、40年前に端を発してから現在に至るまでの取り組みの歴史的背景が説明された。コスタリカやメーン州のような地域で、より小規模だが同様の取り組みが成功していることも述べられた。Negroponte氏自身は、このプロジェクトの成功に何の疑問も抱いていない。

この取り組みによって、ごく短期間のうちにLinuxデスクトップ環境はサーバと同じくらいに普及するだろう、と彼は話している。というのも、来年は700~1000万台のノートPCの出荷が、その翌年には、1~2億台の出荷が計画されているからだという。

Negroponte氏の意気込みがどれほどのものか、おわかりだろうか。彼は、ある意味で凄腕の販売員だが、決して、作り笑いの上手い、巧妙で洗練された販売員ではない。Intelはこのプロジェクトを相手にしていない、と彼は言う。また、「IntelとMicrosoftが私に腹を立てているのは知っているが、私は正しいことをしているだけだ」とも語っている。Negroponte氏は、少々常軌を逸した人物かもしれないが、そうだとしても、このプロジェクトは成功をおさめ、より良い世界をもたらすに違いない。

最後に

私にとって今年のRed Hat Summitの目玉は、火曜の朝に行われたEben Moglen氏の講演だった。彼の講演を記録した映像を手に入れ、地元のLUGミーティングで上映したいと思っている。

パーティーはどれもすばらしいものだった。Dell製32インチフラット画面テレビの獲得者として最初に私の名前が読み上げられた(残念ながら、我々が退席した後だったため、この賞品は別の人の手に渡った)火曜の夜のDellによるレセプションに始まり、自由な写真と風刺画で飾られたIntelによるDelta Islandでの出来事、ナッシュビルの繁華街にあるWild Horse Saloonでラインダンスとロデオに興じた、IBMによるお祭り行事に至るまで、十分に楽しめる内容だった。

「One Laptop Per Child」プロジェクトに協力し、フリーソフトウェアとオープンな協力関係から生じるその価値を人々に伝えるために、ビジョンを持った発表者を迎えた、Red Hatに賛辞を送りたい。今回、Red Hatは、私の中の「評価資本(reputation capital)」を確実に向上させた。次回のRed Hat Summitが待ち遠しい。

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